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2015.07.17

第62回「“子どもが主役”の学びを創る、多摩第一小学校のESDの取り組み(多摩市立多摩第一小学校)」

それまで聞き流していたことが、自然と耳に入ってくる感覚を知ってほしい

 授業の後、羽澄さんに鳥の鳴き声の聞き分けについての話を聞いた。
 「たぶん5種類ぐらいは私も聞き分けられていましたから、耳のいい子には聞こえているのかなと思います。中には、同じ鳥が違う鳴き方をしていることもあるので、それを数えている子もいるかもしれません。
 ただ、“いっぱい聞こえる!”と思うワクワク感ってあるじゃないですか。今日の授業では、“すごいね、いろんな声が聞き分けられたね”ということでいいんじゃないかと思っています。それだけ多くの鳥の声が聞こえたって思うと、それこそ今後、授業中にも教室の外から聞こえてくる鳥の声が気になることがあるかもしれません。それまで聞き流していたことが耳に入ってくるっていう、そんな感覚っておもしろいですよね。一生懸命授業をしている先生には申し訳ありませんが…。
 多摩川のことも同じなんですよ。今はまだ、ただの川として何気なく見ているだけかもしれません、一年間の多摩川学習を終える頃には、すごく豊かな川なんだとか、いろんなものがあるんだなとか、一つ一つがクローズアップして見えたりして、見方が変わってくると思います。今日、棚橋先生が石の話をしていますが、のめり込むタイプの子だと、河原を歩いていて石が浮き上がって見えてくるような感覚を持つ子もいます。赤っぽいチャートの石が際立って見えちゃうような。そんな感覚がもし芽生えてきたりすると、すごいことだと思いますね。
 今のうちにそんな体験をたくさんしておいてほしいんです。たぶん中学・高校に進学していくと、ゲーム機器やスマホなどの都会的な遊びに吸い寄せられていって、今しているような体験がいったんは封印されてしまうことになる。でも、人生のさらに先のいつかのタイミングで、ふっと思い出すことがあったり、何かを考える基準になったりするような、そんな原体験として残っていってくれるとうれしいですね」

子どもたちに語りかける羽澄さん。普段は、隣の多摩市立連光寺小学校の教育連携コーディネーターとして勤務。元は調査系のコンサルタントなどをしていた。その経験と人的ネットワークを生かして、自身で子どもたちの前に立つほか、植物や昆虫、水生生物などさまざまな分野の専門家を紹介している。

子どもたちに語りかける羽澄さん。普段は、隣の多摩市立連光寺小学校の教育連携コーディネーターとして勤務。元は調査系のコンサルタントなどをしていた。その経験と人的ネットワークを生かして、自身で子どもたちの前に立つほか、植物や昆虫、水生生物などさまざまな分野の専門家を紹介している。

 羽澄さんはこの日、“鳥たちの好きな場所”という表現を意識的にしたという。双眼鏡を使った観察で、碧く輝くカワセミの姿を目にしたグループもあった。そのカワセミを保全するためには、エサ場や営巣地などをひっくるめた生息環境が全体的に保全される必要があるということもわかってほしい。ただ、4年生の子どもたちにそんな難しい表現で伝えてもわかってもらえないから、「鳥たちって好きな場所があるよね」と言って解説しているのだという。

子どもの自由な発想で設定するテーマを大事に

多摩第一小学校のESD研究の全体構想。育みたい能力・態度を、『問題解決力』『つながり』『意欲』の3つにまとめている。

多摩第一小学校のESD研究の全体構想。育みたい能力・態度を、『問題解決力』『つながり』『意欲』の3つにまとめている。※クリックで拡大表示します

 学校に戻って、棚橋校長先生から、4年生の多摩川学習の一年間の流れや、学校全体の環境教育やESD【2】の取り組みについて話を聞いた。
 「多摩第一小学校では、昨年度(平成25年度)と一昨年度(26年度)の2年間、国立教育政策研究所【3】の研究指定校として、ESDの研究に取り組んできました。OECDのキー・コンピテンシー【4】や国がまとめている『ESDで重視する能力・態度』などは、実はなかなか難しくて、特に小学校ではうまく活用できていないんです。それで、多摩一小では、ESDのねらいを、『問題解決力』『つながり(協力する)』『意欲を持つ』の3つにまとめた研究をしました」
 指導の仕方として、KJ法をつくった川喜田二郎さん【5】が提唱する、“W型の問題解決モデル”【6】を発展させた、下図のような流れを作っている。W型だけでは問題解決型学習で終わってしまうので、この先にESDならではの“行動・発信”のための課題を付けたという。

