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2013.06.10

第22回世界で大流行のシェアバイクが、日本でうまく導入される条件とは

甲斐徹郎氏顔写真

小林成基(こばやし しげき)

 1949年2月24日生まれ。駒澤大学文学部英米文学科卒。コピーライター、雑誌編集者などを経て衆議院議員公設秘書、政策担当秘書、大臣秘書官を歴任。その後、(財)社会経済生産性 本部エネルギー環境政策部主任研究員として環境問題に関わり、自転車活用推進研究会を創設。2006年7月に研究会をNPO化し、理事長兼事務局長。また、国土交通省、警察庁、東京都 をはじめとする自治体の自転車関係会議委員を努める。共著書に「コミュニティサイクル」(化学工業日報社)など。

 化石エネルギー価格の高騰、超高齢化社会・経済低成長時代にふさわしいライフスタイルの拡がり、環境・健康への強い志向、そして自分の脚力だけで風を感じるさわやかさを覚えてしまった人たちの増加で、世界に自転車ブームが到来しています。長い間、いかにしてクルマを早くスムーズに走らせるかに努力を傾注してきた為政者たちは、新しいライフスタイルを求める一部の市民の声に耳を傾け、そのニーズにいち早く応えようとさまざまなチャレンジを行い、多くの失敗を繰り返しつつ、忘れられていた自転車の使い方を学び直しています。なかでもシェアバイクは、都市における新たな公共交通機関として認められつつある古くて新しいシステムです。この稿では、シェアバイク・システムが、わが国でなかなかうまくいかない理由を考え、どのようにすれば成功させられるかについて私なりの提案を申し上げたいと思います。

1 シェアバイクの定義と歴史

 シェアバイク・システムとは自転車を共用する仕組みのことです。バイクはオートバイの省略形ではなく、日本語以外では自転車を表すのが一般的です。「コミュニティサイクル」や「自転車シェアリング」と呼ぶ場合もありますが、自転車を貸し出し、同じところに返却する貸し自転車と違って、目的地までの移動に使ったら、行った先で乗り捨てることができるように工夫されており、都市における新しい公共交通と位置づけられています。
 この共用自転車システムに最初に挑戦したのは1960年代のオランダ・アムステルダムだと言われています。放置自転車を白く塗って「ホワイトバイク」と名付け、街なかに配置し、誰でも無料で使えるようにしました。日本と違って自転車がとても高価(平均価格は約8万円)な国ですから、市民にはとても喜ばれました。しかし、自分のものではないからと乱暴に扱う、自前の鍵を取り付けて独占する、酔漢が置いてあるホワイトバイクを運河に投げ込む・・・といった一部の人間のおかげで、街中に粗大ゴミをまき散らかす結果となりました。
 このアイディアは限られた資源をみんなで有効に使おうというすぐれたものです。世界中の報道機関がアムステルダムの試みを報じ、賞賛したので、真似をする自治体は未だに後を絶たず、わが国でも、どうせ使い道のない放置自転車だから、少しでも便利に使ってもらおうと、同じようなことをやった自治体がたくさんありました。そのことごとくが失敗でした。
 このことから、誰がいつどの自転車を借り出し、いつどこで返却したかを把握して課金しなければ、このシステムは成り立たないということがわかりました。オランダでは、いまでも大きな公園内でだけ自由に使える無料のホワイトバイクはありますが、街なかを回遊する移動手段として利用者の善意に期待するシェアバイクを使うことはしていません。

2 認証システムの登場

お隣の台湾でも「YouBike」というシェアシステムが始まった。(写真提供:森井直子)

お隣の台湾でも「YouBike」というシェアシステムが始まった。(写真提供:森井直子)

