【第49回】来場者自身がごみの分別にかかわる経験が、社会を変える第一歩に(ごみゼロナビゲーション)

2014.05.30

 毎年7月下旬または8月上旬に新潟県湯沢町の苗場スキー場を会場に開催される『フジロックフェスティバル』。日本のロックフェスティバルの先駆けとして、広大な敷地内に設置される複数の会場で3日間にわたって国内外のミュージシャン200組以上がライブ演奏を繰り広げる。総動員数十数万人にのぼる日本最大規模の野外音楽イベントだ。
 演奏ステージは主なものだけでも6つあり、それらのほかにも観客数10数名ほどの小ステージが多数設置され、これら大小さまざまなステージでライブ演奏が同時進行する。会場内にはステージごとに多数の飲食ブースが出店するほか、テント設営区画も設けられ、周辺の自然豊かな環境と併せて、ライブ鑑賞だけでなく、周辺散策やキャンプなどのアウトドアライフを楽しみに参加するリピーターも多い。
 このフジロック、実は“世界一クリーンなフェス”を標榜していることでも知られ、ごみの分別など環境対策の取り組みが注目を集める。その環境対策のパートナーとして1998年の第2回から運営に参加しているのが、『ごみゼロナビゲーション』だ。
 「1994年に、ごみゼロナビゲーションを始めた頃は、野外フェスの会場にはごみが散乱していました。会場をクリーンに保っていくための活動として資源を集めてリサイクルする活動をしていましたが、なかなか効果は見えてきませんでした。拾った瞬間はきれいになっても、捨てる人の意識が変わらない限り、根本的な解決にはつながらないからです。このため、例えば、ごみ箱の配置にしても、目立たない端の方に押しやるのではなく、資源として分別しやすく、自発的に捨てに来てくれるような環境をつくって、来場者が自ら分別してくれるような参加型の活動に軌道修正していったのです。その一つの転機になったのが、フジロックでした。主催者の理解と賛同を得て、来場者とともにフェスを作っていく取り組みをしてきています。その他にも野外音楽イベントを中心に、ここ数年は年間20~25本のイベントの環境対策の企画・運営に協力しています。ボランティアは年間でのべ約1,500人が参加、コーディネーターとなる運営スタッフが40人ほどいて、それぞれ4~5のイベントを担当しています」
 そう話すのは、事務局長の濱中聡史さん。

 1994年に国際青年環境NGO『A SEED JAPAN』【1】の一プロジェクトとして始まったごみゼロナビゲーション。2000年代に入った頃からイベントの依頼も増えていったという。野外フェスの開催自体が増えてきていたことも背景にはある。多いときには年間30本以上のイベントに関わったこともあったが、運営スタッフが気持ちよく活動できる適量として、今は年間20~25本ほどに抑えている。
 ちょうどこの1月、ASEED JAPANの一プロジェクトから、NPO『iPledge』【2】として分離・独立し、新たな歴史を刻み始めている。これまでの経緯と今後の展望について話を聞いた。

自然豊かな会場で、来場者にごみ分別を呼びかけるボランティア。

 ごみゼロナビゲーションが実施する環境対策は、きれいな環境でライブを楽しむことをめざす活動だが、ボランティアはごみを拾う──いわば清掃活動を行う──わけではない。名前の通り、ごみのないフェスに向けて、来場者を“ナビゲート”するための活動をつくっている。
 「ごみゼロナビゲーションでは主に以下の3つを活動の柱にしています。一つ目が『ごみ・資源の分別ナビゲート』。ぼくたちはごみを拾いません。分別のナビゲートをします。会場のごみ箱にボランティアが立って、来場者が気持ちよく分別に参加してもらうための声掛けをしています。誰かが会場をきれいにしてくれるのではなく、来場者一人ひとりが分別に参加することで会場がきれいになっていくことを経験してほしいのです。通りがかりに一声かけるだけですから、ほんの数秒のコミュニケーションです。でもそのわずかなふれあいを通じて、環境に対して意識を持ってもらうきっかけづくりに関わったり、いち早く来場者と出逢っていっしょにイベントを盛り上げていく火付役となったりします。2つ目はオリジナルごみ袋の配布。表面に印刷したメッセージを通じたエコアクションへの参加呼びかけをすると同時に、手元に配ったごみ袋が自主的な参加を実現するためのツールになります。そして3つ目が、ブースを設置して呼びかけるecoアクションキャンペーン。イベントという非日常空間だからノリで参加してくれることも多いのですが、その気持ちを自宅や地域にも持ち帰ってもらいたいという思いで実施しているものです。会場から出た資源を細かく分別する体験をしてもらったり、環境のクイズに参加してもらったりと、一人ひとりのライフスタイルと社会問題のつながりを知るきっかけを提供しています」

