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第33回 グリーンインフラ(緑のインフラ)活用促進への取組:米国フィラデルフィア市

グリーンインフラ(緑のインフラ)活用促進への取組:米国フィラデルフィア市
2014年3月28日までの実施個所

 5月、青葉若葉の美しい季節です。そして日差しの強くなり始めるこの時期は、街行く人が緑陰のありがたさを実感する時期でもあります。そんな緑をインフラ(グリーンインフラ)として温暖化の適応策に活用することで、しなやかで強い持続可能な都市作りを目指す、米国東部ペンシルベニア州の大都市フィラデルフィア(米国第5位の人口)の取り組みを紹介します。

 グリーンインフラ(緑のインフラ)とは、「緑」を都市のなかに上手に組み込み、その自然のプロセスを活かすことで課題を解決しようとする取組です。従来のインフラ(グレーインフラ)のように特定の目的のためだけに建設され、活用されることとは異なり、トリプルボトムラインである環境、経済、社会の各面の便益が得られるとされています。例えば、降雨量増加による雨水管理が必要な場合、ダムや堤防などの代わりに、植生や土壌を活用することで、雨水管理のみならず、洪水の緩和、水質浄化、レクリエーションのための緑地の増加など、多様な利益が得られ、費用対効果が大きいと考えられています。

 フィラデルフィアでは、近年、気象の公式記録を塗り替えるような、気温変化や降雨量が続いてきました。2010年以降だけでも、これまでの年間降雨量、夏期気温、積雪などの最高記録を更新、さらにこの間に、2回のハリケーン、1回の竜巻にも襲われました。平均海面水位は、1900年から2006年の間、10年ごとに約1.1インチ(2.79mm)ずつ上昇しています 。その結果、市は合流式下水道から越流する汚水の河川への流入、河口域及び地下水への塩水の侵入をはじめとした水管理の問題に頭を悩ませてきました。その対策として市の水道局(Public Water Department-PWD)は、既存のグレーインフラではなく、グリーンインフラを活用した雨水処理システムや透水性舗装などへの長期的投資を進める「グリーンシティ・クリーンウォーター計画(2011年から25年間)」に取り組むことを発表しました。

 この計画の手法は、従来市内の「透水性のなかった場所(不透水性地)」に浸透、蒸発、発散、分散貯水、再利用などのサイクルを通した雨水処理管理インフラ(グリーンインフラ)を設置するというものです。それだけでなく、この計画は、グリーンインフラを活用することで、将来世代にエコロジー、経済、公正のバランスのとれた社会を伝えたいというビジョンに基づいて考案されました。水管理を人々の生活全般という、より大きな文脈の中で捉え、フィラデルフィアで暮らし働く人々のアメニティに大きく寄与しようとするものです。その取組が市内各地の至るところですでに始まっています。

 では、具体的にどのような取り組みが行われ、どのような便益があるのか、PWDの「Green City Clean Waters」計画から紹介します 。

・街路樹:一見すると普通の街路樹ですが、実はこの一列に整列した樹木は、歩道に沿って掘られた溝の中に植えられています。その溝には浸透性のある繊維シートが敷かれ、小石等で敷き詰められた上に土が盛られ、木が植えられます。表流水は溝の中に流れ込み、ゆっくりと地面に浸透していくという仕組みです。市内の空地や道路わきの花壇なども、同様の仕組みで植物が植えられ、雨水等が地面に浸透しやすくなっています。
街路樹

・屋上緑化:市内の不透水性地の20%は建物の屋上です。屋上を緑化することで雨水が一気に地面に流れ落ちることを防ぐことができます。一時的に雨水を貯留することで、地面や下水に流れ込むまでの時間を稼ぎ、さらには屋上に滞留している間に蒸散することが期待されます。
屋上緑化

・雨樽:屋根からの流れ落ちる雨水を貯めておく樽で、その水は芝生や花壇の水やり、道路の散水などに使われます。ほんの少量の水しか貯めることができませんが、市内にその数を増やすことで、効果を生むことができると考えられています。
雨樽

・透水性舗装:雨水が地下水として直下の地中に浸透するため、排水路などの負荷を軽減することができます。舗装の下には小石が敷き詰められ、一時的に水を滞留させ、ゆっくりとその下の土壌に浸透させていきます。
透水性舗装

これらの取組の目標を、グリーンシティ・クリーンウォーター計画では以下のようなイメージ図で示しています。
グリーンシティ・クリーンウォーター計画

 また、より具体的に、PWDでは緑化目標をグリーンドエーカー(Greened Acre-GA)という指標を用いて提示しています。GAとは「従来は透水性のなかった場所に、グリーンインフラ(環境配慮型)雨水処理システムを設置した場所」を指します。1グリーンドエーカーは、排水面積1エーカー(約4,000m2) に深さ約2.5センチ分の雨水が保水されたことを表し、雨水量にすると102,800リットルが保水されたことになります 。PWDの25年間の成果目標は以下の通りです 。
PWDの25年間の成果目標

 さて、このように雨水管理を主たる目的とした「グリーンシティ・クリーンウォーター計画」ですが、グリーンインフラを活用することで、本来の目的以外にもたらされる環境的・社会的・経済的便益は以下の通りです。

  • 環境面:緑化面積の増加により、年間67.5トンのCO2が削減され、それは毎年、道路から3400台ほどの車がなくなるのと同程度の効果に匹敵します。また生態系保全や水質・大気質の向上。さらには、ヒートアイランド現象を抑える効果も期待されます。
  • 社会面:公園や屋外、川や海で運動やレクリエーションを楽しむ人々の増加、緑化活動に参加することによる地域のコミュニティの強化などが期待されます。さらに健康面では大気汚染の減少により喘息などの病気で苦しむ人々の減少や、20年の間に猛暑の影響で亡くなる人が250人減少するとも推定されています。
  • 経済面:公園や緑の多い場所では資産価値が45年間で3億9000万ドル上昇、市は固定資産税収入が増加、また緑化に関連した仕事に年間250人が新規に雇用され、雇用対策にもつながると言われています。

 さらに、計画実現に必要な投資額も、従来インフラよりはるかに低コストで実施できると見積もられています。この計画でも従来インフラでは60億ドルを要するところが、24億ドルと試算されています。

 さて、このように良いことづくめに思えるグリーンインフラですが、他の都市では活用に至らないケースがあります。それは縦割り行政における他の部局やステークホルダーとの連携が難しいからだと言われています。フィラデルフィアで実現できたのは、市長の強いコミットメントやPWDの粘り強い取り組みがあったからで、今後、グリーンインフラという手法がさらに活用されるかどうかは、首長の強いコミットメントや多くの主体や部局との連携という課題への取組にかかっていると思われます。

参考サイト

  1. フィラデルフィア市水道局HP
    http://phillywatersheds.org/what_were_doing/documents_and_data/cso_long_term_control_plan外部リンク
  2. グリーンシティ・クリーンウォーター計画
    http://www.phillywatersheds.org/doc/GCCW_AmendedJune2011_LOWRES-web.pdf外部リンク
  3. Mark A. Focht, First Deputy Commissioner, Philadelphia Parks & Recreation, President, American Society of Landscape Architects (アメリカ造園学会発表資料)
    http://aslathedirt.files.wordpress.com/2013/12/dupontsummit-asla-120613_final.pdf外部リンク

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