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2015.01.09

第40回 長野県飯田市のスマートコミュニティ形成による地域再生の試み

諸富 徹(もろとみ とおる)

諸富 徹(もろとみ とおる)

1968年生まれ。1998年京都大学大学院経済学研究科博士課程修了後、横浜国立大学経済学部助教授を経て、2002年京都大学大学院経済学研究科助教授、2010年3月から現職。主著に、『環境税の理論と実際』(有斐閣、2000年)など。環境省「中央環境審議会合同部会地球温暖化対策税制専門委員会」、東京都「税制調査会」および「環境審議会」、環境省「国内排出量取引制度検討会」、飯田市「再生可能エネルギー導入支援審査会」等の委員を務める。

 スマートコミュニティの形成は、再生可能エネルギーを中心とする「分散型電力システム」への移行にあたって、不可避的に必要になる技術であり、社会システムだといえます。しかしスマートコミュニティ形成をめぐっては、その技術的側面にのみ光が当たり、それを支える社会経済システムは往々にして見落とされます。本稿では、長野県飯田市を事例に、スマートコミュニティ形成には、どのような政策と、社会経済システム構想が必要なのかを見ていきたいと思います。

1.「再生可能エネルギー固定価格買取制度」のもたらすインパクト

 「スマートコミュニティ形成」にとって、2012年7月に導入された再生可能エネルギー固定価格買取制度(以下、買取制度という。)は、決定的な意味をもっています。買取制度は、諸課題はあるものの、日本でも再生可能エネルギー(以下、「再エネ」という。)の普及促進に大きな成果を収めています。
 再エネは、太陽、風、水などを電気に変えるため、日本全国各地に資源が賦存※1しており、したがって本質的に「分散的」な性質をもっています。この性質を利用すれば、再生可能エネルギーを用いて地域再生を図る途が展望できると考えられます。しかし、大手企業によるメガソーラーの建設だけでは、地域に雇用と所得はほとんど発生しません。売電収入も、当該地域から吸い取られて東京や大阪など、域外に流出してしまいます。
 地域再生というからには、発電事業は地域住民・事業者が自らリスクを取って事業を立ち上げる必要があります。さらに、そのための事業資金は地元から調達する必要があります。こうすることで、発電事業で得られた売電収入はその地域にとどまり、さらにそれを再投資してこそ、その地域の一層の発展に資するのです。
 これらを成し遂げるのはそう簡単なことではありませんが、本稿では、これらの理念を体現する事業を進めて成功を収め、さらなる発展を遂げようとしている長野県飯田市の取り組みをご紹介しましょう。
※1理論上は潜在的に存在しているとされていること

2.飯田市における地域エネルギー政策と地域再生の試み

 長野県・飯田市は、まさに地域エネルギー政策の実践に取り組み、市民出資による「太陽光市民共同発電」の仕組みを軌道に乗せたことで、全国的に有名です。「おひさま進歩エネルギー株式会社」が中心となって、2005年2月から市民出資の募集が始まったのですが、わずか2ヶ月余りでなんと、募集額の2億150万が満了しました。
 この出資金は、太陽光発電事業と省エネ事業に投資され、生み出された収益にしたがって配当が出資者に分配されます。これは、再エネ事業が寄付に基づく慈善事業や社会貢献事業ではなく、民間出資に基づく通常の収益事業として成立可能であることを証明した点で、大きな社会的意義をもっています。
 飯田では、この取り組みをさらに拡大するために、地域金融機関(飯田信用金庫)の協力を得て、市民出資だけでなく銀行融資も加える形で資金調達手法を多様化しました。その結果生まれたのが、「おひさま0円システム」という名称の太陽光発電普及施策です。ここでは、図を用いて「おひさまゼロ円システム」を紹介しましょう。

おひさまゼロ円システムの概要。[出所]筆者作成

おひさまゼロ円システムの概要
[出所]筆者作成

 このシステムは、おひさま進歩が、3.3kW程度の太陽光発電設備を飯田市内の住宅に設置し、住宅所有者が毎月1万8,200円を9年間支払うことで、初期投資なしに太陽光発電システムの導入を可能にするという仕組みです。余剰電力の売電は、住宅所有者の収入となるため、節電して売電量を増やせば、実質的な月々の支払額を減らすことができます。そして10年目以降は、太陽光発電設備の所有権がおひさま進歩から住宅所有者に移るため、売電収入のすべてが住宅所有者のものになります。
 しかし、このシステムの下では、おひさま進歩の手元資金繰りが厳しくなってしまうという問題があります。そこで登場するのが、飯田信用金庫になります。飯田信金は、おひさま進歩エネルギーによる太陽光パネルの初期購入費用を低金利で融資することでキャッシュ・フロー問題を解決し、その後、9年間にわたる住宅所有者からおひさま進歩への支払いを原資として、貸付金の元利償還が行なわれるというスキームを構築したのです。

