【第33回】目的は、ゴミを拾う人たちを増やし、ゴミのない街を実現すること ~ゴミ拾いアプリ『ピリカ(PIRIKA)』の挑戦(株式会社ピリカ)

2013.07.01

ゴミ拾いアプリ『ピリカ』のスタート画面。海鳥のエトピリカをイメージしたデザインと、シンプルで響きのよい名称が親しみやすさを増す。
マップ表示では、世界中にゴミ拾いが広がっているのがわかる。
タイムライン表示では、ゴミがリアルタイムに次々拾われていく様子がわかる。
ゴミを拾うと“ありがとう”のメッセージが次々に届き、励みになる。まさにSNSツールの本領発揮といえる。

もともと環境分野で何かしたいと思っていた小嶌さんがゴミ拾いアプリ『ピリカ』を発想することになったきっかけは、大学院を休学して出かけた世界一周旅行の旅先で散乱するゴミの問題に直面したことにあったという。アメリカからブラジルに渡り、南アフリカやボツワナなどアフリカ大陸南部の国々を巡って、ヨーロッパからアジア諸国をまわった、約2か月半。旅の途中、世界中のどこにいってもゴミがあった。
 心痛める情景に腹が立った反面、世界中のどこにでも“ゴミ問題”という共通する問題があることにある種興味深さを感じたという。何か一つ解決策を見出して、それを世界に対して提案できれば、グローバルな市場の広がりが期待できるというわけだ。
 「環境分野で仕事をするにも、研究者としてアプローチする方法もあれば、環境関連の事業をしている会社に就職して働く道もあります。ただ、自分の性分としては、机の前にじっと座っているのも苦手でしたし、会社という組織の中で働くのも向いていないように感じました。自分でやるのが一番だろうと、そのアイデア探しも兼ねての世界一周旅行でした。学生ですから、資金力もありません。初期投資をそれほどかけずに始められて、でもそれが何かしら問題解決につながるような事業にしたいと思ったんです」
 2010年12月に帰国して、何を始めようかと悩んだ中で、一番有望そうだった『ピリカ』の原型の開発に着手した。始めはもちろん『ピリカ』という名前もなく、ゴミをテーマに扱うことも決めてはいなかった。ITを使って、環境のデータを位置情報によってマッピングしていけば、自然とデータが集まっていって、問題の可視化につながる。正確な現状の把握が、問題解決の第一歩だから、それができるようなプラットフォームを作ろうというのが、最初の発想だった。
 街に繰り出して、環境の問題を探しながら写真を撮って歩いてみると、撮った写真の9割以上がゴミの写真だった。たまに落書きがあったり、放置自転車があったりしたものの、ほとんどがゴミの写真ばかり。問題の総量がまるで違っていた。しかも、問題解決に必要なコストも、ゴミならただ拾ってもらえばよいのに対して、落書きを消したり、放置自転車を処分したりするにはそれなりのお金もかかる。
 ゴミが一番シンプルだし、やることは一つに絞った方がよいと、ゴミ拾いに特化した『ピリカ』の原型ができあがっていった。

 シンプルな機能ながら、『ピリカ』を使ってできることは意外に応用の範囲が広い。自分の拾ったゴミは、ビン・缶、ペットボトル、ビニール袋、タバコの吸い殻、燃えるゴミ、燃えないゴミなど種類ごとにカウントして登録することができるから、過去に拾ったゴミの数や傾向も如実に見えてくる。
 自宅や職場の近くでのゴミ拾いだけでなく、出張先や旅先など、ちょっとした時間でも気軽にできるのがゴミ拾い行動の特徴といえる。いろんな場所でゴミを拾うことで、自分のゴミマップの広がりが目に見えてくるから、ちょっとした達成感も得られる。
 これまでに拾ったゴミの数々が写真アイコンで一覧表示され、各地のゴミ拾い仲間たちから届いた“ありがとう”のメッセージやコメントの数も一目でわかるようになる。

 現在、2万を超えるユーザーが、一日に2,000~3,000個のゴミを拾っている計算になる。その累積総数は、65か国で30万個以上のゴミが拾われてきたことになる。

拾ったゴミの種類ごとのアイコンを選んで登録し、種類ごとにゴミの数をカウントできる。
ゴミを拾えば拾うほど、自分のゴミ拾いマップが広がっていく。
これまでに拾ったゴミの数々。
自分が過去に拾ったゴミの数や傾向がわかる。

 『ピリカ』のめざすところは、開発当初も今も一切変わってはいない。小嶌さん曰く、「目的は、拾われるゴミをいかに増やすかに尽きます」と明瞭だ。
 「これまでゴミ拾いや清掃活動をしていて、ともすると月に何回実施して、何人が参加したというだけで終わっているケースも少なくなかったと思います。『参加者の皆が笑顔になったからそれで十分』という考え方も確かに素晴らしいし大切なことだと思うのですが、ぼくらはより問題の本質的な解決をしたくて、この『ピリカ』を作りました。『ピリカ』によって、拾ったゴミの量を定量化して、その成果が可視化できれば、目標に向けて一歩一歩進んでいくことができますよね。単純な話、捨てられる以上に拾えばいいわけじゃないですか。ただ、捨てられているごみが膨大ですから、追いつくのはなかなか大変です。ここのところ年に10倍のペースで増えていっていますから、このままのペースで右肩上がりにしていくのが今の目標です」
 個人向けに提供しているサービスだから、まずは個人のユーザーを増やすこと。同時に、一人一人が拾うゴミの数を増やしていければ、ゴミの数は幾何級数的に増えていく。実際に、ユーザーの増加以上に、1人当たりが拾うゴミの数が増えているという。
 「『ピリカ』を使うようになって、ゴミ拾いという行為にのめり込むようになったとか、これまで朝の10分ほど拾っていたのが20分続けるようになったとか、週に数日だったゴミ拾いが毎日の習慣になったとか、そんな声も寄せられていますから、ゴミ拾いを後押ししたり、継続させたりするためのモチベーション向上の面では割とうまくいっていることを感じます。一方で、まったくゴミ拾いに興味のない人たちに対して訴求する部分では、まだ十分な成果は得られていません。そちらの方がハードルが高いというのが、ここ1~2年の活動でわかってきました」

株式会社ピリカのCEO、小嶌不二夫さん

 今後、『ピリカ』に蓄積されていくゴミのデータがさらに増えていくことで、地域のゴミの現況分析や解決策の立案への活用も期待される。しかもこれらのデータは、『ピリカ』の利用の拡大・増大に伴って、全国のデータとの比較で捉えることができるわけだ。
 大きな可能性を秘めた『ピリカ』の今後が期待される。

注釈

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