【第76回】通勤・通学・送迎や買い物はもちろん、営業や市内観光の足としても便利に使える、福生市のサイクルシェアリング(『たっけー☆☆サイクル』の取り組み)
2016.09.23
駅前を中心に市内5か所に整備されているサイクルシェアリング・ポート
JR青梅線「福生駅」の西口に降り立ち、駅前ロータリーの先から銀座通りと呼ばれる商店街に入る。そのままコンクリート・タイル敷きの商店街を通って徒歩約5分で、福生市観光案内所・まちなかおもてなしステーション「くるみる ふっさ」が見えてくる。ちょっとした広場の奥に建つ斜め屋根の小洒落た建物の脇には数台の自転車が停まっている。よく見ると、カゴの前には、福生市公式キャラクター「たっけー☆☆」【1】のイラストとともに『「たっ☆クル」会員募集中!!』の表示が掲示されている。
黒い車体の落ち着いた雰囲気の自転車には、サドルの下部にバッテリーの差込口が見えている。すべて、電動アシスト自転車だ。これらの自転車は、福生市が進めるサイクルシェアリング事業『たっけー☆☆サイクル』(略して『たっ☆クル』)として整備されているもの。市民はもちろん、市外からの観光客など誰でも簡単な手続きで借りることができる。市内5か所に分散設置されたポート(貸出・返却場所)に合計35台を配備している。


メイン・ポートとして位置づけられている「くるみる ふっさ」のほか、市内各所に分散するポートは、JR青梅線の福生駅と牛浜駅、及び拝島駅の各駅前を中心に設置されている。
「福生市のサイクルシェアリング事業は、平成23年度に都の地球温暖化対策の補助制度を活用したモデル事業としてスタートしました。実証実験を終えた後、26年度から本格実施を開始して、登録者数や利用回数は年々増えてきています。福生市では、地球温暖化対策の取り組みの一環として“自転車のまちづくり”を掲げていまして、自動車依存の生活から自転車利用を推進することでCO2の排出削減につなげるための具体的施策の一環として実施しているのが本事業です」
福生市のサイクルシェアリング事業の概要について、生活環境部環境課課長補佐の名取明美さんと同主任の住友健吾さんに話を聞いた。


会員登録すればいつでもどこのポートでも手軽な“足”として使用できる
サイクルシェアリング「たっ☆クル」の利用方法は、2通りある。本人確認やクレジット決済が必要な「会員利用」と、現金払いの「一時利用」だ。
会員登録をするには、身分証明書とSuicaやPASMOなど非接触型ICカード、そして決済用のクレジットカードが必要になる。ICカードを会員カード代わりに利用する仕組みで、利用時には各ポートに設置してある操作盤のリーダーにICカードをかざして、登録時に設定した4桁のパスワードを入力する。一度登録すれば、24時間いつでもどこのポートからでも貸出・返却できるのに加えて、最初の30分間は無料で利用できる(以降は3時間までなら15分当たり50円が課金される)。

一方、一時利用では申請書に記入すれば現金払いで手続きが完了する。利用料金は3時間まで500円で、延長料金は15分当たり50円になる。ただし、貸出・返却ともに「くるみる ふっさ」で受付が必要だ。
「一時利用は、営業で福生市に来られる方の利用も多いようです。一方、会員登録をすれば30分は無料になりますから、保育園への送迎に使う親御さんや、買い物に使う方などもいらっしゃるようです。福生市は行政区域が狭いので、自転車なら30分もあれば端から端まで移動できます。ただ、市の東側から多摩川に向かって河岸段丘が発達していて高低差がありますから、ちょっとした移動などで電動アシスト自転車を便利にお使いいただけているようです」
登録会員は、市内在住者が半分強、残りの多くが近隣市の在住者で、30代がもっとも多く、次いで40代が多い。登録会員数は、初年度の116名から平成27年度には550名にまで年々伸びている。利用回数も年間3,000回に達する勢いだ。
たっけー☆☆サイクルの貸し出し手順
ここで、たっけー☆☆サイクルの貸し出しから返却までの利用方法について、改めてご紹介しよう。
各ポートには、たっけー☆☆サイクル用の金属ロッカーが設置されている。操作盤のリーダーにICカードをかざして暗証番号を入力し、ログインしたあと、借りたい自転車の番号を入力すると、ロッカーの扉が自動で開く。大きい扉の中には自転車のバッテリーが、また同時に開く小さな扉の中には鍵が収納されている。これらを取り出してロッカーの扉を閉めると貸出手続きが完了する。

