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2014.04.21

第48回「人生の門出を木のおもちゃとともに! ~ウッドスタートで生涯木育を推進(東京おもちゃ美術館)」

甲州街道の新しい宿場町として発展した新宿と、高遠・内藤藩とのつながり

 林野庁の補助事業として取り組んできた木育推進の事業とは別に、ウッドスタートのきっかけとなったもう一つの取り組みも並行して始まっていた。東京おもちゃ美術館の所在地である新宿区との連携で始まったウッドスタートの原型となるプロジェクトだ。
 「東京おもちゃ美術館は新宿区にある施設ですから、私たちにとって、区との関係はいわば“大家さんと店子”です。日頃、連携しながら事業を進めているのですが、そんな中、ある偶然からウッドスタートを構想することになるきっかけがありました。実は、新宿区では誕生祝品として図書カード1万円分を配っていました。事業自体は特に批判や不満もなく、むしろ非常に喜ばれていたようですが、必ずしも赤ちゃんのためのものや子育てに役立つものだけに使われるとは限らないよねと、雑談の中で話したことがありました。ふと、その予算で木のおもちゃをプレゼントできたら、赤ちゃんのための直接的なプレゼントになるし、木育としての広がりは大きな期待ができるよねと盛り上がったのが、ウッドスタートの構想につながりました」
 馬場さんは、“木のおもちゃで人生の門出を祝う”というウッドスタートの発想のきっかけについてそう話す。
 木育推進の取り組みを始めて、木のおもちゃについて調べていると、予想以上に木のおもちゃ、特に国産材を使った木のおもちゃが普及していないことがわかってきていた。成型の自由度やコスト面の有利さから、おもちゃの素材には、プラスチックや金属が主に使われる。木製のものがあっても、中国製など廉価なものか、北欧やドイツなどから輸入される品質は良いものの高価なおもちゃの両極端だった。国土の7割を森林が占める“森林大国”であり、かつ、その木を使ったものづくりを担う“木の匠”がいる日本だからこそ、日本の木と技を活用した国産材のおもちゃがもっと普及してほしい、そんな思いがあった。
 ただ、行政としては、当時やっていた図書カード1万円のプレゼントという事業を切り替える必然性はなかった。何か問題があったり、区民から苦情が殺到していたりといった明確な理由もない中で政策を変えるのは簡単な話ではない。話し合いを重ねていく中で、区長の木に対する思い入れが決め手になり、区長の強いリーダーシップのもと、実施が決まった。

 こうして動き出した木のおもちゃづくりのプロジェクトで、もう一つキーとなった出会いがあった。話をしていた区職員の一人に、新宿区と友好提携を結んでいる長野県伊那市から派遣されていた人がいた。新宿区では、伊那市内に『新宿の森』を整備していて、カーボンオフセットに活用したり、小学生の間伐や工作体験などで現地を訪れたりしていた。この『新宿の森』から伐り出してきた間伐材を活用して、伊那市の職人さんがつくった木のおもちゃを誕生祝い品として新宿区内で生まれた赤ちゃんにプレゼントすれば、一つの循環モデルができあがる。
 もともと甲州街道の宿場町である『内藤新宿』が開設されたのは、江戸中期の元禄12年(1699年)のこと。それまで江戸日本橋から最初に設けられた高井戸宿が約4里(16kmほど)と離れていて不便だったためだ。当時、宿場予定地には信濃国高遠藩内藤家の屋敷などがあった。ちなみに、現在の新宿御苑も内藤家の敷地跡地に開園されている。そんな浅からぬ縁があり、旧高遠町と友好提携が締結されたのは、1986年のことだった。市町村合併で高遠町が伊那市になってからも友好提携は伊那市との間に引き継がれている。
 ただ、おもちゃづくりといっても簡単にできるものではない。しかも、伊那市にはおもちゃ職人がいなかった。伊那市役所とも連携を取りながら、建具屋さんや家具職人、木曽漆器をつくっている漆器職人など木工業にかかわる人たちに集まってもらって準備を進めた。
 「みなさん、およそ『おもちゃなんて作ったこともないよ!』という方たちばかりで、事業を開始する前、1年半ほどはおもちゃの勉強・研究という感じでした。こちらからもおもちゃデザイナーを派遣して、勉強会から始めて試作品の製作を繰り返して試行錯誤を重ねてきました。建具職人さんは、『曲がったものは作れねえ』なんておっしゃって、結局、おもちゃを入れる箱をつくってもらうことに。漆器職人さんも、器の製作は専門だから、小さな器でおままごとセットをつくってもらったり、おもちゃではありませんが、離乳食の食器をつくってもらったりと、ともかくその人たちの得意分野を生かして、おもちゃや赤ちゃん向けのいろんなものをラインアップして、最初の年は9品目の中から選んでもらうようにしました」
 区長からは、『合格点は出すけど、まだ百点じゃない』と言われている。まだまだ改良の余地はあるものの、プレゼントをもらった両親たちからは『子育ての中に木のおもちゃを取り入れられるよいきっかけになった』と好評を得ている。

