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2013.11.14

第27回拡がり、深まる「企業の森づくり」~マーケティングとの連携から、グリーンエコノミーの創出まで~

木俣知大(きまた ともひろ)

木俣知大(きまた ともひろ)

公益社団法人国土緑化推進機構 政策企画部
1977年東京都生まれ。東京農業大学大学院修了、特定非営利活動法人森づくりフォーラム 研究員を経て、現職。
「森林セラピー実行委員会」、「森づくりコミッション全国協議会」、「山村再生支援センター」、「美しい森林づくり全国推進会議」などの様々な林野庁施策の事務局として、都市住民や企業・NPO等と農山村地域のマッチングを通して、森づくりの推進や農山村地域の活性化に向けた取組を実施。
共編著書に『森、里、川、海をつなぐ自然再生――全国一三事例が語るもの』(中央法規出版)、『森林づくり活動の評価手法』(全国林業改良普及協会)、『森で経済を作る』(日経BP)などがある。

 近年、企業の社会的責任(CSR)や地球温暖化防止、生物多様性保全をはじめとする地球規模の環境問題への関心が高まりつつある中で、全国各地で「企業の森づくり」の取り組みが広がってきています。
 最近では、地域社会への貢献や社員教育等としてはじまった「企業の森づくり」は、それぞれの企業等の業種や業態の特徴を活かして、CSRとしての森づくりから発展した取り組みも増えてきています。
 そこで、今回は「企業の森づくり」の傾向や取り組みのタイプの概要を紹介します。

全国に拡がる「企業の森づくり」

 まずは、「企業の森づくり」の拡がりの背景となる企業の意向等について、2009年に国土緑化推進機構などが大企業などを対象に行ったアンケート調査の結果からご紹介します。
「企業の森づくり」に興味・関心を持っているという企業は全体の57.1%、将来を含めると93.2%となっており、多くの大企業が「企業の森づくり」に興味・関心を寄せているという傾向にあります。
「企業の森づくり」に取り組む目的としては、「従業員に対する環境保全意識の向上、環境教育」(54.1%)、「地域社会への貢献」(52.7%)が多く、次いで「社会貢献としての地球環境の保全・改善」(42.3%)「社会貢献としての地域環境の保全・改善」(34.5%)、「事業活動で生じる環境負荷の低減」(32.7%)となっていました。

企業の森づくりへの関心

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企業の森づくりの目的

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 他方、「消費者に対する企業や商品等のイメージの向上」や「株主・投資家に対する企業イメージの向上」はいずれも20%程度にとどまっており、顧客や株主・投資家よりも、地域社会や従業員、そして環境面に重きを置いて、企業が森づくり活動に取り組んでいる傾向が強いことがわかっています。
 このような企業の興味・関心の高まりや地域志向を受けて、林野庁及び国土緑化推進機構では、全国的に「企業の森づくり」のサポート制度の創設を図ってきましたが、平成21年には全国の都道府県で制度が創設され、地域の受入体制が充実してきました。
 こうしたことから、国や都道府県などと協定を締結して設置されている「企業の森」は、国有林・民有林を合わせて全国で1,352カ所(平成23年度現在)となっており、飛躍的に「企業の森」が拡がってきています。
「企業の森づくり」設定箇所数(資料:林野庁業務資料)

多彩な取組に拡がる「企業の森づくり」

 国土緑化推進機構では、「企業の森づくり」の取り組みを「活動の方向性」と「活用する資源」から整理して、5つのカテゴリー、17のタイプに分類してきています。
多彩な取組に拡がる「企業の森づくり」(出典:国土緑化推進機構)

 森林を所有したり借り受けて継続的な森づくりを行う「A:実践的な森づくり活動」、森づくりの裾野を拡げる「B:森づくりの普及啓発・地域交流」、森づくりの担い手や次世代を育てる「C:森づくりの人づくり」、NPO等を側面的に支援する「D:資金などによる支援・協力」、そしてマーケティングや商品開発と連動する「E:本業と一体となったCSR活動」という5つのカテゴリーがあり、企業の社有地・工場緑地や借り受け地、人材から資金をはじめとして、多様な経営資源を活用して、多彩な取り組みが行われています。

社会貢献、CSRからCSVへ深まる「企業の森づくり」

CSRからCSVへ拡がる、企業の森づくり(出典:国土緑化推進機構)

