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2015.07.10

第61回「公園を訪れ、公園での活動に参加する人たちを増やすために ~都立野山北・六道山公園(のやまきた・ろくどうやまこうえん)ボランティアの取り組み(特定非営利活動法人NPO birth)」

ボランティア・コーディネーターという専門職の重要性

 野山北・六道山公園の活発なボランティア活動を支える役割を担うのが、ボランティア・コーディネーターという職種だ。
 「ここの公園の特徴は、ボランティアさんたちの活動を円滑に進めるための専門部署を設置しているところにあります。通常、こういった公園に専門のコーディネーターを配置している例はそれほどありません。公園の所長さんが兼任でやっていたり、維持管理の職員さんがボランティアといっしょにやっていたりするんですけど、私たちは、“人をつなぐ”というのは専門の職種ではないかということで、ボランティア・コーディネーターという職種を設けています」
 そう話すのは、ボランティア・コーディネーターの礒脇桃子さん。明るい笑顔と的確な判断で、ボランティアからは絶大な人気と信頼を得ている。

ボランティア参加延べ人数および登録者数と年代の推移(H26年3月現在)

ボランティア参加延べ人数および登録者数と年代の推移(H26年3月現在)※クリックで拡大表示します

 公園ボランティアは、都市部の場合、地域のシルバー層や主婦層が主体になることが多い。この公園でも、もともと年配者層の比率が高かったというが、西武・狭山丘陵パートナーズが管理するようになって、登録ボランティアの構成は大きく変わり、今は子育て世代や働き盛りの30代・40代を含む多世代のボランティアが活動している。そうした活動の受け皿をつくる役割を担うのが、ボランティア・コーディネーターだ。

 公園という公の場だから、最低限のルールやマナーはもちろんのこと、たくさんの人たちが活動するための基本的なルールの共有を徹底している。
 「ここの公園ではボランティアとして登録するまでにいくつかのステップを経る必要があります。年間登録制になっていて、前の年の2月~3月に説明会を開催しています。説明会に参加しないと、登録はできませんので、登録希望の方は必ず参加していただきます。参加していただくことで、公園のビジョンやボランティア活動のめざすこと、活動内容などに賛同していただくわけです。登録してからも、4月に活動がスタートする前に、オリエンテーションという全ボランティア対象のミーティングがあります。こちらも、皆さんに必ず出席していただきます。ちょっと敷居が高く感じられるかもしれませんが、それによって、皆さんが安心して活動できる環境ができているんです」

 もちろん、単に敷居を高くするだけでなく、より気軽に参加できる枠組みも別に用意している。
 先に紹介したパークレンジャーによるガイドウォークのように誰でも自由に飛び込みで参加できるイベントや、田んぼ作業やガーデニングの講習会といった事前申込制のイベント・講習会には、ボランティアとして年間登録していない人でも参加できる。
 気軽に参加できるもの、ちょっとした知的欲求を刺激するもの、そしてそれらの活動を通じて得た知識を使って行動するボランティアの場という、3段階のピラミッドを意識したプログラムを組んでいる。その中で、ボランティア登録は一番上の段階に位置づけられている。

都立野山北・六道山公園における参加者を増やす仕組み

都立野山北・六道山公園における参加者を増やす仕組み

公園ボランティアの主な活動

公園ボランティアの主な活動

多様化する野山北・六道山公園のボランティア活動

野山北・六道山公園 平成26年度年間計画表。さまざまな活動(横軸参照)が、一年間にわたって活発なプログラムを実施している。

野山北・六道山公園 平成26年度年間計画表。さまざまな活動(横軸参照)が、一年間にわたって活発なプログラムを実施している。※クリックでPDF(3,441KB)が開きます

 当初、畑・田んぼ・雑木林の3つしかなかった野山北・六道山公園のボランティア活動は、今や大きく拡がりをみせている。平成26年度年間計画表を見ると、その活発な活動状況がうかがえる。

