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第11回東京における夏季の高温化とその対策

一ノ瀬 俊明氏顔写真

一ノ瀬 俊明(いちのせ としあき)

 1963年生。独立行政法人国立環境研究所上席研究員。東京大学大学院工学系研究科修了。工学博士。東京大学助手などを経て2008年より現職。1998年度にフライブルク大学客員研究員として在独。2008年より名古屋大学大学院環境学研究科教授(連携大学院)。平成8年度土木学会論文奨励賞受賞。主な著書に、"Counteracting Urban Heat Islands in Japan", 365-380; Droege Eds.: Urban Energy Transition -From Fossil Fuels to Renewable Power-, Elsevier (2008)、「都市計画と風の道」,231-238; 吉野・福岡編:環境気候学,東京大学出版会(2003)などがある。

 一般に都市化が進むと都市の高温域が拡大するとともに、高温にさらされる時間・人口が増加します。こうした都市の高温化現象(最近では「ヒートアイランド」という言葉で表現されることが多いです)は、都市の住民に著しい不快感と健康影響を与えています。都市化の進行により都市の地表面は、土壌や緑地などからアスファルトなど、水分を含まず、しかも大気を加熱しやすいものへと転換してきました。また、大都市地域では公園などの整備が進んでいるものの、宅地の緑や生産緑地などが大きく減少しています。

1.都市高温化の人間生活への影響

 アスファルトの地表面は、夏季晴天時の日中には50~60℃という相当の高温に達します。一方、冷房や自動車交通など、都市のエネルギー消費活動による排熱も、大気を加熱する大きな要因となっています。「ヒートアイランド」は人間活動がもたらした熱大気汚染とされ、環境省や国土交通省、東京都などにおいても、各種の施策が講じられてきています。
 図1は、東京消防庁による夏季の熱中症による救急搬送者数を示しています。これらには室内での搬送事例も含まれています。都市部では夏季の熱帯夜(日最低気温が25℃超)の日数が増加してきており(図2)、寝苦しいなどの不快感や、睡眠不足による身体の疲労、心肺機能への負担、その他の精神的なストレスなどがもたらされています。また、冷房に依存する都市住民の生活スタイルの変化にも、暑熱による健康被害を助長させる一因があります。

図1 東京における夏期の熱中症による救急搬送者数(3年移動平均)[東京都HPによる]

図1 東京における夏期の熱中症による救急搬送者数(3年移動平均)
[東京都HPによる]※クリックで拡大表示します

図2 東京における熱帯夜(日最低気温25℃以上)日数の増加

図2 東京における熱帯夜(日最低気温25℃以上)日数の増加
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2.都市における高温化対策

 深刻化する都市の高温化に対し、今日対策として、①エネルギー消費に伴う人工的な排熱を減らすこと、②都市の地表面を加熱しにくい構造・素材に改変すること、③都市の風通しを確保すること、の3つが主に検討されています。そのうち顕著な効果が考えられるものとしては、建物の緑化、保水性舗装の使用、壁面の淡色塗装、屋根材の反射性能の向上などによる冷房負荷の削減、緑地の保全・整備、小河川の開渠化や公園における水面の整備、大規模緑地や業務施設の再配置などがあります。2002年から数年間、東京都による高密度のヒートアイランド観測網が設置され、詳細な地上気温や熱環境の分布が描き出されました。これは東京都の中でヒートアイランド対策の優先順位が高いところはどこかという情報を与えてくれます(図3)。

図3 METROS観測網による東京23区における2002年7月20日から8月31日までの平均気温(東京都HPによる)

図3 METROS観測網による東京23区における2002年7月20日から8月31日までの平均気温(東京都HPによる)
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3.ヒートアイランドへの適応

 古来より日本人は暑さから身を守るため、おのずと適応策を実践してきました。家屋の西側に落葉樹を植えることや夕方の打ち水などです。西側の落葉樹は夏には夕刻の西日をさえぎります。図4は埼玉県熊谷市石原小学校のゴーヤによる壁面緑化です。壁面緑化を施した部屋は1年中冷房が必要ないとのことです。夕方の打ち水もまた然りです。日中は日差しが強いので打ち水をしてもすぐに干上がってしまいます。そこで日中は暑さに耐え、しのぐかわりに、夕方以降を快適に過ごすためにおのずと開発された適応策といえます。そのほか、熱中症の予防対策のうち、ヒートアイランドへの適応にもとづくものとして、以下のような内容があげられます。①着衣による調節、②屋外での作業を控える、③運動時間(作業時間)をずらしたり短くする、④水分をこまめに取れる環境を用意する、⑤睡眠を含めた体調管理、⑥熱中症そのものに対する啓発。着衣による調節については、それを実行することによる暖房費・冷房費の節減、ひいては排熱量の減少にもつながる点で意義があります。また、上記の予防をより推進していくために必要なのが、現実の都市環境に即した環境下での熱中症予報の向上です。

図4 埼玉県熊谷市石原小学校のゴーヤによる壁面緑化

図4 埼玉県熊谷市石原小学校のゴーヤによる壁面緑化
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4.環境共生型のまちづくりに向けて

 顕在化するヒートアイランドの問題への対応として環境省は、予防的措置としての環境共生型のまちづくりや新しいライフスタイルなどを模索しています。都市住民側に熱環境保全の重要性、メリットを訴えること、さらには都市計画やまちづくりへの住民参加も必要になってきます。たとえば、①街路樹の下で人が休めるような空間やクールスポットの設置(トイレ、あずま屋など)、②子供が川辺で水遊びができるような空間、③風通しのよい空間の確保や室内気候環境の改善、④人体にやさしい舗装素材(保水性素材など)、といった取り組みが必要と思われます。
 つまり、国や地方自治体が積極的に大気・熱環境に配慮した環境政策とまちづくりの計画を進めていくために望まれる方向性とは、都市のアメニティー(快適性)と暑熱緩和を同時に目指すものであるべきなのです。


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