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2015.07.10

第47回気候変動に「適応」する「ネイバーフッドづくり」実証プロジェクト:デンマーク、コペンハーゲン市

 温室効果ガスの排出削減と吸収の対策を行う「緩和」策に対して、気候変動の影響を軽減するための「適応」策。異常気象により大雨・洪水・土砂災害、局地的集中豪雨(ゲリラ豪雨)の発生が増えているなか、都市部では、建物や土地・道路が水につかってしまう「内水氾濫」の被害リスクが増大し、効果的な適応策が広く模索されています。
 本稿ではデンマークの首都コペンハーゲンの、「適応策」に対するユニークな考え方を、市内のオスタブロ(Osterbro)地区で進行中の、サンクト・ケル(St. Kjeld)ネイバーフッド*実証プロジェクト「気候変動に『適応』するネイバーフッド」を事例に紹介します。同市は2025年までにカーボンニュートラルを実現することを目指している、欧州委員会より2014年の欧州環境首都に選出された北欧を代表する環境都市です。
*ネイバーフッド:街区、近隣、界隈などを指す言葉で、ここではサンクト・ケル交差点を中心にした街区程度の広さを指す。

1.コペンハーゲン市の「適応策」への考え方

 豪雨による被害が複数年にわたり相次いだコペンハーゲン市では、2011年に発表した「コペンハーゲン気候適応計画」において、適応策に対する考え方を以下のように明示しています。
(※「コペンハーゲン気候適応計画」 http://en.klimatilpasning.dk/media/568851/copenhagen_adaption_plan.pdf外部リンク
 「気候適応策は、コペンハーゲンが世界有数の「住みたいまち」であり続けるための重要な機会を与えてくれるものである。我々は気候への適応策として市の物理的環境を改善することで、住宅、交通、暮らしのための魅力的な都市空間を創造することができ、それがひいては市民の生活の質を高めることにつながる。また、気候変動に強靭な都市環境を生み出す先進的な手法を開発することで、コペンハーゲン市の経済基盤を将来にわたって担保することもできるのである。」(コペンハーゲン気候適応計画、p. 57)

 適応策には、気候変動の影響軽減と都市の魅力アップという両輪がなければならないという明確なビジョンが、同計画では幾度も強調されています。そこで、同市が採用した一つの手法が、市内のオスタブロ地区を対象にした、「気候変動に『適応』するネイバーフッド」を作るプロジェクト(建築事務所トレユ・ナトゥア(Tredje Natur)によるプロポーザル)でした。これは激増する降雨量に対応するのに、下水(グレイ(灰色)インフラ)を整備する代わりに、地区全体にグリーンエリアを増やし、さらに雨水を一定の道路に誘導して氾濫させないようにする「グリーン(緑)&ブルー(水)整備」をするという提案でした。特徴的なのは、個別の取組を地区内に点在させるのではなく、地区全体を「面」で捉えて、豪雨の際の水の流れを考慮した点、また、平時は住民が集い憩う場所がまち全体に広がり、まちの魅力アップにつながることを強く意図したデザインである点、さらに、短期的ではなく、長期的に地区全体を作り変えていこうとする点でした。
※以下、プロジェクトプロポーザルの内容は、市発行の「コペンハーゲン・クライメート・ネイバーフッド(Copenhagen Climate Neighbourhood)」のパンフレットより
http://www.klimakvarter.dk/wp-content/2013/06/klimakvarter_ENG__updated-may-2013_i-opslag.pdf外部リンク

豪雨時の雨水を一定の道路に誘導し、地区内に被害を与えることなく海まで排水する動線 (同パンフレット、p. 6)

豪雨時の雨水を一定の道路に誘導し、地区内に被害を与えることなく海まで排水する動線 (同パンフレット、p. 6)

 2013年当時のベイカル(Baykal)市長(技術と環境行政担当※)は本プロジェクトについて次のように述べています。「将来の降雨量の増加、海面や気温の上昇に対する対策を、私たちは今、始めなければなりません。市内のオスタブロ地区、サンクト・ケル・ネイバーフッドでの実証プロジェクトでは、「ブルー」と「グリーン」のインフラを用いた適応策に注力します。これはコペンハーゲンを気候変動に対してレジリエント(強靭)にするだけではなく、多くの人々が住みたいと思うグリーンで魅力的な都市にしてくれるでしょう」
※コペンハーゲン市には市長が7人おり、各市長の担当が決まっている。

