【第55回】市が主催する環境学習講座の修了生による、地域環境保全の活動をともに進めるための取り組み(たちかわエコパートナー)

2014.012.12

 平成19年の春先、立川市の広報誌に「たちかわエコパートナー講座」の開講と参加者募集の呼びかけが告知された。主催は立川市環境対策課。2年間にわたるこの講座は、毎月1回ほど、座学やワークショップ、フィールドワークなどによって環境を総合的に学ぶというもの。2年目の夏休みには、受講生それぞれが設定するテーマの自由研究を企画・実施して、レポートにまとめる。出席率やレポートの提出など修了条件を満たすと市発行のエコパートナー認定証が授与される。
 かつて東京都環境局が開講していた「東京都環境学習リーダー講座」(平成6~15年度)が終了したことを受けて、都の講座をモデルに設計されたものだ。平成20年度末に第1期生約30名が修了して、現在は第6期生が学んでいる。
 エコパートナーに認定された修了生たちは、講座が終わった後も市や市内の環境団体等と連携した地域の環境保全にかかる実践活動に取り組んでいく。市民による自主的・自立的な環境保全活動を率先し、促していくリーダー的な人材を育成していこうというのが、この講座の目的だ。
 ただ、個人としての活動だけでは限界もある。点の活動を線に結び、面へと広げていくための連携・連絡組織として平成21年3月に立ち上げられたのが、任意団体「たちかわエコパートナー」だ。講座で学習したことを生かしながら、地域の環境保全活動に関する情報の共有や意見交換をしながら立川市の環境保全活動・環境学習活動を盛り上げていこうというわけだ。
 「現在、20名ほどが年会費1,000円を納めて会の活動に参加しています。この会費と市の事業などへのサポートでいただく若干の経費が活動資金になっています。潤沢ではありませんが、ボランティアの活動としてやっていますから、活動に当たって問題はありません」
 たちかわエコパートナーの事務局長・溝渕浩一さんが、会の運営についてそう話す。
 「母体のエコパートナー講座では、ちょうど第6期生がこの12月に修了式を迎えます。毎年、修了式の日には私たちのような既に修了したメンバーも参列しています。修了式の後には会食会を企画していて、今年はすいとんを作って食べようと準備しています。いっしょに料理をして、おいしくいただきながら懇親を深めて、修了後のエコパートナーとしての活動を共に担っていこうというのがねらいです。もちろん、6期生全員に対して会への参加を呼び掛けるのも目的の一つです。会の活動に参加する新たな仲間たちが加わってくれることを期待しています」
 そう話すのは、代表の中村恭之さんだ。お二方とも第1期生として講座を修了したあと、創立時からのメンバーとして活動している。

たちかわエコパートナーの中村会長
たちかわエコパートナーの溝渕事務局長

会の主な活動は、環境フェアなどイベントへの出展、学校や児童館などで実施する環境学習支援や自然観察会の企画・運営のサポート、そのほかエコパートナー講座でも講師やフィールドワークのガイド役などで協力している。

 毎年春に開催している「環境フェア」※1への出展では自然工作のワークショップや作品紹介、パネル展示や樹木クイズ、緑のカーテンの作り方に関する展示、ゴーヤ・フウセンカズラ・アサガオなどの種及び堆肥の配布などを実施してきた。
 「環境フェアは、子ども中心に呼びかけるイベントなので、子どもたちが楽しんで参加できる企画として工夫しています。今年はドングリ細工などを中心に、手を動かしながら楽しめるワークショップを実施しました。当日は総勢120~130人ほどが参加してくれました」
 毎年2月に開催される「くらしフェスタ立川」は、市民の消費生活に関する普及啓発を目的にしたイベントだ。これまで、「緑のエコライフ」をテーマに樹木のCO2吸収量の計算プログラムやパネル展示をしたり(2012年度)、ごみ減量クイズやダンボールコンポストの展示をしたり(2013年度)と、エコライフ実践のためのヒント提供や呼びかけをしてきた。

