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2014.01.10

第29回 国際社会の動きと私たちの日常生活をつなげる

亀山康子(かめやま やすこ)

亀山康子(かめやま やすこ)

 独立行政法人国立環境研究所社会環境システム研究センター持続可能社会システム研究室室長。東京大学大学院新領域創成科学研究科客員教授。1992年環境庁国立環境研究所(当時)入所、2011年より現職。地球環境問題に関する国際協調を研究テーマとする。主な著書に、亀山康子・高村ゆかり編(2011)『気候変動の国際制度:京都議定書の行方』慈学社、亀山康子(2010)『新・地球環境政策』昭和堂等。

 国内外で異常気象が増えています。この現象がすべて地球温暖化を原因としているとは言い切れませんが、温暖化したら起きるだろうと言われていたことが実際に起き始めているのは確かです。放っておけば、さらなる温暖化が予想されていますが、このような緊急性に反して、温暖化抑制のための合意を目指した国際交渉は、ほとんど進展をみていません。わたしたちの日常生活から遠いところの話と思われがちな国際交渉を、日常生活につなげてみたいと思います。

地球温暖化は現実となっている

 2013年の9月、地球温暖化現象に関する最新の報告書が、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)から公表されました。IPCCというのは、世界中の科学者が集まり最新の科学的知見を踏まえて地球温暖化の現状を中立的に検討する国際機関です。この報告書では、「気候システムの温暖化には疑う余地がなく、1950年代以降、観測された変化の多くは数十年~数千年間で前例のないものである」として、温暖化が現実に進行していることが示されました。また「気候システムに対する人間の影響は明白である」として、石炭や石油といった化石燃料の利用が、温暖化が生じる主な原因となっていることも明らかとしました。これまで、人間活動が原因という説に懐疑的な主張も聞かれていましたが、そのような意見はますます少数派となってきています。
 今年だけ見ても、異常気象が国内外で目立ちました。2013年11月に大型台風30号に襲われたフィリピンでは、5000人を超える方が命を落としました。国内でも台風や集中豪雨、竜巻などにより深刻な被害が見受けられました。夏の猛暑では6万人近くの方が熱中症により搬送されました。これら一つ一つの現象が温暖化を原因としているとはいえませんが、温暖化により説明しうる現象です。

1901年から2012年までの地上平均気温変化

図1:1901年から2012年までの地上平均気温変化
出典:IPCC 第1作業部会 第5次評価報告書(2013年)

気候変動枠組条約第19回締約国会議(COP19)で決まったこと

 同じく2013年11月には、ポーランドのワルシャワで、気候変動枠組条約第19回締約国会議、いわゆるCOP19が開催されました。気候変動枠組条約というのは、地球温暖化問題に国際的に対処するための条約です。この条約には、ほぼ世界中の国が参加しています。温暖化の主な原因である二酸化炭素の排出量を世界各国で減らし、また、二酸化炭素を吸収してくれている森林の面積が減らないようにするための方法を検討してきました。この条約の下に京都議定書を設置し、2012年までは京都議定書の下で先進国が排出量を減らす努力をしてきました。しかし、最近まで最大の排出国だったアメリカが初めから京都議定書に参加しなかったこともあり、2013年から2020年までの8年間は、参加国がさらに減ってしまいました。そこで、今では、すべての国が参加する新しい枠組みを目指した交渉が始まっています。2年後の2015年に合意して、2020年から実施させることが期待されています。
 他方で、190以上ある締約国が受け入れられる国際枠組みへの合意は容易ではありません。残り2年の交渉期間を残し、COP19では、各国が将来の排出削減目標をどう決めるか、途上国での温暖化対策を支援するための資金をどのように動員するかといった点が話し合われました。

「目指すべき」目標と「目指せると思う」目標との差(ギャップ)

中学生と地域との連携による炊き出し訓練(出典:多摩市教育委員会『ESD ですすめる
「2050 年の大人づくり」のための20 章』)

