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2012.05.07

第8回小笠原諸島における固有種の保全活動

千葉 英幸氏顔写真

千葉 英幸(ちば ひでゆき)

著者のプロフィール  北海道出身。1992年(財)日本野生生物研究センター(現自然環境研究センター)入所。1998年から3年間、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部にて環境関連の専門調査員として赴任。現在、(財)自然環境研究センター外来生物管理事業部・CITES管理事業部部長、技術士(環境部門)。

小笠原諸島弟島からの眺望(撮影 丸岡英生[JWRC])

小笠原諸島弟島からの眺望(撮影 丸岡英生[JWRC])
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 小笠原諸島は、平成23年6月に世界自然遺産に登録されました。先進国の首都で自然遺産が登録されたことは初めてです。登録の際に評価された内容は、小笠原諸島が大陸と一度も陸続きになったことのない島々で、多様な進化を遂げて多くの種に分化した生物から構成される独自の生態系を有することです。しかし、小笠原に生息・生育する多くの固有種は、強力な捕食者が存在しない環境下で独自の進化を遂げてきたこともあり、外来種に対しては極めて脆弱です。
 今回は、小笠原の特異な自然を保全するため、環境省等の行政や地元のNPO等が行っている外来種対策と固有種の保護活動について紹介します。

外来種対策

野生化したヤギ(撮影 千葉英幸[JWRC])

野生化したヤギ(撮影 千葉英幸[JWRC])
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 小笠原諸島では、近年、さまざまな外来種が固有の生態系に対して重大な影響を与えていることがわかってきました。人間活動に伴って持ち込まれた外来種が増加したことにより、小笠原諸島独自の生態系に影響を与えていることは大きな問題です。例えば、食肉利用として持ち込まれたヤギやブタ、ペットとしてのネコ等は、固有種等を捕食し、生息地を奪い、また、薪炭用等の目的で持ち込まれたアカギやモクマオウ、シマグワ等は、固有植物等の生育環境を悪化させるばかりでなく、雑種等の遺伝子レベルでの撹乱を引き起こすなどさまざまな影響を及ぼしています。
 その一方で、導入から年月が経過している外来種は、すでに生態系に組み込まれつつあり、生物種間の関係が複雑に絡み合っていることから、対策を一歩間違えれば、脆弱な生態系に大きな影響を及ぼし、逆効果となる可能性もあります。従って、外来種対策は生物種間の関係を把握した上で、慎重に行う必要があります。ここでは、小笠原村父島から5km程北にある無人島の弟島で、環境省が主体となって行った外来種対策を紹介します。

 弟島では、数年前まで外来種のウシガエルやヤギ、ブタが生息していました。これらの外来種は過去に食用等の目的で人間により持ち込まれ、小笠原固有の昆虫や植物等を食い荒らすなど、生態系に大きな影響を与えており、駆除が必要でした。しかし、ブタはウシガエルを捕食している可能性が高く、ブタを先に駆除すると、ウシガエルが増えて、これまで以上に固有のトンボ等の昆虫に大きな影響を及ぼす可能性が出ることが考えられました。また、ヤギを先に駆除すると、それまでヤギに採食されていた植物の背丈が高くなり、他の駆除作業がしにくくなります。

捕獲されたウシガエル(撮影 JWRC)

捕獲されたウシガエル(撮影 JWRC)
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捕獲されたブタ(撮影 千葉英幸[JWRC])

捕獲されたブタ(撮影 千葉英幸[JWRC])
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 そこで、私たちは、駆除する外来種の順番を考慮し、先にウシガエルを駆除してから、ブタ、ヤギの順に駆除を行いました。この手順により、効率的に駆除作業が進み、これらの外来種を弟島から根絶することができました。

固有トンボの保護活動

 小笠原諸島には5種の固有トンボが生息していますが、父島及び母島ではグリーンアノールというトカゲの捕食の影響などにより、そのほとんどが絶滅か、絶滅にきわめて近い状態にあります。一方で、グリーンアノールが侵入していない弟島では、5種すべての固有トンボが生息しています。特に、オガサワラアオイトトンボは世界中で弟島だけに生息する貴重なトンボです。しかし、トンボ類の繁殖に必要な水域は、近年、渇水の影響で消失してしまうことがあり、とても不安定です。そこで、トンボ類が繁殖できる水域を確保するために、環境省や専門家、地元NPOが、人工的な池(トンボ池)を設置しました。
 昨年、小笠原諸島では渇水のため、かなり長い期間水不足の状態が続きましたが、沢の水が涸れてもトンボ池には水があり、固有トンボが利用・繁殖していたことが確認されています。

オガサワラアオイトトンボ(撮影 今村彰伸[JWRC])

オガサワラアオイトトンボ(撮影 今村彰伸[JWRC])
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人工的に作られたトンボ池での作業風景(撮影 渕上聡子[JWRC])

人工的に作られたトンボ池での作業風景(撮影 渕上聡子[JWRC])
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私たちができること

 生物多様性国家戦略には、生物多様性の危機の一つとして、人間により持ち込まれたものによる危機(第3の危機)が挙げられています。人間によって意図的・非意図的に持ち込まれた外来種が、地域固有の生物相や生態系に対する大きな脅威となり、定着した外来種の駆除には多大な時間と労力が必要となります。今回紹介した外来種対策においても、個別の駆除作業に数年間を要し、駆除したことによる環境の変化を注視し、順応的な対策が長期間必要となります。さらに、保護増殖活動は今後も継続して行われなければ、小笠原の自然を保全していくことは難しいでしょう。
 何百万年という気の遠くなる年月の間に、人間活動に関係なく、島のさまざまな環境に適応した新しい種が誕生し、反対に環境の変化に適応できず、あるいは競争に敗れて絶滅した多くの種もあったでしょう。こうした生物進化の壮大な一コマを垣間見せてくれる貴重な場所が、世界の大都市である東京都の小笠原諸島にあることを誇りに持ち、後世に引き継いでいくことが我々の使命だと思います。
 今回は小笠原を舞台に外来種問題に取組む活動を紹介しましたが、外来種問題は小笠原に限らず、私たちの身近な問題です。環境を守るために最も大切なことは、私たち一人ひとりが長い歴史に培われてきた生態系の歴史的重みを認識し、外来種問題が生態系に重大な影響を与えていることを理解することではないでしょうか。

参考

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