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2016.02.23

第69回「火山との関わりの中で形成された島の地質と生態をガイドする ──伊豆大島ジオパークのエコツアー(グローバルネイチャークラブ)」

火山島・伊豆大島の2つの港

 日本列島が大寒波に見舞われた1月中旬。その数日前に伊豆大島(東京都大島町)を訪ねた。名前のとおり伊豆諸島で最大の大島は、面積約90km2に約8千人が住む。東京・竹芝桟橋からの距離約120km、高速船なら約1時間45分で到着する。伊豆半島付け根の熱海からは46km、わずか45分の船旅だ。主な港は西海岸の元町港だが、天候によっては北東面にある岡田港に着岸する。この日の到着口は、その岡田港だった。濃緑の葉っぱが茂る木々に覆われた崖が迫る、いかにも島っぽい雰囲気の港だ。
 「ここ岡田港は、数10万年前の古い火山が波に削られて崖を作っているところです。現在活動中の火山が古い火山の沢を伝って溶岩を海まで流し、人が暮らせる地面を作りました。一方、島の西側は、現在活動中の火山が海まで溶岩を流し、なだらかな斜面を作ったので人がいっぱい住んでいるんです」
 伊豆半島の陰に位置している大島は、海況が比較的穏やかなため、船の就航率も他の島々よりも高く、訪れやすい島といえる。定期航路も東京発着の大型船や高速船の他、熱海発着の高速船もあり、一日に複数便が行き来している。
 「他の島の場合、一日一便ですから、欠航すると何日か足止めされます。でも、島の暮らしってそんな感じで、その不便なリズムで生活しているのです。私も他の島に行きますが、どの島に行っても『大島は島じゃない』と言われるんです。一日に何便も東京に出入りできるなんて、便利すぎるっていうのですね」
 大島の成り立ちと島の人々の暮らしについて説明してくれたのは、この日ガイドを頼んだグローバルネイチャークラブの西谷香奈さん。大島に移り住んで28年。ガイドを始めてから7年、今や年間130~140日はツアーに出ているという。

この日の到着口となった岡田港。波に削られて切り立った崖が南西~西向きの強い風を避ける天然の良港をつくった。この周辺の集落は、古い火山の崖に刻まれた谷を流れ下った、新しい火山の溶岩の上に発達している。
この日の到着口となった岡田港。波に削られて切り立った崖が南西~西向きの強い風を避ける天然の良港をつくった。この周辺の集落は、古い火山の崖に刻まれた谷を流れ下った、新しい火山の溶岩の上に発達している。

大島の噴火の歴史が造った景色が一望できる山頂口展望台

 港から、三原山登山道路をたどって終着点の三原山頂口までは、車で25分ほど。標高約555mまで一気に上がってきたことになる。駐車場から降りてすぐの展望台からは65年前の噴火でできた最高峰の三原新山(標高758m)をはじめとした外輪山の稜線の連なりが望める。その手前、眼下に広がる平坦な窪地は、所々に草木が生える荒涼とした溶岩地帯。江戸時代に繰り返し起こった大噴火によって山体が吹き飛ばされ形成されたカルデラ地形だ。山頂を望むこの展望台も外輪山の一部に当たるという。
 「目の前に広がる窪地は、昭和25~26年の噴火の前までは、火山灰に覆われた、いかにも砂漠という風景が広がっていました。“表砂漠”と呼ばれて、馬やラクダに乗る観光が盛んなところだったのです。軽い砂は風で動いてしまうので、植物の種が定着できず、草の生えないところでした。ところが、噴火によってあふれ出た溶岩流が“表砂漠”の大部分を呑み込み、冷えて固まった溶岩の窪みなどに植物が定着するようになって、やがて草原が広がり、さらに木が生え始めて、徐々に森ができてきているのが今の状況です。このうち一部は、30年前に起きた直近の噴火によって再び焼かれました。低木の森が広がりつつあるところと、焼けたあとの草地を比較して見ることで、火山島・大島を実感してもらえる場所です」

