【第41回】電力消費量の“見える化”と省エネアドバイスで、区全体のCO2排出量削減を目指す ~省エネナビモニター事業の取り組み(練馬区地球温暖化対策地域協議会)

2013.11.05

 節電や省エネを効果的に進めるには、日々の生活のどのような場面でどれだけの電力を消費しているのか、その実情を的確に把握して、対策を講じるとともに、その効果についても定量的に捉えていくことが重要になる。いわば、電力消費量の “見える化”を実現していくこと。そのためのツールとして効果的なのが、『省エネナビ』と呼ばれる電力消費量計測システム。家庭や学校・オフィスなどの分電盤に取り付けることで、電力消費量をリアルタイムに表示・記録する機器だ。かつて一般財団法人省エネルギーセンターが平成10年度からモニターを募集して普及を促進してきた省エネナビは、複数のメーカーによって同じような機能を持つ製品が開発・販売されている【1】。各地の地方自治体でも、節電・省エネ意識の向上を目的として、機器の貸与や設置補助の事業を実施しているところは少なくはない。

省エネナビを構成する、分電盤に取り付ける本体。

 練馬区内で、その『省エネナビ』を活用したモニター事業を実施しているのが、練馬区地球温暖化対策地域協議会(以下、平成23年10月に公募で決まった愛称の『ねり☆エコ』と言う)。同事業の特徴点は、以下の3点になる。
 まず区の事業としてではなく任意団体である『ねり☆エコ』の自主プロジェクトとして実施している点。応募してきたモニターの自宅を任意のプロジェクト担当委員及び事務局が何度も訪問しながら、実測データをもとに各家庭の電力消費実態を把握し、家電製品の使用状況に即した省エネ診断・アドバイスを行って、その効果を検証するという点。さらにその「プロジェクト委員」は、区民と事業者で構成され、それぞれの視点で問題点や改善策を検討、提案するという二人三脚での取り組みをしている点だ。平成23年度に開始した同事業は、今年(平成25年度)で最終年度の3期目を迎えている。

省エネナビを構成する、居間など目に付くところに置いてリアルタイムの電力消費量を提示する表示モニター。

 「『ねり☆エコ』は、地球温暖化対策推進法に基づいて練馬区が策定した『練馬区地球温暖化対策地域推進計画』の中で、区民と事業者と行政が連携して地域の温室効果ガスの排出抑制に取り組むことを目的に、平成22年5月に設立された任意団体です。区内の環境関連の市民団体や事業者、業界団体など平成25年5月現在で30の会員団体により構成され、関係行政機関等とも協働しながら事業を進めています。主な事業としては、講演会・講習会の開催、『ねりま・エコスタイルフェア』などのイベントの実施、そして環境調査・啓発事業の3つを柱の事業としており、省エネナビモニター事業はそのうちの調査・啓発事業の一環として実施しているものです。練馬区は、温室効果ガスの排出量に占める家庭からの排出割合が44%余りと高いのが特徴なので、家庭の電力の見える化を行い、使用状況への実感を高めることで節電・省エネ行動を促し、同時に使用状況等に応じた省エネのアドバイスをすることで省エネ効果を高めて、CO2排出削減に結び付けようというねらいです。ご応募いただいたモニター家庭には、事前のアンケートや訪問調査、機器取り付け後の毎月のデータログの送信、省エネアドバイスに基づいた省エネ行動の実践、事後のアンケート記入など、かなり面倒な作業にご協力いただいています。一方、プロジェクト担当委員の方々も、本業を持ちながらの自主的活動としてボランティアで参加していただいていますから、事務局でフォローできるところや外部委託で効率化を図れるところなど、なるべくご負担のないように工夫をしています」
 そう話すのは、『ねり☆エコ』事務局を担当する公益財団法人練馬区環境まちづくり公社の斉藤祥司さん。事業の主体はプロジェクト担当委員が担い、事務局はその補佐役として裏方に徹しているという。

省エネナビを構成する、個々の家電製品に取り付けることができる子機(この写真はエアコンに取り付けた例)。

 省エネナビモニター事業は、『ねり☆エコ』の自主事業として実施するものだから、チラシやポスターも担当委員が文章を考え、イラストを描いて作っている。主催イベントや講演会などで配布したり、区立施設に置いたり、会員団体やホームページなどを通じてモニターを募集してきた。
 「応募世帯には、事前アンケートで家族構成や家庭の家電機器の種類と使用状況、電力会社の契約形態などをお聞きして、なるべく多彩なサンプルのデータが採れるように調整しています。例えば、オール電化のお宅、電気とガスを併用しているお宅、それと清掃工場から熱供給を受けている団地など、区内にはさまざまなエネルギー使用形態があります。省エネナビ本体は全部で10台しかありませんから、10世帯の中で比較するよりも、いろんなサンプルを採って、得られた結果を似たような家族構成やエネルギー構成のご家庭へとフィードバックできるようにしたいという意図です。個々の家電製品に取り付けられる子機もあって、これについては、なるべく「冷蔵庫」なら「冷蔵庫」と、同じ家電製品に設置、計測させていただくことで、古いタイプの機種と最新の機種との比較の素材としたりしています」

