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2016.12.26

第79回「海に囲まれた島国・日本だからこそ、海や魚のことをきちんと知って、かかわる人たちの思いに触れる学習を進めたい(中野区立中野本郷小学校の「ぎょしょく学習」)」

■カツオ解体くんの登場

 再び、4年生の公開授業のシーンに戻ろう。
 家庭科教室には、4年生の子どもたちが、公開授業に訪れた保護者たちとともに、兵頭さんの話に耳を傾け、包丁さばきを見守る。
 まずは、厳重にテープで封をされたトロ箱を開封する。「開けたい人!」の声にパッと反応する中から指名された子がこわごわと開けた中から出てきたのは…、本物の魚ではなく、ぬいぐるみのカツオ模型。解体の手順をわかりやすく説明するための教材で、部位ごとにマジックテープでつなげられている。名付けて「カツオ解体くん」。
 安堵と残念な気持ちが相半ばする中、兵頭さんがプラスチック製のおもちゃの包丁を取り出して、冗談を交えながらカツオの解体手順を説明していく。

厳重に密封されたトロ箱を囲む子どもたち。

厳重に密封されたトロ箱を囲む子どもたち。

中から現れ出たのは、解体手順を説明するためのぬいぐるみ教材「カツオ解体くん」。

中から現れ出たのは、解体手順を説明するためのぬいぐるみ教材「カツオ解体くん」。

 一通り説明を終えると、これまでの笑顔から一転、厳しい表情でおもむろに話し始める。
 「ちょっと今から、大事な話をします。さっきのカツオ解体くんは、ぬいぐるみなので、当然、血も内臓も出ません」
 兵頭さんの次の言葉を想像して騒がしくなる子どもたちを制しながら、話を続ける。
 「今からカツオを切りますが、何の処理もしていませんから、当然、血も出ます。内臓も出てきます。当たり前です。グロいとか、気持ち悪いということだったら、この場所から出ていってください。今日は何のために切るかというと、ただ私がカツオをさばきたいからそれを見せるのではなくて、皆の命の学習のために切るのです。食事というのは、植物でも動物でも、何かの命をいただいて私たちは生きています。それを今日はしっかりと見てください。いいですか。グロいとか、気持ち悪いとか、え~という悲鳴は今日はなしにしてください。ご協力いただけますか? 血が飛び散ったりはしません。よろしくお願いします」

マジックテープを剥がしながら、部位ごとに“切り分けて”、カツオの解体手順について説明。3枚下ろしも、ほれこの通り! 本物のカツオを捌いていく前の、まずは予行演習だ。

マジックテープを剥がしながら、部位ごとに“切り分けて”、カツオの解体手順について説明。3枚下ろしも、ほれこの通り! 本物のカツオを捌いていく前の、まずは予行演習だ。

■腹を裂いて、ぷくっと膨れた胃の中から出てきた、多数の小魚

 カツオ解体くんを使ったシミュレーションで、子どもたちにも解体手順のイメージがついていったようだ。本物のカツオを取り出し、説明しながら手際よく進めていく兵頭さんの包丁さばきをじっと見つめる子どもたちからも「次はここ!」などと声が上がる。

エプロンを絞め、帽子をかぶって気合を入れる兵頭さん。これからいよいよ解体に着手する。

エプロンを絞め、帽子をかぶって気合を入れる兵頭さん。これからいよいよ解体に着手する。

ぐいっと包丁の刃を差し込んで、カツオを切っていく。

ぐいっと包丁の刃を差し込んで、カツオを切っていく。

 お腹を切り裂いて取り出した内臓をバットに広げ、いったん手を止めた兵頭さんが子どもたちを見渡して話しをする。
 「そうしたら、通常はお見せしないんですけど、今日は特別にお見せしたいものがあります。これ、今ちょっと膨らんで見えているのが、胃です。何が出てくるでしょう。(話しながら、胃袋の膜に切れ込みを入れていく)…はい、これ、全部魚です。40匹~50匹はいますね。すべて丸のみにしています」
 ごはんを食べるときに、「いただきます」というその言葉は、生き物である食材の“命”をいただく言葉だと兵頭さんは言う。でもその“命”は、ただカツオなどの食材に対してだけでなく、カツオが食べたイワシはもちろん、そのイワシが食べたたくさんのプランクトンなどすべての命のつながりに対しての“いただきます”を意味する。

胃袋を切り裂いていくと、中から50匹ほどの小魚が出てきた。
胃袋を切り裂いていくと、中から50匹ほどの小魚が出てきた。

胃袋を切り裂いていくと、中から50匹ほどの小魚が出てきた。

骨まわりの肉はスプーンでこそげ落として食べると、絶妙だ。

骨まわりの肉はスプーンでこそげ落として食べると、絶妙だ。

内蔵を取り出した後、胸骨の奥から指先ほどの心臓を取り出す。愛南町ではウスゴと言って、煮付けにして食べるという。

内蔵を取り出した後、胸骨の奥から指先ほどの心臓を取り出す。愛南町ではウスゴと言って、煮付けにして食べるという。

 最終的に、見慣れたブロック状の「柵(さく)」にまで切り分けて、授業を締めくくる。
 「はい、これで終了です。途中で言いましたね。私たちは、動物とか植物の命をいただいて生きていますから、残さずにしっかり食べてあげるのが大事です。魚が好きとか嫌いとかいうのではなくて、魚の向こうに見える、こういう世界があることもしっかり学習できたらと思います」

