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2016.06.17

第74回「切られて捨てられている木を木工の材料に使うことで、新たな命を与えて生きかえらせる(しぶや木工塾が取り組む、小笠原母島のアカギ木工教室)」

聞き慣れない手道具を駆使する「しぶや木工塾」のアマチュア木工家たち

 小笠原母島のアカギ木工教室の指導を担当する「しぶや木工塾」は、工業デザイナーの故秋岡芳夫さんが自宅を開放して実施していた木工塾に通っていた人たちが、1997年に秋岡さんが亡くなったあと、そのまま解散するのはもったいないと立ち上げた会だ。当時、目黒区中町にあった秋岡さんの自宅への通り道として経由していた渋谷の地に工房を開いたことから「しぶや木工塾」と名付けられた。
 その後、工房の移転を繰り返し、現在の江戸川区西葛西で工房を再開したのが、2000年の12月。地下鉄東西線の葛西駅と西葛西駅の中間くらいの線路の高架下にある平屋を借りて、工房にしている。現在は11人のメンバーが毎月第1・3日曜日と第2・4土曜日の定例活動日に集まってくる他、体験教室として受け入れている人もいる。

西葛西にあるしぶや木工塾の工房。地下鉄東西線の線路の高架下にある平屋の建物だ。裏には材料の木材が積まれている。

西葛西にあるしぶや木工塾の工房。地下鉄東西線の線路の高架下にある平屋の建物だ。裏には材料の木材が積まれている。

西葛西にあるしぶや木工塾の工房。地下鉄東西線の線路の高架下にある平屋の建物だ。裏には材料の木材が積まれている。

 主に生木を材料に、特殊な手道具を使って器などをつくるのが、秋岡さんの自宅でやっていた頃からの流儀だ。現在は、メンバーそれぞれが得意分野を持ち、誰が教えるということでもなく、木工活動を楽しんでいる。定例会のあとには工房で車座になって杯を交わしたり、年に何度かは、各地の工房探訪などの交流イベントも行ったりと、アマチュア木工家の趣味・交流の会となっている。
 作った作品は、自分で使ったり、知り合いへのプレゼントとして譲ったりするほか、年に何度か参加するクラフト展などで販売した収益を会の運営資金の一部に充てている。

主に作っているのは、生木を手道具でくり抜いて作る器など。

主に作っているのは、生木を手道具でくり抜いて作る器など。

主に作っているのは、生木を手道具でくり抜いて作る器など。

 しぶや木工塾のメンバーが使う道具の中には、ノミやカンナなどの他に、「バンカキ」や「マエガンナ」と呼ばれる特殊な木工道具がある。
 バンカキは、見た目は丸刃のノミのようにも見えるが、彫ったり抉(さく)ったりするための道具ではなく、ノミ跡などをきれいに仕上げるために削る道具だ。湾曲した刃の凸面を引いて削っていく。通常の刃物は薄く鋭く研いであるため、刃先をこすって使うとすぐに痛んでしまうが、バンカキはこうした使い方に耐えるように、刃角を大きくしてある。

バンカキは、彫ったり抉(さく)ったりするための道具ではなく、ひっかくように削って仕上げるために使う。

バンカキは、彫ったり抉(さく)ったりするための道具ではなく、ひっかくように削って仕上げるために使う。

バンカキは、彫ったり抉(さく)ったりするための道具ではなく、ひっかくように削って仕上げるために使う。

 一方、マエガンナは、てこの原理を応用して器やスプーンなどの内側の凹面を削りとるための道具。刃先に近い左手を支点に、柄の端を持つ右手を、櫓を漕ぐように振って使う。小さく湾曲した刃は、小さな材料を深く彫るのに適した道具だ。ノミのように叩いたりしないから、音を出さずに削ることができるのも利点の一つといえる。

マエガンナと呼ばれる手道具は、てこの原理で器などの内側の凹面を削るための道具だ。
マエガンナと呼ばれる手道具は、てこの原理で器などの内側の凹面を削るための道具だ。

マエガンナと呼ばれる手道具は、てこの原理で器などの内側の凹面を削るための道具だ。

 手道具による彫りは、手間も時間もかかる大変な作業だが、樹液を十分に含んだ乾燥前の生木は割と楽に削ることができる。無理な力をかけなくても削れていくから、刃物にもやさしい。しかも、生木のうちに一気に一定の薄さにまで加工すれば、木の変形や割れも止まりやすい。

 材料の生木は、公園や街路樹などの伐倒木や剪定枝などをもらってきて使っている。こうした、街の中で切られて捨てられている木を木工の材料に使うことで、新たな命を与えて生きかえらせようというのが、しぶや木工塾の特徴の一つ。これを「木助け木工」と呼んでいる。
 「庭木を切るというのでもらってくることもあります。そんなとき、私は器を2つ作って、1つは自分用に使い、もう1つをそちらのお宅に差し上げています。何十年もそこに住んでいる人といっしょに育ってきた木なので、記念になりますよね。解体屋が処分すると、チェーンソーで切って、ごみ捨て場に持って行ってしまいますが、そうはせずにもう一度命を与えてあげる。本当に喜ばれます」
 生木からくり抜いて作ったというぐい呑みを手に、千野さんがそう話す。西葛西の工房の裏には、もらってきた生木が原木のまま積まれている。小笠原のアカギ木工も、会の活動の趣旨とまさに合致するものといえるだろう。

