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2016.12.05

第78回「町田山崎団地におけるヤギ除草の取り組み ~団地の草をはむヤギがもたらす効果を探る(UR都市機構&URコミュニティ)」

臨床心理学の視点から、ヤギのコミュニティ形成効果を検証

 除草の効果とともに明らかになってきたのが、コミュニティ形成の効果だった。
 「ヤギの管理方法やヤギ除草のコスト試算などのデータが集まっていくと同時に、住民の皆さんにお願いしたアンケートなどを通じて、実はヤギが身近にいることの効果が小さくはないことがわかってきました。ヤギの存在が団地住民の方々に癒しや安らぎを与え、ヤギを介した地域のコミュニティ形成に寄与する効果が予想以上に高いようなのです」
 このヤギの癒し効果やコミュニティ形成支援効果に着目したのが、UR関連会社のURコミュニティである。
 URコミュニティでは、町田山崎団地とつながりの深い桜美林大学に呼びかけ、これらの効果の検証や増進方法の検討を目的に、平成28年度から新たな視点でヤギ除草調査を企画・実施している。

コミュニティの活性化(H26・27年度アンケート調査結果より)

コミュニティの活性化(H26・27年度アンケート調査結果より)

見学会の様子(UR都市機構提供)

見学会の様子(UR都市機構提供)

 子どもたちがヤギにエサをやって交流している間、橋の上では、桜美林大学教授の種市康太郎さんが学生さんやURコミュニティの調査担当者とともに通りがかる人や橋の上から眺めている人たち、またエサやりを終えて引き揚げてくる親子などを中心にヤギの存在に対する意識などについての聞き取り調査の協力を呼び掛け、走り回っていた。
 町田市常盤町にある同大学の町田キャンパスは、山崎団地からも近いため、地域のイベントに大学の学生や教職員が関わるなど、普段からつながりがある。
 「私の専門は臨床心理学で、普段は、働く人のストレスに関する調査やカウンセリングなどをしています。ヤギの除草については、草刈り機で刈っていくのに比べてコスト面では必ずしも有利になるわけではないと言われていますが、ヤギが入ることによって、ヤギと触れ合う住民の方や、ヤギに対して癒しを感じる方が多いという声も一方では聞かれますので、それらについて科学的に検証しようというのが今回の調査の目的です」
 調査は、橋の上の通行量及び行動実態の把握と、全戸アンケートによる意識等調査で構成される。URコミュニティからの調査委託を受けたコンサルに桜美林大学が分析等で協力する形で関わっているという。
 「ヤギが来る前、来てから、そして去った後の3期に分けて通行量の違いをカウントして比較します。ヤギを見に来る方は、橋を通過する方だけでなく、橋まで来て帰っていったり、橋の上で滞在したりと明らかに行動の変化が起きていますし、1人で見ているところに別の人が寄ってきて会話が始まったりということもあります。高齢者の方もヤギを見に来ることによって行動の範囲が広がったり、散歩をするようになったりもしているようです。団地の地理的な位置による心理的な愛着の違いも興味があるところです。全戸アンケートのお願いをしていますから、橋の近くと橋から離れたところでの違い、また橋の南側に住んでいる方は通勤や買い物で橋を渡る必要がないので、そうした立地の違いによるヤギに寄せる思いの違いについても分析していきます。中には、普段は別の道を通っているけど、ヤギが来ている間は少し遠回りをしてでもこの道を通るという方もいらっしゃるので、そうした地域的な特性も出てくることが期待できます」
 ヤギが入ることでコミュニティの中に一つのよい効果を創り出していることは確かだと種市さんは話す。ただ、ヤギだけでなく、地域の中でさまざまなイベントが実施されたり、団地以外の──例えば大学との──連携があったりすることで生まれるさまざまなつながりこそが、団地を暮らしやすくすることにつながる。ヤギはその一つのきっかけとして大きな効果をもたらしているといえる。

アンケートの協力依頼に奔走する、桜美林大学教授の種市康太郎さん。専門分野は臨床心理学。ヤギの存在が団地のコミュニティ形成にどのような影響を与えるかを科学的に調査するのが目的だ。

アンケートの協力依頼に奔走する、桜美林大学教授の種市康太郎さん。専門分野は臨床心理学。ヤギの存在が団地のコミュニティ形成にどのような影響を与えるかを科学的に調査するのが目的だ。

身近にヤギがいる光景

 かつて、地域によってはヤギが普通に飼われていたこともあったが、近年は犬や猫ほど身近な動物として見慣れているわけではない。ヤギの性格や行動を知らない人も多く、珍しさからいたずらされることも懸念される。
 「ここ町田山崎団地の場合は、橋の上と下で、はっきりと地形的にも分かれています。防犯カメラもつけていますが、ヤギがいるところを橋の上からご覧になることもできるので、そうした人目があることでいたずらの抑止にもなります。眼下のヤギを見守りやすい一方で、人とヤギの生活空間が物理的に分けられているので、お互いにとって適度な距離感が保て、導入しやすい条件が整っているといえます」
 楠元さんはそう指摘する。
 ヤギ除草を実施するための条件としては、この他にも土地の乾燥状態が挙げられる。もともと乾燥地を生息地にしているヤギにとってジメジメしたところは苦手だから、雨が降った後に水が溜まるような環境は不適となる。本来野生の動物だから雨風に耐える能力はあるものの、湿気を避けるため、小屋は高床式のものを用意している。
 「もちろん、一番大事な条件は、住民の方々が“ヤギさんが来てもいいですよ”と理解してくださることです。そうした条件が合うところであれば、広がっていってくれるのかなと思います」

 ヤギの体重・体格によって、草を食べる量も変わってくる。体重・体格によってレンタル料が変わるわけではないから、除草のことだけを考えれば大きい方が食べる量も増えて効率的になる。ただ一方で、住民との触れ合い──特に保育園・幼稚園児など小さい子たちとも直接的な触れ合い──を重視するなら、あまり大きいヤギでない方がよい。この日のお別れ会でも、草のエサをやろうとする子どもたちがこわごわとヤギに近づいていく様子も見られた。

 そんな子どもたちの様子を橋の上から楽し気に眺めていたご婦人2人連れがいた。階段を降りて怪我をすると困るからと、エサやりの交流には参加していないというが、4年目となるヤギがいる生活にもすっかり馴染んでいるといって笑顔を見せる。
 「昭和44年入居だから、もう50年近いね。ヤギはさ、やっぱりほら、癒されるのよね。楽しいわよ。こっちの南側が商店街でよく通っているから、そのたびに見ているの。商店街もだいぶ閉まっちゃって、だんだん淋しくなってね。もうヤギくらいでしか楽しみがないから。こういうイベントでもなければ、久しぶりに会うという人もいるからね」
 そんなふうに住民たちも楽しんでいた、ヤギお別れ会の一日だった。

三の橋の上から眺める、ヤギお別れ会の交流の様子。

三の橋の上から眺める、ヤギお別れ会の交流の様子。

コロコロとしたヤギのフンと、フンに集まるゴミムシ。これらの虫や微生物がフンを分解して土を肥やしていく。

コロコロとしたヤギのフンと、フンに集まるゴミムシ。これらの虫や微生物がフンを分解して土を肥やしていく。

UR都市機構技術・コスト管理部技術調査チームの楠元美苗さん。

UR都市機構技術・コスト管理部技術調査チームの楠元美苗さん。


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