最終的に見慣れたブロック状の「柵(さく)」にまで切り分けて、授業を締めくくる。

最終的に見慣れたブロック状の「柵(さく)」にまで切り分けて、授業を締めくくる。

■普段の給食を通じて全校的に取り組む「ぎょしょく学習」

 公開授業は4年生の総合的な学習の時間で実施した「ぎょしょく学習」だったが、前述のとおり、5年生になると社会科の授業で水産業の単元として扱うことになる。ただそれ以外にも、1年生から全学年で取り組むのが、給食を通じた「ぎょしょく学習」だ。給食の食材に魚などを取り入れて、子どもたちに興味を持ってもらうように栄養士や担任の先生、校長先生が働きかけるという形をとる。
 「一番典型的な例では、鯛のカマ(頭の部分)の一夜干しを例年1~2回、開校記念日など学校のお祝いの日に全校児童に一つずつ出しています。6年生が卒業する前の最後の給食の日にも出しています。鯛は“おめでたい”につながるということと、もうひとつには、鯛のカマのところにちょうど胸ビレがあるんですけど、その反対側を上手に外していくと、ちょっとした形をした骨が出るんです。それをうまく2つに分割すると、“鯛の中の鯛”といって、鯛の形をした骨が取り出せるのです。全校朝会の中で、私がそんな話をして、“鯛の中の鯛”を見つけようと呼びかけるわけです」
 橋浦先生が赴任してきて以来、中野本郷小学校でもすでに2回、鯛のカマを出しているため、子どもたちは何も言わなくても家からビニール袋を持ってくるという。うまく取り出せたら、家に持ち帰ってお母さんに見せるわけだ。
 「その日の残渣量は0.8%でした。ということは、ほとんど全部完食なんですよ、全員。しかもおいしかったと喜んでくれました。これを出すのは、魚って骨があるものだということを子どもたちにも覚えてもらいたいからなんです。鯛の一夜干しのカマを使えば、小骨を取るよりは食べやすいですよね。でも、お箸を上手に使ってとらないと、きれいなものが取れません。毎回、全部のクラスをまわっていると、『校長先生、割れちゃいました』と言ってくる子もいます。『3月にもう一度出てくるから、そのときに頑張ろうね』と言って慰めています。きれいにとれた子は、『校長先生、上手でしょう!』と見せに来る。『きれいにとれたね。おいしかった?」と聞くと、『うん! おいしかった!』とうれしそうに言ってくれます」
 そんな動機づけが大事だと橋浦先生は言う。
 「自然界の不思議ですね。実はこれ、解体新書ができる直前の1858年(安政5年)、まだ解剖ができなかった頃に描かれた、真鯛の骨格図の中に、『鯛の中の鯛』として紹介されています。私たちが初めて愛南町を訪ねて行ったときに、地元の小学校で、子どもたちと保護者が養殖鯛の塩釜と煮付けを作る授業をしていました。料理ができるまでの間に、『鯛の中の鯛』の探し方を子どもたちにレクチャーして、料理ができあがった時に食べてみようと言って、全校で4匹の鯛を食べたんですね。その時に使った骨格図を譲り受けてきました」

江戸末期に描かれた真鯛の骨格図にも記載のある『鯛の中の鯛』。

江戸末期に描かれた真鯛の骨格図にも記載のある『鯛の中の鯛』。

 今年からはイワシの丸干しも給食で出している。半干しのイワシは、出汁を取るための堅干しとは違って、そのまま食べておいしい。こだわりの加工業者だから、気に入った脂のりのイワシが手に入らないと、操業を停止してしまうこともある。まさに幻の半干しイワシだ。
 最初に給食に出した時は、説明をしなかったこともあって、30%以上の残渣量があった。魚自体、“目が合っちゃうと食べられない”という子どももいるためだ。そうした食わず嫌いを何とかしたいというのも「ぎょしょく学習」の大きな目的の一つだ。
 「2回目に出したときには、魚の話をしてから出したところ、残渣率も10数%まで減りました。ちょうど昨日、それまで1匹ずつだったのを2匹ずつに増やして出しました。目が合っちゃうとダメという子のため、頭の部分を取っているので、残渣量が20%ほどになりました。食べられない子や残す子も徐々に減っているかなと思っています」

