【第46回】“よいことをする”ための購買であるよりも、ファッションが好きな人たちが気に入ったモノを選んだ結果が社会にとってもよい効果を生むことをめざして ──日本のエシカルファッションを盛り上げる取り組み(Ethical Fashion Japan)

2014.02.03

 ファッション業界で最近注目を集めている言葉の一つに「エシカルファッション」がある。エシカル(ethical)とは、英語で「倫理的な」「道徳上の」などと訳される。倫理的なファッションというとわかりにくいが、ニュアンスとしては、“良識に基づいて選ぶファッション”とか“良心に恥じないファッション”といった意味で使われる。具体的にあげると、オーガニックコットンやリサイクル素材など原材料へのこだわりだったり、フェアトレードによる生産者保護の取り組みをしていたり、天然染料や植物性薬剤などを使う商品製造の際の環境配慮だったりと、環境や人によい取り組みを取り入れたファッションの総称というわけだ。
 世界各地でエシカルファッションショーが開催されるなど業界の取り組みや消費者の注目も高く、そのコンセプトにのっとったブランドも数多く生まれてきているが、日本ではまだまだ十分な認知度があるとは言えないのが実情だ。
 そんなエシカルファッションの考え方を広めたり、エシカルファッション・ブランドを紹介したりするのが、『Ethical Fashion Japan(以下、EFJ)』のミッションだ。ところが、代表の竹村伊央さんは、“私たちはエシカルファッションがない社会を目指しているのです”というから驚く。
 「“エシカル(ファッション)”というのは、本来、ものづくりの方法や姿勢を表す概念です。“○○系”といったファッションスタイルの分類を指すものではありません。今はまだエシカルファッションという考えも浸透していませんし、エシカルファッションを扱うブランドとそうではないブランドが線引きされているような状況ですが、エシカルファッションが本当に普及した状態というのは、ことさら強調しなくてもエシカルであることが当たり前な状態です。そんな、エシカルなんて言わなくてもよい社会になることが私たちのめざすところなので、逆説的に“エシカルなんて必要ない”と掲げているわけです」

 そんなエシカルファッションの実情と可能性を伝えたくてはじめたのが、EFJだった。公式サイトは、「エシカル」や「エシカルファッション」という言葉も知らない人たちを対象に、今のファッション文化の中にいかに「エシカル」を落とし込むかを目的に、ファッションの好きな若者層でも入り込みやすくなるように、なるべくビジュアルを多く、簡潔にわかりやすくデザインしている。メインコンテンツの一つに、『DIRECTORY』というエシカルファッション・ブランド大辞典を設けている。国内外のエシカルファッション・ブランドが扱う服などについて、写真を前面に打ち出してビジュアルで表現しつつ、ブランドの特徴やこだわりについて簡潔な文章で伝えたものだ。このDIRECTORYとともに、デザイナーさんによる連載記事やインタビュー記事なども掲載している。

 EFJの活動はウェブサイトによる情報発信だけにとどまらない。エシカルが知識で終わってしまうのではなく、行動を伴うことで生きてくるライフスタイルのあり方を問うものだから、実際に服を選んだり、エシカルファッションに関わる人たちと交流したりしながらエシカルの意味を考えてもらうことが大事だとの考えゆえだ。最初にはじめたのは、数人が集まっての交流会。互いに友達を紹介しあうようなかたちで、回を重ね、そのたびに参加人数も増えていった。一時期は月1回の定期開催となり、50人ほどが集まるようになっていた。エシカルファッション・ブランドと提携して、エシカルファッションとかエシカルなアパレルビジネスのあり方などを考えるためのワークショップなども開催した。

交流会の様子。
クラウドファンディングで年2回刊行する『Emagazine』。コンセプトは「ファッション×社会問題」。2012年秋冬号は「ファッション×福祉・障害」(写真左)、2013年春夏号は「ファッション×売春」(写真中央)がテーマ。2013年秋冬号は、「ファッション×動物」を予定していたが、寄付の目標が未達成のため未刊行。

 エシカルファッションは、“自分を綺麗に着飾る”ことを追求しつつも、生産に携わる人たちや地球環境のことにも意識を向けるライフスタイルを指す。エシカルファッションを選ぶことで、企業の行き過ぎた利益追求の姿勢に対して待ったをかけたり、エシカルファッションを着ることで社会に対する役割を果たすことにつながったりする。それも、ことさら社会貢献・環境保全などと声高に叫ばなくても、好きな服を選ぶことを通じて気軽に取り組めるのが特徴だ。
 「日本のエシカルファッションは、まだまだファッションとしてよりも、社会的意義とか支援等のための寄付として買ってもらうイメージが強いと思います。でも、そんな“よいことをする”ための購買であるよりも、ファッションが好きな人たちが「かっこいい」「かわいい」と思って商品を買うようであってほしいんです。エシカルファッションだから買うのではなく、好きなものを選んだら結果的にエシカルファッションだったというような。もちろん、エシカルな製品の背景にある意味や関わる人たちのストーリーを知ってもらうことで製品への感動や愛着、思い入れを持ってもらいたいとも思います。でも、それが第一義ではないんです。あくまでもファッション性を第一に選んでもらう。ただ同時に、ちょっとでもエシカルに対する興味を持ってもらえれば、ファッションから食や生活全般のことにも思いや意識が広がっていくと思うのです。私自身がそうでしたから」
 そんなとっかかりになるような、有名ブランドにも負けない、かわいくてカッコよいエシカルファッション・ブランドが、誰でもどこででも簡単に入手できる環境を作っていきたい。そのための支援をしていくのが、EFJの目標であり、ミッションだと話す竹村さんだ。

EFJ代表の竹村伊央さん。エシカルファッション専門のスタイリストとして、エシカルファッション先進国・イギリスで活動してきた経験を生かして、日本で日本なりのエシカルファッションを広めていきたいと話す。

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