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2013.01.07

第17回都市の樹林、公園林、街路樹から学ぶ環境保全

桜井尚武氏顔写真

桜井尚武(さくらいしょうぶ)

 東京大学農学部卒。1974年に国立林業試験場造林部採用。(独)森林総合研究所を経て2006年から日本大学生物資源科学部森林資源科学科教授。2012年3月日本大学を定年退職し、現職。この間、農林水産省「地球環境問題に関する有識者会議」委員、林政審議会委員・会長などを務める。現在は(財)森林文化協会や(社)森林技術協会などの理事。大学では樹木学、造林学、森林生態学などを講義。著書は「森林科学」(共著、朝倉書店、2007)。「改定森林資源科学入門」(共著、日本林業調査会、2007)、「生物学辞典」(共著、東京化学同人、2010)など。

はじめに

 都市の樹林地は私達が環境保全を学ぶためのいい教材になります。ここでは、自然林に思いを馳せながら、都市化した所に意図的に作り上げた公園林や並木など都市の樹林地に焦点を当ててこれらのあり方を考えてみることにします。

何が今問題か

都会にも森林が出来る、都庁から見た明治神宮の森林

① 都会にも森林が出来る、都庁から見た明治神宮の森林

  生物地理学的にみて、日本は森林が全土を覆う森林の国です。「あとは野となれ山となれ」というように、放っておくと森林になる自然環境に私達は長い間暮らしてきました(写真①)。生活物資も多くは森林の産物を利用して、また森林を開墾して農地を作る、そんな生活を送る文化を作り、文明化してきました。その結果として現代の私達とその社会があります。産業革命以来、特に1960年代以降の高度経済成長期を経て、私達の生活の基本は鉄・石油などの鉱物資源や化石資源を基にした材料を駆使する文明依存に変わり、あるがままの自然の価値を忘れるようになってきました。これらの文明は、実は、人類を含む生命体が進化適応し生きて行くための基盤である自然をなくすことによって成り立っているのではないかと、世界中の人が気付き始めました。その大変大きな破壊力は、実は一人一人の小さな力が集まった結果だということを、案外人は気づいていません。まず、そこに気付くことから、生存環境を良い状態に守ることが始まるのだと思います。

樹木の形

枝垂れた枝に沢山葉をつけるケヤキ

② 枝垂れた枝に沢山葉をつけるケヤキ

青山通りの枝を何べんも切られたプラタナス

③ 青山通りの枝を何べんも切られたプラタナス

 都市の公園や並木には多くの外来種があります。よく見かけるプラタナス、モミジバフウ、ユリノキ、ハナミズキは北米東部から海岸域までの低地から山地にかけての広範囲に分布する早生樹です。このうちプラタナスとユリノキは直径1m以上、樹高50m以上になる大高木で寿命も250年以上あります。どれも好陽性で成長が早く、剪定されても再生力が強い、移植が容易という特性を持っています。外来種の多いのは、先人が積極的に導入したためで、緑化樹先進国での実績があること、苗木の入手が容易で仕立て方が分かっていることなどの理由があるのでしょう。外来樹だから環境に悪いなどの特別な問題があるということはありません。
 在来種のケヤキも直径1m以上、樹高は30m以上にもなる大高木で、寿命も500年以上を誇るものが少なくありません。各地でそのケヤキの大枝が大胆に切り落とされています。春先、あわてて昨年までの葉量を取り戻そうとするのでしょう、とにかく枝を伸ばして葉をつけます。しっかりした枝でなく、枝垂れた長い枝を出します(写真②)。精一杯の回復策です。けなげと思います。プラタナスにも何度も枝を切り落とされた跡が見られ、瘤(こぶ)になっています(写真③)。
 イチョウは中国原産ですが随分古い時代に渡来した大高木で長寿命の木で、すっかり日本に馴染んでいます。有名な明治神宮外苑のイチョウ並木は、今年も紅葉を愛でる人々で賑わっていました。この並木は、4並列。1923年植栽で、直径60cm余、樹高25m以上に育って秋の外苑路を彩っています。詳しくは並木の端にある説明板に譲るとして、イチョウ本来の樹形と異なり、異常に尖っています(写真④⑤)。近づいてみると、やっぱり、枝を強度に剪定してあります。何度も剪定された枝先は瘤になり、切り取られた部分の葉を急いで補給すべく、細い萌芽枝(ほうがし)をたくさん出しています(写真⑥)。強度の剪定は枝を横に張らせないようにするためでしょうか、それにしても私にはいい樹形とは思えません。
 樹木にはその種特有の樹形があります。自然を理解するのには個々の樹木種を識別できることが第一です。花や葉で区別するのが普通ですが、樹形も重要な判断基準です。広い公園では、その樹種が持つ本来の樹形を発達させて、遠目にも識別できる標本木とすることを心掛けて欲しいものです。一方で、大きく出来ない場所に、大きく育つ樹木を植えるのは賢い方法とは言えません。大きな木が枝を広げていい場所と、大きくなっては困る場所とを分けて樹種の選択をして欲しいものです。植え付け条件をよく考えず闇雲に植えれば、後で面倒になるのは覚悟しなければなりません。

明治神宮外苑のイチョウ並木 ④ 明治神宮外苑のイチョウ並木

靖国神社の自然樹形を保ったイチョウ並木 ⑤ 靖国神社の自然樹形を保ったイチョウ並木

強い剪定の後に萌え出た萌芽枝、切られた跡が瘤になっている ⑥ 強い剪定の後に萌え出た萌芽枝、切られた跡が瘤になっている

公園・樹林地の価値

自然林のような明治神宮の森林

⑦ 自然林のような明治神宮の森林

 自然は大事だということは認めて貰えるとして、どうしたら好適な自然環境を守りつつ自然を利用する事が出来るのでしょうか。そのためには、自然を形作る主役である樹木を知ること、その第一として樹木の種類を見分けられることだと思います。次いで、夫々の樹木の性質を知り、それが作っている自然環境を理解することです。このことは、言い換えれば森林生態系を理解するということです。その森林生態系の中から、緑化したいところに適した樹種を抜き出してきて、新たに樹林を造成することから、都市に身近な自然を造成することが始まります。こうして作られた樹林地には、鳥や獣、風力の力で色んな種類の植物の種子がやってきて、徐々にですが自然と色々な植物が生育するようになり、多様性の高い植物社会が出来てきます。そしてそこは、管理の手間の余りかからない、自然の様子をそこに再現した、心地よい樹林になるはずです(写真⑦)。
 このように作られた樹林地は、新たにそこにやってくる人達に、自然を理解する手ほどきとなる多くの情報を提供してくれるでしょう。地域の樹林地は、たとえ都市林、街路樹であっても、地域の人々に朝に晩に慣れ親しんで貰い、ついには樹種名を覚える手助けとなり、環境保全に目覚める道を開くものであって欲しいと思います。そのためにも、できる限りその場所に本来あった樹種、しかも身近に普通にあって私たちの環境維持に役立ってきた樹種を使って欲しいものです。そして、樹形をいじり過ぎて傷害樹にするのでなく、その種特有の自然樹形を見せるような管理をして欲しいものです。


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