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2015.08.11

第63回「天からの恵みを暮らしの中に生かす ~墨田発、“雨水(あまみず)”活用の広がりをめざして(NPO法人雨水市民の会)」

市民の会おすすめ「すみだ雨水散歩」を訪ね歩く

 梅雨真っただ中の7月某日、東武スカイツリーライン・浅草駅に降り立つと、外はしとしとと降り続く雨の世界だった。言問橋のたもとは、雷門方面へと流れていく観光客の群れであふれかえる。川を挟んだ向こう岸には、ビールジョッキを模した特徴的なアサヒビール社の社屋や東京スカイツリーと並んで、墨田区役所本庁舎がそびえ建つ。
 橋を渡って、区役所前を通り抜け、隅田川沿いに墨田公園に向かう。公園の中を通って見番(けんばん)通りという路地沿いに進むと、三囲(みめぐり)神社が現れる。別名、「雨乞い神社」とも呼ばれるこの神社は、元禄6年(1693年)に江戸が干ばつに見舞われた際、俳人の宝井其角(たからい きかく)が句を詠んで奉納すると翌日に大雨が降ったという言い伝えがある。

三囲神社にある宝井其角「ゆふたちや」の句碑(雨乞いの碑)。石碑の文字は明瞭ではないが、「遊ふた地や田を見めぐりの神ならば」と刻まれているという。

三囲神社にある宝井其角「ゆふたちや」の句碑(雨乞いの碑)。石碑の文字は明瞭ではないが、「遊ふた地や田を見めぐりの神ならば」と刻まれているという。

三囲神社にある宝井其角「ゆふたちや」の句碑(雨乞いの碑)。石碑の文字は明瞭ではないが、「遊ふた地や田を見めぐりの神ならば」と刻まれているという。

 この日、墨田区向島にある雨水市民の会へ取材に訪れるにあたって、同会おすすめの「すみだ雨水散歩(路地尊編)」というガイドコースに沿って、事務所まで小1時間ほど、雨の中を歩くことにした。

 三囲神社からは、細かく入り組んだ路地を抜けて、「路地尊【1】」と呼ばれる街の小さな防災拠点を訪ね歩く。向島5丁目にある防災菜園「有季園」には、地下に9トンの雨水タンクを備えた路地尊3号基が整備されている。有季園の名前の由来は、“季節がある園”という意味に加えて、防災まちづくりに“勇気を与える”という願いを込めたものだという。
地図と住所を頼りに何とかたどり着く。
 その少し先には、隣の家の屋根の雨を容量3トンの地下タンクに貯めて手押しポンプで汲み出す路地尊2号基がある。ここは、実際に近所で発生したボヤを住民のバケツリレーで消し止めたというエピソードがあるそうだ。
 鳩の街商店街は、水戸街道(国道6号線)と墨堤通り(都道461号線)を結び、戦前のままの道幅の両側に店が軒を連ねるレトロな商店街。昭和初期から90年近くの歴史があり、昔からの伝統ある商店に加えて、近年は古い建物をリノベーションした個性的な新ショップも店を開いている。
 商店街の中ほどに、少し開けた防災広場がある。藤棚と小さな腰掛が4つほど並び、買い物客がホッと一休みできるような空間として整備するとともに、3トンの雨水タンクを備える路地尊5号基が設置されている。
 ここまでくれば、めざす雨水市民の会の事務所は、もう目と鼻の先だ。ガイドマップでは商店街を抜けた先にプロットされているが、今年4月に商店街の中に移ってきた。玄関前には200リットルほどの大きなタンクが2台並ぶ。タンクがなければそのまま通り過ぎるところだったが、よくよく覗くと「雨水市民の会」のネームプレートがかかっているのに気づく。

 「すみだ雨水散歩(路地尊編)」のガイドコースは、この先も各地に整備された路地尊を渡り歩きながら、向島百花園(東向島3-18-3)まで歩き、東武スカイツリーラインの東向島駅へと至るが、今回は市民の会事務所までの短縮コースで終えることにした。

墨田区向島の路地尊。左から、有季園にある3号基、実際にボヤ発生時に役立ったという2号基、商店街の防災広場にある5号基(はとほっと)

墨田区向島の路地尊。左から、有季園にある3号基、実際にボヤ発生時に役立ったという2号基、商店街の防災広場にある5号基(はとほっと)

墨田区向島の路地尊。左から、有季園にある3号基、実際にボヤ発生時に役立ったという2号基、商店街の防災広場にある5号基(はとほっと)

墨田区向島の路地尊。左から、有季園にある3号基、実際にボヤ発生時に役立ったという2号基、商店街の防災広場にある5号基(はとほっと)