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 こうした拡がりをみせている「企業の森づくり」も、企業の中には社会貢献やCSRとしてはじまった活動をゴールと捉えるのではなく、多様なCSRの活動展開に向けたスタートとして捉えて、特色のある活動へと発展させているケースもあります。
 一般的に、CSRは「市場」「環境」「人間」「社会」という4つの領域に分類して整理されますが、「企業の森づくり」の活動は、関連した社会のニーズや企業が持つ様々な経営資源と関連付けてコーディネートすることで、そのすべての領域に発展させ、活動を複合的・重層的に展開できる可能性を持っているといえます。
 当初は、工場や店舗が立地する地域社会への貢献という観点で、工場や事業所の従業員のボランティアや寄付による森林整備としてはじまった「企業の森づくり」も、社内の理解が拡がることで、総務・人事部署と連携して、社員教育や福利厚生の一環としての活動としても位置付けて拡充することができます。
 また、近年は地球温暖化防止や生物多様性保全等の地球環境問題への対応が企業に求められていることから、環境部署と連携することで、企業ブランディングや環境対策という観点から、社員や一般向けの環境教育、さらにはCSR調達等として活動を膨らませていくこともできます。
 そして、消費者の環境意識や社会貢献意識の高まりを踏まえて、事業部署・マーケティング部署と連携して、CRM(コーズ・リレーテッド・マーケティング) 1) やカーボン・オフセット等の手法を用いてプロモーション活動と連動させることで、さらなる森づくり活動への支援の輪を拡げている企業もあります。
 さらには、近年では、国際的に持続可能な社会づくりやグリーンエコノミーの創出への要請が高まりをみせている中で、エコマテリアルである木材や自然エネルギーへの関心は高まりをみせています。こうしたことから、事業開発やマーケティング等の部署とも連携することで、木材を活用した事業開発や木質資源のバイオマスエネルギーとしての利用に着手したり、企業経営のノウハウを活かして協定を締結している「企業の森」や社有林の効率的な維持管理に着手する企業も増えています。
 このように、企業の本社のCSR部署や工場・事業所等が中心となって、地域社会への貢献や社員教育等に重点がおかれてはじまった「企業の森づくり」は、活動の成熟と地球環境保全への要請の高まりを踏まえて、多様な部署と連携して、マーケティングやグリーンエコノミーの創出に向かう活動にも発展してきています。

2020年に向けて ~森と木を活かすグリーンエコノミーの創出に向けて

 本年(2013年)9月には、2020年オリンピック・パラリンピック大会が日本で開催されることが決定されました。奇しくも2020年は、「気候変動枠組条約」に基づく「京都議定書第2約束期間」及び「生物多様性条約」に基づく「愛知ターゲット」の目標年でもあり、2020年に向けて、地球温暖化防止や生物多様性保全にも貢献するグリーンエコノミーの創出が期待されています。
 こうした中、我が国は古くから「木の文化」を育み、国土の約7割という世界でもトップクラスの豊かな森林を有していることから、2020年という節目の年を見据えて、森林を健全に維持管理しつつも、エコマテリアルである木材を適切に収穫して、持続的に利用していく森と木を活かしたグリーンエコノミーを創出することが期待されます。
 森林と人や社会との関わりが薄れてしまっている我が国において、「企業の森づくり」としてはじまった都市部や川下側の企業とのつながりが、新たな森と木を活かすグリーンエコノミーの創出へと向かいはじめており、今後これらの取組が2020年に向けて発展していくことを期待されます。


森で経済を作る

 今回ご紹介しました、森と木を活かす「グリーンエコノミー」の最新事例や、経団連自然保護協議会、日本プロジェクト産業協議会、プラチナ構想ネットワーク等のトップリーダーへのインタビュー等について、以下の書籍をご参照ください。

『グリーンエコノミー時代を拓く「森で経済を作る」』
【編集】日経BP環境経営フォーラム
【編集協力】国土緑化推進機構
【発行】日経BP社
【体裁】A4変形版・136ページ

 また、今回の内容に関連して、今後の展望を議論するシンポジウムが、以下の通り開催されますので、是非奮ってご参加ください。

エコプロダクツ2013同時開催シンポジウム
『2020年へ向かう、森と木を活かす「グリーンエコノミー」シンポジウム』
~デザインと異業種連携で産み出す、新時代の森づくり・木づかい~
【日 時】 平成25年12月12日(木)14:00~16:30
【場 所】 「東京ビッグサイト」レセプションホールB(会議棟1階)
【主 催】 美しい森林づくり全国推進会議、(公社)国土緑化推進機構
【共 催】 経団連自然保護協議会、(一社)日本プロジェクト産業協議会、(特)活木活木森ネットワーク
※ 詳細は、http://www.mori-zukuri.jp/をご覧ください。

補注

  1. CRM(コーズ・リレーテッド・マーケティング):商品・サービスの売上の一部を社会的な活動等に寄付することで、売り上げ増や企業のイメージアップなどを狙うマーケティング手法

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本事業は、公益財団法人 東京都区市町村振興協会からの助成で実施しております。