トップページ > みどり東京レター > 国内外のコミュニティ農園を知る――渋谷区ふれあい植物センター ふれあいマルシェ 「日本と世界のアーバンファーミング」
みどり東京レターは、都内62市区町村が実施するイベントをわかりやすく紹介することを目的に、月に1回程度更新しています。ぜひご一読ください。
2024.12.26
オーストラリアのメルボルン(左)と日本(右)のアーバンファーミング
アーバンファーミングは、都市のビル屋上や遊休地などを
利用して野菜を栽培することだよ!
秋を残した心地よい晴天の中、渋谷区ふれあい植物センターでは、11月30日から12月1日の2日間、収穫祭やワークショップ、映画上映会を詰め込んだイベント「ふれあいマルシェ」が開催されました。今回はその中の1コマである「日本と世界のアーバンファーミング」のトークセッションにお邪魔しました。
登壇したのは、国立市で農体験事業を行う傍ら、国内の都市農業に関する取材と執筆活動を行う、小野淳さんと、兵庫県立大学大学院緑環境景観マネジメント研究科准教授の新保奈穂美さんです。都市型農園に関する、都内の事例に精通する小野さんと世界の具体事例を著書にまとめた新保さんのお二人が、異なる視点でそれぞれが目にしてきたアーバンファーミングを掘り下げていきます。
熱心に話を聞く参加者ら(渋谷区ふれあい植物センターで)
参加者は、コミュニティ農園への参加を検討するご夫婦や、建築学科の研究グループ、都市計画を学ぶ大学生など、思い思いの目的を持つ意欲的なメンバーが集まりました。Instagramでの募集投稿を見て、農園への関心があり、興味を持って参加された方ばかりでした。
はじめに、NPO法人アーバンファーマーズクラブの代表理事であり、渋谷区ふれあい植物センターの小倉崇園長から登壇者の紹介と、コミュニティ農園の「面白そう」の裏側も含めて、事例から学びましょうと挨拶がありました。
アーバンファーミングが都市部で開設される農園など「場所」に着目するのに対して、
コミュニティ農園(コミュニティガーデンともいう)は、
農園を利用する人同士の「交流(コミュニティ)」に着眼しているみたい。
特に空き地などコミュニティスペースが減ってきた都市部の交流の場づくりとして発展したことから、
今回のイベントではアーバンファーミングの事例として、
国内外の都市部で活動しているコミュニティ農園を紹介していたんだ!
新保さんは、普段は兵庫県淡路島のキャンパスで緑に関する授業を持ちつつ、海外をフィールドに都市型農園を研究し、神戸市の農園でアドバイスなどもされています。今回はドイツのベルリン、オーストラリアのメルボルン、アメリカ合衆国のサンフランシスコ、オーストリアのウィーンなどの事例を紹介し、日本とは異なる自主的で自由な手法に参加者から驚きの声が漏れていました。
公有の空き地をガーデンに
プリンツェシンネンガルテン(ドイツ・ベルリン市)
ドイツのベルリンには、市有地の空き地を暫定利用するコミュニティガーデンがあります。再開発の計画が持ち上がって立ち退きの危機になっては利用許可期間が延長されるという状況で、いつでも移動できるようにデッキやテーブルなどの施設はもちろん、作物もカゴや袋に土を入れた畑で作るなど、移動しやすい状況で利用されてきました。誰でも入って作物を栽培でき、併設のカフェでは、収穫物を食材として用いることも。
墓地にコミュニティ農園!?
