【第56回】ニッポンの夏支度「緑のカーテン」。その効果と育て方3つのポイント~自然の力を使って楽しみながら快適に暮らそう~

小堺 千紘(こざかい ちひろ)

1.「緑のカーテン」とその効果

「緑のカーテン」と言えば、もう何のことかお分かりですね。数年前まで「緑色の室内に掛けるカーテンですか?」と聞かれることもありましたが、2011年に夏の節電が叫ばれてから一気に広まりました。「日よけのために、ゴーヤーやアサガオなどのつる性の植物を窓辺にカーテン状に育てたもの」です。

マンションのバルコニーで育てた緑のカーテン

緑のカーテンは暑い夏を快適に過ごせるだけでなく、花を楽しんだり、実を味わったり、育てる楽しみもあります。
江戸時代に長屋の軒先でアサガオを育てていたとの記録もありますから、昔からある「ニッポンの夏支度」なのです。
エアコンに頼り過ぎない、快適な環境を楽しみながら自分で作ってみませんか?

実ができるのも緑のカーテンの楽しみのひとつ

 例えば夏、気温が30℃の日を想像してください。気温が同じ30℃でも、湿度が40%と80%では体感する暑さは違います。直射日光が当たる時と当たらない時でも、風のある日とない日でも、気温は同じですが体感する暑さは違います。人が感じる暑さや寒さは、気温だけで決まるのではなく、湿度・風・輻射熱により左右されます。それを「体感温度」と言います。輻射熱だけに焦点を当てると体感温度は[(気温+周辺の物体の温度(輻射熱))÷2]で算出されます。気温が30℃、地面や壁面の温度が52℃の場合、そこにいる人が感じる体感温度は[(30+52)÷2]で41℃になります。
 緑のカーテンは気温を下げるわけではありません。直射日光を遮ることで建物や地面の温度が上がるのを防ぎ、葉の間から風を通すことで、体感温度を下げるのです。すだれや断熱ガラスも日射遮蔽の効果はありますが、長時間直射日光を受ければそれ自体の温度が上がるのは避けられません。一方、緑のカーテンは植物ですからその蒸散作用(根から吸い上げた水を葉から放出する)により、葉の室内側の温度は上昇せず一定に保たれます。

人が感じる「暑さ」は気温だけで決まらない。「体感温度」を下げるのが緑のカーテン。

 私自身が母になってみて、涼しさと同じくらい重要だと思う緑のカーテンの効果は、その教育的価値です。緑のカーテンには花が咲きますから、チョウやハチ、テントウムシなどの昆虫が飛んできます。子どもがまだちゃんと話せない頃、それを見ながら「ちょうちょ」「ぶんぶん(ハチのこと)」、「ち(テントウムシのこと)」と、片言ですが伝えてくれました。歩けるようになった1歳の頃から一緒に水やりをしています。アサガオの濃いピンク、青、白の花が咲き、「青い花が咲いたね」などと話しながら、子どもは色を覚えました。
 一緒に苗を植え、水をやりながら毎日観察していると「ピューって伸びたね」などと言ってきます。ゴーヤーやブドウの実を一緒に収穫したり、その緑陰で水遊びを楽しんだりして育ち、植物や鳥、昆虫など自然に広く興味を持つようになりました。

子どもは水遊び感覚で水やりを楽しみます

 地球温暖化防止に果たす緑のカーテンの効果は、エアコンにかかる消費電力の削減ですから、その直接的な効果はほんの小さなものかもしれません。環境問題の解決には一人の大きな努力より、多くの人の小さな努力が効果的です。緑のカーテンは、ネットとプランターなどの準備だけで、すぐに誰でも実践できる良さがあります。そして家庭での実践という点で、次世代を担う子ども達に環境意識を育てるのに効果が高いと言えます。
 エネルギーに頼り過ぎず、自分たちの力でできることを楽しみながら実践し、快適に豊かに暮らす。そんな暮らし方を緑のカーテンは象徴していると思います。

緑のカーテンの緑陰でブドウを味わう子ども達

2.緑のカーテンを育てるコツ

ネットの張り方とそのコツ