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2012.04.13

第7回足元からエコのすすめ

小林 光氏顔写真

小林 光(こばやし ひかる)

1949年11月東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒、東大まちづくり大学院修了、パリ12大学都市研究所満期退学。73年環境庁入庁。環境管理局長、地球環境局長、大臣官房長、総合環境政策局長、事務次官などを歴任。地方では、北九州市産業廃棄物課長を務める。11年1月に退官し、同年4月から、慶應義塾大学(湘南藤沢キャンパス)教授。エコ経済、エコまちづくりなどを一貫して担当。自宅のエコハウス化でも有名。著書には、「日本の公害経験」、「エコハウス私論」などがある。

 地球環境を守ると言うと、どこか遠い他人事のように聞こえます。自分に何ができるのだろうか、と考えてしまいます。でも、実は、家でこそ地球が守れるのです。また、皆が、それぞれに地球のことを考え出すと、世の中は、ぼーんと大きく変わってしまうのです。家は、世の中を変えるための、いわば基地でもあるのです。

3.11の経験が日本を変えつつある。

 去年は、相当に数多くの人たちが停電を経験しました。電力の生産が追い付かず、電力の需要を強制的に減らさないとならない、などとは、戦後すぐならいざしらず、ほとんどの日本人が初めて経験した事態でした。数時間の停電は、事前に分かっていても、とても辛かった、というのが正直な感想でしょう。さらに、震災で直接の被害を受けた地域の人々の苦しい生活も大きく報道されました。これから地震はいろいろな所で起こるでしょう。自分の所が地震に襲われても、最小限の電気は使えるようにしておきたい、という気持ちを皆が抱きました。
 このような国民ほとんどの経験があって、家のエネルギーを巡る状況は全く様変わりした、というのが、偽らざる、私の印象です。
 環境省を辞して、しばらくして、大学の公募に応じて雇ってもらいましたが、行ったら大震災で、先生も学生も皆、どうやって被災地のためになることをしたらいいか、真剣に議論していました。仕事が変わっただけでなく、仕事の舞台も大きく変わったというのが一番の実感でした。
  研究が本分となる大学院の学生さんなどは、さっそく被災地に飛んで行って、いろいろな教訓を得ようとそれぞれに尽くしました。私が指導する院生の一人は、被災地や計画停電のあった地域に行って、太陽光発電への考え方が、震災や停電の前後でどう変わったかアンケート調査を実施しました。その結果、発電所からの電気が止まっても電気が使えるように、太陽光発電パネルを付けたい、という意向が若い人を中心に大きく増加したことが分かりました。また、太陽が照っている昼間に電気が使えるだけではまだ不便なので、電気を電池に蓄えて夜にも使えるようにしたいという声が大きくなりましたし、そのためには20万円以上、特に停電経験のあるお宅などでは平均で48万円のお金を払ってもいいという結果も得られました。

家は、需給が出会う小さな経済市場

家の持つ大きな環境的な意義

家の持つ大きな環境的な意義
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 家など小さな場所だ、と思うかもしれません。そこで何が起ころうと世の中の大勢には影響ない、と、思う人が多いでしょう。
 しかし、家は、とても大事な場所なのです。
 図は、私の家の敷地に降ってくる太陽エネルギーなどを示したものです。私の家は、都内にあって、御他聞に漏れず、狭隘敷地に立っています。110m2ですが、ここに一年間で降り注ぐ太陽の光や熱のエネルギーは、46万メガJ(ジュール)。なんのことだか分かりませんが、これは、実は、家で実際に使っている電気やガスのエネルギーに比べると、なんと10倍近く大きい値なのです。
 問題は、降ってくる自然のエネルギーを全部捕まえることはできないので、それをうまく使うのが難しい、というところにあります。例えば、今市販されている中で、一番効率の良い太陽光パネルでは、降ってくるエネルギーの20%程度を電気に変えられます。ですので、(建ぺい率規制で不可能ですが)敷地一杯にパネルを張れば、狭い敷地のわが家でもエネルギーは自給できることになりますが、普通は難しい、というのが実情です。
 そこで大事なことが、使うエネルギーの量を、自然エネルギーで賄える程度にまで減らす、省エネの徹底です。
 今、世間では、スマートグリッドなどといって、自然エネルギーを最大限使うため、自然エネルギーの量に合わせてエネルギーの需要の大小も大胆に制御していこう、という考えが受け入れられるようになってきました。
 自分が需要している電気であれば、その気になれば自分で減らせます。だから、家でこそ、需要と供給を賢い形でマッチさせるという考えは簡単に実行できるのです。家は、いわば日本の縮図で、そこに居ながらにして、先端的な課題にもアプローチできるのです。
 わが家でも、各地での停電の動きを踏まえ、まずは省エネを徹底しました。
 照明の一層のLED化、消し忘れ防止のための、一時点灯スイッチ(自動消灯スイッチ)への転換、かねて懸案だったお尻水洗トイレの更新などをしました。その結果、電力消費量は、節電期間の3か月では25%、通年ベースでも20%の削減になりました。

さらに増設した太陽光パネルで手に入れた安心

写真:小さな太陽光発電パネルを設置した小林邸

小さな太陽光発電パネルを設置した小林邸
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 こうした省エネの強化をしただけでなく。わが家では、自然エネルギーの供給量の増大にもこの際挑戦をしました。
 系統電力には逆潮流しないが、家で蓄電池に蓄えて夜、交流電気として使えるシステムを導入しました。夏なら扇風機、通年では、パソコンの充電や常夜灯の点灯、朝のテレビの視聴などに使うようにしています。前述の大学院生によるアンケートで示されたような支払平均額以内で、これはできました。さらに、わが家では屋根下の熱気を床下にまで運んで暖房に役立てる太陽熱床暖房システムを使っていますが、この熱を床下にまで押込むファンは、これまでは、普通の系統電力を使っていました。これもこの際、太陽光発電の電気に振り替えることにしました。もともと、太陽が照っている時にしか使わないファンなので、需要と供給が最初から一致していて、大変に合理的だと思いました。取り付けた太陽光パネルは定格能力がたった70Wで小さなものです(写真参照)。しかしそれでも、停電でも、床暖房できる、という安心感が手に入ったのです。

消費者が世の中を変える!

写真:太陽光発電パネル国内出荷数(JPEA調べ)

太陽光発電パネル国内出荷数(JPEA調べ)
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 周りの人に聞くと、多くの御家庭でこうした過程が進んでいて、省エネをするためのエコハウス・エコポイントの利用も盛んですし、太陽光パネルや太陽熱温水器を取り付けるご家庭がどんどん増えている、と聞きます。
 このように、消費者が動き出したら、世の中は大きく姿を変えざるを得なくなります。日本の化石燃料輸入代金の支払額は年間23兆円にも達します。こうした燃料代を、消費者の力で、引き下げ、さらに、国内に落ちるように変えたら、今の不況もなくなってしまうかもしれません。
 たくさんの無駄な発電所を抱え、実際に動かさなければならない理由は、消費者が望む電力量が季節や時間帯によって大きく変わるからです。最大値に合わせて、供給力を保っておく必要があるというのです。しかし、そんなことをしなくなったら、無駄な発電所は要らなくなり、電気代も安くなり、皆がハッピーです。
 今こそ、国民パワーで新しい経済や社会に向けて、イニシアチブを取りましょう。できることは一杯あります。

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