地域の木を使って、地域の職人が製作を担う ~地産地消の木のおもちゃづくり

 ウッドスタートは、2011年度に新宿区でスタートしたのを皮切りに、今や全国8区市町村が取り組みを宣言している(2014年3月現在)。プレゼントする木のおもちゃのデザインも製作方法も、地域によってそれぞれ独自性を持つ。
 北海道雨竜町(うりゅうちょう)のウッドスタートは、木工科のある高等養護学校の校長先生がウッドスタートを紹介する新聞記事を読んだことがきっかけになって、町役場に掛け合うと同時に、東京おもちゃ美術館に協力要請の電話を入れたことからはじまった。もともとよい指導者に恵まれ質の高い木工作品をつくっていた同校の木工科の製作による木のおもちゃが、同町の赤ちゃんにプレゼントされることになった。第1回の贈呈式は、2013年7月のことだった。
 「養護学校の校長先生からは、これまでは、まわりの方々にお世話になるばかりだった生徒たちが、今回の事業を通じて社会に役立てる経験ができたのがうれしいと、とても喜んでくださったのが印象的でした」
 雨竜町のこの取り組みは北海道庁にも注目されて、生徒たちが直接知事を訪問して報告したほか、文部科学省・経済産業省の『キャリア教育推進連携表彰』でも審査員特別賞を受賞するなど、大きな反響を呼ぶことになった。

雨竜町のウッドスタート贈呈式の様子およびプレゼントされる木のおもちゃ。

雨竜町のウッドスタート贈呈式の様子およびプレゼントされる木のおもちゃ。

雨竜町のウッドスタート贈呈式の様子およびプレゼントされる木のおもちゃ。


飯館村のウッドスタート寄贈式の様子。
飯館村のウッドスタート寄贈式の様子。

 福島県飯館村の取り組みは、『おもちゃのもり』の分校をつくろうと動き始めた事例だ。東京おもちゃ美術館の監修により、木をふんだんに使った子育て支援センターの計画・建設が進行。ところが、2011年4月にいよいよオープンというところまで漕ぎつけたちょうどその1か月前の2011年3月11日、東日本大震災で計画はとん挫した。村全域が放射能の影響で計画的避難区域に設定され、飯舘村役場は福島市へ移転することになった。
 東京おもちゃ美術館では、2013年度から3年間に渡って誕生祝い品提供による支援を約束。全国どこにいても、飯館村民であればプレゼントされ、福島県内なら村役場の担当者が実際に訪ねていって赤ちゃんにプレゼントすることになっている。

 沖縄県国頭村(くにがみそん)の事例では、『木育キャラバン』が縁になってウッドスタートの取り組みへとつながっていった。木育キャラバン事業では、各地に期間限定の移動おもちゃ美術館を開設してきた。イベントの期間中は大いに盛り上がる反面、期間終了後に地域の木育推進へといかにつなげていくかが課題になっていた。その対策として始まったのが、『木育円卓会議』の開催だ。木育キャラバンとの併催で、地域における今後の木育推進について、関係各主体による話し合いの場を設定するというもの。
 第1回木育円卓会議が、2011年7月に沖縄大学(沖縄県那覇市)を会場に開催され、国頭村からも森林組合および役場の担当者が参加していた。会議の後、国頭村でも木育の拠点をつくりたいと相談があったのが、事業のきっかけだった。候補地はいくつかあったが、最終的にはキャンプ場施設などを併設する森林公園内の多目的ホールに決まった。この施設を活用して、東京おもちゃ美術館の『赤ちゃん木育ひろば』をモデルに、ファミリー向けの木育体験施設に改装することになった。
 沖縄ならではの施設づくりをめざして、床材には沖縄産のスダジイを使用。館内にはリュウキュウマツの木のボールのプールを設置した。日本でもっとも軽いデイゴの木と、逆に一番重いイスノキの材を使った同じ大きさの積み木を用意して持ち較べるおもちゃを並べた。沖縄を代表するさまざまな材木が使われ、五感でやんばるの森を体感できる施設となった。2013年11月のオープンとともにウッドスタート事業が開始し、東京おもちゃ美術館監修のもと、同村森林組合が製作する『ヤンバルクイナの積み木』が誕生祝い品としてプレゼントされることになった。

