第6号 命を学ぶ―20年目を迎えた身近な環境での体験学習
つくし野ビオトーププロジェクト(町田市)

(住宅地内の専用畑で、野菜の種まき・収穫・配分の様子)
町田市最大規模の地域イベント「まちカフェ」
街路樹が朱色や黄色に色づき、紅葉が美しく映える11月29日(土)、東京都町田市役所庁舎(アトリウム+1~3階)及び隣接する市民ホールなどを会場に、市内を中心に活動するNPO法人や市民活動団体等が、活動紹介やワークショップ、物品の販売などを行う第19回市民協働フェスティバル「まちカフェ!」が行われました(イベントは日によって内容が変わり12月7日まで)。
10時からのイベント開催を前に、市役所庁舎は準備する多くの人でにぎわっていました。140を超える団体が日頃の成果を伝える貴重な場であり、それぞれブースを構えているためです。

イベントの主催は町田市市民協働フェスティバルまちカフェ!実行委員会で、町田市市民部市民協働推進課が共催、事務局を町田市地域活動サポートオフィスが担っています。文化、福祉、健康、音楽、食など、暮らしに寄り添うテーマを掲げる団体が出展したほか、町田市役所の各課がかかわる出展やイベント実施などもみられました。
町田市環境共生課が声をかけて出展した市民団体もありました。環境共生課では生き物や自然に関する情報の共有や交流の場として、2016年から「町田生きもの共生フォーラム」と題して、講演会や市民団体の活動紹介を実施しています。
その一環として、市が生物多様性保全に関わる市民団体に声をかけ、4団体が「まちカフェ」に出展しました。いずれも町田市環境共生課がホームページで活動紹介している団体であり、市内で自然保全・生き物保全に関わる活動を行なっています。日頃の困りごとや課題を団体間で共有し、解決の糸口とするため、顔なじみになることも狙いとしました。

今回紹介する「つくし野ビオトーププロジェクト」は、令和4年度の第16回まちカフェ!から毎年出展するようになり、今回で4回目となりました。代表の小池常雄さんにお話を伺いました。

20年目を迎えた体験的環境学習
「つくし野ビオトーププロジェクト」は町田市つくし野地区の農家のご厚意で借り受けた畑や近隣で年22~24回、農業体験や環境学習の場を提供しています。専用畑での多種作物の植え付けや収穫を中心に、夏はカブトムシ相撲大会、冬は巣箱づくりや里山ハイキングなど、多様なプログラムで構成し、毎回20~100名が参加します。人気があるのは、ジャガイモ・サツマイモ掘り。基本的には世帯ごとに抽選で持ち帰ることができます。ずっしりと重さのあるイモなどを抱え、うれしそうに帰路につく姿は何気なくも幸せな光景が広がります。

(毎年6月末から7月の人気恒例プログラム)
最大の特徴は、実際の体験そのものを経験する時間だといいます。そのため、収穫した農作物は販売せず配分。純粋に身近な環境・自然にふれて学ぶことがテーマとなっています。
つくし野小学校とつくし野天使幼稚園などに定期的に案内していますが、保護者、教職員、周辺の小学校、未就学児、希望するすべての市民が無料で参加可能です(一部、材料費や交通費は別)。事前申込なしで最大160名が訪れたこともあり、参加への敷居が低く、人気の高さがうかがえます。

(近くの公園の落ち葉を運び、堆肥化するまえ、年末のお楽しみ)
ここからはつくし野ビオトーププロジェクトの歴史と代表の小池さんの人柄に迫ります。

きっかけは日本中を騒がせたニュース
つくし野ビオトーププロジェクトが始まるきっかけは2005年に遡ります。前年に起こった長崎県の小学6年生同級生殺害事件に胸を痛めた当時のつくし野小学校の故田村健治校長は、子どもたちが命の尊さを学ぶ機会が減っていることを危惧して、学校教育とは別に自主的に身の回りの生き物や自然にふれる機会を作ろうと考えました。保護者や地域住民への協力・呼びかけに応えて、当時49歳だった小池さんも参画することになりました。
校内のビオトープづくりから始まった活動は2年の活動を経て田村校長が転出し、小池さんが意志(遺志)を引き継ぎ、プログラムを見直しました。校長の異動のたびに方針が変わることを防ぐため、まず活動場所を校内から学校外にも拡大しました。環境学習のための畑を無償で貸してくれる地主の方の理解と支援を得られ、農業体験に軸を置きつつ、生き物や自然観察の機会を含めました。
小池さん自身は、環境学習に必要な1級ビオトープ(計画・施工)管理士、環境省の環境カウンセラーを取得し、農業や生きもののことも勉強を始めました。職業の建築士とは畑違いの分野でありながらも、自分で企画した環境学習の活動プログラムを自分で展開でき、季節ごとに様々な作物が育って実ることに面白さがあったといいます。オリジナルテキストやクイズを作るなど、体験を学習に深める工夫にも余念がありません。


主催者である小池さんは無報酬で活動を続けています。本業の傍ら20年にわたり続けてきた理由を伺うと「喜んでもらえる」ことに尽きるといいます。
「あの頃、5歳だった子は今では25歳。小さかった子が大人になって参加してくれると感慨深い。次の世代を連れてくる日も近いかもしれません」と希望を膨らませます。
活動に参加するようになって初めて生きものに興味を持ち、カイコの研究で多数の賞をとるほどまでに成長した高校生やTV番組・雑誌などのメディアで取材を受ける機会も活動の原動力となっているようです。
現実的な課題は活動資金の確保と担い手不足です。多くの人に開かれた場所にしたいとの思いから、種や苗、肥料などの活動に必要となる費用は参加者負担とせず、助成金と個人寄付で賄っています。助成金は環境学習や地域の居場所づくりといったキーワードの公的助成に自ら応募するなどし、毎年工夫して財源を獲得しています。
現状は小池さんのボランタリー精神で続けているため、後継者や支援者を見つけられれば、との想いも話してくださいました。
さらに活動拡大!サポーターも募集中
定期的な活動のほかに、これまでのノウハウを生かし、近隣の幼稚園や保育園、小学校に出向き、出張環境学習も実施しています。休みなく働くバイタリティあふれる小池さんですが、周囲の協力にも支えられてきました。畑に来られた保護者や近隣住民が支援者という形で、受付や写真撮影などを手伝ってくれています。
現在も、写真撮影、大工仕事、畑仕事など、得意な分野で支援いただける方を募集しています。年間2,500名ほどが参加するプロジェクトなので、猫の手も借りたい日だってあります。もちろん活動日に参加する親子も大歓迎です。詳しくは、つくし野ビオトーププロジェクトのブログをご覧ください。

つくし野ビオトーププロジェクト
発足年月日
2005年5月
サポーター・支援者
約10名
活動場所
町田市つくし野地区の専用畑と近隣の小学校、幼稚園など
活動時間
定例活動:原則毎月第2土曜日の午後(8月分は7月末)(年間12回開催)
特別活動:野菜の生育状況に応じて適時開催(週末土日に開催)(年間10~13回開催)
活動内容
畑のお世話(植え付け・収穫)、プールのヤゴ救出、カブトムシ相撲大会、巣箱づくり、里山ハイキングなど

