【第37回】国分寺市:市民とともに環境について考えるための機会を創出(温暖化防止啓発事業)
「みどり東京・温暖化防止プロジェクト」の助成金を活用した都内62市区町村の環境事業の取り組み状況について順番に紹介する「環境事業紹介」のコーナー。
第37回は、国分寺市の温暖化防止啓発事業について紹介します。同事業では、環境イベント等に際して展示する啓発パネルやパンフレット配布などを通じた啓発活動を行うほか、環境シンポジウムの開催を通じて市民とともに環境について考える機会を創出しています。
事業の概要及びねらいについて、担当者にお話を伺いました。ぜひ、ご一読ください。
※本記事の内容は、2017年6月掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。あらかじめご了承ください。
武蔵野の面影を残す住宅地
国分寺市は東京都のほぼ中央に位置し、東は小金井市、南は府中市と国立市、西は立川市、北は小平市に接している。市域は東西約5.68km、南北約3.86kmに広がり、面積11.46km2の大部分は武蔵野段丘上のほぼ平坦地が占める。段丘の南側は、「ハケ」と呼ばれる国分寺崖線を境に、急激に下降して立川段丘に連なる。崖線のすぐ下を流れている野川には、ハケ下の各所から豊かな湧き水が注いでいる。
首都近郊にあって武蔵野の面影を残す住宅地として、人口約12万人を抱える、水と緑に彩られた文化都市だ。
国分寺市では、平成29年4月に、これまでの環境部と都市建設部及び再開発を担う都市開発部という3部制を、まちづくり部及び建設環境部の2部に改編している。
従来は環境行政と都市計画行政がそれぞれ基本計画を策定して施策を進めてきたため、ハード面のまちづくりと、ソフト面の環境計画に一体性を持たせる上で課題もあった。まちづくり部まちづくり計画課課長の細川啓明さんは、環境行政と都市計画行政の統合によって、より効果的・効率的、都市環境の視点でまちづくりを進めていくことができるようになると話す。
「国分寺市は、基本的に住宅都市です。広大な森林があるわけでもありませんし、都心部のような高層ビルばかりでもありません。樹林地もあれば農地もあって、住宅地があるという環境です。そうした中で、都市計画は建物や住宅の面からコントロールしていますし、一方で樹林地や農地をどう保全していくかというのが環境部門です。これらを一元化して、併せて考えていくことが今後求められます。都市計画マスタープランと環境基本計画は切っても切り離せないところがありますから、計画分野を一元して進めていこうというわけです」
一方、計画に基づいて施策を実行するのが、新しくできた建設環境部だ。緑や公害、ごみなどに関する事業実施を担う。大きく分ければ、計画部門と事業部門という整理といえる。
今回紹介する、国分寺市の温暖化防止啓発事業は、旧環境部環境計画課が進めてきた事業で、機構改変後はまちづくり部まちづくり計画課が担当している。事業の内容に大きな変更はないが、今後は環境の視点を都市計画に取り入れたり都市計画の視点を環境計画に取り入れたりするなど相互の連携が取りやすくなることで、新たな施策や計画が生まれることも期待できる。
細川課長及び、まちづくり計画課計画担当係長の和智達也さんに話を聞いた。
市民や事業者と自由な意見交換を行う、月1回の「環境ひろば」と協働した普及啓発
国分寺市では、市民や事業者とともに国分寺市の環境の保全・回復・創造に関する意見を自由に交換するための懇談会「環境ひろば」を設けている。原則として毎月第3日曜日に開催して、月替わりのテーマによるフリートークも行っている。
(2015年4月~2017年2月の抜粋、国分寺市HPより作成)
2017年2月 | (仮称)リサイクルセンター施設整備基本計画(案)について |
2017年1月 | 環境シンポジウムの事前学習について その2 |
2016年12月 | 環境シンポジウムの事前学習について |
2016年11月 | 環境基本計画実施計画(中期)について その4 |
2016年10月 | 環境基本計画実施計画(中期)について その3 |
2016年9月 | 環境基本計画実施計画(中期)について その2 |
2016年8月 | 環境基本計画実施計画(中期)について |
2016年7月 | 動植物調査を踏まえて,私たちに何ができるか その2 |
2016年6月 | 動植物調査を踏まえて,私たちに何ができるか |
2016年5月 | “省エネのために私たちができること,やっていること”について |
2016年4月 | 空き地空き家に関する取り組み |
2016年3月 | ごみ減量化・資源化アクションプランの見直し その2 |
2016年2月 | 国分寺市公共下水道合流改善事業の事後評価ほか |
2016年1月 | ごみ減量化・資源化のアクションプランの見直し |
2015年12月 | 環境シンポジウムの事前学習について |
2015年11月 | 環境アドバイザー派遣制度の活用について |
2015年10月 | 野川の自然河川化について(その2) |
2015年9月 | 野川の自然河川化について |
2015年8月 | 雨水利用と下水道について(その2) |
2015年7月 | もやせるごみの減量について |
2015年6月 | 雨水利用と下水道について |
2015年5月 | 都市農地の保全について |
2015年4月 | 動植物調査について |
国分寺市の温暖化防止啓発事業は、この「環境ひろば」との協働で毎年2月に企画・開催している環境シンポジウムの講演会を中心に、11月に開催している国分寺まつりや12月に開催している環境まつりなどのイベントの際の啓発パネルの展示や省エネアンケートやこどもクイズの実施、パンフレットの配布など、市民とともに環境問題について考える機会の創出を目的に実施している。
「毎年2月に実施している環境シンポジウムは、昨年度で12回目の開催となりました。昨年度のメインテーマは『国分寺の水辺を考える』。千葉大学名誉教授の田畑貞壽(たばたさだとし)先生が「緑と水の保全再生~玉川上水・分水網シンポジウムから~」、また引き続いて多摩美術大学名誉教授の渡部一二(わたべかづじ)先生が「玉川上水の分水路から~水空間の恩恵を受けるまちづくり~」と題して講演しました。ちょうどこの年の12月に、「玉川上水・分水網の保全活用プロジェクト」がユネスコの未来遺産に登録されるというタイムリーな話題となり、約200名の参加者にご来場いただきました」
これまで開催してきた環境シンポジウムのテーマは下表のとおり。毎年さまざまなテーマを設定しているが、毎回のテーマの決定や講師の選定も、環境ひろばのメンバーとともに協議しながら決めている。環境団体のPRの場にもなっており、市内の環境活動の広がりにつながっている。