鍵を差し込んで自転車のロックを解除し、バッテリーを取り付けたら出発だ。
ちなみに、選べる自転車も1種類ではない。「スタンダードタイプ」と呼んでいるママチャリタイプは、前カゴだけのものと、前後にカゴのついている両カゴタイプがある。純粋に走りを楽しめる「スポーツタイプ」の自転車もあれば、保育園の送迎などには前後にチャイルドシートを取り付けて幼児2人を乗せることのできる「3人乗りタイプ」が便利だ。

返却時には、再び市内5か所にあるポートのいずれかに向かい、自転車駐車スペースに置いてから、鍵とバッテリーを外す。操作盤のリーダーに鍵のキーホルダー部分を当てると、ロッカーの扉2か所が開くので、それぞれバッテリーと鍵を指定の通り収納し、扉を閉める。操作パネルには、使用者の氏名と利用時間、料金が表示され、返却手続きが完了する。

登録会員は、借りたポート以外でも返却できる“乗り捨て利用”が可能だから、利用の多いポートでは、返却自転車が集中したり、逆に駅前ポートに乗り捨てられてしまい台数が足りなくなったりもする。こうした利用・配備状況は、「くるみる ふっさ」の端末から確認できるため、毎朝夕をはじめ随時状況を確認して、台数調整のためスタッフがポート間を移動して搬送する。利用の多い日には、利用者からの問い合わせの電話などに対応して、急きょ搬送することもある。
なお、5か所あるポートのうち、熊川駅にほど近い「福祉センター」は、27年度から新たに稼働を開始したポート。これまで青梅線の沿線を中心に配備されてきたから、南田園エリアと呼ばれるハケ下【2】にも増設して利用者の便を図っている。

国道16号線沿いの異国情緒豊かな街並みと、江戸時代から続く酒蔵の町など、市内の観光スポットを巡る足としても利用できる
JR五日市線の熊川駅の改札口を出た小道の脇には、大きな観光案内板が設置されている。その一角には「たっけー☆☆サイクル」の案内も表示されている。観光の足として「たっけー☆☆サイクル」の利用を図っていくねらいだ。


「貸出・返却拠点となるポートは駅前を中心に整備していますから、駅を拠点にした観光目的の利用もしやすいと思います。市の東境にある米国軍横田基地に面した国道16号線沿いには総延長約1.5kmにわたって、『ベースサイドストリート』と呼ばれる、横文字の看板やシュロの街路樹、飲食店や輸入雑貨店、古着店などが立ち並ぶ異国情緒豊かな街並みが続いています。アメリカンな雰囲気は、福生市の観光スポットの一つになっています。一方、和のテイストの観光スポットとして、市内には江戸時代から続く2つの酒蔵があります。文政5年(1822)創業の田村酒造と文久3年(1863)創業の石川酒造で、ともに歴史的建造物として文化財指定を受けています。


また、市の西域には多摩川が流れていますが、川に沿って、『ふっさ十景』の一つに選ばれている桜並木があります。サイクリングロードもありますから、春先の花の季節には、川を眺めながら桜のトンネルを走り抜けることもできます。山の方が開けて見えて、景色もよいですし、夜には提灯で照らされてきれいにライトアップされますから、またちょっと違った雰囲気も味わえます。ぜひ、たっけー☆☆サイクルで走っていただきたいところの一つです。このほか、武蔵野の面影を残す玉川上水の静かな雰囲気は、新東京百景にも選ばれた景勝で、都会の喧騒を忘れさせてくれます」


こうした観光利用を通じて、福生市のサイクルシェアリングをPRしていくのも効果的といえる。過去には、「くるみる ふっさ」のイベントとして、たっけー☆☆サイクルを活用した観光ツアーも企画されている【3】。観光施策は環境課の所管ではないが、観光部署とも連携を取りながら、“自転車のまち・福生”の実現をめざしていきたいと話す名取さんと住友さんだ。