会場の様子。

 広大な会場のあちらこちらで朝から晩まで続くライブステージ。森の中の自然を感じるなど音楽以外の時間を楽しむのも野外の音楽フェスの魅力の一つだから、ステージ間の移動の途中などに寄ってくれる人も少なくはない。
 大切なのは、日常に帰っても“おかしいところ”に気づける視点を持ち帰ってもらうことだという。その気づきが、行動=アクションになって、一人ひとりの声が集まることで、社会を動かす力になる。単にイベント会場をクリーンにするだけでなく、そんな社会のムーブメントを生み出すことへとつなげていこうというのが、ごみゼロナビゲーションのめざすところだ。

会場内25個のごみ箱のうち、6つ以上のごみ箱には公募したデザイン案をペイントしている
(写真は、2013年のごみ箱ペイントより)。

イベントごとのオリジナルのごみ袋。フジロックのごみ袋は、前年度に集めたペットボトルをリサイクルして作られたものだ。紙コップも、トイレットペーパーにリサイクルされて次の年の会場で使われる。
ecoアクションキャンペーンのブース。ペットボトルはラベルをはがしてキャップを分ける。
割りばしや紙コップもそれぞれ分別してリサイクルする、そんな分別体験をしたり、環境クイズに挑戦したりしてもらう。
イベント会場だけがきれいになればよいのではなく、日常生活に戻った時にも環境に対する意識や行動を持ち続けてもらうことで社会を変えていきたいという思いで呼びかけるブース出展だ。

 ごみゼロナビゲーションのボランティアは、音楽への興味・関心を入口に参加してくる人が多い。もちろん、環境ボランティアの活動に参加しようという人たちだから、環境に対する意識や関心もないわけではないが、“世のため人のためのエコ活動”というと構えてしまう。これまで具体的なアクションには踏み込めなかった人たちが、好きな音楽イベントに関われるならと参加するケースも多い。
 野外フェスは、会場内に音楽がガンガン響き渡る。ステージ前のごみ箱に配属されたボランティアの中には踊りながら分別を呼びかける人もいる。“仕事”として厳めしい表情で突っ立っていられるよりも、楽しみながら活動する雰囲気が来場者にも伝わることで、会場を一つにする協力関係が創り上げられるわけだ。
 「フジロックの場合、運営スタッフもボランティアも、東京からチャーターしたバスに乗って移動します。ボランティアは、10人ずつの班をつくって行動し、3日間ともに過ごして連帯感をつくれるようにしています。次第に団結が強くなっていき、熱く濃い時間を送ることができるのもこのイベントの特徴です。ただ、リピーターばかりの活動にならないように気をつけています。環境ボランティアの入門的活動ですから、なるべく多くの人に参加してもらいたいという思いがあります。ベテランボランティアは頼りになる反面、どうしても感動は薄れていきますから、新しい人に席を譲っていただき、輪を広げていくことを優先しています」

 山の中で開催するフジロックは首都圏を中心にボランティアを募集しているが、他のイベントではなるべく地元のボランティアを募集している。首都圏から参加するとその分負担を強いることになるし、地元ボランティアに関わってもらうことで、地方への広がりとその活動の担い手の育成もできる。地方で開催したイベントにボランティアとして関わった人たちが核になって独自の活動に発展した例もあった。そんな地方の活動を応援もするし、ぜひマネをして活動を広げていってほしいと思う。全国のイベントにごみゼロナビゲーションの取り組みが展開していくことはむしろ歓迎だという。

