【第58回】「地球温暖化対策計画」の閣議決定を受け、改めて私達の地球温暖化対策を考える

一方井 誠治(いっかたい せいじ)

1.地球温暖化問題は解決できるの?

2.京都議定書目標は達成したけれど

3.日本の削減目標と対策の柱を見てみよう

4.注目される対策・施策は何だろう

 本計画では、金融のグリーン化や国内排出量取引制度に言及しています。特に、EUではすでに2005年から導入されている排出量取引制度や、日本では2010年から導入されている東京都の排出量取引制度についてもきちんと評価検討を行い、学ぶべきところは学び、自主的な取組みや国民運動のみではない、きちんとしたキャップ(排出枠)が付いた排出量取引制度をはじめ、市場メカニズムを活用した経済合理的な気候変動対策が進むことを期待しています。今日、経済的手法は、環境保全のための手法であり経済にとってはマイナスであると解することは適当ではなく、継続的な技術革新や経済の効率化を通じた中長期的な経済発展のための有効な手法でもあるという認識をもつことが重要です。

 本計画では地方公共団体におけるこれらの取組みが期待されています。地方公共団体は、縦割り行政の色彩が強い国と違い、知事や市長のもとで分野を超えた施策を統合的に行うことが可能です。例えば、長野県では、地球温暖化政策とエネルギー政策を統合した「長野県環境エネルギー戦略」を2013年2月に策定し、県独自の目標のもとに、自然エネルギーの導入や省エネの推進を図り成果をあげてきています。ちなみに、この戦略では、環境を改善しつつ経済も伸ばすという考え方が基本となり、企業に対する丁寧な説明や支援策ともあいまって多くの県民の理解を得ています。このような動きが、他の地方公共団体にもさらに拡がっていくことを期待しています。

 今回の計画では、地球温暖化対策に資するあらゆる賢い選択を促す国民運動として「クールチョイス」がうたわれています。社会経済を変えていくうえでは「価値観・意識の変革」「革新的技術の開発・普及」「社会システムの改善」の三つの要素が有機的に連動していく必要がありますが、いずれも容易なことではありません。しかしながら、国民ひとりひとりがより良い社会に向けて自らの選択をし続けることで、いつしか世の中の価値観・意識が変わり、企業等における環境にやさしい革新的技術の開発や普及を促し、国や地方自治体の政策を変えていく大きな力になることを期待します。その意味では、単に受け身の選択だけではなく、企業や行政に対する積極的な働きかけも重要です。

 率直に言って、日本における持続可能な発展戦略は、いまだ確立していないと言っても過言ではないと私は思っています。気候変動対策の分野でもエネルギー構成をめぐっていまだ多くの議論が残されています。また、先の京都議定書目標達成計画を見ても、また、今回の地球温暖化対策計画を見ても、それぞれの分野での温室効果ガスの削減目標とその数値の積み上げは詳細に行われているのですが、それを実際に実現するための手法が、自主取組みや国民運動に委ねられているところが多く、必ずしも実効性のある手法がきちんと用意されていないというきらいがあります。また、ドイツのエコロジー税制改革に見られるような環境保全と雇用対策を同時に実現する、環境と経済との政策統合という面からも物足りなさがあります。
 ドイツでは、2002年に国の上位計画として「ドイツの展望―私達の持続可能な発展に関する戦略」を策定するとともに、2010年には、環境対策と経済対策を高次に統合した長期戦略である「エネルギー・コンセプト」を策定し、きわめて抜本的なエネルギー改革を進めています。そして、それがドイツの気候変動対策と経済対策の大きな柱にもなっています。大事なことは、それにより、実際にドイツは経済を伸ばしつつ温室効果ガスの削減が実現していることであり、残念ながら同じ時期の日本の削減状況は、はかばかしくないという事実があることです。日本でも、今回の地球温暖化対策計画の基本的な方向で述べられている「長期的な目標を見据えた戦略的取組」を目指し、そのような本格的な持続可能な発展戦略の策定を期待したいと思います。

参考文献