気候変動枠組条約第19回締約国会議(COP19)の会場となったワルシャワの国立スタジアム
(国立環境研究所職員 横田達也氏撮影)

 それでは、今後、私たちや私たちの子どもたちが今よりさらに変動した気候によって被害を受けないようにするためには、どうすればよいのでしょうか?COPでは、大きな被害とならないようにするためには、世界の気温上昇幅を、温暖化が始まる以前の気温と比べて2℃以内に抑えるべきだとしています。この目標を目指すのであれば、世界の温室効果ガス総排出量は、2030年までに増加傾向から減少傾向に転換させて、2050年までに現行の半分ほどの量まで減らさなくてはならないといわれています。しかし、実際には、世界の排出量は増え続けています。各国がすでに提示している2020年削減目標を合計しても、必要とされている削減量には及びません。このように、本来温暖化問題を人々にとって危険のない水準に抑制するために必要な「目指すべき」目標と、各国が自ら「目指せると思う」目標との間には大きな差が残されており、「エミッション・ギャップ」と呼ばれています。ヨーロッパなどでは「目指すべき」目標が温暖化対策の議論で重視されますが、日本では、最初から、どれくらい減らせるのか、つまり「目指せると思う」目標だけが注目されます。達成しようもない目標を打ち立てるべきではありませんが、このギャップを理解しながら適正と思われる目標を検討する必要があります。

図3今後の排出量と気温上昇との関係とエミッション・ギャップ

図3 今後の排出量と気温上昇との関係とエミッション・ギャップ
出典:Emission Gap Report (UNEP, 212)

色がついた帯は、21世紀中の気温上昇を特定の幅に抑えようとした場合に許容される温室効果ガス世界総排出量。2020年に黒い四角で示されているのは各国が提示した2020年排出量目標の合計値。いくつかの国は幅で排出量を提示しているため、その上下に一定のレンジをもうけているが、いずれにしても、すべての国が今掲げている2020年目標値を達成したとしても、オレンジから濃いピンク(21世紀中に2.5℃~5℃)の気温上昇が生じてしまうことを表している。

わたしたちができること

 ここまで、地球全体の話や国際交渉の説明を読んでくださった方々の中には、これらの話が自分の日常生活から遠く離れた別世界のことのように感じられる方も少なくないと思います。しかし、温暖化問題の将来は、最終的には私たち一人一人の選択次第です。「目指すべき」目標の十分な理解なくては、なぜ二酸化炭素を減らさなくてはならないのかも納得できないでしょう。まずは自分が、自分の子どもや孫の世代にどのような日本を残したいと思うか、というところから温暖化対策を考えてみませんか。なるべくエネルギーを使わない生活を送る、森林を利活用しつつ保全する活動に参加する、といった個人の行動は、「自分ひとりでやって何の役に立つんだろう」と思ってしまいそうなほど、地球の中では些細な効果しか直接には及ぼさないでしょう。しかし、同じように考えて行動する人が増えなくては、日本の「目指せると思う」決定方法は変わりませんし、温暖化抑制に寄与する2015年国際合意も達成されないのです。
 消費者としての購買行動や消費行動は、資源循環を目的とした行動にも結びつきます。森を大切にする行動は、生態系保全にもつながります。個人の温暖化対策は、他の環境価値への配慮行動とも一致することが多いことに気づくでしょう。

参考文献

江守正多(2013)『異常気象と人類の選択』角川SSC新書。
ハイディ・カレン著熊谷玲美訳(2011)『ウェザー・オブ・ザ・フューチャー 気候変動は世界をどう変えるか』シーエムシー出版。
亀山康子・高村ゆかり編(2011)『気候変動と国際協調―京都議定書と多国間協調の行方』慈学社。

参照サイト

IPCC ホームページ(英文): http://www.ipcc.ch/
気候変動枠組条約 ホームページ: http://unfccc.int/2860.php
(独法)国立環境研究所 地球環境研究センター: http://www.cger.nies.go.jp/ja/
環境省 HP 地球環境・国際環境協力: http://www.env.go.jp/earth/index.html#ondanka


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