都市型洪水の頻発と、水道水源の渇水の問題

 「一番の発端は1985年の国技館の移転でした。台東区の蔵前にあった国技館が墨田区両国地区に移ってくることになったのですが、その屋根に雨水利用のためのタンクが設置されたのです」
 そう話すのは、雨水市民の会の副理事長の高橋朝子さん。会の活動について聞くと、開口一番、そんな説明から話が始まった。
 この当時、両国・錦糸町辺りでは都市型洪水の頻発による浸水被害が深刻化していたという。もともと海抜標高が低いうえに、都市化によって地表がコンクリートやアスファルトで覆われたため、降った雨は地面に浸透も保水もされないまま下水や河川に流れ込む。こうして流量が一気に増えることで、河川の氾濫を引き起こしていた。一方、夏季を中心に多摩川水系や利根川水系など東京の水がめとなる水源ダムでは水位低下に伴う取水制限が発令されるようになっていた。茶色い湖底が露出した水源ダムのショッキングな映像がマスコミでも盛んに報道され、大きな話題になっていたことが思い起こされる。
 高橋さんは言葉を続ける。
 「東京都内に降る1年間の総雨量は約25億トン、都民が1年間に利用する水道水20億トンを上回る量になります。都会に住んでいる私たちは、それだけ降っている雨水を下水に流しておきながら、遠くの地に造られたダムの水に頼っているわけです。そのダムは私たちが大量の水を使うことで渇水していました。一方、私たち自身は捨てた雨が溢れて洪水で苦しむという皮肉な現実に直面していました。この問題を解決するためには、雨水を流して捨てるのではなく、貯めて活用し、足元に“自立した水源”を持つべきじゃないかと発想したのが、私たちの活動の始まりです。当時のキャッチフレーズは、“まちにミニダムを!”でした」
 洪水防止と水資源の有効活用をめざした抜本的な対策の一環として申し入れた国技館への雨水タンク設置は、当初なかなか理解が得られなかったというが、最終的には墨田区長が日本相撲協会を説得して、容量1,000トンのタンクが設置された。当時としては、日本最大規模の雨水利用システムとなった。
 1994年には、区がホスト都市として招致した「雨水利用東京国際会議【2】」が開催され、一般市民も準備段階から参加して会議を盛り上げた。この実行委員会を母体として翌1985年に発足した「雨水利用を進める市民の会」が、「雨水市民の会」の前身となった。何度かの改称を経て、2003年から現在の名称となり、2005年にはNPO法人としてのスタートを切った。
 会議翌年の1995年には「墨田区雨水利用推進指針」が作成され、区所有の建築物における雨水利用の導入の他、雨水タンクの設置助成や一定規模以上の開発の場合は要綱に基づく雨水利用の指導が行われるようになった。区役所庁舎の地下には、約1,000トンの雨水貯留槽が導入され、半分の500トン分に水を貯めてトイレの洗浄水に利用、残り半分は洪水時などに雨水を引き込むための予備タンクとして活用している。

 一方、街の路地には、冒頭の「すみだ雨水散歩」でも紹介した「路地尊」が整備されている。
 「墨田区は、下町の密集地帯が特徴的で、消防車も入ってこないような小さな路地も数多くありますから、いざというときの水源にするため、地域の防災とまちづくりを考える会の方たちが昔の天水桶【3】をイメージして整備したのが、路地尊です。水は、隣の家の屋根から集めて地中に埋設した雨水タンクに貯め込み、手押しポンプで汲み上げるのです。区内には21か所の路地尊が設備されているのに加えて、公共施設やマンションなどに500か所以上の雨水タンクが設置されています」

雨水市民の会の事務所に飾られた、両国国技館及び東京スカイツリーの雨水活用について解説したパネル。
雨水市民の会の事務所に飾られた、両国国技館及び東京スカイツリーの雨水活用について解説したパネル。

