【第60回】ゴミを拾うと社会が見えてくる ~拾うだけじゃないゴミ拾いの取り組み(NPO法人荒川クリーンエイド・フォーラム)
2015.06.12
ゴミ拾いを通じて荒川の自然を豊かに
2013年に節目の20年目を迎えた荒川クリーンエイドは、今年2015年も22年目の活動に取り組み始めている。最初のきっかけは、1994年に荒川放水路通水70周年の記念行事の一環として、当時の建設省荒川下流工事事務所からの呼びかけだった。
参加者は、1年目の約2,600人から2014年には約1万4千人にまで増えている。実施会場も荒川流域全体に拡がりをみせ、2014年は140会場。ともに過去最多の参加となった。会場や参加者数が増えた分だけゴミの回収量も増えているが、長年続けている会場ではゴミ散乱状況や自然環境・水質の状況などが、はじめた当初に比べるとかなり改善してきている。
活動の目的は、荒川の美化・清掃活動だけではない。 「荒川クリーンエイドは、ゴミ拾いを通じて、市民の環境保全意識を高め、荒川の生物多様性保全に貢献する活動です。ゴミを拾うことは目的ではなく、あくまでも手段です。ゴミを拾うことを通して参加した方々の環境保全意識や“ゴミをなくさないといけない!”という思いを高め、荒川の自然を豊かにするのが目的です」
そう話すのは、荒川クリーンエイド・フォーラム事務局長の伊藤浩子さん。「クリーンエイド(Clean-aid)」という言葉にも、その思いは込められている。ゴミを拾う(Clean)ことで、もともと川が持っている健全な生態系の回復を助ける(aid)といった意味の造語だ。


官民協働で取り組む活動
公園内に広がる森は、ボランティアの手で整備されている。ここ、都立野山北・六道山公園では、活発なボランティア活動が特徴の一つになっている。
雑木林や竹林の手入れから、田んぼ・畑での農作業、ワラや竹、草などを使った工芸品づくり、かつての里山の伝統行事や伝統食、昔遊び、障子(しょうじ)貼りや煤払(すすはら)いなどの手入れ作業、また自然観察会や生物調査など、さまざまなボランティア活動が活発に取り組まれている。
雑木林の管理作業に当たっては、都立公園という公共の場における活動として、保全とともに利用を意識した作業方針を取っている。
「本当は今の時期、下草を全部刈りたいんです。春から夏にかけてのこの時期が一年でもっとも光の当たる季節ですから、草も盛んに光合成をして、地下茎にせっせと栄養を貯めていきます。その時期に草を刈ることで、草の生長や栄養の蓄積を抑止することができます。ですが、ここは都立公園なので、地面一面に花を咲かせる光景を見て、楽しんでいただくことも大事にしています。花が咲けば実が落ちますから、実が落ちて芽吹き出した草を秋に刈るようにしています」
そう話すのは、NPO birthのフォレストマネジャーの松井一郎さん。
今の時代、かつての里山という、人間が生活や農業のために利用していた自然としての雑木林や田んぼ──いわば野良──は、その役割を終えてしまっている。薪や炭などに代わって電気やガスなどをエネルギー源として使って、明るく便利で清潔な生活に移行している。その時代に合った雑木林の管理が必要になるわけで、ここでは草花をみせることも大切な機能の一つとして位置付けている。