 
川喜多二郎さん提唱の「W型の問題解決」を発展させた、多摩第一小学校のESDの指導の流れ。

川喜多二郎さん提唱の「W型の問題解決」を発展させた、多摩第一小学校のESDの指導の流れ。
※クリックで拡大表示します

 今日の授業は、4年生の総合的な学習の時間で学習する『わたしたちの多摩川』の入り口に当たる。今回は石と野鳥の話だったが、7月には水生昆虫や魚の観察、河原の植物観察などについて、それぞれ専門の講師に来てもらっての授業を予定している。こうして、まずは多摩川のいろいろなことを調べるための力や技術、見方を一通り体験するわけだ。
 これらの学習を受けて、2学期になると、子どもたちがそれぞれの興味関心に応じて多摩川についてより詳しく調べるため、5~6人ほどのチームに分かれての学習を展開する。インタビューをしたり、現地で調査活動をしたり、インターネットを使って調べたりしながら、秋に予定しているまとめの発表に向けた学習が進むという。

校舎内の階段に大きく張り出されている、前年度の4年生たちがまとめの作業で作った「わたしたちの多摩川」マップ。

校舎内の階段に大きく張り出されている、前年度の4年生たちがまとめの作業で作った「わたしたちの多摩川」マップ。

 チーム分けのテーマは、今回及び次回の授業で紹介する野鳥や石など教えたことに限らず自由に設定させることを重視している。
 「テーマ決めを強制したり規制したりするとつまらないことになってしまいます。むしろ“大人が『え!?』と思うようなテーマを設定してよ”と子どもたちには話しています。昨年の子どもたちの中から出てきたテーマで特におもしろかったのが──なんでそんなふうに思ったのかわからないんですけど──、“多摩川に来ている人たちを調べたい”というチームができて、走っている人を追いかけたりしながら、『すいませ~ん、何しているんですか?』と聞き取り調査をしていました。大人にはなかなか思い付きませんよね。私もつい『誰がいた?』『何してた?』と様子を聞きにいきました」
 まとめとしては、「犬の散歩が多かった」という想定内の結論になっていたものの、自由な子どもの発想が面白かったと棚橋さんは言う。

外部講師からの刺激で学習意欲に火が点いた後、子どもたちの自由な発想で取り組むことが大事

 羽澄さんによる野鳥の話も、棚橋校長による石の話も、担任の先生たちだけでは教えられない専門的な知識やものの見方を外部講師等の話を通じて子どもたちに伝えてもらう。
 「子どもが熱中できるようなものじゃないと、なかなか楽しくないですよね。熱中させるためにも、教科書に載っていないことだけど基本的な考え方や調べ方などを教えてもらいます。今日は羽澄さんだけでしたが、7月には他の講師もお呼びして、河原の植物を調べたり、川の中でガサガサと魚を捕まえて、1匹1匹を確認しながら、これがシマドジョウ、こっちはオイカワと、捕れた魚の名前も全部教えてもらったりします。そんなふうに水の冷たさを感じたり、ぴちぴちと跳ねる魚を目の当たりにしたりすると、子どもたちの眼の色が変わってくるのがわかります」

 こうした外部講師の役割は、活動の入口として、子どもたちの学習意欲に火を点けてもらうことにある。大事なのはそれに続く活動だと、棚橋さんは強調する。
 「多くの学校で、外部講師に話をしてもらって、『よかった』『ためになった』だけで終わりにしてしまい、“ありがとうございました”と感想文を書いてまとめにしていることも少なくありません。でも、それではあまりにもったいない。一連の計画の中で、子どもに火を点けてもらう最初のところを外部講師にお願いしたあと、そこから先は子どもたちの発想で自由にやらせてあげることをしないと、単なる体験学習で終わってしまいます。それでは問題解決力をつけたり、そもそもの意欲も湧いてきたりはしません。教えてもらうだけの受け身の学習では、身に付くものも限定的になってしまいます」
 自分たちで考え、失敗をしながら獲得していくことこそが、本当の自分の学びにつながるわけだ。

ESDは、総合の時間でだけやればいいというわけではない

 棚橋校長が多摩第一小に赴任してきて27年度で5年目を迎え、校内の共通理解も進んできたという。
 「先生方は、問題解決的に教えるということの理解がだいぶ進んできました。それとともに、取り組んでいく中で、総合的な学習の時間だけでやればよいというものでもないということがはっきりしてきています。
 例えば、子どもたちに予想をさせるとか、他の人の意見に対してちゃんと論理的に発言するといった授業態度や話型(話しの仕方)が重要なのです。感覚的にとか勢いだけでしゃべるのではなく、きちっと順番を踏んで構造的な話し方をするということを先生たちも指導するようになってきています。
 子どもたちにそういうことをさせるような指導をするわけです。そうすると、先生自身はあまりしゃべらなくなります。子どもがいっぱいしゃべることになりますから。
 そうした指導には、時間がかかります。子ども一人ひとりに応じた関わりも必要になりますから、試行錯誤しながらやるわけです。でもその分、本当に深まります。全員とは言いませんが、ほとんどの子が、総合的な学習の時間では夢中になって取り組んでいます」