展望台からカルデラの中を望む。
展望台からカルデラの中を望む。

割れ目噴火の写真を掲げて説明するガイドの西谷香奈さん。
割れ目噴火の写真を掲げて説明するガイドの西谷香奈さん。

 溶岩で覆われた黒い焼け野原の上に一番最初に芽を出すのは、固有種のハチジョウイタドリという草だ。溶岩の隙間に挟まった種が芽を出し、地下に長い根を伸ばしながら生長していく。株が大きくなって、落とした葉っぱが根元に溜まると次第に土を肥やし、他の植物も侵入できるようになって、徐々に草地に覆われていく。
 草原の最終段階ではススキが分布を広げていって、次第に背が高くなって全体を覆い尽くすようになると、ひととき景色を独占する。10年ほど前には、ここ一帯も輝く海のようなススキ野原の景観を作っていたが、徐々に低木が入ってきて、年々生長してきている。

 「火口のそばに生え始めることができる強い常緑の木は、主に2種類に限られています。ツバキ科のヒサカキと、楕円形の葉っぱのハチジョウイヌツゲという木です。さらにこの後、何百年も噴火しないまま安定した状態が続くと、ドングリが生るようなスダジイなど、より大きくなる木も入ってきます。ただ、たいていはそうなる前にまた焼けてしまい、再びゼロからの回復が始まるのです。そんなことを繰り返しながら今に至っているのが、大島の自然です」
 常緑樹のヒサカキやハチジョウイヌツゲが生えてくる前、草原の中でいの一番に生えてくる木は、落葉樹のオオバヤシャブシだ。根っこのコブにはバクテリアが共生していて、空気中の窒素を取り込んで固定してくれるため栄養の乏しいやせた土地でも生育できる。

 オオシマザクラも強い木で、30年前の前回の噴火で溶岩が流れたところにも生えてきている。ある1本の桜の木は、人の背丈ほどに生長して、昨年、初めて蕾を出した。その前の年まで、葉っぱだけで生長して、一生懸命光合成をしてため込んだエネルギーがようやく花開こうとしていたわけだ。残念ながら4月になって雪が降り、花が開く前に茶色く変色して枯れてしまったという。これもまた自然界の厳しさなのだろう。

溶岩で焼け野原となったこの一帯で真っ先に生えてくるのが、固有種のハチジョウイタドリという草木。溶岩地帯の中でパッチ状に生長していく。近くに寄って、種の様子を観察。薄い翼があるため風で遠くまで飛ばされる。

溶岩で焼け野原となったこの一帯で真っ先に生えてくるのが、固有種のハチジョウイタドリという草木。溶岩地帯の中でパッチ状に生長していく。近くに寄って、種の様子を観察。薄い翼があるため風で遠くまで飛ばされる。

溶岩で焼け野原となったこの一帯で真っ先に生えてくるのが、固有種のハチジョウイタドリという草木。溶岩地帯の中でパッチ状に生長していく。近くに寄って、種の様子を観察。薄い翼があるため風で遠くまで飛ばされる。

溶岩で焼け野原となったこの一帯で真っ先に生えてくるのが、固有種のハチジョウイタドリという草木。溶岩地帯の中でパッチ状に生長していく。近くに寄って、種の様子を観察。薄い翼があるため風で遠くまで飛ばされる。

現在のススキ野原。かつてはここ一帯を、輝く海のようなススキ野原が覆ったというが、徐々に低木が入ってきて、年々生長している。
現在のススキ野原。かつてはここ一帯を、輝く海のようなススキ野原が覆ったというが、徐々に低木が入ってきて、年々生長している。

落葉樹のオオバヤシャブシは、木としては一番乗りで生えてくる。根に根粒菌を共生させることで、栄養の乏しいやせた土地でも生育できる。実や枝は、草木染めの材料にも使われる。
落葉樹のオオバヤシャブシは、木としては一番乗りで生えてくる。根に根粒菌を共生させることで、栄養の乏しいやせた土地でも生育できる。実や枝は、草木染めの材料にも使われる。

展望台の近くに設置された観測機器。上部についているミラーが離れた山にある観測機器から届くレーザー光線を反射して、その時間差によって島の変化をミリ単位で観測している。この他、GPSや傾斜計、温度計など、次の噴火を予測するためのさまざまな機器により、常時観測している。現在、地下のマグマ溜まりには、前回の噴火直前の約2倍量のマグマが溜まっていることがわかっているという。

展望台の近くに設置された観測機器。上部についているミラーが離れた山にある観測機器から届くレーザー光線を反射して、その時間差によって島の変化をミリ単位で観測している。この他、GPSや傾斜計、温度計など、次の噴火を予測するためのさまざまな機器により、常時観測している。現在、地下のマグマ溜まりには、前回の噴火直前の約2倍量のマグマが溜まっていることがわかっているという。