2011年度環境フェア
2012年度くらしフェスタ
2014年度環境フェア

小学校の環境学習支援では、4年生の緑のカーテン栽培と5年生のバケツ稲※2の授業をサポートしている。講座を担当したメンバーからは、次のような報告がなされた。
 「緑のカーテンの学習は、5月15日に種まきからスタートして、教室で苗を育てて、プランターに定植して、緑のカーテンになるように育てていきました。子どもたちは夏休みも交代で水やりをして、夏休み明けの9月早々に料理実習をしました。その後、10月になって次年度のための種採りをして、種から種までの一連の作業を子どもたちに体験してもらっています。先日、10月29日には、緑のカーテン学習の振り返り・まとめの授業があり、参加してきました。当日は思いがけず子どもたち全員から一言ずつ発表をしてもらうことになり、一人ひとりの話が聞けてよい時間になりました。育てておもしろかったという話が多かったのですが、中には緑のカーテンが地球温暖化に役立つということを話す子もいました。後日、彼らが作った観察日記を見せていただきましたが、そこにも地球温暖化に触れているものが結構ありました。もちろん、種から育てたのは初めての体験だったので、こんなふうに大きくなるんだとびっくりしたという感想も多くありました。学校からは、来年もやってほしいという話をいただいているので、またお手伝いをすることになるのかなと思っています」

市内の小学校で環境学習支援
2014年9月5日の料理実習
市内の小学校で環境学習支援
2014年6月4日のバケツ稲田植え
柄を押し下げるようにしてやると
テコの原理で抜けやすくなる
柄を押し下げるようにしてやると
テコの原理で抜けやすくなる

目黒区自由が丘で、VDFを燃料にした「サンクスネイチャーバス」が運行を開始したのは1997年に遡る。地域で店を出す有志が中心となって、行政の力に頼らず地域のみんなで知恵とお金を出し合って、地域住民や自由が丘を訪ねてきた人たちの足となるバスを走らせようという企画だ。運営母体は、後にNPO法人サンクスネイチャーバスを走らせる会へと発展し、2014年には累積の乗車人数が100万人を突破した。
 当時は、まだ自社での使用実績しかなかったVDFをバスの燃料として使用したいと染谷さんに相談があったのは、運行開始の2年前の1995年のことだった。単に環境負荷の低減というだけでなく、地域住民や商店の参加を得ながら取り組むことができる資源循環の取り組みを大きく評価してもらったのだ。
 同会では現在、年6000円で参加できる「個人サポーター」から、理事として運営に参画してバス停の開設もできる「メジャーエリアサポーター」(15万7500円/月)まで数種類のサポーター制度を設けて、会の活動への参加・参画を呼び掛ける。住民も、地域のお寺や区のリサイクル施設などに設置した廃食用油の回収拠点まで使用済みのてんぷら油などを持ち込んで協力している。

 VDFは、車を走らせるための燃料だけでなく、ディーゼル発電機を動かすことで、さまざまな用途活用へと応用できる。
 毎年4月22日の地球について考えて行動する日・アースデイを祝して開催される「アースデイ東京」は、2日間の会期で10万人ほどが集まる一大イベントだ。会期中の音響やブースごとに音楽や映像を流したりするのに必要な電力をVDFで発電して供給するため、会場内の数か所で発電機を回している。
 目黒川沿いの桜をLEDライトで装飾し、冬に咲きひかるさくらの並木道を作る「目黒川みんなのイルミネーション」は、2010年にスタートした。1.3㎞にわたって、両岸の桜の木にLED電飾をつける。17時から22時までの夜の5時間に点灯する電力のエネルギーにもVDFを使っている。
 学園祭のエコ化の一環として2006年に始まった「キャンパス油田」は、学園祭で使った油をVDFに資源化して、次回の学園祭の照明や音響などのエネルギーとして発電する取り組みだ。年々参加大学の数も増え、2014年の参加は21校にのぼる。キャンパス油田は、エネルギー循環の取り組みを通じて学園祭の盛り上がりとエコ意識の向上につなげるのと同時に、地域住民から廃食用油の回収を行うなど大学と地域とのつながりの強化やコミュニケーションの広がりにも役立っている。
 日本最大級の野外音楽イベントであるフジロックフェスティバルでも、2005年から舞台照明の発電にVDFを一部導入している。