 「ここの活動の特徴は、公園の方針やボランティアの方針に合っていれば、皆さんのやりたい活動を企画していただけることにあります。ただ、そのときには必ず企画書を提出していただきます。予算書も書いてもらいますし、スケジュールも組んでもらいます。もちろんコーディネーターとして、“もう少しこうしたほうがいいかも”“一人でやるのは大変だから、もうちょっと仲間を集めたら”と、皆さんの夢が実現できるようなサポートもしています。そうして、当初は3つだった活動が、今は15種類以上に広がっているという状況ができてきているのです」

 若い世代の参加が多いのは、わが子に里山の自然体験をさせたいという親子の参加が大きな比重を占めている。30代・40代の親子が、小さい子どもを連れてボランティアに登録するわけだ。最初はもちろん子どもに体験させるため両親が付き添う形で参加するが、子どもが成長して中学生になると勉強や部活が忙しくなってきて、転機を迎える。
 「だいたいそこで退会される家族会員さんたちが多いですね。それはそれで構わないんですよ。それぞれのライフスタイルに合った活動をしてもらえればよいと思っていますから。ただそうした中で、お父さんだけが残るケースが結構あるんですよ。もともと子どもの付き添いだったのが、いつしか自分の楽しみに替わってきているようなんです。普段はなかなか他の人たちと交流を持つ機会もない中で、サークル的な感覚で楽しんでいるようです。ここで知り合った方との活動を楽しんだり、子どもの手も離れたから雑木林にでも参加してみようかといって他の活動に参加したりしています」
 そうして徐々に40代・50代の割合が増えてきたのだという。父親世代のボランティに話を聞くと、家にいてもやることがないという。子どもは中学校の部活や塾・習い事で忙しく、お母さんも出かけることが多くなり、家族一緒に行動することが少なくなっている。

 「ここの場合、雑木林だけでなく他にも活動があるというのがすごく魅力的なところで、ボランティアに登録すればそのすべての活動に参加できるのです。それぞれ個別の活動に登録する必要はなく、野山北・六道山公園のボランティアとして登録していれば、どの活動にも参加いただけます。例えば、今日は田んぼに行ってみようか、今日は雑木林に…ということも可能ですから、いろいろな活動に参加されている方も多いですね。それぞれ自分の体力や興味に合わせてできるのです。もともと雑木林一本でやっていた方が、今はクラフト工房にはまって、竹細工やワラ細工を楽しんでいる姿も見られます」
 そんな、いろいろな楽しみ方ができることも、継続して登録してもらえる秘訣の一つになっているのだろう。

 「1人じゃできないことをみんなで実現するにはコーディネーターがどうしても必要なんですね。例えば、“私がこの里山を守りたい!” と思っても、1人じゃどうしようもありません。そこで、人を集めて、ボランティアの皆さんといっしょに作業するような環境をつくるのがコーディネーターの役割です。それによって、里山保全の大きな力となっていきます。そんな、すごくやりがいの感じられる仕事だと思っています」

 “ボランティア”という言葉に代わる、もっと適した言葉がないかなと礒脇さんは言う。
 「日本人のニュアンスでは、“ボランティア”というと、ちょっと義務っぽいというか、ちょっとお硬い、奉仕活動のようなイメージがありますよね。でも、海外の人からすると、ボランティアってすごく普通のことで、皆さん気軽に取り組んでいるんですよ。そんなイメージを持つことのできる、何かもっといい言い方がないかなと思うのですね」
 自分が楽しむという意味合いが、ボランティアという言葉では伝わりにくいかもしれない。将来的には、週末に公園に来て雑木林などの作業をすることが、地域の若い人たちにとって当たり前の楽しみの一つになる──例えば、山に登るのと同じような──、そんな感覚を持てるといい。現場のスタッフたちとは、そんな夢について語り合っているという。

里山絵図。公園に関わるいろいろな人に話を聴いて、みんなの夢を絵図にした。
里山絵図。公園に関わるいろいろな人に話を聴いて、みんなの夢を絵図にした。※クリックでPDF(6,510KB)が開きます

ボランティア・コーディネーターの礒脇桃子さん。
ボランティア・コーディネーターの礒脇桃子さん。


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