材料の木材を固定しているのは、車のジャッキを利用して自作したクランプ。木槌も枝を使って自作している。

材料の木材を固定しているのは、車のジャッキを利用して自作したクランプ。木槌も枝を使って自作している。

材料の木材を固定しているのは、車のジャッキを利用して自作したクランプ。木槌も枝を使って自作している。

「小笠原諸島世界自然遺産地域登録5周年記念イベント」でも木工教室を実施

 来る6月26日(日)、平成23年6月に世界自然遺産地域として登録された小笠原諸島の5周年を記念した「小笠原諸島世界自然遺産地域登録5周年記念イベント」が、東京都議会議事堂1階の都民ホールと都政ギャラリー及び議会レストランで開催される。主催者には、環境省関東地方環境事務所、林野庁関東森林管理局、東京都、小笠原村が名を連ねている。
 イベントでは、世界自然遺産の登録後に取り組んできたさまざまな成果や新たな外来生物の侵入に伴う課題など、世界自然遺産としての保全や地域振興の現状等について、最新の映像も交えて紹介する。そして、同じく国内の世界自然遺産地域に登録されている屋久島、白神山地、知床の各地からの報告も予定されている。この記念イベントに合わせて、しぶや木工塾がアカギの木工教室として、箸づくりの講師を依頼された。

「小笠原諸島世界自然遺産地域登録5周年記念イベント」のチラシの表裏(一部抜粋)。

「小笠原諸島世界自然遺産地域登録5周年記念イベント」のチラシの表裏(一部抜粋)。

「小笠原諸島世界自然遺産地域登録5周年記念イベント」のチラシの表裏(一部抜粋)。※クリックで拡大表示します

 普通ならたっぷり1時間以上かけて削っていく箸づくりだが、記念シンポジウムを目的にやってくる人たちにもふらっと立ち寄って参加してもらえるようにと、所要時間は30分~1時間に収める。そのため、あらかじめ材料の下ごしらえをしておき、木工体験を楽しんでもらいながら、アカギの問題を伝えていこうという趣旨だ。
 当日は、材料を100セットほど用意するため、取材に訪れた日も仕込みの準備作業が進められていた。縦横1センチに調整した角材を2本セットにして、輪ゴムでくくっていくわけだ。

「小笠原諸島世界自然遺産地域登録5周年記念イベント」で実施するアカギ木工教室の材料の仕込み作業。赤いカンナクズを出しながら、1センチの角材に調整して、2本まとめて輪ゴムで縛る。

「小笠原諸島世界自然遺産地域登録5周年記念イベント」で実施するアカギ木工教室の材料の仕込み作業。赤いカンナクズを出しながら、1センチの角材に調整して、2本まとめて輪ゴムで縛る。

「小笠原諸島世界自然遺産地域登録5周年記念イベント」で実施するアカギ木工教室の材料の仕込み作業。赤いカンナクズを出しながら、1センチの角材に調整して、2本まとめて輪ゴムで縛る。

 せっかくだから、箸を削ってみないかと言っていただいたので、筆者もアカギ材の箸づくりを体験させてもらった。ここでは、その工程について、ざっと紹介しよう。
 まずは、手のサイズに合わせて角材の長さを測って、切るところから始める。親指と人差し指を直角に伸ばしてL字型を作り、定規で長さを測った長さの約1.5倍が使いやすい箸の目安になるという。

アカギ材を使った箸づくりの様子。まずは親指と人差し指を直角に伸ばしてL字型を作り、その長さの1.5倍を目安に材料を切り落とす。

アカギ材を使った箸づくりの様子。まずは親指と人差し指を直角に伸ばしてL字型を作り、その長さの1.5倍を目安に材料を切り落とす。

箸づくりの工程を説明するペーパーも用意している。

箸づくりの工程を説明するペーパーも用意している。
※クリックで拡大表示します

 次に、材料両端の木口に四隅をつないだ線を引いて、クロスさせて中心を書いておく。材料を削っていくときに、この中心がずれてしまわないようにするのが真っ直ぐな使いやすい箸を作るときのコツだ。

木口の四隅から×印に線を引いて、中心を出す。角材の4面を削っていく際に、中心からずれないように都度確認するための印になる。

木口の四隅から×印に線を引いて、中心を出す。角材の4面を削っていく際に、中心からずれないように都度確認するための印になる。

木口の四隅から×印に線を引いて、中心を出す。角材の4面を削っていく際に、中心からずれないように都度確認するための印になる。

 7~8ミリ角ほどをめどに太さを調整したら、細く削る先端に向かって段階的に削る回数を増やしていくと、先細りの箸の形ができてくる。削り過ぎると折れやすくなるので、注意が必要だ。
 最後に、四辺の面取りをして、紙やすりで表面を磨いていく。滑らかに仕上げたら、クルミ油を塗り込んでツヤを出して、完成だ。油を染み込ませると、アカギ材の色鮮やかな濃赤色が一段と映えてくる。

四辺の面取りをして、紙やすりで表面を磨いて、滑らかに仕上げていく。

四辺の面取りをして、紙やすりで表面を磨いて、滑らかに仕上げていく。

クルミ油を染み込ませると、アカギ材の鮮やかな濃赤色が一段と映えてくる。

クルミ油を染み込ませると、アカギ材の鮮やかな濃赤色が一段と映えてくる。

 無心に木を削る時間を持ちながら、駆除のために切り倒されたアカギの問題について知り、切られた木の活用について考える、そんな時間を持ってもらうという目的は、これまで小笠原母島で実施してきたアカギ木工教室と何ら変わらない。
 記念すべき5周年シンポジウムに合わせて、ぜひ、アカギの箸づくりも体験してみてはいかがだろうか。

話をお聞きした、しぶや木工塾の(左から)関政泰さん、野松茂二さん、千野敏明さん。

話をお聞きした、しぶや木工塾の(左から)関政泰さん、野松茂二さん、千野敏明さん。


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