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2015.08.11

第48回 都市の自然を外来植物から護る~都会で頑張る外来植物、都会を彩る外来植物~

小出 可能(こいで かの)

小出 可能(こいで かの)

世田谷区在住。東邦大学理学部生物学科卒業、東京農工大学大学院博士課程連合農学研究科生物生産学専攻修了(作物学研究室でコムギの光合成と物質生産に関する研究)。現在は一般財団法人自然環境研究センター主席研究員。外来植物関係を中心に、植物の保護管理に関わる業務などを担当。主な著書は「日本の外来生物(自然環境研究センター編著)」の植物。最近の趣味は読書、山登り、魚釣りと、仕事を兼ねた植物写真撮影。

 東京都で外来植物が大きな問題となっているのは何といっても小笠原諸島で、アカギ、トクサバモクマオウ、ギンネム【1】などが対策の対象となっています。一方で都会には、都市特有の環境に適応した外来植物がたくさん生育していますから、ここでは都会でみられる外来植物について、ご紹介します。
 「外来植物」というと他所者、悪者感が漂いますが、植物を観察、研究する立場からは、日本に馴染んでくれた外国からのお客さんというニュアンスで、「帰化植物」と呼ばれてきました。しかしそうした植物の中にも、外来生物法【2】で栽培などが禁止されるものが出てくるくらいですから、親しんでばかりもいられないようです。

1.都会で頑張る外来植物-非意図的に侵入した外来植物-

  いわゆる「雑草」として厄介者扱いされる植物の中には、生まれ故郷から離れた場所でたくましく生活する外来植物が数多く含まれます。都市部で外来植物がみられる場所といえば、道端、花壇、芝生、空き地、ちょっと郊外に行けば田畑など、人の手が入った人工的な環境で、日当たりが良いことが大きな特徴です。
 こうした場所で生き残るには、草取りや草刈りを耐えぬくか、その合間をぬって種子をつけなければなりません。生まれ故郷で花粉を運んでくれた昆虫が一緒に移住するとは限りませんし、都市部には花粉を運ぶ昆虫も少ないですから、花粉は風で運んで貰うか、受粉しなくても種子をつけられる植物の方が有利でしょう。小さな種子をたくさんつけて、車に便乗してラクラク移動する作戦もあります。
 こうした外来植物は、道路、芝生、庭などを管理する人にとっては大問題ですが、同じように日当たりの良い自然環境で、外来植物が特に問題になるのは河川敷です。カワラノギクのように河原に固有な絶滅危惧種にとっては、河川敷を占領する外来植物は大きな脅威になります。

芝生一面を覆ってしまったブタナ(新札幌駅前/2007.7.8著者撮影)芝生一面を覆ってしまったブタナ
(新札幌駅前/2007.7.8著者撮影)

地表面に葉を広げるブタクサは芝刈りに強い厄介な雑草(千葉県印西市/2007.6.6著者撮影)地表面に葉を広げるブタクサは芝刈りに強い厄介な雑草(千葉県印西市/2007.6.6著者撮影)

ウラジロチチコグサやマツバウンランなども同じような性質を持っています。

2.都会を彩る外来植物-意図的に導入された外来植物-

 日本人の主食であるイネも、はるか昔の縄文時代に外国から持ち込まれた植物で、こうした農作物は私たちの生活になくてはならない存在です。園芸植物や観葉植物、アクアリウムで楽しむ水草の多くは外国産の植物で、こうした観賞用植物は私たちの暮らしを彩る大切な存在です。道路の法面や堤防などの緑化や保護には、外国産のイネ科やマメ科の牧草が使われています。こうした緑化植物は私たちの安全を守り、緑の多い景観を作るのに役立っています。
 このように私たちに役立つ植物として意図的に持ち込まれたものの中には、自然環境の中に逃げ出したり、不要になって捨てられてしまったり、はたまた自然環境の中で利用しようとしていたものが予想外に大繁茂して、思わぬ結果を引き起こすものがいます。

松林の林床を見渡す限り覆い尽くすツルニチニチソウ(千葉県南房総市/2010.3.30著者撮影)松林の林床を見渡す限り覆い尽くすツルニチニチソウ(千葉県南房総市/2010.3.30著者撮影)

松林の林床を見渡す限り覆い尽くすツルニチニチソウ(千葉県南房総市/2010.3.30著者撮影)

花壇に植えられることがある植物ですが、あちこちの林で繁茂しているのが気になります。

睡蓮鉢に浮かべられたホテイアオイ(秋田県湯沢町/2012.9.2著者撮影)睡蓮鉢に浮かべられたホテイアオイ
(秋田県湯沢町/2012.9.2著者撮影)

英語名のウオーターヒヤシンスの由来である花(鹿児島県奄美大島/2009.9.17著者撮影)英語名のウオーターヒヤシンスの由来である花
(鹿児島県奄美大島/2009.9.17著者撮影)


農業用の水路を埋め尽くすホテイアオイ(千葉県佐倉市/2010.3.30著者撮影)他の水草の生育場所がなくなり、動物の生息環境も激変します。水路がつまって農業用水が利用できなくなったり、ボートを浮かべる、魚釣りをするといったレクリエーションもできなくなります。
農業用の水路を埋め尽くすホテイアオイ(千葉県佐倉市/2010.3.30著者撮影)
他の水草の生育場所がなくなり、動物の生息環境も激変します。水路がつまって農業用水が利用できなくなったり、ボートを浮かべる、魚釣りをするといったレクリエーションもできなくなります。

花が綺麗で夏の風物詩としてホテイアオイ(布袋葵)の名前で親しまれていますが、実はブラジル原産の外来植物です。次々に子株を作ってあっという間に増え、ときに高さ1.5mにもなります。世界的にも侵略的な外来植物とされています。

おわりに

帰化植物見本園の入り口(東京都江東区木場公園/2007.8.9著者撮影)帰化植物見本園の入り口
(東京都江東区木場公園/2007.8.9著者撮影)

 植物では今のところ、ボタンウキクサやミズヒマワリなどの水草類を中心に、13種類が特定外来生物に指定されています。特定外来生物に指定されてしまうと、例えばマンションの部屋の水槽内で鑑賞したり、縁側の金魚鉢に浮かべて眺めたり、自宅の庭の花壇で育てたりといった、自然環境に全く影響を及ぼさない行為も禁止されてしまいます。
 できることなら、このような対象になってしまう植物が、これ以上増えてしまわないよう、外国生まれの植物達とも良い関係を続けていきたいものです。
 最後に、様々な外来植物に出会える「帰化植物見本園」のご紹介です。東京都江東区の木場公園の一角にある、こじんまりとした植物園なので、最初は一体どこにあるのか迷いましたが、季節ごとに通うことで、初めての植物もたくさん見ることができました。名札もきちんとつけられているのですが、おとなしく植えられた場所に収まっていない種類もあるので、注意して観察してみてください。


注釈



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本事業は、公益財団法人 東京都区市町村振興協会からの助成で実施しております。