【第28回】利島村:離島ゆえの冬季の強風や塩害で被害を受ける樹木の育成・更新に取り組む(公共緑地保全事業)

※本記事の内容は、2016年9月掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

冬に吹き荒れる季節風と、岸壁の潮飛沫

 利島(東京都利島村)は、東京本土から南に約140kmの距離に位置する伊豆諸島の離島。海底火山の噴火によってできたこの島を海上から望むと、標高508mの宮塚山を頂に美しい円錐状を描く。島の周囲は約8km、面積わずか4.12km2で、海岸線は断崖絶壁に囲まれていて、砂浜はない。島内も平坦な土地はほとんどなく、島の北側にあるやや緩やかな斜面に唯一ある集落で人口約300人の島民が暮らしている。
 年間を通じて温暖な気候だが、冬には強い季節風が吹き荒れるとともに、入り江のない利島ではこの時期、岸壁に高い潮飛沫があがる。

 今回紹介する利島村の「公共緑地保全事業」は、こうした冬季に吹き荒れる強風と、潮飛沫による塩害などによる公共緑地の樹木の倒木・腐食等の被害を軽減することを目的としている。
 利島村総務課の上野崇さんに話を聞いた。

入り江のない利島では、冬に強い季節風が吹き荒れると、岸壁に高い潮飛沫があがる。

艀の歴史を伝える「艀と海の歴史広場」と、新東京百景にも選ばれている景勝地「南ヶ山園地」

 今回の事業で対象となるのは、村内の公共緑地である「艀(はしけ)と海の歴史広場」と「南ヶ山園地」に植栽してあるカイヅカイブキ、キョウチクトウ、マツ、タマヒサカキ、シャリンバイ、イヌツゲなど常緑の園芸品種を中心にした樹木。
 毎年、5月後半から9月末の観光シーズンに合わせて定期的に剪定等の手入れを行っている。

 利島港から徒歩5分のところにある「艀と海の歴史広場」は、利島港の桟橋ができた昭和55年(1980年)以前に利用されていた「はしけ」と呼ばれる小型船の現物が広場に展示されている。当時は、大型船が接岸できなかったため、沖合に停泊した大型船から人や物資を小型の「はしけ」で移送していたという。

 一方の「南ヶ山園地」は、島の南部にある公園で、新東京百景にも選ばれた景勝地として、利島随一の観光スポットになっている。天気のよい日には新島、式根島、神津島、三宅島、御蔵島までの伊豆諸島の島々が遠望できる。島内の集落は島の反対側(北部)の利島港周辺だけで周辺には街灯もなく、夜になると満天の星空が広がる。肉眼で天の川が見えると、天体観測ファンをはじめとして人気を呼ぶ。

利島港からすぐの所にある「艀と海の歴史広場」。

南ヶ山園地での剪定作業。

小学校や保育園での環境学習出前授業

 利島を語るとき、「椿」はなくてはならない 。資源が限られた利島ではじめて安定した仕事になったのが椿産業で、江戸時代から今日までの200年以上に渡って椿油を生産してきた。
 島全体を覆っている椿林は、総本数20万本とも言われている。水資源に恵まれない小さな島のため水田耕作ができず、江戸時代には年貢として椿油を幕府に上納していた。現在は、漁業と並ぶ島の基幹産業に発展し、全国の椿油生産量の中でも6割近くのシェアを持っているという。

 段々畑を形成する椿林は、景観上からも利島の大きな特徴になっている。段々畑にするのは、椿の実が雨などで流れ落ちないための工夫だ。常緑樹である椿が島の80%を覆うため、日本的な四季は感じづらいものの、冬には島中で椿の花が咲き誇るなど「椿で感じる四季」は、利島特有の自然の恵みと言える。

島内には、総本数20万本といわれる椿の木が植えられている。

 今後、同事業によって、島の主力産業である椿を含めた景観全体を生かした、“自然環境”の保護発展を図っていきたいと話す上野さんだ。

利島村の椿油生産量は、全国生産量の6割近くを占め、島の基幹産業となっている。

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