 棚橋さんが、子どもたちに対してよく言うのは、「主役は君たちなんだよ」ということだという。「主役がちゃんとしていない劇なんて、観ていておもしろくないだろう」と、学校教育の中での“主役”としての自覚と主体的な関わりの姿勢を促している。
 朝礼の司会なども、「君たちが主役なんだから、来週からやってみてよ」などといって、どんどん子どもの関わりを増やしていく。低学年の子たちにとっては、5年生・6年生になったらあんなことまでやるんだ、できるんだという目標にもなる。
 いろんな場面で、子どもたちの心の火を点火してきたのが、先生たちの役割だ。それに応えて、子どもたちの中でも徐々に大きな火へと育っていく。
 「研究指定校では、成果をまとめて発表する必要があります。若い先生にも、他の学校の研究発表を見に行かせますが、先進的と言われる国立大学の付属校などの取り組みでも、それほど驚かないで帰ってきます。うちの学校でやっていることが、それほどぶれていない、根っことして同じようなことを考えていましたよと言って帰ってくるのです。そういうことが言えるくらい、若い先生たちの意識も高まってきています。ですから、子どもたちが変わっただけでなく、先生方にも大きな変化と成長が出てきています」

「“子どもが主役”というのが、うちのESDのテーマです」と話す、多摩市立多摩第一小学校・校長の棚橋乾先生。

「“子どもが主役”というのが、うちのESDのテーマです」と話す、多摩市立多摩第一小学校・校長の棚橋乾先生。


注釈

【2】ESD(Education for Sustainable Development)
 日本語では、持続可能な開発のための教育と訳される。
 ストックホルム会議(1972)以降に一般化した「環境教育」が、ブルントラント委員会報告『Our Common Future』(1984)に盛り込まれて注目を浴び、さまざまな場面で議論されてきた「持続可能な開発」という概念と並行して、持続可能性の概念を追及するための教育として発展してきた。テサロニキ宣言(1997)で、内容に関する一定の到達点をみることができる。環境教育の進化した段階と見なす傾向が強い。
【3】国立教育政策研究所
 文部科学省所轄の教育に関する総合的な政策研究機関として、教育政策に係る基礎的な事項について調査研究を行っている。2001年(平成13年)1月に前身の国立教育研究所から改組再編された。
 同研究所による研究指定校事業は、学習指導要領に基づく教育課程を円滑に実施するため、特に重要な課題について研究テーマを示し、実践的な研究を進めている。
【4】OECDのキー・コンピテンシー
 キー・コンピテンシー(主要能力)とは、OECDが1999年~2002にかけて行った「能力の定義と選択」(DeSeCo)プロジェクトの成果で、多数の加盟国が参加して国際的合意を得た新たな能力概念。
 職業社会で、20世紀末頃から普及し始めたコンピテンシーという能力概念は、従来の学力を含む能力観に加えて、その前提となる動機付けから、能力を得た結果としてどれだけの成果や行動につながっているかを客観的に測定できることが重要という視点から生まれてきた。
 言葉や道具を行動や成果に活用できる力(コンピテンス)の複合体として、人が生きる鍵となる力、キー・コンピテンシーが各国で重視され始めた。
【5】KJ法と川喜多二郎氏
 KJ法は、文化人類学者の川喜田二郎(東京工業大学名誉教授、1920年生・2009年没)がデータをまとめるために考案した手法。KJは考案者のイニシャルにちなむ。
 データをカードに記述し、カードをグループごとにまとめて、図解してまとめる。ワークショップなどの共同作業にもよく用いられ、創造的問題解決の手法として効果的であるとされる。
【6】W型の問題解決モデル
 調査・推論の過程を、思考判断レベルと活動表現レベルに分けるとともに、仮説形成を意図する観察段階と、仮説検証する実験段階に分けて整理するモデル。
 問題提起から調査の準備段階では、思考レベルの問題提起を経て、野外調査等の観察・活動をする。その結果を踏まえて、思考を深めて仮説を立て、実験等の調査活動を行い、仮説の検証を行う。こうした思考判断と活動表現の流れが、W字型の軌道を描くため、W型の問題解決モデルと呼ぶ。
 多摩一小では、さらにこの先のプロセスとして、検証した仮説をまとめて行動・発信する活動・表現レベルの取り組み過程と、それをふりかえって日常生活に活かす思考過程を加えたダブルW型のモデルとしている。

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