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2013.07.10

第23回東京でエコツーリズムを

海津ゆりえ氏顔写真

海津ゆりえ(かいつゆりえ)

 文教大学国際学部教授。農学博士。西表島、小笠原などで日本のエコツーリズムの初期から調査や開発支援に携わってきた。環境省エコツーリズム推進会議幹事会委員、東京都版エコツーリズム検討委員、環境省エコツーリズムアドバイザー等を務める。NPO法人日本エコツーリズム協会理事。著書に『日本エコツアー・ガイドブック』(岩波書店)、『エコツーリズムを学ぶ人のために』(世界思想社)など。

 今年の夏休みは空前の旅行ブーム、との報道が先ごろ流れました。時は夏休み目前。国内外の海や山へ遊びに行く計画を立てている方は多いことでしょう。世界遺産に登録されたばかりの富士山も気になりますね。でも著名な観光地もいいけれど、私は身近な自然や生活文化をガイドの力で楽しく体験できる「エコツアー」をお勧めします。エコツアーと聞くと、自然体験観光や省資源型観光などと思いがちですが、少し違います。エコツアーとはガイドによって訪問先の自然や地域文化を案内してもらいながら楽しく体験し、学ぶことができる旅のこと。実は日本は2008年には世界初の「エコツーリズム推進法」も施行された、アジアにおけるエコツーリズム先進国なのです。ではエコツーリズムとは?身近な場所、「東京」を舞台にみてみましょう。

1 エコツーリズムって何?

エコツーリズムの概念―エコツーリズム・トライアングル(海津・真壁1999)

エコツーリズムの概念―エコツーリズム・トライアングル(海津・真壁1999)

 エコツアーを支える理念やしくみをエコツーリズムと呼びます。エコツーリズムは、エコロジー+ツーリズムを組み合わせた造語で1980年代初頭に概念が固まりました。世界の観光は1960年代に急成長しましたが、一方で、ツーリストの楽しみや事業収益ばかりを追い求めて自然や伝統的な暮らしや文化への配慮を欠き、地域本来の資源が損なわれるといった弊害も生じるようになりました。熱帯雨林があるコスタリカや東アフリカのサバンナなど、自然豊かな開発途上地域ほどそれは顕著で、環境を損ねることなく、かつその収益が自然保護や地域振興に還元される観光が求められたのです。それが「エコツーリズム」です。日本では1990年代初頭に環境庁が西表島で資源調査を行ったことなどから取り組みが開始され、その後北海道や屋久島など全国に普及しました。

2 東京都の自然

 東京・TOKYOというと23区すなわち都心のイメージが強いかも知れません。確かに島嶼部を除く陸域では東京湾岸から立川あたりまで都全体の4割が市街地や工場で占められています。しかし明治神宮や神宮外苑、赤坂御所など植生自然度の高い公園が都心に点在するほか、国立公園3(秩父多摩甲斐・富士箱根伊豆・小笠原)と国定公園1、都立自然公園6を擁する世界有数の自然に恵まれた首都なのです。エコツーリズムに取り組む地域は島嶼や多摩に多くみられます。代表的な地域をいくつかご紹介しましょう。

3 小笠原

 小笠原諸島は固有種の多い植生と群青の海、クジラやイルカなど海洋性哺乳類がすむ遠くて自然豊かな島々ですが、官民一体となった自然環境保全と観光の両立のための厳密なルールづくりと熱心なガイド養成により、日本を代表するエコツーリズムの実践フィールドとして成長してきました。その発端は返還20周年にあたる1988年に村と商工会が連携して日本初となるホエールウォッチングを実施したこと。準備段階でハワイの先進例を学び、ホエールウォッチングのルールを作り、鯨類研究者を雇用して鯨類調査を行い、地元観光船業者を訓練してガイド船に育ててきました。1989年には民間組織としてホエールウォッチング協会を立ち上げ、以後これらの事業は同協会に引き継がれました。現在、ツアーは船頭とガイド(インタープリターと呼びます)が乗船して行われています。小笠原では、他にもドルフィンスイミングや戦跡探訪、トレッキングによる自然観察など父島・母島の自然特性に合わせたたくさんのメニューがあります。世界遺産に指定されたことから過剰利用が懸念されたものの、定期船の定員引下げ、観光利用を制限するルールづくり、キャンプ禁止条例等が功を奏して大きな問題は生じていません。しかし、これまで島にいなかった外来生物の移入や生息域の拡大などの問題が生じています。船旅で25.5時間かかりますが、是非訪れていただきたい場所です。