TOKYO油田2017の技術的な柱がVDFの開発とすれば、ソフトの柱となるのが、使用済み食用油を回収する仕組みづくりにあった。
 “油田”開発とはいえ、油の消費を増やしたり、使用済み油を多く集めたりするのがよいわけでは必ずしもない。食用油だから、できれば食べて使い切ってもらいたい。それでも捨てる油が出るのであれば、VDFに加工して、エネルギー資源としてリサイクルしていこうという取り組みだ。静脈産業といわれる再資源化用途を太くしていくための取り組みであって、闇雲に増やしていこうというものではない。同時にVDFをエネルギー資源として活用するだけでなく、油の回収とともに取り組むことが重要だ。アースデイ東京や目黒川みんなのイルミネーションなどでも、単にイベントに使う分のVDFを化石燃料からVDFに転換するだけにとどまらず、地域の住民や事業者に協力してもらって、使う分の油を集めることで、資源循環の取り組みになる。
 「2006年のアースデイ東京で『てんぷら油リサイクル大作戦』を展開したのが一つのきっかけになりました。エコのイベントなので、化石燃料などを使わずに環境負荷の少ないエネルギーを使いたいとVDFを使っていただくことになったのですが、ただお金を出して燃料を購入するだけでなく、地域の人たちに協力してもらって集めた油を原料にして燃料ができたらいいよねということで始まったプロジェクトでした。2日間で使用する予定の約1トンのてんぷら油の回収を目標にしましたが、2日間のイベントに持ってきてもらうだけでは足りそうになかったので、イベント前の2か月間、回収の協力を呼びかけたのです。すぐにカフェや雑貨屋さんなど8か所に回収ステーションが設置されることになりました」
 この時は、イベントのための原料集めを目的に設置した回収拠点だったが、イベント後も引き続きやりたいという声が上がった。それだけでなく、知り合いにも薦めたいという人もいた。
 「これまで来なかったようなお客様が油を持って来店してくれるようになったと言うのです。てんぷら油の資源回収が軸になって新たなつながりができたんですね。そこで、回収ステーションをその後も続けることになりました。私としてはアースデイ東京のイベントへの協力として始めたことだったので、回収費用のことはあまり考えなかったんですが、きちんと経費を取って永続的な仕組みにしないといけないと皆さんの方から言ってくださって、では1回千円くらい、1か月に1回の回収で、年12回だと1万2千円だけど、切りよく1万円でという設定になりました。お店としても回収ステーションを設置することのメリットが見い出せると、喜んで協力してくれたのです」

現在、回収ステーションは、東京近郊(東京・千葉・埼玉・神奈川)に約500か所が設置されている。中には、渋谷区や葛飾区、所沢市など自治体の資源回収の一環として公共施設などで集めているケースもある。
 「葛飾区では、イトーヨーカドーが区内全店で回収ステーションを開設してくれています。神奈川県内のファミリーマートでも、3店を展開しているフランチャイズ店のオーナーさんの協力で3店すべてで回収ステーションを設置してあります。これまでの回収拠点は、カフェや雑貨店など個人商店の協力で設置させていただいていて、エコに関心の高い方々がわざわざ持ち込んでくださっているようなイメージでしたが、コンビニやスーパーに回収拠点を置いてもらえるようになって、より幅広い層の人たちが買い物ついでに持ち込むなどさらに気軽に参加してもらえるんじゃないかと期待しています」
 スーパーなどでは、すでに牛乳パックやトレイなどの回収をしているところも多く、そうした流れで取り組みやすい。しかも小売で扱っている商品だ、買ったところへ戻す仕組みは、小売店の取り組む環境対策として消費者にもアピールできるだろう。

