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2015.06.09

第46回 人モノサシを使った「グリーンリフォーム」のススメ!

大庭 みゆき(おおば みゆき)

大庭 みゆき(おおば みゆき)

九州大学大学院工学府博士課程後期修了。博士(工学)。専門は伝熱工学。財団法人省エネルギーセンターに17年勤務後、環境エネルギー総合研究所を設立し、同社代表取締役に就任、現在に至る。神奈川県地球温暖化対策計画検討委員、島根県再生可能エネルギー及び省エネルギー県計画策定検討委員、北海道省エネライフスタイル検討委員会委員長、目黒区めぐろスマートライフ提案会議委員等を務める。

 2013年度家庭部門からのCO2排出量【1】は201,237kg-CO2に達し、家庭部門の低炭素化は緊急の課題です。では家庭部門の低炭素化をどうやれば効率的かつ効果的に促進することができるでしょうか?その一つが住宅のグリーンリフォーム(断熱リフォーム)です。ところが高断熱化によって快適性が向上し、光熱費も削減されるにもかかわらず、住宅のグリーンリフォーム(断熱リフォーム)をされる方は多くありません。その理由を探りつつ、グリーンリフォームの促進要因について検討してみました。

家庭のエネルギー消費の特徴

 弊社の長年の調査結果より家庭のエネルギー消費は家族の成長に合わせて経年変化することが分っています。具体的には家庭のエネルギー消費は、子どもの誕生後は子どもの成長に合わせて子どもが独立するまで自然増加して行き、子どもの独立後、夫婦2人世帯となると一旦急減しますが、加齢とともに再び増加傾向に推移します。これをエネルギーライフモデルと呼んでいます。このモデルの中で何度か大きなエネルギー消費のターニングポイントが見られます。それは、[1]住宅購入時(新築時)、[2]住宅リフォーム時、[3]大型家電機器の買い替え時の3つです。

家庭のエネルギー消費の特徴(EER)

住宅の現状~寒いお風呂と暑い寝室~

 平成27年4月末時点での省エネ住宅ポイントの状況【2】(リフォームのみ)を見ると、全国ではリフォーム件数の約87.7%が窓の改修を行っていますが、断熱材を設置しているものはわずか3.1%と100件に3件程度の低い実施率に留まっています。中でも東京都の断熱材実施比率は全国平均よりも低く、わずが2%程度しかありません。省エネ住宅ポイントを見る限り東京都は断熱リフォームがあまり実施されていないというのが現状のようです。

表

 では、なぜ東京都民は断熱改修をしないのでしょうか? 断熱改修をしなくとも、もともとの住宅の断熱性能が高いのでしょうか? その答えを探るために、住宅の現状を別の調査資料から検証してみました。
 東京都健康長寿医療センター研究所が実施した2011年一年間の浴室での心肺停止状態(CPA【3】)例の実態調査によると、2011年には年間約17,000人もの方がヒートショック(身体が温度変化にさらされて、血圧が急変するため脳卒中や心筋梗塞などを引き起こすこと)に関連した入浴中の急死をしたと推計されています。

グラフ:入浴中の心肺機能停止者数(2011年)

 弊社では更に住宅の現状(断熱性能)を実際の住まい手から情報を得るために、昨年首都圏を中心として住宅に関するアンケート調査を行いました。その結果から今の住宅の温熱環境の実態が見えてきました。
 住まいの断熱性に対する不満は全体の約34%あり、間取りや広さの不満よりも多くなっています。その内容を住宅の部位別で見ると、「浴室が寒い住宅」約31%、「脱衣所・洗面所が寒い住宅」約30%、つまり裸になる場所が寒い住宅が全体の約3割あります。寒さに関する不満は特に戸建住宅で高い傾向が見られました。これがヒートショックを引き起こす要因となっている可能性が高いと考えられます。一方、暑さに関するものでは、「冷房している部屋に直射日光が当たって暑い住宅」が約48%、「夏の夜は冷房がないと眠れない住宅」が約34%ありました。暑さに対する不満は集合住宅で高い傾向が見られました。
 また東京都監察医務院によると最近増加しているのが夜間に熱中症を発する「夜間熱中症」で、その原因の一つとして、断熱性能が低い住宅での室温上昇によると言われています。就寝中暑い住宅では夜間熱中症の不安も抱えることになりそうです。
 このように様々な角度から住宅を見ると、東京都の住宅の約1/3以上が何らかの断熱性能の問題を抱えているようです。

