【第67回】シェアリングエコノミーの最先端都市:韓国、ソウル特別市

 環境に大きな負荷をかける大量生産、大量消費、大量廃棄型の経済社会システムからの脱却が模索される中で、「シェア」という概念への関心が高まっています。これは「カーシェアリング」などに代表されるように、個々人による単独所有から、多くの人の間で共同利用する非所有型の経済活動で、インターネットやソーシャルメディアを活用することで、急速に拡大してきています。シェアすることでモノの数が減り、資源やエネルギー消費を減らし、CO2排出が低減されると同時に、ライフスタイルの変化も、環境負荷低減に貢献すると考えられています。
 本稿では、都市政策として「シェア」を取り入れている、世界有数の「シェアリングシティ」ソウルを紹介します。ソウル市長の朴元淳(パク・ウォンスン)氏は、2016年11月にスウェーデンのヨーテボリ持続可能発展賞※を、「世界で初めて大都市の都市政策としてシェアリングエコノミーを取り入れた」として受賞しています。

大韓民国、ソウル特別市(Google Map)

ソウル市による制度の基盤構築

共有団体や企業への支援

さらに、認定された共有団体や共有企業のうち、市民の生活と密接な関連のある事業の一部には、事業費も支援しており(2013年までに18機関、3億2,100万ウォンを支援)、対象事業の公募はその後も継続されています。また、共有経済関連の創業を促進するため、ソウル市の創業支援プログラムと連携して、共有事業での創業を準備している人にオフィス、コンサルティング、活動費などを支援しました。(2013年までに約20社の創業を支援)

共有都市基盤:ソウル市+シェアハブ+認定団体・企業 (http://english.sharehub.kr/how-it-works/

共有都市・ソウルで行われているシェア事業

ソウル市による認定団体及び企業数とその内訳

◎技術・経験・時間の共有:地元の人が案内する旅行サービス、必要とされる知恵や知識やスキルを持っている人を派遣するサービス、プログラマーやデザイナーなど、専門家を短期間必要とする人に派遣するサービス、自分が撮り貯めた写真を提供するサービスなどがあり、その他、学習支援、外国語支援なども実施されています。さらには、聴力や視力に障害のある人を支援するための点字媒体作成や読み上げサービスなどがあります。

◎未活用スペースの共有:自宅の空き部屋や庭のスペースを短時間提供するものから、店舗の一部の未活用部分や会議室、空き店舗の提供、駐車場の共有、さらには、日本で「民泊」と呼ばれている外国からの旅行者向けの宿泊場所の提供サービスなどが含まれます。また、住居空間に余裕のある高齢者と、住居空間が必要な若者が同居し、若者は高齢者のための生活サービス(買い物、外出の支援、掃除など)を提供するなどの事業。さらには、本棚の貸出などもあります。

子供服や不用品のシェアサイト

◎情報の共有では、映画の上映会や、クリエイティブコモンズのもとでの作品のシェアなどが行われています。

(※クリエイティブ・コモンズ(Creative Commons)とは、著作物の適正な再利用の促進を目的として、著作者がみずからの著作物の再利用を許可するという意思表示を手軽に行えるようにするための様々なレベルのライセンスを策定し普及を図る国際的プロジェクト及びその運営主体である国際的非営利団体の名称。)

市は「公共資産」の活用も積極的に進めており、業務時間外や休業日における公共庁舎の会議室・講堂、駐車場を開放。公共Wi-Fiを設置、市に関するデータをオープンデータ化するなど、シェア意識を市民に根付かせる様々な取り組みも行っています。それらが功を奏して、2014年から2016年には、「共有都市ソウル」への参加者がほぼ5倍になっています(以下図参照)

参加者数の推移(2014年から2016年)

ソウル市は、これらの取り組みにより、資源や情報技術などを効率的に活用して経済・環境面での課題を解決するだけでなく、新たな雇用を生み出し、所得を増やし、さらには急速な都市化と産業化により失われたコミュニティを再生することを目指してきました。行政が政策としてシェア文化を主導するという、世界にもあまりない例のない取り組みが、今後どのように展開していくのか、これからも注目していきたいと思います。

参考