2013年11月にオープンした『やんばる森のおもちゃ美術館』。右は、国頭村のウッドスタート寄贈式の様子。

2013年11月にオープンした『やんばる森のおもちゃ美術館』。右は、国頭村のウッドスタート寄贈式の様子。

2013年11月にオープンした『やんばる森のおもちゃ美術館』。右は、国頭村のウッドスタート寄贈式の様子。


企業版「ウッドスタート宣言」へ

ウッドスタート宣言は、環境保全による社会貢献を目指す「企業」と地域材の利活用を推進する「自治体」が手を取り合うことで日本の森林を元気づける取り組みだ。
ウッドスタート宣言は、環境保全による社会貢献を目指す「企業」と地域材の利活用を推進する「自治体」が手を取り合うことで日本の森林を元気づける取り組みだ。

 2011年度に新宿区で始まって以来、丸3年間で8区市町村での実施と、ウッドスタートの取り組みは確実に広がりを見せている。ただ、導入を決めた自治体がある一方、断念した自治体があることも事実だ。その主な理由は、財源確保の問題。木のおもちゃは1つ当たり数千円から1万円ほどのコストがかかる。都市部で人口の多い自治体の場合、毎年数百~数千人の赤ちゃんが誕生しているから、事業予算もそれなりの規模が必要となる。それだけの新規予算を確保するのは財政難にあえぐ自治体にとって容易ではない。現在実施している8区市町村でも、新宿区と塩尻市、美濃市を除く5町村の年間の新生児数は数十人レベル。人口の少ない自治体だからこそ実現できているともいえる。
 一方、全国各地の山(森林)で、木材の消費を増やすことが危急の課題になっている。木が売れないから伐り出せない悪循環で山が荒廃している。ウッドスタートでは、その土地の材でその土地の職人さんが木のおもちゃをつくるという仕組みを原則にしているが、人口規模の小さな町村で実現しやすいウッドスタートは、逆に言うとそれほど大きな木材需要を生み出すことにはつながらないというジレンマもある。

 こうした事情を踏まえて、東京おもちゃ美術館では、自治体だけでなく、企業によるウッドスタート宣言の展開にも取り組みはじめた。先駆事例の一つとして2013年5月に始まったのが、株式会社良品計画によるウッドスタート宣言の締結だ。
 同社の店舗内の一角に開設された『木育広場』は、国産材を使った子どもの遊び場。来客者は、ヒノキの香り漂うなか、五感で木を感じながら自由に過ごすことができる。2014年3月現在、設置店舗は全国27店舗にまで広がっている。
 また、同社が発行する会員カードでは、登録会員に赤ちゃんが生まれると「はじめての木のおもちゃ」をプレゼントする取り組みも実施している。大阪府産のヒノキなど国産材を使って製作されたもので、子育ての中に木の素晴らしさを取り入れて豊かな子育てを実現してほしいという同社の思いが込められている。
 さらに、都内の店舗の中には、木育広場を活用した「おもちゃコンサルタントと遊ぼう」というイベントを定期開催しているところもある。木のおもちゃは単純な形をしているから、さまざまな遊びの展開へと広がっていく一方、問われるのは使い手側の自由な発想と想像力──いわば、“遊び力”だ。このイベントでは、東京おもちゃ美術館が養成するおもちゃコンサルタントが、木のおもちゃを使ってさまざまな遊びをいっしょに楽しむことで、ちょっとした声のかけ方で広がる遊びの展開や子どもならではの思わぬ創造性を実地で体験することになる。

 企業によるウッドスタートの取り組みに向けたプログラムとして東京おもちゃ美術館が提唱するのは、企業活動を通じて社内外で使っているさまざまな物品の木質化・木育化だ。
 具体的には、社内食堂等で使う割り箸を国産材のものに切り替える提案だったり、社員の家族に赤ちゃんが誕生した時の誕生祝い品のプレゼント、社員向けに設ける社内保育所の木育化だったり、店舗やショールームの木質化による癒し空間の創出、オフィス空間──特に休憩スペース──など、社員の憩いの場を木質化することでリフレッシュ効果の向上につなげたり、接客スペースの木質化によって商談をスムーズにする効果を訴えたりする。
 良品計画との提携以外にも、複数の企業と木育スペースの設置や社員研修などの共同事業が動き始めている。

東京おもちゃ美術館・事務局長の馬場清さん
東京おもちゃ美術館・事務局長の馬場清さん

 「林野庁が提唱する“森林の多面的機能”について、いくら訴えても、それが直接的な木の利用にまではなかなかつながってきませんでした。家を建てるのも一生に一度あるかないか、木を使うといっても、なかなか機会がないんですね。環境を守るためにと頭で考え・理解するよりも、純粋に『木っていいよね!』と感じることで国産材の利用が広がって、それが日本の森林を守ることにつながってくれればという思いです。私たちは“川下からのアプローチ”と言っていますが、自分によいものが環境や社会にとってもよいものになる仕組みや製品の提供を進めていくことがとても大事なことだと思っています。そのためにも、1つでも多くの自治体で、ウッドスタートの取り組みが広がればと思います」


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