(2014年の回収実績 ※破片類を除く)
より多くの人にボランティア活動の楽しさを知ってもらう機会 ~企業の社員研修
近年は、多くの企業が社会貢献活動の一環として荒川クリーンエイドに取り組んでいる。希望する企業に対しては、会場選びや事前準備、関係機関との連絡調整を行うなど活動全体のコーディネート役を担い、当日はゴミ拾い用のトングや拡声器等の必要な機材を持って現場に出かけて、実施方法などの説明を行う。社員数百人が、楽しく・気持ちよく、安全に活動を行いながら、ゴミや環境について学べるようにサポートするのが事務局の役割だ。
他にも、最近力を入れているのが、企業の新入社員研修として実施する活動だ。今年(2015年)の春先も多くの企業とともに実施したという。
「企業さんが研修の一環として新入社員を荒川に連れてきて、ゴミを拾うんですね。都心近くで、数百人の規模でも社会貢献活動を実施できる研修プログラムとしてご好評いただいています」
ゴミ拾いをメインに2時間ほどで実施するものから、事前の室内研修や事後のワークショップを組み合わせた1日がかりの研修まで、各社の目的や要望に応じて柔軟に対応している。
「土日に開催しているボランティア団体等の活動では、ある程度ゴミや環境に関心のある方が多く参加していますが、新入社員研修の場合は関心の有無に関わらず、全員参加です。青空の下、グループの仲間たちと目的を共有しながら体を動かして汗する活動に、“案外ボランティアも楽しいし、気持ちがいい!”と感じてもらえるよい機会になっていると感じています」
社員研修用のプログラムでは、“環境に悪いゴミ”とはどんなものかを考えながら、チーム対抗のゲーム形式でゴミを拾っていくものも取り入れている。新社会人となる若い人たちが、ゲームを通じてチームビルディングを体験しながら、環境保全への意識やボランティア活動への参加意欲を高めていくのがねらいだ。


荒川のゴミが社会を反映している ~調査からわかるゴミの実態
回収された散乱ゴミのトップ3は時代とともに変化してきている。かつては街中同様に河川敷でもタバコの吸い殻が数多く散乱しており、回収数は群を抜いていた。また飲料缶の回収も多かった。タバコの吸い殻はその後徐々に回収数を減らしていき、2005年にはトップ3から姿を消している。販売本数の減少とともに、喫煙者のマナー向上によってポイ捨てが少なくなったことも影響しているとフォーラムでは推察している。
入れ替わるように、2003年から回収数を一気に増やしたのが、レジンペレット【1】 だった。その後も数年間にわたって、レジンペレットや破片ゴミがトップを占める状況が続いた。さらに2009年以降、それ以上に回収数が増えてきたのが、先にも紹介したペットボトルだった。
「タバコの吸い殻が減っていったように、レジ袋の回収数も2007年をピークに減ってきています。ちょうどこの頃からレジ袋の有料化が進みました。一方、ペットボトルは2000年代に入ってから急激にその数を増やしてきています。1996年に小型ペットボトルの販売が解禁され、徐々に普及していった状況が、荒川のゴミにも表れているといえます。私たちのくらしの移り変わりと密接に関係し、“荒川のゴミが社会を反映している”といった状況があるわけです。川で拾われるゴミのほとんどが、私たちの身近な生活の中から出ているものばかりであり、私たちの生活から変えていかないと、川のゴミは減っていかないということを、参加者それぞれがゴミを拾いながら感じてくださっていると思います」
ペットボトルは、大きくかさがあるため回収した袋の数として全体の2割以上を占めている。中でも、約半数を占めるのが、水やお茶のペットボトル。河川敷で運動するときに飲むスポーツドリンクが多くなるとも思われたが、目立つほどではなかった。こうした回収ペットボトルの種類別集計は、全国の生産量データともほぼ一致する。つまり、散乱ゴミの状況が実社会におけるわれわれの生活を映す鏡になっているのだ。容積の多くを占めるペットボトルの散乱ゴミを減らすことができれば、荒川の散乱ゴミの状況は大きく変わるだろうと期待する。
とはいっても、ペットボトルの消費抑制を訴えていくものではない。飲料メーカーの“消費者の求める商品を提供する”ことに反対する立場にあるわけでもない。散乱ゴミの現状についてより広く伝え、飲み終わったペットボトルの処理に対する消費者の意識啓発を高め、飲料メーカー・流通を巻き込んだ仕組みづくりを実現することで、状況の改善を図っていくことをめざしたいと考える。そのため、ごみ・リサイクル系の団体に対してこれまでの蓄積の中で見えてきた情報を提供して、ともに社会を変えるための運動へと盛り上げていく一端を担うのが、現在事務局として取り組んでいることだ。