ザトウクジラ(提供:小笠原ホエールウォッチング協会)

ザトウクジラ(提供:小笠原ホエールウォッチング協会)

母島乳房山にて 撮影:海津ゆりえ

母島乳房山にて 撮影:海津ゆりえ

ごった返す船客待合室 撮影:中田智大

ごった返す船客待合室 撮影:中田智大

4 御蔵島(みくらじま)

 伊豆諸島の一つ、巨樹・巨木林の島として知られる御蔵島も、上述の「東京都版エコツーリズム」の対象地です。海から突き出た山のような形をした御蔵島の周辺海域は波が荒く、渡航が阻まれることも珍しくありません。だからこそ残された自然の中で江戸時代から柘植を主産品として人々は暮らしてきました。5000年以上も噴火を経験していない島は、陸地のほとんどがスダジイ(ブナ科シイ属の常緑広葉樹)を中心にした原生林に覆われ、低木~高木までバランスのとれた生態系を形成しています。地面は数百万羽のオオミズナギドリがすみかとして利用しています。その巨木の森を守るために東京都と御蔵島は利用できるコースを限定していますが、観光協会を通してガイドウォークかセルフガイドで歩くことができます。御蔵島のエコツアーの目玉はドルフィンウォッチング。屋久島と並ぶほど多い雨が森の恵みを含んで流れ落ち、豊富な栄養分を海に運んでバンドウイルカの生息を支えています。ウォッチングボートは1日30隻までとルールを決めてツアーを実施しています。しかしセルフガイドコースの保全・補修やウォッチングガイドの育成等が課題となっています。

ドルフィンウォッチング 撮影:滝口貴美子

ドルフィンウォッチング 撮影:滝口貴美子

御山 撮影:滝口貴美子

御山 撮影:滝口貴美子

5 檜原村

 東京都で最も面積が広く、「都民の森」ももつ檜原村は、奥多摩と並んで多摩地域を代表する森林地帯です。もともと一大林産地でしたが、林業の斜陽化にともない過疎化と地域振興策に悩んでいました。1981年に結成された檜原村の村おこし青年グループ「冬雷塾」が村内の森の中に、公益信託富士フイルム・グリーンファンド(FGF、自然保護をテーマとした活動及び研究助成事業を行っている)の「未来のための森づくり」として助成を受けて木造2階建てのロッジ(約90坪)を建てたのが1990年。「フジの森」と名づけて都市住民の自然体験や村民とのふれあいの場として活用してきました。2005年には運営母体が「NPO法人フジの森」となり、ログの研修施設や宿泊棟を活用して自然観察や林業体験、食育、ネイチャーゲーム、コンサートなど季節に応じた多種多様な年間数十回のプログラムを運営しています。滝めぐりなどのエコツアーやオーダーメイドのプログラム提供にも対応しており、来年度からは初心者にも参加しやすい森のエコツアーも主催予定です。

森づくり体験

森づくり体験

払沢の滝(ほっさわのたき)(提供:NPO法人フジの森)

払沢の滝(ほっさわのたき)(提供:NPO法人フジの森)

6 エコツーリストになろう

 エコツアーの参加者アンケートによると、9割近くが「再び参加したい」と回答するほど、エコツアーは魅力たっぷりの旅です。エコツーリズムの目的は、自然や地域との本物のふれあいを求めて旅をし、貢献するツーリスト(=エコツーリスト)を作ることにあります。ぜひこの夏から、あなたもエコツーリストになってください。
 どこを探せばよいのかわからないという声をよく聞きますが、末尾にご紹介したいくつかのサイトで情報提供を行っていますので、ぜひ覗いてみてください。自治体の観光担当課などでも対応してくれます。
 良い旅を!

参考サイト

*エコツアー検索サイト


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