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第44回「かつての原風景にあった“カシグネ”を現代に甦らせる ~ツル性植物をフレームに沿わせた、高垣緑化の取り組み(小作隆泰さん)」

カシグネの広がる、かつての関東一円の原風景

 かつて、関東一帯の家々には“カシグネ”と呼ばれる生垣が植えられていたという。カシグネとはシラカシの高垣のことで、関東地方では生垣のことを一般に「クネ」と呼んでいた。関東平野に吹きすさぶ空っ風のやってくる方角に向けて、屋根の高さほどのシラカシを一列等間隔に植えて、枝同士がつながるように壁状に刈り込まれた防風帯が、山から吹き下ろす強烈な寒風や砂ぼこりなどをブロックし、また夏季には西陽を遮って木陰を作ってくれる。自宅のカシグネをきちんと仕立てることは、そこに住む人の器量の表れでもあった。端正に仕立てられたカシグネは、鑑賞目的の庭木にはない美しい景観を作っていた。今から45年ほど前まで一般的に見られた原風景だ。
 そんなカシグネを現代に合った形で復活させようと取り組んでいるのが、羽村市に住む小作隆泰さんだ。
 そもそもの発想のきっかけは、かつて仕事で何度も訪れた海外の街で見た壁面緑化だったという。石造りの壁面を這うように伸びる蔦やツル性植物などの古色蒼然とした趣深い建造物だけでなく、現代建築家が設計した近代的なビル等に施工された巨大なグリーンウォール(壁面緑化)などが大きなインパクトを与えた。
 ただ、それをそのまま気候も植生も異なる日本に持ち込むより、日本の風土に合った形でアレンジしたい、そんなふうに考えたときに思い出したのが、幼いころに見たカシグネの原風景だった。だが、問題もあった。今の東京郊外の建売住宅が密集する新興住宅地では、緑陰を提供する高木を植えるだけの土地もなければ、仮に育った時の落葉や日照の面での苦情も予想された。かつてのようなカシグネをそのまま復活させようとしても、現実味に乏しかった。
 「ちょうど20年ほど前に金属等加工のデザインと製作の仕事──いわば“鍛冶屋”ですね──を始めてこの工房を開いたんですが、南西面からの西日が厳しく、日陰になるようなものが必要だという認識は当初からありました。私は出身もこの辺りで、実家の庭にはカシグネが植わっていましたし、剪定(せんてい)する植木屋さんの梯子(はしご)に登らせてもらった記憶も残っています。そんなふうに大きな木を植えて木陰を作れるとよかったんですが、場所的にそれほど大きな木は植えられません。どうしたらいいかと考えたときに、フレームを作ってツル性植物を植えたらいいんじゃないかという発想が浮かびました。もともと植物が好きだったので、趣味でバラなどを栽培していて、ツル性植物は自由がきくこともわかっていました。ただ、壁面を直接這わせると建物の管理上の問題もあります。ヨーロッパなどにあるような石の建物だったら表面のメンテナンスも必要ありませんから、壁面を這わせても問題ありませんが、この工房は発泡コンクリート(ALC)を使っているので、通常のメンテナンスでは数年おきくらいで塗り替える必要があるのです。一方、壁面から離して設置したことで、隙間に空気層ができて、熱を遮断するのにも有利になります。要は、直射日光を遮ってくれればよいのです」

 小作さんの作ったツル性植物による高垣緑化は、海外の壁面緑化からインスピレーションを受け、かつて見たカシグネのある風景へのオマージュとして実現したものだ。樹種こそ異なるものの、ねらいは同じ“実用と美観”をめざしたものだった。

羽村市にある小作さんの工房の“高垣緑化”。

羽村市にある小作さんの工房の“高垣緑化”。

羽村市にある小作さんの工房の“高垣緑化”。足場パイプでフレームを組んで、ツル性植物を這わせて壁一面に緑の遮光壁を作っている。植えたのはバラやクレマチスなど。春先になると一面に白や黄色の花が咲き誇り、道行く人々が見上げたり香りを楽しんだりするという。

フレームさえ組んでやれば、地面の状況に左右されず自由に緑の空間を仕立てることができる

 ツル性植物を用いた高垣緑化のポイントは、その構造と仕立て方にある。かつてのカシグネは、シラカシを主体とする樹木を一列に配置するものだから、緑化帯と同じだけの地面を必要とした。これは、現代の狭小な住宅環境にとっては致命的な点だ。これに対して、樹種をツル性植物にすることで、植え枡を小型化することが可能になる。1本のツルを縦横に伸ばしていって、面としての広がりを持たせればよいのだ。自立しないツル性植物のため、絡みついたり誘引したりするためのフレームが必要となる。これは逆にいうと、フレームさえ組んでやれば、自由な形状の緑化面を作ることができることでもある。しかも、伸びたツルをうまく誘導してやれば、地面がないところでも緑化することができる。ツル性植物を使うことの最大の特徴である。
 「一般的には、樹木などの場合、植え枡の上の空間しか緑化できませんよね。でも、ツル性植物を用いることで、地面の状況に左右されずに緑化することができるのが特徴です。私の工房で作っている高垣緑化は、道路側は駐車スペースにしているため、地面の奥行は建物との間の40cmほどしかありません。しかも植えてあるのはいちばん右側だけです。左側には排水パイプが通っていて、植えられませんが、ツル性植物ならフレームさえ作ってやれば、地面の状態にかかわらずどんなところにも伸ばして持っていけるのです」

地面の奥行は約40cm。フレームに取り付いて伸びていくから、地面に根を下ろしていなくても伸びていける。

地面の奥行は約40cm。フレームに取り付いて伸びていくから、地面に根を下ろしていなくても伸びていける。。

地面の奥行は約40cm。フレームに取り付いて伸びていくから、地面に根を下ろしていなくても伸びていける。

 高垣緑化による日影面と、直射日光が当たっている壁面とを比較すると、おおよそ5度程度の温度差が生じている。ここ数シーズン、エアコンなしで夏場を乗り切ることができ、省エネ効果を実感していると小作さんは話す。壁面の日焼けも防げるから、家屋のメンテナンス上も有利になる。

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