ボランティアの活動の様子。

 濱中さん自身はボランティアから運営スタッフになったが、そのようなケースは実はそれほど多くはない。運営スタッフには、それなりに密な関わりが求められる。全体ミーティングへの出席も必要だし、複数のイベントに参加することにもなり多くの時間を使うことになる。音楽への興味を入り口に参加してくる人たちにとって、楽しい一日を過ごすという意味では、ボランティアという立場の方が気が楽だ。だが、運営スタッフには、1日だけの活動では得ることができない達成感や、同じ運営スタッフと共に感じる一体感、そして深く関わるからこその成長がある。

楽しく、かつ社会を変える意義を感じながら、達成感のある活動をめざす。

 2014年春、ごみゼロナビゲーションでは新たに公益財団法人東京都公園協会とのコラボレーションによる、“お花見”ごみゼロを実施した。花見に訪れる見物客で賑わう代々木公園、光が丘公園、善福寺川緑地の3つの公園で、4週間にわたってごみ資源の分別回収とごみ袋の配布を行うもの。
 花見会場ではお酒も入って、屋外の解放感から羽目を外しがちである。周辺はごみの海というのが実情で、公園を管理する東京都公園協会にとって悩みの種でもあった。
 公共のお花見空間だからこそ、自分たちの出したごみは自分たちで所定のごみステーションに持って行って分別し、みんなが気持ちよく花見を楽しめるようであってほしい。そんな気持ちがつながって、全国の花見会場へと連鎖することを願った取り組みだ。ごみゼロナビゲーションとしても、音楽フェスだけでなく、より日常に近い場での環境対策への取り組みの一環としてはじめた。

 「イベントの環境対策はごみゼロナビゲーションの原点ですので継続していきますが、今後は“行楽の場”での環境対策に力を入れていきたいですね。今春から始めた“お花見”ごみゼロもそうですし、例えば夏の海のビーチの環境対策にも関われたらと思っています。対象が広がって難しくなる反面、市民意識を高める効果はより高まることが期待できます。毎回のイベントでは活動の終了時に運営スタッフ・ボランティアが集まって、一日をふりかえってその日のできごとを全体でシェアしていていますが、ボランティアたちからは『見た目は怖そうな人が声をかけると気持ちよく分別してくれた』『ありがとうと声をかけてもらったのがうれしかった』、そんな声も聞かれます。分別を呼びかけるときも、一方的にやり方を押し付けるのではなく、来場者一人ひとりが気持ちよく分別できる環境を提供し、サポート役に徹することで、クリーンな会場づくりの担い手として自発的な活動をいっしょにつくりあげていってもらうように盛り上げていくわけです。こうしたスタンスは、音楽フェスの会場でやっていることと何ら変わりはありません」

お話を伺った、事務局長の濱中聡史さん。お花見ごみゼロの取り組みは、濱中さんが担当者として全体を取り仕切った。

 ただ、スタッフの人数は限られているから、活動場面が増える分、関わるプレイヤーも増やしていかなくてはならない。お花見ごみゼロの活動では、公園協会の協力で、普段から公園で活動している人たちや、大学のボランティアサークルで活動している人たちに協力を呼びかけた。地方のイベントで地元NGOなどに声をかけていったように、現地で地域に根ざした活動をしている人たちといっしょに問題解決に向けた活動をしていきたいと話す濱中さんだ。

 イベント会場という閉鎖空間からより不特定多数の人たちが出入りする場での活動への広がり。ただ、対処療法的に目の前のごみを拾ってきれいにしていくのではなく、場に関わる全ての人に呼びかけ、分別の体験をしてもらうことで何かしらの気づきを与え、社会の問題として考えてもらうことをめざす姿勢は変わらない。ごみゼロナビゲーションの分別体験をした一人ひとりが、日常の中で一歩行動へと踏み出していくとき、社会が変わる兆しが見えてくる。

お花見ごみゼロの活動の様子。

注釈

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