ワークショップに使う墓石の加工場
契約が更新できなくなった前述のガーデンの引っ越し先に決まったのは、何と墓地。土葬から火葬にシフトしたドイツでは、墓地の利用面積が少なくなり、空き地化や荒廃が問題となっていました。双方の利害が一致し、墓地の歴史を持つ土地で農園が開かれました。広い敷地の一画には公園の雰囲気もありますが、不要になった墓石を使ってしまう発想は、外国ならでは。使えるものは使う、資源のアップサイクルにも積極的です。
アーバンファーミングの意義
アーバンファーミング 7つの意義
都市の中の農園には、食料を生産するだけでなく、農作業による健康維持、災害時の避難場所の役割、子どもが遊んで学ぶ環境教育の側面などがあります。アメリカで特徴的なのは、移民が多く、所得格差があり、教育が受けられない人々にとって拠り所となっている点です。市内のコミュニティガーデンでとれた作物がフードバンクに寄付されることもあります。
運営は「楽しく」をモットーにしていますが、どこでも人とお金の問題が発生します。運営主体は、無償ボランティアのみ、非営利団体の役職付きは報酬有り、自治体の利用者募集型などタイプによって異なります。会員の利用料だけでは賄えない場合、協賛金・助成金の活用、カフェやファーマーズマーケットで稼ぐところもあります。
車道の一部を公共スペースに「パークレット」
ここからは、農園とは異なりますが、「パークレット」を紹介します。
街中に出現する緑の空間(サンフランシスコ)
女性2人の努力で、大きな樹木を設置(ウィーン)
サンフランシスコ発祥といわれるパークレットは、道路上の駐車スペースなどに仮設のベンチや緑地を設置して、誰でも休憩できるスペースのことです。ウィーンでは、地域に暮らす個人や団体が市にパークレットを設置したいと申請すると、資金援助や手続きを支援してもらえる制度があります。住民の発案で街中をデザインできるため、オリジナリティ溢れる空間が生み出されています。
新保さんは「欧米は、都市の住環境を住民が個々に変えようとする動きが強く、それを支える支援(助成金)も日本と比べて充実しています」と解説しました。
続いて、株式会社『農天気』代表取締役で農夫の小野さんが、東京都内でコミュニティ農園の運営や収穫体験を受け入れる農家の事例を紹介しました。
東京都23区のうち11区に江戸時代から続く農地があり、総面積の0.9%がいまだに農地として残されています。目黒区や板橋区などで数百年続く農家が、現在はコミュニティ農園として、周辺住民に畑を貸し出しています。
自由が丘駅から徒歩15分の貸し農園「八雲のはたけ」
小野さん自身は農家出身ではありませんが、テレビ番組の制作会社に勤めていた頃に、仕事を通じて地球環境や食の問題に関心を持つようになりました。転職を経て農業を学んだのち、国立市で2013年、コミュニティ農園「くにたちはたけんぼ」を始めました。
コミュニティ農園を野菜は売らない、家庭菜園でもないと定義し、平日は未就園児や不登校の小中学生、放課後の小学生たちを受け入れる子育て支援、休日は婚活やインバウンド、食育体験などの体験型の観光として運営しています。うさぎやヤギ、馬など動物がいるのも醍醐味です。田畑の価値は、食べるだけではなく、日々の癒しであったり、非日常を作り出したり、人との距離が近くなることで輝く場面があるといいます。
SUUMO住みたい街ランキング2024年首都圏版(東京市部ファミリータイプ家賃12万円以下)では、家賃が手ごろで、立川・国立へのアクセスの良さなどから「くにたちはたけんぼ」がある「谷保」が1位に選ばれています。「田園も残る田舎感にほっこり」と評価があり、毎年7000名以上が訪れるコミュニティ農園は土地の魅力の一つとなっています。
小野さんは「東京以上に都市の中に農園がある場所は珍しい。東京は歴史と文化を残している農業都市」と話し、農地をコミュニティ農園として開くことで、農の付加価値を多くの人が受け取ることができることを証明しています。
園長の小倉さんが質問し、小野さんと新保さんがコミュニティ農園にまつわる疑問に答えました。
小野淳さん
新保奈穂美さん
Q.マンションの共有スペースで、コミュニティ農園を始める場合、何が大事ですか?
小野さん)決定権を持っているリーダーが必要です。みんなの話を聞きながら、問題が起きても間に入って仲介できるような。反感を買わない、偉そうにしない方が適任でしょうか。
新保さん)多くの人が関わるので、些細な問題がよく起こります。そんなときに、「まあまあ」となだめてくれて、活動に対してやる気のある方がいいですね。
Q.「くにたち はたけんぼ」の場合、どうやって畑を始められましたか?
小野さん)最初は3~4人で、NPO法人を立ち上げ、空き地で子どもが遊んでいるのを見ながら、親同士でのんびりしているような集まりでした。収益は考えず、本業((株)農天気)で稼げばいいと考えていましたが、それがだんだん大きくなって、今では古民家での子育て支援やゲストハウス、認定こども園なども運営しています。
Q.神戸ではアーバンファーミングが盛んなようですが、条例などがあるのでしょうか。
新保さん)条例はなく、神戸市の職員で熱心な方が普及させました。2015年に都市戦略として「食都神戸(しょくとこうべ)」を掲げ、ファーマーズマーケットや農業体験に力を入れています。
このあとも個別に登壇者に話を聞きに行く参加者が多く、アーバンファーミングに対して理解を深めているようでした。既存の農園に参加する場合も、新規に農園を始めたい場合も、その道に精通する方の話を聴くことでイメージが膨らみ、最初の一歩が踏み出しやすくなります。興味がある方は、以下の関連リンクもぜひ覗いてみてください。
■渋谷区ふれあい植物センター
〒150-0011 渋谷区東2-25-37
開館時間 10:00~21:00(入園受付20:30まで)
休業日 月曜日(祝日または振替休日の場合は翌平日)、年末年始(12月29日~1月3日)
入園料 100円(注)年間フリーパスあり。
本事業は、公益財団法人 東京都区市町村振興協会からの助成で実施しております。
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