「環境ひろば」との共催により、毎年2月に開催している。
開催月日 | テーマ | メイン講師 | 参加人数 | |
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第1回 | 平成17年7月17日 | 緑と水辺 | 飯島 博さん『湖と森と人を結ぶ霞ヶ浦アサザプロジェクト軌跡と現状及び方向性』 | 約50 |
第2回 | 平成18年6月17日 | 地球温暖化 | [1]白井 信雄さん『地球温暖化と私たちのエコライフ』 [2]馬場 悦子さん『広めよう!環境配慮指針』 | 50 |
第3回 | 平成20年2月10日 | エコライフ(省エネ) | 石川 英輔さん『江戸時代はエコ時代』 | 180 |
第4回 | 平成21年2月7日 | 水と生物多様性 | 本田 亮さん『カヌーツーリングで見てきた環境問題』 | 80 |
第5回 | 平成22年2月6日 | 地産地消・食の安全 | 吉岡 淳さん『ハチドリのひとしずく』 | 110 |
第6回 | 平成23年2月5日 | 水 | 中村 日出夫さん『水のめぐみ』 | 130 |
第7回 | 平成24年2月4日 | 省エネ・省資源 | [1]泉 浩二さん『省エネから地球1個分のくらし』 [2]末光 正忠さん『わが家は太陽光と燃料電池併用の発電所』 | 110 |
第8回 | 平成25年2月2日 | 野川 | 吉村 伸一さん『川の再生とまちづくり』 | 140 |
第9回 | 平成26年2月1日 | 地球温暖化防止・水の活用 | 屋井 裕幸さん『雨水(あまみず)是(これ)地球(ちきゅう)全部(ぜんぶ)水(みず)循環(じゅんかん)』 | 95 |
第10回 | 平成27年2月7日 | 生物多様性 | 岡部 貴美子さん(森林総合研究所)『生物多様性と私たちの暮らし』 田中 守さん(あきる野市養沢活性化委員会ホタル部会)『あきる野市養沢川のホタルを守る活動』 | 140 |
第11回 | 平成28年2月6日 | 生物多様性 | 中西 由美子さん(武蔵野・多摩環境カウンセラー協会所属)『多摩地域の自然環境の変化~植物~』 林 鷹央さん(生物多様性農業支援センター講師)『身近な生きものたちの視点で街を見る 昆虫、鳥編』 | 163 |
第12回 | 平成29年2月4日 | 水路 | 田端 貞壽さん(千葉大学 名誉教授)『緑と水の保全再生 ~玉川上水・分水網シンポジウムから~』 渡部 一二さん(多摩美術大学 名誉教授)『玉川上水の分水路から ~水空間の恩恵を受けるまちづくり』 | 約200 |
大いに好評を博した「アメリカザリガニ捕獲大作戦」
事業の一環で、昨年度初めて実施したのが、アメリカザリガニ捕獲大作戦。会場となった姿見の池は、東京都の「国分寺姿見の池緑地保全地域」にも指定されている。平成28年10月23日(日)の午後、12組総勢約30名の親子が集まった。
外来生物についての講義やアメリカザリガニを捕獲する理由について説明した後、スルメをエサに糸を垂らして釣りあげる方法でザリガニ捕獲作戦を遂行、約1時間の捕獲作戦で100匹ほどのアメリカザリガニを釣り上げた。
参加者からは、「楽しい企画でした。第2回を楽しみにしています」「すごくいい取り組みだと思いました。楽しかったし、自然保護に参加できたことがうれしい」「楽しくて、駆除もできるのがよいと思います」といった意見が聞かれるなど、事業の手応えも実感できた。

「参加の申し込みは、受付開始後2日間で定員になるほどの反響があり、実際に参加した皆さんにも大好評でした。今年度は2回実施してみようかと計画しているところです。“外来種駆除”という固い言葉ではなく、ワイワイガヤガヤと愉快にザリガニ釣りをしながら参加できる市民参加の環境改善策が、さまざまな環境問題の解決策として国分寺市内に広がっていくことを期待したいと思います」

市では、5年ごとに市内一斉の動植物調査を実施している。前回の実施は平成27年度で、次回は平成32年度の予定だ。その間にこうした事業を重ねていくことで、5年ごとの調査にどう反映されるのかを検証していきたいという。
温暖化防止啓発事業を含めて、まちづくり計画課として実施していく事業では、既存の取り組みを継承しつつも、計画と目標の達成状況について、さらに検証を強化しながら進めていくことをめざす。
これまでも、さまざまな環境施策を実施しながら、改善を図ってきた。今後は、これまでの実績・反省・課題を踏まえた形でさらに進めていくと同時に、PDCAサイクルを強化して、きちんとした成果が上がっているかを常に見極めていきたいと細川さんは話す。

