第7号 何羽いた? 市民が数える「カワセミの個体数調査」
水元かわせみの里(葛飾区)

瑠璃色に輝く水辺の宝石 カワセミを調査
早朝の寒さが一段と冬らしくなった12月7日(日)、東京都葛飾区と埼玉県三郷市の県境、大場川の南に位置する水元(みずもと)公園で、公園内に生息するカワセミの姿を数える一大イベント「カワセミの個体数調査」が行われました。
主催するのは、水元公園の中心にある小合溜(こあいだめ)と呼ばれる大きな池の水質浄化・環境保全に取り組む「水元かわせみの里」です。正式名称は、水元小合溜水質浄化センターと呼び、水元小合溜の水質を浄化し、かつて水元小合溜に生息していた生きものを呼び戻すことを目的として開設された葛飾区の施設です。
カワセミの個体数調査は、今回で7回目を迎えました。葛飾区の水質浄化対策事業「カムバックかわせみ作戦」の効果を把握するため、2023年1月に初開催し、概ね春と冬の年2回開催しています。カワセミの個体数や生息状況を調査することで、水質改善の指標の一つとして、また、繁殖に適した環境であるか確認する目的があります。
この日は地域在住の親子や大学生、水元かわせみの里のボランティアなど73名の幅広い層の有志が集まりました。参加者は事前説明会に出席していますが、改めてカワセミの生態や調査方法の説明を受けました。カワセミは、瑠璃色の背中とオレンジ色のお腹、オスはくちばしが全体的に黒く、メスはくちばしの下が赤いです。そうした特徴から種類や雌雄を識別します。甲高く「キィーキッキィー」と鳴き、獲物を狙って池の水面すれすれを直線的に飛ぶことが多いそうです。

冬の観察に備えて、防寒対策ばっちりで、自前や受付で借りた双眼鏡を手に35のそれぞれの調査地点に向かいます。

水元公園の面積は96.3ヘクタールと、東京ディズニーランドの約1.88倍もの広大な敷地であるため、調査地点に到着するまでに30分かかる班もあります。自転車が利用できる参加者には遠くの地点を担当してもらっていました。
どうやって調査する?超アナログ・一風変わった調査手法
調査手法はこうです。池沿いの調査地点に2人1組で待機し、カワセミの姿が現れたら、トランシーバー(無線機)を使って「見つけた時間」と「見失った時間」、「オス・メス」を本部に報告します。その際、どんな場所から現れたのか、どの方角に去ったかなどの詳細を伝え、手元の記録用紙にも書き込みます。
調査員が地点につき、スタートの合図があると、早速、本部のトランシーバーが鳴り響きました。

調査員「こちら赤1番、赤1番。10:40に茂みからカワセミが現れ、水面にダイブしたあと、再び茂みに戻りました。オスでした。どうぞ。」
このような報告がぞくぞくとやってきます。風のない清々しい秋晴れのおかげか、野鳥の観察に適した気候が功を奏し、調査開始は好調のようです。
各地点の調査員にも話を伺いました。