2.適正な道路面積を検証する

 実証プロジェクトの対象地としてこの地区が選ばれた理由の一つは、交通量の少ないアスファルト舗装の広い道路がたくさんあったからです。担当者たちは、オスタブロ地区内の実際の交通量と駐車ニーズを調査し、どの程度の道路面積と駐車場があればこれまでの交通量を維持できるのかを検証しました。その結果をまとめたのが以下の図です(同パンフレット、p. 10)。

 この分析により、地区内の道路面積を20%削減してグリーンエリアにすることで、雨水の30%を下水に流れ込ませずにすむ可能性が出てきました。実証プロジェクトの第一フェーズ(2015/16年)の対象地点は、サンクト・ケル交差点、ブリカバンエン(Bryggervangen)通り、トーシンエ(Tasinge)広場からなる一角と決まりました(上記地図内の赤く囲った部分)。以下の図はサンクト・ケル交差点広場を整備するイメージデザインです。(同パンフレット、p. 11)


サンクト・ケル交差点とブリカバンエン通り。整備前と、整備後のイメージ図。

3.道路の最適利用を考える

 道幅をどう狭めるかについても、詳細な調査が実施されました。500メートルほど続くブリカバンエン通りの実態調査の結果が以下です。左の図は現在の路上駐車スペース(グレイの部分、数字は駐車スペースの数)。道路の左側に店舗や事務所のビル、右側にマンションが並んでおり、左右に駐車スペースがあります。中央の図が日照の有無(オレンジが日のあたる場所、グレイは建物の陰)を示しています。この調査を踏まえて提案されたのが右図です。少ない交通量に見合う適正な道路幅にして、新たに駐車スペース(濃いグリーン部分)を日照のない部分に確保し、日のあたるマンション側には街路樹を整備するというものです。これにより交通量や駐車スペースを減らすことなく、緑豊かな歩道や憩いの空間が生まれます。(同パンフレット、p. 12)

 交通量、日照や駐車スペースだけではなく、同ネイバーフッドの現状と可能性を把握するために、各種項目が調査され、結果は、以下のように地図に表されました。

 これら調査結果を重ね合わせ、どのエリアを変更することが可能かを図示したのが、上記右図になります。

4.トーシンエ広場の完成

 2014年12月にプロジェクトの最初の成果として、トーシンエ広場(上記右図オレンジで囲った部分)が完成しました。
 この広場は当初草が伸び放題、周囲の住民もほとんど足を踏み入れたことのない窪地でした。また、周囲の道路は幅が広いにもかかわらず交通量は少ないという状況でした。その反面、この窪地は一日中日照があり、住宅やマンションに囲まれた安全で気持ちのいい、人々が集うための好適地でもあったのです。そこで、この窪地とその周囲の道路のアスファルトを一部剥がして合体させて広場を作ることが提案され、1000m2に及ぶ大きな空間が、必要な交通量や駐車スペースを確保したまま生み出されました。
 中央部分には盛土がされ芝生が植えられ、豪雨の際には水が傾斜を伝って流れるよう設計されています。地中には、大きな貯水槽が埋め込まれ、下水に流れ込む水量が調整されます。そして何よりも、ネイバーフッドの人々が安全に集える豊かな空間が生まれたことが、地域の財産となり、このネイバーフッドの魅力を一層高める結果となったのです。


完成したトーシンエ広場でバーベキューを楽しむ住民
c Ursula Bach (http://america.aljazeera.com/articles/2015/1/26/copenhagen-worlds-first-climate-adjusted-neighborhood.html外部リンク)

 以上、実証プロジェクトを例にコペンハーゲンの適応策への取組方を見てきました。多くの都市で、気候変動への適応策はなかなか効果が検証されにくく、都市の計画の中に組み込まれにくいのが現状です。けれどもコペンハーゲンのように、人々が住みたくなる魅力ある都市空間や暮らし方を生み出す、という大きな枠組のなかで適応策を考えることで、より明確な方向性が生まれ、実現への道が見えてくるかもしれません。



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