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2013.09.20

第38回「ミツバチのための環境創造が人のためにもつながる ~NPO法人みつばち百花の取り組み」

ミツバチにとっては、花蜜と花粉がなければ生きていけないから、必死になって集めている

 みつばち百花の前身は、2005年8月8日(8-8の日)に、以前から知り合いだった養蜂家とともにハチミツを食育の中に取り入れる活動を始めたことで立ち上げた『東京はちみつクラブ』だ。各地で食をテーマにした地域づくりに携わっていた朝田さんは、蜜を採る土地ごとに味わいを変えるハチミツをワインのテイスティングになぞらえて、“ハチミツのテロワール【2】を感じ取ろう!”という企画「ワインのようにはちみつを楽しもう!」を立ち上げた。思いもかけず大きな反響を呼んで、『東京はちみつクラブ』の活動が始まった。玉川大学の中村先生との関係も、そのとき以来だ。
 当初は、各地のハチミツを味わいながらミツバチのことを知ろうというのが活動の軸だった。ただ、知れば知るほど、ミツバチたちの置かれている状況の厳しさをも知ることになったという。それが、『東京はちみつクラブ』から『みつばち百花』へと名称や活動の内容を変えていった理由だった。

 ミツバチの活動をしているというと、多くの人たちから「ミツバチって減っているんですか?」と聞かれるという。そんな風潮こそが、科学の視点を欠く見方だと朝田さんは指摘する。
 「落ち着いて考えてみてください、セイヨウミツバチって、野生ではなく家畜なんですよ。家畜が減っている、増えているっていうのはおかしくないですか。例えば、牛や豚が増えている、減っているなんて話は、家畜業者でもない限りしないじゃないですか。多くの場合、そこの時点で背景がごそっと抜け落ちたまま、なんで減っているのかということを自分の頭では考えないで、聞いた話を鵜呑みにしているのです。だから、『減っている=農薬』くらいにしか結びつかずに終わってしまう。でも、その背景は、かなり複雑で、そのほとんどにわれわれの暮らしが加担しているのです」
 2008~9年に新聞を騒がせた“ミツバチ不足”は、世間一般に「ミツバチが減っている」と混同させることになったが、その主な原因の一つにオーストラリアからの女王蜂の輸入の停止があった。日本では、秋から需要が増す花粉交配用のセイヨウミツバチを仕立てるために、その時期に繁殖期を迎える地球の裏側から多数の女王蜂を輸入して充てていたが、その輸入がストップしたから、交配用ミツバチの市場が崩れ、ミツバチの供給に支障をきたした。それを教訓にして、現在は、女王蜂を国内生産して賄いきっているという。決して減っているわけではないのだ。
 「日本におけるミツバチによる生産性を考えると、実は生産高の9割以上が、農作物の受粉利用で、ハチミツなど巣箱から生産されるものはほんのわずかです。例えば、イチゴはクリスマス需要を満たすように11月から4月まで主にハウス内で栽培されますが、この時期、かつ閉鎖されたハウス内ということもあって、受粉のためには農家がミツバチをハウス内に導入するしかありません。ミツバチにとっては、イチゴの花粉と花蜜だけが栄養源になるのです。ひとつの栄養源に頼って、しかも限られた空間の中に閉じ込められているわけですから、春になった時点でもうへとへとになって、回復できないくらいに弱ってしまうのです。弱ったミツバチ群は、病気にかかりやすく、他のミツバチへの病気の感染源にもなるので、多くの場合、焼却処分されています。つまり、使い捨てにされているというのが実情です」
 世界で最もイチゴの消費量が多いのが日本。イチゴ以外にも、メロンやスイカなどもミツバチが受粉に役立つ。受粉の間だけ生きればよいと、簡素なダンボールの巣箱に働きバチだけが入れられる。次世代の働きバチを産んでくれる女王蜂もいないから、本当の意味での “使い捨て”にされることもあるという。
 そうした犠牲のもとに私たちの食糧があるという、ミツバチを取り巻く現実を伝えていこうというのが、みつばち百花の役割だと朝田さんは言う。
 「ミツバチをハチミツなどの生産物から捉えるのではなく、私たちを広大な自然界の不思議へと導く案内役として、また、ともに地球上に生きる仲間として位置づけながら、持続可能な社会をめざした活動をしていこうというのが、『みつばち百花』のめざす活動なのです」

ミツバチのおかげで豊作になったイチゴ(NPOみつばち百花提供)
ミツバチのおかげで豊作になったイチゴ(NPOみつばち百花提供)