■低学年から中学年、高学年へ段階的に組み立てた学びが中学校へとつながっていく

 今後取り入れていきたいのは、愛南町で獲れるさまざまな魚を生きたまま連れてきてもらい、ビニールプールに放して、低学年の生活科の時間で自由に触らせる授業だ。
 鱗のある魚、鱗のない魚、歯の鋭い魚や歯のない魚、ウマヅラハギのように皮が堅い魚…そんなバラエティ豊かな魚たちのそれぞれの違いを実際に目で見て、手で触ってみて、実感させる。その上で、泳いでいる魚の中から「今日は、この魚を給食で出すから、食べてみよう」と言って、“食”とつなげていく。そんな授業が、1・2年生の生活科でできる「ぎょしょく学習」の基本になる。
 実際、前任校にいた頃の話になるが、愛南町の魚を卸している給食業者が近隣の保育園でビニールプールの中の魚を触らせる体験をしていたことがあった。それをもう少し学習的に、小学校の授業として実施しようというわけだ。実物に触って、そこで得た感覚が下地になって、この魚がおいしいんだと普段の暮らしや自分の感覚とリンクさせる。この魚はどんなところに住んでいるんだろうといった意識付けができたら、図書室に行って魚の図鑑を調べて、自分たちで発見していくようなことも生活科の授業ならできる。
 低学年でのこうした学習を踏まえて、中学年では今回紹介したような魚の解体などの授業を通じて、魚の生態を知ったり命について考えたりしていく。さらに、高学年では魚の養殖など水産業にかかる技術とその背景にある人たちの思いに触れていくのが大事になる。
 そうした段階的な学習を進めていくことで、日本の置かれている立場も含めたさまざまな問題に、子どもたちなりの考えが出てくる。たとえ明瞭な結論が出なかったとしても、中学校での学習につながるものがあるとよい。
 「6年生は、今は教科の中では特にやっていませんが、キャリア教育の中で扱えるものもあると思っています。例えば、愛南町は漁業だけでなく、農業も盛んです。河内晩柑(かわちばんかん)という柑橘類は7月頃まで食べられて、日本のグレープフルーツともいわれます。原産地は熊本県ですが、今、40%から60%くらいは愛南町でつくっています。よく給食でも夏の柑橘として出しています。そこの農家の方々に来てもらうと、水産業から発展して、山の方にも視野が広がると思うのです。河内晩柑は急傾斜地の山の中で栽培されています。木生りでできるため、潮風の強い海辺ではダメなんです。でも、1つ1つ袋掛けするので風通しがよくないとならないから、急斜面地なのです。そんな話をキャリア教育の一環として、生産農家の人から一つの農作物を作るのにもいろいろな条件を考えていること、それは人から教えられるものではなく、自分で体験し、考えていく中で獲得していくものだといった話をしてもらうわけです」

 学校の教員は、“教えるプロ”ではある反面、本当の専門性は持たない。特に小学校の教員は全科を教えないとならないから、ゼネラリストとして幅広い知見が必要な分、専門性は薄くなる。
 だから、ここは深めたい思うところは、本当のプロの方から教えてもらうのが一番いい。座学だけで進めようとするとリアリティに欠けることになる。

 最後に一つ、興味深い話をお聞きしたので紹介したい。
 天然鯛と養殖鯛でどっちがおいしいかという質問を、子どもたちにも大人にもよくしているという。子どもたちの回答は概ね半々で、大人の場合は、天然鯛の方がおいしいと答える人が多いという。
 「このあとに続く質問があって、“じゃあ、野生の牛と松坂牛はどっちが食べたい?”と聞くのですが、そうすると“あ!?”と何かに気付いてくれるんですね」
 さらにそのあと必ず言っているのが、「食べ物には、旬ってあるよね」ということだ。旬の時の天然鯛はとてもおいしい。脂ものっているし、動き回っているから身も締まっている。ところが逆に産卵後の旬から外れた天然鯛は、栄養も落ちてしまう。その時には、実は養殖鯛の方がおいしい。
 「そんな話をしながら、養殖鯛の飼料の与え方の工夫などについて話につなげるんです。子どもたちの中には、『牛みたいだよね』とか、『牧場みたい』『農作物といっしょだ』と考える子もいます。ある意味そうだと思います」
 そうして類似のことを関連づけて考えられる子どもたちは、生活全般の中でも一方的に決めつけたりすることなく、物事の両面を想像して捉えていくことができるようになる。その結果、正しい判断ができる日本人に育っていっていく。「ぎょしょく学習」を通して、そんな期待をしていると話す橋浦先生だ。

青空に生える芝生の校庭が特徴的な中野区立中野本郷小学校。

青空に生える芝生の校庭が特徴的な中野区立中野本郷小学校。

真鯛の骨格図を広げて紹介する、学校長の橋浦義之先生(中野区立中野本郷小学校 校長室にて)。

真鯛の骨格図を広げて紹介する、学校長の橋浦義之先生(中野区立中野本郷小学校 校長室にて)。

中野区のぎょしょく学習は、当初は農林水産省の補助事業を活用して愛南町の事業として実施。
補助事業が終了した後には、給食納入業者が食材の安定供給の一環として事業化し、経費を負担して実施しているため、学校の負担はない。
ただし、給食食材として使う区内の学校が増えたことで、地元の養殖業者・加工業者にとっても経済効果が生まれている。
学校での学習・交流が、一方的に「してもらう」だけの関係では継続性を保てない。地元の人たちにとって何かしらの恩恵や経済効果を生むような交流に発展していかないとトピックだけで終わってしまい、長続きしないということを、ぎょしょく学習を始めた当初から考えていたと橋浦校長先生は話す。


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