【第63回】カーフリーハウジング(車を所有しない集合住宅)という選択:オーストリア、ウイーン市

オーストリア、ウイーン市の行政区
21区:フロリツドルフ(Google Map,ウイキペディア)

 オーストリアの首都、ウイーンは優れた公共交通網を持ち、市内の移動の39%が公共交通機関を介して行われています。この割合はヨーロッパのどの都市よりも高く、車を所有しない生活を選択するという「カーフリーハウジング」が生まれる土壌があったと言えるようです。現在はいくつものカーフリーハウジングが誕生していますが、その最初が1999年、パイロットプロジェクトとして実施されたフロリツドルフの244世帯のマンションで、ウイーンの中心部にバスと地下鉄を乗り継いで25分という好立地に建設されました。

ウイーンの公共交通網:電車、路面電車、バス

 この「カーフリーハウジング」プロジェクトは、自動車を持たない生活を選択した人を募集することから始まり、住民は自動車を手放す(あるいは持たない)という契約を結ばなければなりません。移動手段としては、徒歩、自転車、あるいは公共交通機関を使用することになります。ただし、「カーシェアリング」は必要に応じて、使うことが可能とされました。
 この契約が特別だったのは、オーストリアには、「1住戸につき、1台以上の駐車場を設置しなければならない」という法律があるからです。つまりオーストリアでは、個人が車を持ちたくないと思っても、住宅には車庫を設置する義務があり、車を手放すメリットがあまりありませんでした。けれども、このカーフリーハウジングプロジェクトでは、制度上、車庫を設置する義務が緩和され、カーフリーにすることの実際的なメリットが生まれました。
 それは、個人が車に係るさまざまなコストから逃れることができるというだけではなく、集合住宅の場合は、駐車場とそのために必要な車道を設置しなくてもよくなり、それで浮いた費用と土地を他のものに活かすことができることを意味します。この集合住宅では、訪問客とカーシェア用の駐車場25台分だけが準備され、そのかわりに、400台分の駐輪場、小さな商店、インターネットカフェ、コインランドリー、自転車修理のための作業場、サウナ、パーティルーム、屋上庭園が整備されました。また、住民の憩いの場となる、広くゆったりとした広場も設けられました。
 さらに、太陽光発電用のソーラーパネルが設置され、一年のほぼ大半の給湯がこれで賄われています。カーシェア用の電気自動車の充電も、ここで発電した電気が使われます。太陽光は天気に左右されるため、地熱発電の設備も設けられました。

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参考