平成23年度夏季モニターの募集チラシ(表面と裏面)。

 事前アンケートでモニター世帯を決定すると、家庭で使っている家電製品の種類とそのメーカー及び型番、容量や定格電力量、使用状況などを詳細アンケートへの記入と委員の訪問調査によるヒアリングによって、「家電カルテ」を作る。実際の使用状況を確認しないと、消費電力グラフだけを見ても節電診断はできないからだ。日頃の節電・省エネで心がけていることや、モニターへの応募の動機、また省エネについての疑問点・質問事項なども聴いて、実情に合った省エネ診断・アドバイスをするための材料を集めるとともに、モニター世帯との関係性を構築する。委員によっては、部屋の見取り図と家電製品の配置を図解したり、使用家電の設置状況などの写真を撮ってメモとともに記録したりする人もいる。モニター期間を通して毎回同じ委員が訪問できなくても、カルテを見れば状況を把握できるように、委員間で情報を共有するための資料にもなる。
 「省エネナビは、一定時間ごとの消費電力量をリアルタイムに記録して、使用状況を“見える化”してくれますが、データとして表示・記録するだけで、それ以上のことは何もしません。結果を読み取り、それを踏まえた省エネ行動を考え、実行していかない限り何も変わりません。最近話題のHEMS【2】のオートマチックな制御システムに比べると、まだまだマニュアル的です。ただ、自動制御でない分、各家庭が電力の消費に対して自覚的になったり、主体的な省エネ行動に対する意欲や関心が高まっていったりします」
 『ねり☆エコ』事務局の斉藤さんは、省エネナビの活用方法と効果についてそう説明する。

家電カルテ(左)と家庭訪問による聴き取り調査の様子(右)。「家電カルテ」には、各家庭で使っている家電製品の種類や年式などに加えて、モニターの応募動機や日頃の省エネで心がけていることなど、家庭訪問の際の聴取内容等を記入している。家電カルテ記入用紙[PDF:85KB]

 省エネナビが記録するデータは、モニター世帯を識別するための機械のシリアルナンバーと、日時ごとの分電盤及び子機の電力消費量並びに室内の気温といった数値の羅列に過ぎない。これらの数値がカンマと改行で区切られているだけだから、データを見ただけでは具体的なイメージは浮かんでこない。読み解くために、気象庁のアメダスデータを取り込んで外気温の影響を評価したり、表計算ソフトを利用してグラフ化し、一日の中の時刻別電力消費量の推移や曜日ごとので電力消費パターンの違いなどを視覚化している。

省エネナビのデータログ。

 「実際に解析したものを、各モニター世帯の状況──事前に調べた家電稼働状況や聴聞した使用状況など──を元に分析をして、『お子さんがかなり低い温度で冷房を長時間使用しているようだが、西側2階なのですだれやカーテンの対策が必要ではないか?』『扇風機との併用はどうかな』とか、『カーボンヒーターと電気カーペットをメイン暖房しているので一日中、使用量が高い』『効率のよいエアコン暖房を行わない理由を確認しよう』などと話し合って省エネアドバイスを検討し、モニターさんに提案します。それをモニターさんがご理解いただければ、データで結果の検証を行います。その際、データだけでなく実際に訪問して言葉のやりとりがあるからこそ、そのライフスタイルや家庭の事情がわかっているので、『あのお宅には、高齢のご家族がいるので即暖性の高い暖房の方がいいのではないか』などと実現可能なご提案ができるのです。そうやってデータを確認しながら、いろいろと提案していく中で、そのご家庭の省エネが少しでも進んでくれればということで行っています」
 モニターに応募してくるような世帯だから、もともと関心がないわけではない。ただ、実際にどうするのが適切な省エネ行動になるのかわからなかったり、実際にやっている省エネ行動がどれだけ効果があるのか、見えてこないままやっていたりするなど、悩みも伺える。
 モニター期間を終えた後、実際に省エネナビを使って取り組んできた感想をアンケートに書いてもらい、計測データとともに報告書に取りまとめる。データを蓄積していくことで、より広い層に活用してもらえるものを作っていくのがモニター事業の目的だ。

家庭訪問では、消費電力量をグラフ化した分析資料を示しながら、モニター世帯の実情に沿った省エネアドバイスを提案する。

 3年目を迎えるモニター事業は、毎年少しずつやり方を変えながら試行錯誤を繰り返してきた。
 初年度は、震災直後に開始することになったこともあり、まずは夏の省エネについて取り組もうと、7~9月の3か月間をモニター期間として設定した。終了後、冬季モニターを新たに募集して、11月~2月まで計測することになったが、全般的に夏季よりも冬季の方がエネルギー使用量が高まる傾向が見られた。震災直後の節電呼びかけが声高かったせいなのか、夏季と冬季との違いなのかを評価するためにも、平成24年度は夏から冬にかけて同じモニターに継続して計測をお願いすることにした。
 データ処理の部分も、訪問から計測データの資料化、データの分析など全行程を担当委員が担ったことで、時間がかかるとともに負担も大きくなっていた。平成24年度からは資料化等の一部作業を委託して、事業の効率化を図っている。