キュウリの花で熱心にお仕事中のミツバチ(NPOみつばち百花提供)
キュウリの花で熱心にお仕事中のミツバチ(NPOみつばち百花提供)


ミツバチという一つの視点を得たことによって、世界がものすごく広がった

宵闇迫るころ、ランタンに蜜蝋キャンドルを灯してみました。(NPOみつばち百花提供)
宵闇迫るころ、ランタンに蜜蝋キャンドルを灯してみました。(NPOみつばち百花提供)

 みつばち百花の活動の最大の特徴は、“科学の視点”を持って、ミツバチの生態を見つめること。設立当初から玉川大学ミツバチ科学研究センターの中村教授ら、ミツバチの世界の権威ある専門家といっしょに活動していることの利点を生かした活動を目指してきた。専門家としての先生の話を一般向けにわかりやすく、でも正確に伝えるインタープリター(通訳)としての役割を担っている。
 「ハチミツひとつとっても、むちゃくちゃな情報が流れています。例えば、ハチミツには多種のビタミンやミネラルが含まれていますが、ネットなどではいかにも量として豊富に含まれているというニュアンスで書かれてしまう。でも、一日に必要なビタミンやミネラルをハチミツで摂ろうと思ったら、一日に1kg~2kg食べないと意味がありません。ほかにも、非加熱を強調した商品があります。ただ、国産ハチミツでは、加熱したハチミツはほとんどありませんから、あえてそれを強調して『うちのハチミツは非加熱で、ピュアです』という宣伝をすることは、実態のない差別化になってしまいます。それを突き詰めていくと、非加熱の証明を出せということにもなりかねません。そのコストを誰が負担するかというと、結局は消費者が負担することになるわけです」
 そんな意味のないプロモーション用語やマーケティング用語のようなものが数多く出てくるからこそ、科学的で冷静な視点が重要になる。
 「ネオニコチノイド系農薬の被害も騒がれています。まったく関係ないかというとそんなことはないんですが、じゃあものすごい被害なのかというと、日本の場合、CCD【3】はまだ出ていませんから、またちょっと状況が違ってくるわけです。影響があるという実証は程度によらず可能でも、影響がないという証明は、いわゆる「悪魔の証明」となってしまいますから、不可能です。影響がないといってよい確率が高いかどうかなどといっている研究者の言より、断定的に影響があるという意見の方が、一般の方には受け入れやすい。でも、それこそが情報伝達のカラクリだとわかれば、少しでも冷静な視点を持って、自分なりの判断・行動を選び取っていくこともできます。多様な情報発信がされる現代では、特にこの観点は大切です。昨今の放射能汚染の問題もそうですが、私たちの身の回りに渦巻いている物事に対しては、すべて科学的で冷静な見方をしながら、自分で判断し、行動していくことが求められているといえます」

ミツバチガーデンで採れたハチミツ。右は夏採れたもの、左は春。(NPOみつばち百花提供)
ミツバチガーデンで採れたハチミツ。右は夏採れたもの、左は春。(NPOみつばち百花提供)

 ミツバチと関わるようになってさまざまなことを学んだという朝田さんだが、その最たることの一つが、科学的で冷静な視線を持って、多角的に物事を見ることの大切さを実感したことだったという。


注釈

【2】テロワール
 テロワール(Terroir)とは、「土地」を意味するフランス語"terre"から派生した言葉。作物を育てる地域ごとに共通する土壌や気候、地勢、農業技術などが、その土地特有の風味や味わいなどの特色を決定づけるという考え方。
 もともとはワイン、コーヒー、茶などの品種における、生育地の地理、地勢、気候による特徴をさすフランス語の概念。
【3】ネオニコチノイドとCCD(Colony Collapse Disorder=「蜂群崩壊症候群」)
 ネオニコチノイドは、クロロニコチニル系殺虫剤の総称。急性毒性は低いとされているが、昆虫に選択的に毒性を発揮するため、農業用以外にも、一般家庭のガーデニング用、シロアリ駆除などの業務用、ペットのシラミ・ノミ取り、ゴキブリ駆除等のスプレー殺虫剤など家庭用の製品まで広範囲に使用されている。
 ミツバチが原因不明に大量に失踪する現象であるCCD(蜂群崩壊症候群)は、2006年秋以降のアメリカでの報告をはじめ、世界各地で同様の報告が相次いでいる。その原因の一つとして、ネオニコチノイド系農薬も疑われている。ただし、ミツバチに対する毒性は種類や使用方法によって大きく異なるため、ネオニコチノイドすべてが関係あるとは言えない。また、農薬以外が原因で発生しているとの説もあり、現象・原因は解明されているわけではない。

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