3.再エネ発電事業による地域再生に向けて

 飯田市は、地域による再エネ発電事業をさらに全市的に展開するために、2013年3月22日、「再生可能エネルギーの導入による持続可能な地域づくりに関する条例」を可決、4月1日に施行しました。これは本来、水や空気、土地などは地域に固着的なもので、それを利用して上がる利益を享受する第一義的な権利は、地域住民にあるのではないか、との哲学に基づいています。そのために、この条例は第3条において、「現在の自然環境及び地域住民の暮らしと調和する方法により、再エネを自ら利用し、その下で生活していく地域住民の権利(「地域環境権」)」を謳っているのが画期的です。
 もちろんこの条例は、飯田市域での大手企業の自由なビジネス展開を排除するものではありません。ただ市の姿勢としては、「地域環境権」の考え方に基づいて、第一義的には再エネを利用する権利が住民にあること、したがって、自ら売電事業に乗り出す住民組織や、彼らとの合意と協力に基づいて再エネビジネスに乗り出す民間企業を、積極的に支援していく意図を、条例制定を通じて明らかにしたといえます。
 飯田市は、この条例に基づいていくつかの支援を行っています。第1に、私もメンバーとして加わっている「飯田市再生可能エネルギー導入支援審査会」です(表参照)。これは、学識経験者や各領域の専門家によって成り立っている組織で、条例の精神に基づいて支援を申請してくる再エネ事業に対して、発電技術面での助言や、ビジネス(法務、ファイナンスなど)上の助言を行うことになります。第2に、この条例に基づいて新たに基金を創設、それを原資に、支援対象となる事業体に融資を行います。再エネビジネスは、発電が始まれば売電収入が入ってきますが、事業開始前であっても、風況調査や水量調査、環境アセスメント、発電・送電設備の建設などで巨額の出費を強いられます。このため、体力のない中小企業や住民組織は、売電収入が入るまでの間、資金調達に窮します。これを解決するのが、基金からの融資となります。
 こうしてこの条例は、理念や方向性のみを謳う通常の自治体条例と異なり、目標を明確に立て、それを実現する政策手段や資金を具体的に用意している点に、他の自治体条例とは異なる飯田市の地域環境権条例の特徴があります。

[出所]飯田市作成

[出所]飯田市作成

4.地域経済の「起動力」としての再エネ

 地域環境権条例は、その制定後すぐに、具体的な効果をおよぼしました。私たちが条例に基づく支援対象事業として認定した第1号案件(2014年6月承認)は、「駄科地区」という地区におけるコミュニティ防災センターの屋根を用いて住民自身が行う、太陽光発電事業でした。おひさま進歩エネルギー株式会社の協力を得て売電事業を実施、売電収入の一部は、駄科区の将来の事業費用のために積み立てられます。また、災害時における非常電源の確保とおひさま進歩による住民環境学習プログラムの提供も行われます。以後飯田市では、住民自身が太陽光発電事業に取り組む事例が相次いでおり、飯田市民の反応のよさに驚かされるとともに、審査会としては嬉しく、同時に勇気づけられています。

飯田市小沢川での小水力発電事業。[出所]飯田市作成

飯田市小沢川での小水力発電事業
[出所]飯田市作成

住民組織による小水力発電の候補地である小沢川を視察する住民。[出所]飯田市資料

住民組織による小水力発電の候補地である小沢川を視察する住民。[出所]飯田市資料

 なかには、ある有名大手企業が工場用地として確保していた土地を太陽光発電事業に転換するのにともなって、その企業が地元まちづくり協議会と合意の上で、一部の土地を貸与し、住民のための防災公園の整備と、住民自身の太陽光発電事業の開始へと漕ぎ着けた事例もあります。これはまさに、条例の精神に則った形で域外企業が飯田で住民と協力関係を構築してくれた実例です。
 いま、飯田市が地域環境権条例の延長線上にもっとも力を入れて取り組んでいるのが、小沢川流域での小水力発電事業の立ち上げです。これは、飯田市の旧上村地区の住民が自ら事業主体となって発電事業を立ち上げるという大変野心的な試みです。これは、ドイツでは先例があるものの、日本ではほとんど事例が見当たらないパイオニア的な事業です。資金も地元の金融機関からの融資で大部分を賄いますので、地域的な資金循環を生み出し、その売電収入は上村住民たちのまちづくり資金として用いることを計画しています。
 飯田市におけるこれらの動きは、ほんの小さな一歩ですが、地域経済振興の大きな転換点としての意味をもっていると思います。つまり、「大企業や大規模公共事業の誘致に成功すれば、地域は何とかなる」という思い込みからの脱却です。これらはたしかに、高度成長期に地域に所得と雇用という恩恵をもたらしてきました。しかし、今や相次ぐ大手企業の国内工場閉鎖や海外移転、公共事業の継続的な縮小で、展望を描けなくなっています。
 しかも問題なのは、これらに頼ってきた地域の側で、自ら問題を解決するのではなく、「お上」や「大きいもの」に頼る心性が生まれてしまった点にあります。いま求められているのは、これを大きく転換して住民自身が地域再生に向けて結束し、自らリスクを取ってビジネスを始める気概を持つことではないでしょうか。それを可能にする条件がたまたま、固定価格買取制度で与えられたということになります。この機会を見逃す手はないでしょう。そして、自治体による住民ビジネス支援の1つのモデルを示したのが、飯田市の条例だと評価できると思います。

参考文献

諸富徹(2010),『地域再生の新戦略』中公叢書.
諸富徹・浅岡美恵(2010),『低炭素経済への道』岩波新書.
諸富徹(2013),「『エネルギー自治』による地方自治の涵養-長野県飯田市の事例を踏まえて-」 『地方自治』5月号(No.786), pp.2-29.
諸富徹(2013),「再生可能エネルギーで地域を再生する-『分散型電力システム』に移行するドイツから何を学べるか-」『世界』10月号(No.848),pp.152-162.


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