【第68回】持続可能な社会への変革に対する「スマートハウス」への期待

宇郷 良介(うごう りょうすけ)

湘南工科大学工学部人間環境学科 教授
 NECにおいて、28年間、環境技術開発や環境経営戦略立案に携わった後、2013年から湘南工科大学人間環境学科に移り、技術のメリットとデメリットを定量的に評価し環境と調和する「適正技術の開発」に関する研究を進めている。その一方で、これまでの環境活動の蓄積を基に持続可能な社会造りに貢献できる後進の育成に向けた環境教育に注力している。

1.「スマートハウス」とHEMS(Home Energy Management System)

 持続可能な社会を目指すための家の進化形として「スマートハウス」が大きな注目を集めて早数年、今ではすっかり定着した感があり世の中の動きの早さを実感させられます。
 「スマートハウス」は、車のハイブリッド化の方向性と同様、これまでの豊かで便利な生活レベルを維持しながら、家庭内のエネルギーや資源消費の様々なムダを省き、効率化を進めることで持続性を高めていこうと発想されたものです。そのために家庭内の種々の機能をいかに「賢く」するかという技術開発が進み、鍵となる要素としてICT(Information & Communication Technology)に大きな期待が寄せられました。
 そうして実現された第一歩がHEMS(ヘムス)と呼ばれるICTとセンサ技術を組み合わせて構築された仕組みです。HEMSは家庭内のあらゆる機器の動作状況をセンサでリアルタイムに監視しながら、同時にICTによって最適に制御して無駄を省き、エネルギーや資源の利用効率を高めるよう機能する仕組みです。(図1)

図3.ZEH(Zero Energy House)の概念図
(出典:「住友林業-Green Smart」、http://sfc.jp/ie/lineup/smart/

2.「スマートハウス」の現状

図2.「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン」のイメージ
出典:「Fujisawa SST」公式サイト、http://fujisawasst.com/JP/

3.さらなる進化の可能性

 これからのスマートハウスは、新技術の開発や既存技術の高度化によってさらなる進化が予想されます。特に、これまでICT技術に実現されてきたHEMSの機能は、今後はAI(Artificial Intelligence:人工知能)やクラウド(Cloud)サービスといったより高度な技術やシステムによって進化がいっそう加速するものと考えられています。
 従来のHEMSでは、例えば電力について家庭内の電化機器の稼働状態の情報をわかりやすく「見える化」して生活者に伝え、意識向上による省エネ効果に期待される部分もありました。しかし、AIの活用が本格化してくれば日々の機器の使用パターンを自己学習し、使用者の生活リズムや癖を考慮して各種機器のエネルギー消費状況を予測しながら最適な制御を自律的に実行できるようになり、快適さと資源・エネルギー利用効率の最大化を両立させることも決して夢ではなくなります。
 さらに、スマートハウスはエネルギーの自給自足化への方向にも加速しています。単なる「省エネ」にとどまらず、太陽光発電などの「創エネ(発電)」、大型バッテリーの「蓄電」機能も備えたシステムに進化して、最終的にはZEH(Zero Energy House)が期待されています。
 また、HEMSの監視・管理・制御機能は電力やガス、水といった資源・エネルギーにとどまらず、家庭での日々の生活情報を基にした健康管理、子供や一人暮らし高齢者の安全管理にまで及ぶことも期待され、警備保障会社などから実際に様々なサービスが提供され始めています。
 このように、資源・エネルギーの使用効率を高めて環境への影響の最小化と、快適な空間の実現とを両立させるために、これからのスマートハウスは「家」自体が「頭脳と神経網」を備え、それを自ら進化させていくことになります。

図3.ZEH(Zero Energy House)の概念図
(出典:「住友林業-Green Smart」、http://sfc.jp/ie/lineup/smart/

4.「スマートハウス」の社会適合に対する課題と未来への期待

参考文献