「ああ痛い!」と足裏を刺激するゴツゴツ溶岩と、ホイホイ歩ける平滑な溶岩

縄状に固まった溶岩。さまざまな形に固まった姿の溶岩が見られる。

縄状に固まった溶岩。さまざまな形に固まった姿の溶岩が見られる。
縄状に固まった溶岩。さまざまな形に固まった姿の溶岩が見られる。

溶岩が盛り上がった先端がパカッと割れて、どくどくどく…と流れてきた跡がすごくわかりやすい溶岩の塊。上に登って、背中を向けて腰を落ちつかせて、「すっきり!」と一言。
溶岩が盛り上がった先端がパカッと割れて、どくどくどく…と流れてきた跡がすごくわかりやすい溶岩の塊。上に登って、背中を向けて腰を落ちつかせて、「すっきり!」と一言。

 三原山頂口から火口方面に向かう溶岩地帯の中の遊歩道では、植物の再生の様子とともに、大島の特徴的な溶岩の姿が見られる。
 「大島の溶岩は、ガラガラのものと滑らかなものと2種類あります。滑らかな溶岩は、マグマの温度が高いときにできます。そうしてできた溶岩には、植物の種が飛んできても引っ掛かりがないため風で飛ばされて定着できず、芽を出せません。だから、この辺はまだ空き地が多いんですね」
 噴火のスピードが速いと、高温の溶岩が噴出するから、広がりが早く流れていく。お菓子づくりが好きな人なら、チョコレートを鍋で熱するとサラサラになるのがわかるでしょうと、西谷さんは説明する。
 「もう一つのガラガラ溶岩は、溶岩の温度が低いときにできます。マグマの温度が下がると粘りが出てきて、流れがゆっくりになるので、表面が冷やされて固まってきます。ところが、内部は温度が高いまま流れていこうとするため、固まり始めた表面部分をガシャンガシャンと砕きながら流れて、ガラガラ・ゴツゴツの岩ができるのです。これを裸足で歩くと“アア痛い!”というので『アア溶岩』、さっきの表面が滑らかな溶岩は、裸足でもホイホイ歩けるから『パホイホイ溶岩』と呼びます」
 冗談めかして解説するが、アア溶岩もパホイホイ溶岩もハワイ語を語源とする専門用語だ。ただこうした専門用語を覚えてもらうよりも、わかりやすい言葉で印象付けていくことを大事にしているという西谷さんだ。地面を踏みしめながら歩くと、カラカラと音が鳴る。溶岩が流れていたときはもう少し高い音がしたというが、そんなふうに音を感じながら歩くのも、また一味違った溶岩体験になる。

 表面が滑らかなパホイホイ溶岩は、ところどころで縄状の模様を形作っている。よく見ると、波のように放射状に広がっているのがわかり、流れていった方向がわかるものもある。すぐ隣には、逆方向へ流れたものもあって、周辺一帯を溶岩流が渦巻いていた当時の様子が何となく思い浮かぶ。
 「ここ、わかりますか! 溶岩が盛り上がった先端がパカッと割れて、どくどくどく…と流れてきた跡がすごくわかりやすくなっています。いつも寄っているところなんですけど、この上に登って、お尻を向けて腰を落ち着けてもらって、“あ、お腹すっきりしましたか!?”なんて言ってネタにしています。この周辺はとぐろを巻いたような溶岩など、形を楽しめる場所がいっぱいありますから、1時間くらい遊んでも飽きません」

 さらに進むと、細かい黒い粒が砂状に堆積している場所がある。専門家がスコリアと呼んでいる、黒い粒の岩石だ。空高く噴き出したマグマが、空気中で冷やされて固まって、その状態のまま数十cmも降り積もった。この小さい粒も、拡大鏡で覗くと溶岩の発泡した穴が観察できる。

西谷さんが持ってきた拡大鏡で、手のひらに乗せた小さな黒い溶岩粒を観察。

西谷さんが持ってきた拡大鏡で、手のひらに乗せた小さな黒い溶岩粒を観察。

西谷さんが持ってきた拡大鏡で、手のひらに乗せた小さな黒い溶岩粒を観察。


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