【第78回】葛西「三枚洲」のラムサール条約登録の取り組み

飯田 陳也(いいだ のぶや) 

日本野鳥の会東京 幹事。茨城県生まれ。江戸川区葛西に住み始めてから野鳥の観察を始め、葛西臨海公園・鳥類園オープンと同時に探鳥会を開催し、現在に至る。野鳥の生息環境を守ることと、自然に触れ、身近な環境に関心を持つ人を増やすことをめざして「葛西東渚・鳥類園友の会」を立ち上げたほか、東京都に対して、2020年東京オリンピック開催に伴う園内でのカヌー競技場建設の見直しを求める活動に奔走し、園隣接の都有地への計画変更を実現させた。日本野鳥の会会員、日本野鳥の会東京幹事、東渚・鳥類園友の会会長。

葛西臨海・海浜公園と三枚洲

葛西臨海・海浜公園
東なぎさの前に広がる三枚洲
昭和22年11月の東京湾(提供:国土地理院)

カヌー競技場問題への対応

 2016年のオリンピック招致では、東京はリオデジャネイロに負けましたが、葛西臨海公園にカヌー競技場の建設が計画されました。2009年に計画が発表されたのを機に、私たちは反対運動を開始しました。
 「ここは東京都自身が生き物の聖地として作った公園であり、その3分の1もの緑豊かな公園をつぶして競技場を作るのはオリンピックの理念に反するばかりでなく都政にとっても自己矛盾である」
 そう抗議し、多くの生き物調査資料を添えてマスコミにアピールして、多くの人々から共感を得ることができました。
 この取り組みがあったことで、2020年の東京開催が決定した時からいち早くマスコミは葛西に注目し、その結果、私たちの要望通りカヌー競技場は公園の外に変更となりました。
 「ここが生き物の聖地として造られた経過にも触れて見直しを決めた」と言った知事の発言は、この地の環境を守る私たちにとって大きな励みと思っています。

開発を免れたトンボ池での昆虫観察会

住民所有の風力タービン

 サムソ島が計画よりも早く自然エネルギー100%を成し遂げたのは、住民自らがインフラに投資する決断をしたからです。現在、風力タービンのうち9基は農家が個人で所有、2基は協同組合が所有して売電収入の一部を島のエネルギー開発に充てています。さらに海上にある10基の洋上風力タービンは2基を協同組合が、3基をサムソ島内の民間会社が共同所有、残りの5基はサムソ市が所有して、デンマーク本土に売電して収益を得ています。
 自然エネルギーの導入によって、住民には副次的な経済効果ももたらされました。地域には雇用が生まれ、地域経済の活性化に結びついています。また、高価な化石燃料を購入する必要がなくなるという経済メリットも享受できています。さらに「自然エネルギーの島」として世界的に有名になったことで、観光客だけではなく、視察団や研究者の訪問が増え、ホテルやレストランは観光時期を延長させることが可能になり、収益が増大しています。

コミュニティパワーを引き出す

 プロジェクト開始当初、ハーマンセンは懐疑的な住民を前に、島民自らがお金を出し合い、自分たちで風車を建てることにこだわったと言います。
 「自分たちのものでなければ、風車なんて邪魔ものだ。どこかの会社の人間がやってきて建てた風車など、それが回るときの音がうるさくて腹が立つ。でも、それが自分のもので、風車が回れば収入になると思ってごらんよ。今度は風車が回る音がしないと気が気じゃなくなるものさ」(サムソ島とハーマンセンの取組を、取材を通して描かれた絵本「風の島へようこそ」から)
 この実現のために、ハーマンセンは奔走しました。事務所には、多くの人々が集まり、様々な情報交換が行われました。バイオマスや太陽光など、自然エネルギーを導入したい人々への説明会やワークショップ、ソーラーパネルやバイオマスなどの設備を実際に導入した人々への訪問。風車導入の際には事前に何度も相談を重ね、地域の人々の自然エネルギー導入の必要性への理解を深めていきました。
 「自分たちの使う電力は自分たちで作る」と、住民たちが考えるようになったのは、この粘り強い取り組みがあったからです。

ラムサール条約登録への動き

スズガモの群れ飛ぶ様子
東なぎさクリーン作戦
三枚洲の視察の訪れた、ラムサール条約事務局オセアニア地域担当官ソロンゴさん(右)と、筆者(左)
info