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全国的なネットワークで川ゴミの解決をめざして ~川ごみサミットの開催
川のゴミは、その場で捨てられたものだけはない。別の場所で捨てられたものが多く流れ着いてくる。荒川のゴミをなくすためには、荒川だけでなく、ゴミ自体を減らす取り組みが必要と考えるようになってきた。
そこで、業界団体や消費者団体などとともにゴミのない社会をめざして取り組んでいくのに加えて、川や海に関わる人たちとの全国ネットワークを通じて、川ゴミ問題解決への道を探っていこうという取り組みも新たな展開として着手し始めたところだ。その一つとして、2015年1月に「第1回川ごみサミット」を荒川クリーンエイド・フォーラムが開催事務局となって呼びかけ、開催している。
「荒川クリーンエイドで記録しているデータを飲料メーカーに持っていっても、“荒川だけの問題”と言われてしまったこともありました。荒川だけではなくて、全国でも同じような問題があることを示していかないと、根本的な解決にはつながらないと感じています。そこで、川ゴミのネットワークをつくり、全国規模で川ゴミの問題を表面化させ、その解決につなげることを考え、その一歩として川ごみサミットを開催しました。
荒川クリーンエイドのような、『調べるゴミ拾い』をしているのは、海岸でのビーチクリーンアップの他には、山形県の最上川での取り組みなど、ごくわずかしか把握できていない。それぞれの川の状況やそこにあるゴミの種類は異なっても、拾った人がゴミ問題を考えて、ゴミのない生活をめざす、そんなゴミ拾いが全国に広まっていくことをめざしていきたいという。
海ゴミも、7~8割は川などの陸域由来といわれる。海ゴミをなくすためにも、川のゴミをなくさなければならない。
そして、川ゴミは川に来た人が捨てるだけではなく、むしろその多くは支流や用水路などを通じ、街の中から何らかの形で流れて来ていると考えられている。
海に流出したゴミは回収が一層困難となるため、川に流入するゴミを少しでも減らし、川に流れ着いていたところで少しでも多くのゴミを回収することが重要だ。さらに、海ゴミ関連の団体とも歩調を合わせて、川のゴミ、街のゴミを減らし、なくしていくための解決策を探っていくことをめざしたいという。

荒川から社会を変えるための発信をして、社会が変われば荒川もきれいになる
「20年間ゴミを拾い続けて、いつまでたってもゴミはなくならないし、ゴミは増えているんですか、とよく言われるんですね。でも、ゴミを拾い続けているところでは明らかにゴミは減っています。実施会場や参加人数が多ければそれだけ回収されたゴミも増えるわけで、荒川にはまだ拾いきれていないゴミが多くあって、新たにそのゴミを拾い始めたことでゴミ回収量が増えているというだけなのです」
長年ゴミが溜まり続けたところで新たにゴミ拾いを始めた会場と、数年間毎年ゴミ拾いを続けてきた会場とでは、歴然とした差が見られる。年に1~2回拾うことで、目に見えるほどの変化が起きているわけだ。ただ、まだまだ大量のゴミが溜まったままの状態のところも残っているため、そのようなところを片づけていかなくてはならない。




新規会場と継続会場におけるゴミ密度の違い(2014年)。新規会場では大きなゴミやペットボトルなどのゴミが一面に広がり、その下にも層をなしてゴミが大量に埋もれている)。一方、継続会場では、新たに流れ着いたゴミが目立つばかりで、ゴミの密度や厚みに明確な違いが見られる。
「今何をがんばっているかというと、多くの方に荒川にいらしていただいて、たくさんのゴミを拾うのと同時に、拾った人たちがそれぞれの普段の生活の中でゴミを減らすことを考える、そんなゴミ拾いにしていきたいんです。“拾うだけじゃない ゴミ拾い”と言っていますが、ゴミがどこからやってくるのかを川のゴミを通じて感じ、考えて、ゴミ拾いに参加した人たちから荒川を変え、社会を変える行動を起こしてほしい。事務局としても、参加者の皆さんが調査してくださったゴミのデータを活用して、広く社会に対して発信しています。様々な機会に、多くの方々に川ゴミについて発信することで、一人でも多くの人が、活動に参加するきっかけとなり、荒川のゴミ、生活の中から出るゴミを減らすきっかけになればと思っています。私たちだけで拾えるゴミの量は限られていますが、参加した1万人以上の方が、それぞれの暮らしの中で、ゴミをできるだけ出さない生活に変わっていけば、荒川をきれいにすることにつながると信じています」