モニターとして協力してくれたご家庭に贈呈する、ワットモニター。
モニターとして協力してくれたご家庭に贈呈する、LEDライト。

 また子機を使って、個々の家電製品の電力消費量の計測及び機種等の違いによる比較なども行ってきたが、家電製品のコンセントにはさんで設置するため、取り外しや付け替えも容易だ。モニター宅によってはいろんな家電製品の消費電力を測定してみたいと頻繁に付け替えてしまうこともあり、継続的なデータの取得や比較検証のためのデータ取得に支障をきたすことになった。終了後のプレゼントとしてモニター世帯に差し上げていたワットモニター【3】と呼ばれる簡易型電力量表示器を、25年度は事前に、「自分で測りたいものは、これで測ってみてください」とお渡しした。モニター世帯によっては、子どもの夏休みの自由研究に使ったりして活用しているという。家庭で自由に好きな家電に付け替えて使ってもらうワットモニターと、モニター事業の中で継続や比較のためのデータ蓄積を行う子機と、「同じ電力の見える化」でも使い分けられるようにする工夫だ。

 モニターとしてデータを計測していたことで、家電製品の不具合が判明したケースもあった。初年度の冬季モニターのときに、1軒だけ電力消費量が増加した世帯があった。エアコンを使用しても、まったく暖まらなかったからガンガン温度を上げ続けて使用していたという。委員の提案で業者を呼んでみたところ、フロンが抜けていたためだということがわかった。
 また、25年度のモニターの中に、電気式の床暖房を設置している世帯があった。床面を3分割して暖房面積を切り替えるうちの真ん中だけをONにしているのに、全面が暖まってしまい、温水器の湯切れも多いとの話を訪問調査の際のヒアリングで聞いた。委員に相談すると、「それはおかしいから施工担当の者を派遣してみてはどうか」とのアドバイスをくれた。そこで、モニター世帯の了解を得て確認したところ、配管バルブの緩みが見つかった。

平成23年度モニター(夏季)の前年比削減比率と合計電力使用量を示したグラフ。

 「モニター世帯にとっては、専門業者がバックについて、わが家の省エネを支援してくれているようなものです。23年度のエアコンにしても、今回の床暖房にしても、自分では気付かなかった、もしくはおかしいと思っていたものの、業者を呼んで確認するまでもないと思っていたようなことが解決したという事例です。使用しているのに効果が出ていない、もしくは使用しているつもりがないのに使用していたという、非効率的な使用実態が浮き彫りになっていくのも、見える化の効果の一つといえます」
 『ねり☆エコ』の会員団体には、エネルギー事業者も参加しているから、専門的知見の中で対応することができるわけだ。

平成23年度モニター(冬季)の前年比削減比率と合計電力使用量を示したグラフ。

 平成23年度モニターの結果を取りまとめたグラフを見ると明らかなように、この年は前年比で30%以上の削減効果を示した家庭が10件中3件にのぼった。逆に、あまり減少率が高くなかった家庭は、すでに省エネの取り組みをしている家庭だったといえる。そういう家庭がさらに絞って工夫を凝らして取り組んだということも見えてきた。
 「まったく考えていなかった家はドンと減るんです。よくこれだけ減らしたなと思うくらいですが、何も考えずに電気を使い放題だったのが、節電しなきゃとエアコンを止めたり窓を開けたりといろんな取り組みをしてくれました。それと、IHを使っているご家庭の削減率が高かったですね。熱源のエネルギーを電気からガスに変えることや、IHの火力を調整する適正な使用方法をアドバイスして、さがったところもありました」
 特にお子さんがいる家庭では、お子さんが率先して熱心に取り組むケースも多かったという。

 最終年度を迎えた省エネナビモニター事業は、これまでの成果を生かしつつ、翌年度からは貸出事業に移行していくことになる。その後、『ねり☆エコ』としての調査・啓発事業をどう設計していくかは、今のところまだ白紙の状態だが、一つ事務局案として構想していることがあると、事務局の斉藤さんが紹介してくれた。
 「昨年度、区役所の補助で太陽光発電設備を取り付けた家庭が500軒ほどあり、その意識調査を現在、区からの補助事業の一つとして実施しているところです。太陽光発電を付けようと思った動機や、設置前後の意識の変化、発電・売電量の実績などを調べるものですが、今年が初年度ですから、まだどんな結果が出るかはまったく予測もできません。ただ、身近な創エネ設備の設置がどうすれば進むのか、特に自然エネルギーの創エネ設備は地球温暖化対策に大きく寄与することになりますから、我々としても非常に関心があります。よいデータが取れれば、それを踏まえて委員さんたちといっしょに取り組んでみませんかと呼びかけていくこともできるかなと思っています」
 委員の主体的な興味・関心をもとに活動をつくりながら、一方で事務局としてもさまざまなプログラムを提示していって、より関心を高めてもらい、結果として区内の環境活動の活性化につなげていこうというのが、『ねり☆エコ』の役割だ。

話をお伺いした、『ねり☆エコ』事務局の斉藤祥司さん(公益財団法人練馬区環境まちづくり公社)。

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