【第1回】千代田区:生物多様性推進プランの普及・推進を通じて、皇居を中心にした豊かな生き物のネットワークを周辺地域へと広げ、区民の生物多様性への理解と行動の定着をめざす

※本記事の内容は、2014年6月掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

『ちよだ生物多様性推進プラン』の表紙

推進プラン策定前夜 ──現況把握調査から見えてきた、千代田区の生物多様性を取り巻く課題

『ちよだ生物多様性推進プラン』に描かれた、生物多様性を取り巻く千代田区の課題

生物多様性の主流化をめざして、“まち”が変わり、“ひと”がつながる計画を

 推進プランは、2050年をターゲット年にした長期目標として、「皇居を中心とする豊かな生きもののネットワークが周辺地域に広がるとともに、だれもが生物多様性の重要性を理解し、行動している社会」の実現を掲げる。これによって、“生きもの”のネットワークと“行動”の広がりを持った、エリアごとの生物多様性の具体的な将来イメージを描いた。
 2050年長期目標の達成の中間段階として設定する2020年短期目標には、『“まち”が変わる~地域の生物多様性を支える場所を守り育てていく』ことと、『“ひと”がつながる~人びとが生物多様性について共通の理解を持って連携・協力し、その保全に取り組む』ことの2つが掲げられ、区の役割を含めて、区内で生活・活動する人たちや団体がそれぞれの立場でできることを行動計画にまとめている。
 「区だけでは目標を達成することはできませんから、在住・在勤・在学の区民の皆さま方一人ひとりをはじめ、事業者や大学・教育機関、環境保全団体、東京都や国の機関など各主体の皆さまに期待する役割を具体的に書かせていただきました。例えば、区内事業者の皆さんには、原材料やエネルギー資源の調達から商品・サービスの販売・提供、廃棄物等の処理など事業活動全般において生物多様性の視点を取り入れていただくことや、事業所・工場等の敷地内の緑化を含めた生物多様性の保全とその情報開示、行政や区民等と連携した環境保全活動の実施による地域の生物多様性の向上、それに社内外における普及啓発や社員教育を通じた生物多様性への意識と理解を深めるための取り組みなどの役割が期待できます。推進プランの策定に当たって、公募区民や事業者、国や都の関係機関、有識者の皆様に参加いただいて組織した『生物多様性推進会議』の場などを通じて、それぞれの立場でできる役割について意見をいただきながらまとめています」
 推進プランを担当している、環境安全部環境・温暖化対策課企画調査係係長の阿部清一さんはそう説明する。

長・短期目標及び行動計画とその体系(推進プラン・概要版より)

推進プランの普及・推進事業① ~ちよだ生物多様性シンポジウム『都市の暮らしと生物多様性』

 推進プランの普及・推進の一環として、昨年(2013年)の環境月間イベントで開催したのが、『都心の暮らしと生物多様性』と題した生物多様性シンポジウム。第一部の基調講演では、作家のC.W.ニコルさんが日本の自然の素晴らしさや自然の中で遊び五感を使うことの重要性などについて紹介。第二部のパネルディスカッションでは、C.W.ニコルさんに加えて、東京農工大学名誉教授で推進プランを議論するために設置された生物多様性推進会議で座長を務めた亀山章さん、三井住友海上火災(株)地球環境・社会貢献室の浦島裕子さん、NPO法人ECOPLUS代表理事の高野孝子さんの4名のパネラーが登壇し、推進プランの特徴と役割やそれぞれの活動の紹介、また都心における生物多様性についての議論が交わされた。

 当日は総勢154名が参加。会場では地元企業やNPOなど7団体によるパネル展示もされ、盛況を呈した。
 「今年に入って、明治大学さんも生物多様性シンポジウムを開催していますし、5月20日には三井住友海上火災保険(株)のシンポジウムも予定されています(取材当時)。三井住友さんは駿河台の自社ビルで、『“ひと”と“生きもの”にやさしい』をコンセプトにした再開発を行って、ちょうど昨秋に公開緑地として全面オープンしましたし、環境情報発信・交流拠点の『ECOM駿河台』も開設・運営しています。推進プランに書いたように、多くの事業者や環境団体、区民一人ひとりがそれぞれの役割の中で生物多様性の保全と推進に向けた役割を果たしていただくことで、“まち”が変わり・“ひと”がつながって、“生きもの”のネットワークと人々の“行動”が広がっていってほしいと思っています」
 そう話すのは、環境安全部環境・温暖化対策課企画調査係主任主事の長谷川博明さんだ。

シンポジウム当日の様子

推進プランの普及・推進事業② ~区民参加のモニタリング調査ガイド『千代田区生きものさがし』

 今年(2014年)6月、生物多様性の保全や主流化への取り組みを普及・推進するため新たにスタートしたのが、『千代田区生きものさがし』。区内で見られる生きものを紹介したリーフレットを参考に、6月から10月末にかけて街で見かけた生きものの情報をレポートにまとめて送ってもらうというものだ。
 生きものさがしの対象となるのは、モンシロチョウ、アゲハチョウ、トカゲ、トンボ、カエル、サギのなかまと、植物のススキの7種。公園の中の林や日当たりのよい原っぱ、花壇や街路樹、公園の池やお濠などの自然環境ごとに、そこで見られる生きものの種類と写真、大きさや食べているものなどを紹介して、どんな生き物をいつどこで見つけたのかを書き込める表を用意した。詳しい種名がわかれば書いてもらったり、気付いたこと・感想を記入したりする欄も設けてある。書き込んだ表を切り取れば、そのまま切手不要でポストに投函できるハガキになっているし、ファックスやe-mail、ホームページからの投稿も受け付けている。

 「都市の中で暮らしていると、すぐ身近に生きものがいることも意識しないまま過ごしている方が多いと思います。『生きものさがし』に参加してもらうことで、親子や友達と話をしたりしながら生きものや生物多様性に対する意識を変えるきっかけにしてもらえればと思っています。実は前年(2013年)に児童館や環境情報交流施設の職員の方々に協力していただいて、内容やデザインのモニターを兼ねて試行的に一部地域で実施しました。そのフィードバックを踏まえて改訂し、いよいよ今年度から本格実施することになったのです。学校や児童館に配ったり、環境関連施設などに置いてもらったりして、ご家族や学校のクラスなどでガイドを手に生きものさがしに出かけていただくものとしてご用意しました。これをきっかけに、生物多様性の輪が広がっていくとうれしいですね」
 阿部さんと長谷川さんはそう口を揃える。
 生きものさがしのシートは、A3用紙の両面にカラーで印刷し、観音開きに折り込んで携行しやすいように作ってある。紙質は厚みのあるコート紙で書き込みもしやすい。記入例もわかりやすく、記入する内容も必要最低限に絞り込んであり、書き込んですぐに投函できるようになっているなど工夫されている。

先行した地球温暖化対策

『千代田区環境モデル都市第2期行動計画』の表紙

注釈

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