【第5回】ECO女子のチャレンジ~エコキャンパス・プロジェクト~

フェリス女学院大学では、女子学生の視点から展開してきたエコキャンパスを地域に開放し、地域と協働しながら地球温暖化対策と自然エネルギーの普及に向けた活動に取り組み、第1回エコ大学ランキング(2009年)において第1位を獲得しました。また、地球温暖化による海面上昇の影響が懸念されるキリバス共和国での国際協力活動を継続的に実施しています。学生の視点、女性の視点から見る環境保全活動の意義、大学と地域の連携についてお話を伺います。

佐藤 輝(さとうあきら)

フェリス女学院大学 国際交流学部 准教授
東京農工大学 連合農学研究科博士課程修了、農学博士。1971年、東京都生まれ。
通商産業省生命工学工業技術研究所、独立行政法人産業技術総合研究所、メルシャン株式会社生物資源研究所、独立行政法人製品評価技術基盤機構研究員を経て、フェリス女学院大学国際交流学部 准教授(現職)。専門分野:再生可能エネルギーの普及対策、環境教育。
横浜市環境活動推進委員会委員、横浜市環境創造審議会・生物多様性地域戦略検討部会専門委員、私立大学連盟・地球温暖化対策プロジェクト委員などを歴任し、現在は日本環境学会副編集長、私立大学環境保全協議会理事などを務める。

エコアカデミーインタビュー

1.女性だからこそ環境教育を

2. フェリス・エコキャンパス・プロジェクト

太陽光発電(6.4kW)[写真奥]
建物の照明とコンセント電源に利用
太陽熱温水器(320リットル)[写真手前]
更衣室のシャワーに利用
ハイブリッド街路灯
風力(最大300W)と太陽光(最大110W)の融合発電
クール(ヒート)チューブ
地中と外気の温度差を利用した空調で夏は冷たく、冬は暖かい空気を送る
屋根散水
地下に設置した雨水タンクの水を利用して夏場の体育館の屋根に散水し冷却
赤い風車
明治21~31年まで、横浜山手のフェリス女学院には、赤い羽根の風車があり、揚水に利用されていた。
「赤い風車のフェリス」と呼ばれて、風車はフェリスのシンボル的な存在だった。

3. 学生参画のキャンパスづくり

4. 女性の視点から見る環境保全活動の意義治体間連携

5. キリバス共和国での実践活動

日本では、足利工業大学、現地ではキリバス技術専門学校の先生、生徒の方々と、キリバスで生産できるソーラー・クッカーの開発を進めました。本学の学生たちは語学が堪能ですから、現地のスタッフと楽しく会話しながら、ともに汗を流しました。また、キリバスの主婦の方々のご協力をいただき、デモンストレーションもおこない、「太陽なんて暑くていやだったけど、太陽の利用法とありがたさを教えてもらった」とコメントをいただくことができました。また、地元の新聞からも、「燃料費の高騰するなか、家計を助ける期待がかかる」と紹介していただきました。日本人の生活から比べたら、実際のところキリバスの生活では、二酸化炭素なんてわずかしか排出していません。二酸化炭素排出削減というコンセプトで現地の方々にアプローチをしてもピンとこないのです。

キリバスでの体験のひとつひとつは、現地の人々の現状に耳を傾け、ともに解決策を考える、現地の人たちが自ら取り組める方法を考える、そういった国際協力の在り方を学ぶ上で学生たちに大きな成長をもたらしました。キリバスでの活動は、これまでエコキャンパス研究会の活動として継続してきましたが、国際交流学部の現地実習科目として展開できるようになりました。本学ならでは、女性ならではの視点を活かし、キリバス住民とともに歩みながら、温暖化の問題に対して、日本のみなさんにも関心をもってもらえるよう、学生とともに研究を発展させていきたいと思っています。

6. 地域の環境教育の担い手として

「エコキャンパス研究会」が企画しているワークショップで、地域の親子を対象としています。自然観察では、ビオトープを中心に、昆虫観察や採集を体験し、生物多様性について理解を深めてもらいます。エネルギー学習では、キャンパス内のエコ設備の見学や、ミニミニ風力発電機づくりを通じた自然エネルギーを体験してもらいます。

子どもへの環境教育は、実は社会変化のスピードと合っているような気がします。昨年の震災で、再生可能エネルギーが注目されましたが、すぐに転換できるわけではなく、徐々に制度が整い、普及していくことで社会が動いていきます。10年、20年の長期スパンですが、それを担うのは今の子どもたちなのだと考えると、子どもへの環境教育が重要であることを改めて実感します。教育というのは、すぐに成果はでませんが、地道に種をまいて育てていくようなものです。本学もそのような意味で、地域の環境教育の担い手として地域と関わっていきたいと思っています。

ビオトープを使った親子ワークショップ(自然観察)
ソーラー・クッカーでの調理体験

地域連携では、大学が地域へ開く、大学から地域へ働きかける、2つのアプローチがあると思います。開くという視点ではシンポジウムや公開講座、見学会やワークショップがあり、地域の方々が沢山おみえになります。一方、働きかけるという視点では、例えば水環境や交通政策の講義で自治体のさまざまな分野の専門家にご協力をいただいています。
また、地域の耕作地をお借りして農業体験の実習もおこなっています。これも大学だけでは実現できなかった試みで、自治体の職員の方が、農家の方や町内会に根気よく声をかけ、コーディネートしてくださったおかげです。

自治体の担当の方は、転任なさるので、大学側からも働きかけて定期的な情報交換をおこない、地道な関係づくりをしています。教育はキャンパスの中だけで完結するのではなく、地域や人とのつながりによって支えられ、広がりをもつものだと思っています。また、自治体の仲介による環境インターンシップ※13にも学生を積極的に参加させています。実際に企業に行き、職業体験をするものですが、経験した学生は目の輝きがちがいますよね。学校と家との往復やアルバイトだけでなく、実際に社会的なことに関わることで学生の意識に変化が生まれるのだと思います。

協働とは、大学や企業の代表が会議に出席して意見交換するだけでは実現しません。自治体、地域、企業の人々が、一緒に体を動かして取り組むことが重要です。最初は子ども向けの工作教室でもいいのです。何か共通のテーマをもって一緒にやる。実践をともなった協働こそ、本物の社会的な動きにつながると思っています。

注釈

info

【4】 本間 慎
前フェリス女学院大学学長、専門は環境生態学。

佐藤先生は、以前は研究者として地球環境保全に専念してこられました。その根底には、次世代のために環境を守りたい、自分にできることは何かという思いがあったそうです。研究を続けて数年後、東京農工大学時代の恩師であった本間先生から「フェリス女学院大学で環境教育に従事してみては」と、声をかけられたそうです。
理科系の研究者であるご自身にとって、文化系の女子大学は畑ちがいのようで迷いもあったそうです。しかし、フェリス女学院大学を一度訪れ、学生たちがビオトープづくりやリサイクルなどに一生懸命に取り組む姿を見て、このような学生たちとであれば、サポーターとして佐藤先生ご自身も一緒に教育にたずさわっていけると実感したそうです。
「環境教育は種まきのようなもの、すぐに結果はでません」、佐藤先生と学生たちの地道なチャレンジは、あちらこちらで芽吹き、成長していることでしょう。花開く時が楽しみに思えました。

インタビュアー 峯岸 律子(みねぎし りつこ)

環境コミュニケーション・プランナー。エコをテーマに、人と人、人と技術を繋げるサポートを実践。
技術士(建設部門、日本技術士会倫理委員会)、環境カウンセラー、千葉大学園芸学部非常勤講師。