住宅リフォームの現状~なぜ断熱しないの?~

 では住宅リフォームの現状はどうなっているのでしょうか?弊社で実施した調査結果で特に興味深かったことは、「リフォームの優先順位」です。住まいの断熱性能に不満があると回答しながらも、実際のリフォームでは年代を問わず(20代~60代以上の各世代で)「間取り・インテリア」がリフォームの優先順位第1位でした。つまり実際の住まいへの不満の原因がリフォームによって解決されないというわけです。この結果は先に述べた省エネ住宅ポイントの断熱改修件数の少なさと一致しています。
 ここで大きな疑問にぶつかりました。「どうして寒い、暑いと不満があるのに、断熱リフォームをしないのか」ということです。実際にリフォームされた方にヒアリングしたところ、以外な回答が返って来ました。それは「お風呂が寒い原因が断熱性能にあることを知らなかった。」、「寝室が暑くて寝苦しい原因が断熱性能にあることを知らなかった。」などと、温熱環境の快適性が住宅の断熱性能にあるという認識がないということでした。また断熱リフォームが進まないもう一方の原因としては、リフォームに携わる建築士さんや工務店さん達に断熱の知識が十分でない場合があるということです。リフォーム業界の方にお話を聞くと、「価格勝負」という言葉がよく出てきます。「施主満足は安さが一番」という考えの方が多いということでした。この二つの大きな要因によって住宅の断熱化が阻害されている可能性があることが分かりました。

人モノサシ指標の必要性

 非断熱リフォーム実施者の方に断熱リフォームの効果をお話すると、「それほど快適性が増すなら少し費用がかかってもやっていたのに・・・。」と言われる方が少なくありません。一般の方に分かりやすい断熱リフォームの効果を示す指標があれば、断熱リフォーム(グリーンリフォーム)は格段に増加する可能性がありそうです。断熱リフォームの効果というと、住宅からの熱損失量を表すQ値や部材の熱の通りやすさを表すUA値など、単位あたりの熱量で示されることが多いですが、一般の方にはあまり馴染みがなく、その数値に生活感を持つことが難しいようです。そこで生活感を持つことができる数値で、しかも住宅(ハード)の性能評価ではなく「人」を基準とした「人モノサシ指標」(非エネルギー便益)が必要だと考え、現在研究中です。
 家電機器やガス・石油機器には、省エネラベリングが添付されていて省エネ性能を目で見て確認できるように、グリーンリフォームを実施した住宅の省エネ性能も「見える化」できれば、「築後10年で上モノの価値は0円」という今の住宅評価に代わる、別の評価が生まれ、資産価値を高めるためにもグリーンリフォームの実施が増加するものと期待されます。


参考

  1. 日本国温室効果ガスインベントリ報告書 2015年4月版
    http://www-gio.nies.go.jp/aboutghg/nir/nir-j.html外部リンク
  2. 省エネ住宅ポイント事務局「省エネ住宅ポイントの実施状況について」
    http://shoenejutaku-points.jp/implement/1504外部リンク
  3. 本報告では、医療機関搬送後に死亡確認を受けた事例における死亡診断のデータは取得していない。あくまでも救急要請を受けて救急隊が現場に行ったときに心臓機能停止状態Cardio-Pulmonary Arrest(CPA)のこと。
  4. 環境エネルギー総合研究所 http://www.eer.co.jp外部リンク

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