イトーヨーカドーの油回収「ヨーカドー油田」と
イオンレイクタウン店の油回収「レイクタウン油田」

 都内を中心とした近郊地なら、廃食用油の回収やできたVDFの輸送・給油などにも無理はないが、遠隔地の場合は輸送コストがかさんでしまい、現実的ではない。そこで取り組んだのが、どこでも地産池消の燃料製造を可能にするVDF製造プラントの開発だった。
 VDFの生産・販売だけでなく、VDF製造プラントを提供することで、全国各地の“油田”を有効に活用できる仕組みを作ろうというわけだ。現在、製造容量等のタイプ別に数種類のプラントを扱っている。

 さらに最近は、油をVDFに加工しなくても、生の油のままで燃料として使えるような仕様の発電機の開発・販売をはじめている。地域で集めた使用済み油をそのまま使えるから、輸送等のコストやエネルギー消費が削減できる。
 出力10kWの発電機の場合、1時間で3リットルの油を消費する。家庭の電力消費量がだいたい5kWほどだから、10kWの出力は2軒分に相当する。24時間稼働させるには72リットルの油が必要になり、大口の排出源と組むなど、毎日コンスタントに集める仕組みも必要になる。
 たまプラーザ(横浜市青葉区)では、「たまぷら油田」と名付けたプロジェクトが動き始めている。地域住民から集めた油で発電した電力を売電し、その収益を原資にしてコミュニティバスを運行するという事業計画を立てている。生油発電機はこうしたケースでの利用が想定できる。
 「『TOKYO油田』はキャッチーなコピーとして掲げているものです。“東京の廃食用油を一滴残らず集める”といえば、環境にそれほど関心のない人にもやっていることの内容や意味がわかっていただけるんじゃないでしょうか。私は油屋なので、油──それも新品の油ではなく使用済みの油──を通して循環型社会の一つのモデルを社会に示していきたいというのが、このプロジェクトの真の目的です。だんだん回収拠点も増えてきて、油を集められるようになってきましたが、まだまだ十分ではありません。目標年の2017年まで残り2年間となりました。その3年後に控える2020年東京オリンピックも社会変革のターゲット年としてよい契機にできるんじゃないかと思います。今後はより戦略的に進めていきたいと思っています」
染谷さんはそんなふうに、今後の展望を話してくれた。

 廃食用油の再資源化の柱となるのはVDFなど燃料への活用だが、ユーズでは他にも再資源化商品を開発している。中でも最近のヒット商品は、廃食油キャンドルだ。
 回収した油を精製し、固化してできるロウソクだ。固める際、芯になる糸を垂らしておけば、芯のまわりのロウが溶け出して燃えるキャンドルができあがる。容器に入れて形を作ったり、色や飾りを付けて装飾したりすれば、かわいらしいキャンドルができあがる。
 ワークショップで自分だけの廃食油キャンドルを作るプログラムでは、水を入れて膨らませた風船を型にして固めたアウターを用意して、その中に好きな色の溶かしたロウを流し込んで芯とともに固めて作る。
 染谷さんは、そんなワークショップを地元の小学校を始め、年に15校ほど呼ばれて実施している。これからの社会の担い手になる子どもたちにも、「TOKYO油田」の意味と意義を知ってもらいたいと、染谷さんの取り組みは続く。

地元の八広小学校の子どもたちを対象に実施した環境学習
ロウで作ったアウターに溶かしたロウを流し込んで作る
廃食油キャンドル
東京スカイツリー ソラマチイースト5階の「すみだ まち処」
てんぷら油からできたキャンドルや石けんの販売をしている

注釈

Info

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