路地尊を取材する子ども環境ビデオレポート(2015年2月7日)。
路地尊を取材する子ども環境ビデオレポート(2015年2月7日)。

ライフラインは1か所でも寸断すると使えなくなってしまうが、ライフポイントがあれば安心できる

 漢字で書くとわかりづらいが、「雨水」には2通りの読み方があって、それぞれニュアンスが異なるという。下水道法では、「下水」の定義として「汚水(おすい)(生活若しくは事業に起因し、若しくは付随する廃水)及び雨水(うすい)」と記している。つまり、同法の規定では「雨水(うすい)」とは下水道を通じて排除する対象として捉えているわけだ。もう一つの読み方は「雨水(あまみず)」。実は、「雨水市民の会」は、「うすいしみんのかい」ではなく「あまみずしみんのかい」と読む。
 「私たちの会では、雨水を“あまみず”と呼んでいます。あまみずは、天水とも書いて、地球の水循環の中で天から降ってきた水という意味を込めています。昨年(2014年)5月に制定した雨水利用推進法も、正式な名称は『雨水(あまみず)の利用の推進に関する法律』です。ちゃんとルビも振ってあるんですよ」
 高橋さんはそう説明をする。
 「“雨水利用”という言葉も、市民の会ではあまり使わないようにしています。利用というと、人のために役立てるというニュアンスがあります。でも、雨は人のためだけに降っているわけではありません。地球の環境全体の中で、雨は非常に大きな要素です。地球上どこでも雨は降っていて、雨を含めた環境の中でさまざまな生物が共存しています。今日も雨が降っていますよね。足元が濡れてやだなとか、気持ち悪いなとか思う気持ちもあるかもしれませんが、雨が地球の環境や生態系に大きな寄与をしていることに感謝をしながら、雨とともに生きることを私たちはめざすべきだと思うんですね。ですから、私たちは雨水利用の代わりに“雨水活用”という言葉を使っています」
 雨水利用というと貯めて使うイメージがある。しかしそれだけでなく、例えば地面に浸み込んでいくことで地下水を涵養する役割もある。貯めて利用するとともに、余ったものや利用後には地面に浸透させる。本来の自然の水循環の一つの大きな要素としての雨に即した活用の仕方が求められるわけで、雨水利用はその一部でしかない。
 雨水利用は“ライフポイント”だと高橋さんは言う。電気・ガスなどのエネルギーや水道、物流機関や通信設備といった生活に必須なインフラ設備を網目状に張り巡らせるライフラインは、集中的な供給源から末端の利用ポイントへと行き渡らせるシステムだから、途中で1か所でも寸断されると供給は途絶えてしまう。これに対して、“ライフポイント”は利用地点に近いところに点(ポイント)として設備されるものをいう。災害時などにも地域のライフポイントが一つあれば、雨さえ降って貯めることができれば、水道がストップしても水が使える。
 雨水市民の会では、阪神淡路大震災や中越地震、東日本大震災などに際して、雨水タンクを寄贈したり設置したりと被災地の支援活動を行ってきた。また、震災をきっかけにして、雨水利用をしたいと希望する人も増えてきているという。ライフポイント的なインフラ整備の利点と有意性が広く理解されるようになってきたといえる。

 ハード面の整備・普及とともに、ソフト面の普及をめざして2001年には『雨の事典』という本を発行した。和歌や短歌に使われている雨の字が入った漢字とそのいわれや、小説のモチーフに扱われている雨のこと、さらには気象関係のうんちくなど、雨にまつわるさまざまを調べて掲載した本だ。日本は昔から雨のよく降る土地だから、例えば雨を表現する擬音も、ザーザーやしとしとなどにとどまらず多岐にわたる。擬音だけでなく、言葉自体も多い。本を出したことで改めて、暮らしとともに雨があったことがよくわかったという。

全国のネットワークもできてきている。写真は2014年8月23日に開催された第7回雨水ネットワーク会議全国大会2014 in福井。2008年8月に設立され、雨水市民の会が事務局を担う。毎年会場を変えて全国大会を開催している。
全国のネットワークもできてきている。写真は2014年8月23日に開催された第7回雨水ネットワーク会議全国大会2014 in福井。2008年8月に設立され、雨水市民の会が事務局を担う。毎年会場を変えて全国大会を開催している。

『雨の事典』の表紙。
『雨の事典』の表紙。

注釈

【1】路地尊(ろじそん)
 路地尊とは、路地の安全を守るシンボル。“路地を尊ぶ”から徳永暢男さん(元雨水市民の会会長)が命名。名前の由来は「地域のコミュニティの場であり、災害時には避難路になる路地を大切にしながら自分たちの手でまちを守ろう」という考え方からきている。
 当初は、防災用具等を収納するストリートファニチュアとして考案されたが、第2号基から雨水利用が導入され、草花への水やりや子供の水遊びの場として、また災害時の水源として地域で活用されている。
 近隣の住宅の屋根に降った雨を集水して、地下のタンクに貯めて、災害時にも使えるように手押しのポンプで水を汲み上げる。
 雨水には消毒用の塩素を入れていないため、野菜や草花を育てる水として、また金魚等の飼育用に役立てている。
【2】雨水利用東京国際会議
 平成6年8月1日から6日の6日間、「雨水利用は地球を救う─雨と都市の共生を求めて─」をテーマに、すみだリバーサイドホール等の会場で開催。
 会議では、世界の雨水利用の実践事例や研究成果の発表、雨水利用コンテスト等が行われ、延べ8,000名が参加した。
【3】天水桶(てんすいおけ)
 天水桶とは、雨水(=天からの水)を貯めるための容器のこと。主に木製の桶に雨水を貯めていたことから呼ばれた名称だが、他に鋳物や陶器、プラスチック製などさまざまな材質のものが使われている。近年は「雨水タンク」と呼ぶことが多い。
 江戸時代には主に都市部の防火用水として利用されていた。飲料用も含め、雨水貯留用の設備は世界各地でさまざまな事例がみられる。

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