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2017.08.07

第86回「シェア自転車で第三の公共交通機関の構築をめざして(千代田区コミュニティサイクル事業実証実験と広域相互利用の実現に向けた取組み)」

通勤通学や買い物に、利用目的は多種多様

 「千代田区の定住人口は約6万2千人、それに対して昼間、区内で活動している人口は80万人と言われています。会員のアンケートを見ても、区民は16%、それ以外はすべて区外に住んでいます。また、1回会員が全体の87%を占めていることからみても、昼間、区内で活動している人がちょっとの移動に使うという利用実態が見えてきます」
 谷田部課長のお話です。
 区内で借りた自転車が区外に出ている割合は全体の4割弱で、多くは区内で2㎞程度の移動に使われています。
 利用実態のグラフを見ると、平日は通勤や通学に、休日は買い物などお出かけに利用されている様子が浮かび上がってきます。
 温暖化防止策としてCO2削減に役立てる事業でもあるため、自転車の総走行距離から削減されたCO2の量を推測することも行われています。
 また、この事業を始めたときには、放置自転車の削減に役立つことが期待されました。利用者アンケートでは、シェアサイクルが使いやすくなれば自分の自転車は要らないという意識の人が約40%、特に千代田区民は50%を超えています。区内の秋葉原周辺は特に放置自転車が多い地域のため、ここに重点的にポートを配置し、現在、シェア自転車の効果を検証すべく調査を進めています。コミュニティサイクルの利用で、放置自転車を減らすことができれば、街の景観もさらに改善されることでしょう。

登録者数の推移(千代田区提供資料)

登録者数の推移(千代田区提供資料)
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利用者アンケートより(千代田区提供資料)

利用者アンケートより(千代田区提供資料)
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コミュニティサイクルで第三の公共交通機関を ─課題と展望─

 利用者を対象にしたアンケートでは、およそ300メートルに1か所ポートがあれば便利という意見が多く、現在はそれを目標にポートの設置を進めています。ポートの設置場所は、公共地と公開空地【2】、民有地が中心で、道路上に置くことも進めています。
 ポートの適正配置は、利用者の利便性に直結するため、今後は利用実態を解析し、あまり使われていないポートは廃止、逆に頻度の高い場所では150メートルに1か所のように密に設置していくなど、ポートの利用実態に合わせた再配置を検討すると、谷田部課長は話します。また、利用数が増えるにつれ、小さな事故も増えています。
 「自転車専用レーンが設置できるとよいのですが、道路の幅員がないと難しいですし、千代田区内では路上に車の駐車スペースを設置している区間が多いのも問題です。今後の課題です」
 秋山係長も次のように補足します。
 「自転車利用者も気をつけなければいけないということと、自動車の方も自転車が車道に出てきているので、共存という意識も持っていただかないと。まだまだ充分認識されていないし、機会があるたびに周知していかなければいけないと痛感しているところです」
 実際に試乗で内堀通りを走ったときも、後続車のドライバーの「追い越したいけれど、接触しそうで怖い」という恐怖心が肌で感じられました。また横断歩道で男性とニアミスしてひやりとしたことも。無謀な運転をしないこと、自転車といえども車両を運転しているのだという自覚を持つべきことなど、いろいろ学ぶことが多い試乗でした。
 歩行者や自動車と共存していけるよう利用者自身も安全への意識を高めていく必要があるでしょう。
 環境が整備され利便性が高まるにつれて、利用者が増えてきていますが、しかし、それでも黒字化はむずかしいのではないかと谷田部課長は予測されます。こうした事業は、公的な支援をすることで、社会に根づかせていく必要があります。
 便利でエコな自転車を活用するサービスが、利用者、事業者、行政の協力のもと大きく育って、第三の公共交通機関として定着し、温暖化防止や街の環境整備に役立っていってほしいものです。

ポートの設置状況(千代田区提供資料)

ポートの設置状況(千代田区提供資料)
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千代田区環境まちづくり部交通施策推進課の皆さん(左から、秋山喜弥、谷田部継司、坂本大樹の各氏)。

千代田区環境まちづくり部交通施策推進課の皆さん(左から、秋山喜弥、谷田部継司、坂本大樹の各氏)。


注釈

【2】公開空地
 ビルやマンションの敷地内に設けられた一般の人にも利用可能な空地。この空地を設けることにより容積率や高さの制限が緩和される。

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本事業は、公益財団法人 東京都区市町村振興協会からの助成で実施しております。