トップページ > みどり東京レター > 生き物に興味を持つことが大事! ――荒川区 地球温暖化防止講演会「世界をつくる生物多様性のチカラ」
みどり東京レターは、都内62市区町村が実施するイベントをわかりやすく紹介することを目的に、月に1回程度更新しています。ぜひご一読ください。
2025.03.13
生き物大好き親子や区民が来場(ゆいの森ホール)
生物多様性って何だろう?地球温暖化とどういう関係があるのかな?
ひんやりとした乾いた空気に青空が眩しい冬晴れの昼下がり、東京都荒川区のゆいの森あらかわで、地球温暖化防止講演会「世界をつくる生物多様性のチカラ」が開催されました。中央図書館の機能を持つゆいの森あらかわは、休日には多くの人が訪れますが、この日は講演会が開かれるとあって、親子連れがたくさん来場しました。
同講演会は毎年、地球温暖化防止に関連する講師を招いて開催しています。今回は生物多様性と地球温暖化との関わりなどをテーマに、動物作家で昆虫研究家の篠原かをりさんを登壇者として迎えました。篠原さんは、TBS「日立 世界・ふしぎ発見!」ではミステリーハンターを務め、テレビやラジオに多数出演し、学研「昆虫最強王図鑑No.1決定トーナメント」の監修を担当するなど、生き物に関して執筆活動もされています。
篠原かをりさん
参加した子どもたちは、テレビで見る先生の話を聴いてみたいとワクワクしている様子でした。親子3人で参加した小学3年生の女の子(9)は「篠原先生の昆虫図鑑が学校にあって読みました。今日、お話を聴けるのがうれしい」と目を輝かせていました。家族で里山の保全活動も行っているため、身近なところで何ができるか知りたいと話していました。
幼いときから動物や生き物が大好きだった動物作家・昆虫研究家の篠原さん。特に昆虫とネズミが好きで、たくさんの生き物を飼育してきました。ドブネズミは、実験動物として扱われることが多いですが、子猫と子犬の中間のような性格で、妬み嫉みの感情があったり、笑い声をあげたり、自分の選択を後悔することが近年の研究でわかってきています。ネズミの笑い声は人間には聞こえない周波数ですが、飼い主のことを好いている瞬間を知ると愛おしくてたまらなくなるといいます。
大学での研究
篠原さんは修士課程では、たんぱく質の種類の違いが人の健康にどう影響を与えるかを研究されていました。研究対象は牛乳などに含まれる動物性タンパク質、大豆などに含まれる植物性タンパク質や蜂の子など数多くの昆虫にも及びます。これまでで食べて美味しかったのは、オオスズメバチの前蛹(ぜんよう)(幼虫がさなぎになる前のこと)のしゃぶしゃぶ、苦手だったのは、タガメだと話します。他にもこれまでに研究とは別で、ゴキブリを400匹飼育したり、アリ2千匹を預かったり、びっくりエピソードの持ち主です。
篠原さんの実体験を交えたお話をお届けするよ!
タレントとして海外ロケに行くこともあり、これまでにスリナム、ベルギー、ガイアナ、エジプトなど7か国で生き物の暮らしや生態をリポートされてきました。
人口よりサルが多い町として知られるタイのロッブリーでは、サルの顔をした神様を信仰しています。サルを大事にすることから、研究者が集まってくる町でもあり、人間以外の動物が「他の個体に教育を行う」という発見があったのもこの町からでした。ロッブリーに生息するサルはカニクイザルといい、歯みがきを覚え、人間の長い髪の毛を取り、自分の歯をフロスします。子どもに見せるときはゆっくり動作することから教育していると考えられています。
カニクイザル(タイのロッブリー)(※篠原さんご提供写真)
一方で、カニクイザルを大切にするあまり頭数が増え、人間をまったく恐れないそうです。通常の動物は人間と一定の距離を取ろうとしますが、カニクイザルはぐいぐいと距離を詰めてきて、篠原さんもロケ中に眼鏡を奪われそうになっています。コロナ禍になると、今まで観光客からもらえていた餌が減り、餌がもらえないことに腹を立て暴徒化してしまいました。仕方なく、住民は餌を与える→頭数が増えすぎる、という悪循環となっています。
このことから篠原さんは、特定の生き物が増えることで生態系のバランスが崩れてしまうことを指摘しています。自然には本来は崩れたバランスを調整する力がありますが、人間活動が加わることで、その自然の持つ力では間に合わなくなってしまう例が世界中で起きています。
ここからはクイズ形式で、生き物のことを学びました。参加者は悩みながら手を挙げて回答し、答えが発表されると、喜びや驚きの声が会場の至る所から溢れていました。抜粋して2つをご紹介します。
Q. ナナホシテントウは何を食べる?
1 花の蜜
2 植物の葉っぱ
3 他の虫
ナナホシテントウ
ナナホシテントウは、幼虫も成虫もアブラムシを食べる珍しい虫です。虫の多くは、生存戦略として親と子で食べ物を奪い合わないように別のものを食べるからです。農作物を食べてしまうアブラムシを退治してくれるナナホシテントウは、人間にとっては「益虫(エキチュウ)」といわれています。