 21世紀になって情報技術の発達とクレジットカードやICカードの普及が進むと、個人情報と自転車の個体情報の管理が廉価で素早くできるようになり、少額の課金が容易にできるようになりました。現在、世界の大都市で運用されているシェアバイク・システムは、24時間無人で運用でき、最初の30分、あるいは45分間は無料、一度、専用のラックに収納して利用を終了させれば、すぐまた借り出せるようになっています。これにより年間4,000円くらいから1万円程度の会費を払えば、時間内であればずっと無料で使える環境が生まれました。
 クレジットカードなどで個人認証ができれば、返却しなかったり、故意に壊したりした場合に責任追及ができます。利用者側は、どの自転車をどの期間使ったかが把握されているため、紛失したり傷つけたりすれば賠償請求されるわけですから、大切に使おうという気持ちになります。それでも、シェアバイク・システム「ヴェリブ(自転車のヴェロと自由のリバティを組み合わせた造語)」で大成功しているパリ市などでは、何かを破壊したい衝動に駆られて壊されるシェアバイクが少なくないといわれています。幸いにして、パリと同じシステムで運用されている富山市では、まったくといって良いほどこうしたトラブルがありません。特別製の自転車は高価ですから、シェアバイク・システムを経営する上で、日本人の冷静さ、お行儀の良さはとても有利な条件です。
 最近では、アジア地域でも導入するところが増えてきました。ちなみに、世界最大の規模を誇るシェアバイクは中国の武漢で配置台数は7万台、次が杭州・西湖の6万台と言われています。
 わが国では香川県高松市が7ポート(自転車の貸出・返却場所)、1,250台が最大で、全国の自治体が数カ所の拠点で数十台規模のレンタサイクルの社会実験に挑戦しています。2011年に本格的な情報通信技術を使った無人のシステムを導入して、いち早く実験に踏み切ったのは東京駅周辺でした。運用システムは世界レベルですが、利用者に便利さを感じさせるには拠点も自転車も少なすぎました。最近では、横浜市で15ポート、300台、東京・江東区のお台場周辺を中心に20ポート、300台の実証実験をNTTドコモグループが始めています(実験期間は1~2年)。実験の成果と課題を踏まえた本格的なシステムの運用開始が期待されます。

3 量・資金・規制の壁

 シェアバイクは利用者が支払う対価だけで維持することは難しいといわれています。自転車本体、ステーションとかドックと呼ばれる設備、システム運用費、メンテナンス、利便性を高めるための再配置など、莫大な経費がかかります。利用料を上げれば利用者が減り、利用者が増えれば維持経費がかさむため、うまく定着したとしても独立採算は至難の業です。
 そんな割に合わないものをなぜ世界中がやっているかというと、街の回遊性・活性化、公害の低減、事故の減少、健康増進など、地域全体に与えるメリットの方が大きいからです。わが国で広がらない理由の第一は、縦割りのせまい範囲での採算性やメリットで評価するからだと言えましょう。
 また、わが国では失敗が許されないので、おそるおそる小出しに実験をやることがほとんどですが、シェアバイクの便利さは運用範囲が広く、導入台数が多く、利用者密度が濃くなければ発揮されません。人口217万人のパリ市に、人口の約1%、2万台以上を投入するから、市民の足として定着するのであって、数十台、数百台では今頃は雲散霧消していたと思います。
 経常経費がなんとかなるレベルであれば、初期投資を公的機関が受け持つとか、政府保証で返済開始までの期間を長く設定するなど、さまざまな知恵が出てきます。赤字の路線バスに公的な助成があたりまえのように行われていることから、利益を受ける一定の数の市民がいればシェアバイクへの投資は当然のことと考えられるでしょう。

4 総合的な観点からの評価を

石川県金沢市の「まちのり」は拠点が建物の裏の方に置かれていて見つけにくいが、徐々に浸透しつつある。

石川県金沢市の「まちのり」は拠点が建物の裏の方に置かれていて見つけにくいが、徐々に浸透しつつある。

 不足する資金を町中の広告看板掲出権で調達するパリ方式は、厳しい景観保護が前提であり、看板だらけのわが国では成り立ちません。公共駐車場の収益を転嫁するバルセロナ方式は、交通管理と都市計画がバラバラな状態では不可能です。ドイツ鉄道のように、鉄道事業単独での採算を考えるのではなく、公共交通の守備範囲を広げることで利用者の増加と固定化を目指す発想も、地価が高く駐輪場経営ですら困難なわが国の現状では望むべくもありません。
 大手の銀行がCSR(企業の社会的責任)や宣伝目的で、冠サービスとして提供するロンドンのバークレイズバンクや米国のCITIバンクの例は、自転車の社会的価値が認識されれば日本でも実現できそうです。
 最後の壁は公益特権に関わることです。公共スペースの占用、電力や通信ネットワークの配置、個人認証制度の利用範囲、賠償保険制度など、我が国独自の規制のために、実現できなかったり実現するためのコストが非常に高くなったりする「壁」を、どのように乗り越えていくかが課題となります。
 シェアバイク・システムは都市交通を大転換させる潜在力を秘めています。必要なのは、自治体トップの長期的総合的な視点での経営判断です。環境貢献や放置自転車対策などの効果は、結果として達成される場合もありますが、もしそうした付随的な効果がなくても、市民生活の活性化と豊かさへの貢献だけで、目的は十二分に果たされていると認識すべきであり、失敗しないための綿密な研究と準備が必要であることを強調しておきたいと思います。


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