池のハスの先端に佇むカワセミを発見。青い背中が目立ち、とてもきれいだったとうれしそうに話してくれました。

遠くで水面に何度も飛び込む姿を観測。冷え込む日陰でもじっと観察するので、忍耐力も必要です。

双眼鏡で覗くと確かに枝にとまる一羽。オレンジ色のお腹を水面に向けて約20分もの間、周囲をきょろきょろとする愛らしい姿を見せてくれました。
気づけば、調査開始から約束の1時間30分が経過し、調査員は結果共有のため、集合場所に再度集まりました。感想を伺うと、10回以上の飛来を見れた班、観察できなかった班と地点によって差があったようです。カワセミの姿が見られない時間も他の野鳥や生き物に出会えたり、別の目的で訪れる来園者と会話を交わしたり、充実した時間を過ごせたという話が聞けました。
参加4度目の小学4年生の児童は「今日も見つけられてうれしかった。カワセミの色は、春の若い鳥は少しくすんでいて、冬の大人の鳥は綺麗なんだよ」と誇らしげに教えてくれました。
調査結果やいかに
後日、正確な調査結果が発表になりました。
カワセミの個体数調査 2025年12月7日(第7回)
個体数 少なくとも10羽
飛来数 114回
2023年1月の第1回では6~7羽の確認でしたが、今回は少なくとも10羽。調査を繰り返すたび精度も高まり、より正確な個体数が推定できるようになってきました。これまでの調査結果から、繁殖期にあたる春は個体数が少なく、冬は多い傾向にあることが分かってきています。水元公園内に営巣できる環境が少ないせいか、春は繁殖地を求めて移動するようです。しかし、非繁殖期(秋~冬)は越冬のために多くの個体が訪れます。
より正確な、春と冬の個体数比較のためにカワセミの個体数調査は少なくとも5か年計画(全10回)を目標に実施しているそうですが、なぜこのような手法で調査するのでしょうか。水元かわせみの里の野間隆太郎さんに伺いました。
「それはカワセミが縄張りをもち、単独で暮らす鳥だからです。群れで生活する水鳥などは個体数も多く、群れの羽数を数えれば個体数はある程度推測できますが、縄張りを持ち単独で暮らすカワセミは個体数が少なく、かつ縄張り内での移動性が高いため、もし同じ個体を別個体としてカウントしてしまうと(ダブルカウント)個体数のズレが大きくなります。そのため、通常行われる個人によるカウント式での調査では正確な個体数の推定が難しくなります。」
調査方法は、カワセミ研究の第一人者である国立科学博物館附属自然観察園の名誉研究員、矢野亮(まこと)さんに相談し、1990年代に実施した町田市内での定点観測の事例を参考にしたといいます。
複数人での定点観測に加え、猛禽類の調査等で使用されるトランシーバー(無線機)を用いる手法を水元かわせみの里が独自に合わせました。これにより、同時確認した個体が別個体であることがわかり、またトランシーバーで個体の追跡を行うことで、正確な個体数を記録できます。
野間さんは「個体数調査は個人の識別能力に違いがあるので、人が増えれば見逃す機会が減って精度が高まります。調査地点も増やせるので、より多くの方に参加していただきたい」と話します。
ここからは、水元公園の自然や水元かわせみの里に迫るよ!

カワセミを呼び戻す
水元小合溜はかつて農業用水として、畑や田んぼに使われていましたが、近代化の影響で畑や田んぼが無くなり、周辺に宅地が増えると、生活排水の流入やコンクリート護岸を原因にアオコが発生し、大量に魚が死ぬなど、水の汚染が深刻化しました。そのため、葛飾区は1989年、カワセミが棲める環境を整える「カムバックかわせみ作戦」を始めました。
池の水質浄化の仕組みや設備を整える一方、自然や生き物を学ぶ場の必要性を鑑み、建設予定だった水元かわせみの里(水元小合溜水質浄化センター)の一角に、自然や歴史を情報発信する「水辺のふれあいルーム」を設置しました。
水元かわせみの里の開設30年を迎えた現在は、展示や講座による情報発信もさることながら、市民が自主的に自然に関わるきっかけの場にもなっています。開館日の午前と午後の1日2回実施している野外観察(ガイドウォーク)への参加者が、カワセミの個体数調査に協力するなど、1つのイベントを起点に別の活動にも参加する好循環が生まれています。
ボランティア活動も目覚ましく、カワセミの営巣壁の整備や施設横の野草園の維持管理など、生き物や自然が好きな方が活躍しています。小学2年生~6年生はキッズボランティアとして位置づけ、月2回、自分の興味に応じた活動に参加しています。本来は小学生までですが、中学生になっても活動したい子の継続を受け入れており、年々人数が増えている人気ぶりです。(3~4月に募集・抽選)

(愛称「かわせみキングス」)
ボランティア活動は、自由意志を尊重しているとのことですが、取材者が感じたことは、水元かわせみの里のスタッフの温かさです。当たり前かもしれませんが、子どもとスタッフの距離が近く、会えば笑顔で元気に挨拶を交わす空気感が、また行きたいと思う理由なのかもしれません。
次回のカワセミの個体数調査は5月の予定です。興味ある方は一度参加してみてはいかがでしょうか。

水元かわせみの里(水元小合溜水質浄化センター)水辺のふれあいルーム
開 設
1995年
開館時間
4月から10月まで 午前9時から午後5時30分まで
11月から3月まで 午前9時から午後4時30分まで
ボランティア数
大人25名、子ども35名(2025年度)
アクセス
京成バス
・金町駅南口4番のりばから、戸ヶ崎操車場、八潮駅南口行き(金61)
「水元五丁目」または「大場川」下車 徒歩5分
・金町駅南口7番のりばから、水元公園内経由、金町駅南口行き(金63:水元公
園循環バス)(3月から11月までの土曜日、日曜日、祝日のみ運行)
「水元かわせみの里」下車徒歩すぐ