Q. オリエントスズメバチのすごい特徴は?
1 ジェット機よりうるさい
2 太陽光発電する
3 足し算ができる
オリエントスズメバチ
オリエントスズメバチは、太陽光から電気をつくるソーラーセルが組み込まれています。表面の茶色の組織が光を捕獲し、黄色の組織が光から電気をつくります。人間が作る太陽電池の発電効率は通常10~11%程度ですが、オリエントスズメバチは0.335%の発電効率です。
次に、世界の生き物の数についてお話がありました。
既知の生物だけで175万種。未知の生物も含めると、500~3000万種といわれています。既知の哺乳類の種は、5513種で、日本に生息しているのは127種です。日本に限定すると意外と簡単に覚えられそうな数ではないでしょうか。また、地上の哺乳類は重量比で、家畜が62%、人間が34%、野生動物が4%です。知らない間に知らない種類の生き物が存在しなくなっているということです。
絶滅のスピードは、100年前は1年に1種、50年前は1年に1000種、今は1年に40000種とどんどん加速しています。原因は、気候変動、農薬、森林開発、水質や土壌の汚染、乱獲、外来種などが挙げられます。
ここで生物多様性の大切さが問いかけられました。生物は互いに絶妙なバランスを保って生きています。いなくなった生き物を戻すことはできず、人間は、様々な生き物の恩恵を受けて生きています。生態系は「ジェンガ」に例えられることが多く、1つのパーツが抜き取られることで即座に崩れる可能性は低いです。しかし、パーツが抜き取られ続ければ、いつかは崩壊するときがくると、篠原さんは話します。
生態系の鍵となる「キーストーン種」と言われる存在についても紹介がありました。個体数は多くないけれど、生態系に与える影響が大きい種を指すキーストーン種には、ラッコの例がよく知られています。ラッコの毛皮が温かく、高価であることに目をつけた人間が乱獲したことで絶滅の危機になりました。そのラッコが海からいなくなると、主食としていたウニが増加し、ウニがケルプ(海藻)を食べ尽くします。他の魚たちの生息地にもなっていた海藻がなくなると海は荒れ果ててしまいます。
キーストーン種といわれるラッコ
絶滅した生き物を戻すことが難しい例として、タスマニアデビルがいます。タスマニアデビルは、かつてオーストラリア南部に生息していましたが、現在はタスマニア島に生息している肉食の有袋類です。
悪魔のような鳴き声のタスマニアデビル
駆除や伝染病の蔓延によって一度は絶滅の危機を迎えますが、人間が近隣の島に移入した結果、タスマニアデビルは繁殖できた反面、そこに生息していたペンギンのコロニーを壊滅させてしまいました。生き物を増やそうとして、別の生物を絶滅させてしまうという望まない結果となってしまいました。
最後に、地球で6度目の大量絶滅期を迎えているというお話がありました。これを食い止めるために、私たちができる一番大切なのは、「興味を持つこと」だといいます。興味がなければ、生き物がいなくなっても悲しいとも思わないし、いなくなったことにも気づけません。まずは友達や家族と好きな生き物について話してみてほしいと投げかけました。
篠原さんは、「人間にとって有益だから」という理由で「いた方がいい」生き物はいなくて、私たちに生き物の必要・不必要は判断できないといいます。また、生き物には人間に守ってもらえる種類と守ってもらえない種類がいます。注目が集まると保護の対象になりますが、多くの生き物は顧みられません。例えば、カピバラなど、私たちが「かわいい」と受け取るタイミングでも状況は変わってきます。自分が面白いと思ったり、かわいいと思ったことを周囲に伝えることが大切です。
地球温暖化などの影響による絶滅期を食い止めるためにも、私たち人間ができることはたくさんあります。「できるだけ電車やバスに乗る」「環境に良い商品を選ぶ」「ごみを分別する」など、どんなことができるのかを考えてみましょうと呼びかけました。
講演後は事前質問も含め、時間が足りないほどたくさんの疑問が寄せられました。その中から一部をご紹介します。
【質問】篠原さんの一番好きな生き物と嫌いな生き物は何ですか?
最も好きな昆虫は、野生だとオオセンチコガネです。フンコロガシのように動物のふんを餌とするピカピカしたメタリックカラーのコガネムシ。特に奈良公園などに生息する青いルリセンチコガネが好きで、ファンのように通い詰めました。致命的にダメという生き物はいないのですが、少し苦手なのはカマキリモドキ。カマキリに似ていてそうじゃない違和感にぞわっとすることがあります。
【質問】昆虫は動物を倒すことはできますか?
カマキリは小型の鳥やネズミ、カエルを食べたり、蜂は哺乳類をアナフィラキシーショックでやっつけたりします。人間を最も死に至らしめているのは、病原菌を媒介する蚊といわれています。
質問が尽きない中、講演会は大盛況のうちに終了しました。参加者は「1年に40000種も減っている絶滅のスピードにびっくりしました」「昆虫がいないと地球の生態系が保たれないので昆虫に感謝していきたい」など、驚きや発見があったようです。
生物多様性を守るには「生き物に興味を持つこと」。すべてはこの言葉に詰まっているように感じました。すぐそばに生き物はいるけれど、探さないと見えないものや遠くで生きている存在に想いを馳せると、自分たちの行動が生き物にとって、どういう影響をあたえているか考えるきっかけにもなります。まずは好きな生き物ベスト10を作ってみるのも楽しいかもしれません。
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