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第50回 「みんなで創る水素社会」2020年とその先をめざして、水素エネルギーと私たちのくらし・地域

崎田 裕子(さきた ゆうこ)

崎田 裕子(さきた ゆうこ)

1974年立教大学社会学部卒。出版社を経て85年フリージャーナリストに。生活者の視点で環境・エネルギーを中心に持続可能な循環型社会づくりに取り組む。96年環境省「環境カウンセラー」登録。環境学習・リスクコミュニケーション・環境まちづくり等に関わる。NPO法人持続可能な社会をつくる元気ネット理事長、NPO法人新宿環境活動ネット 代表理事(新宿区立環境学習情報センター指定管理者)、早稲田大学招聘研究員。
「中央環境審議会」「総合資源エネルギー調査会」「国土審議会」等政府委員や東京都「環境審議会」「都市計画審議会」等自治体委員を務める。
 著書に「だれでもできる ごみダイエット」共著「電気のごみ 地層処分最前線を学ぶたび」共著「みんなで創る オリンピック・パラリンピック」等。

 家庭用燃料電池だけでなく2015年には燃料電池車が一般販売され、東京都も“2020年東京オリンピック・パラリンピックを大きなステップにして水素社会実現をめざす”と宣言。 新たなクリーンエネルギーと言われながら、これまで遠い存在だった「水素エネルギー」が、急速に身近になり始めています。
 私は資源エネルギー庁や東京都の「水素・燃料電池」を推進する会議に市民の立場で参加し、多様な関係者の熱い動きに感動しつつ、もっと市民や地域を巻き込んで取り組んで欲しいと提案しています。自治体の方々を含め、私たちは今、どう取り組んだらいいのか考えます。

1.なぜ、水素エネルギーが必要なのか?

 考えてみれば、太陽光発電など再生可能エネルギー(以降 再エネ)が身近になる最近まで、「創エネ」は関係事業者にお任せで、私たち市民の役割は「省エネ」が主でした。ですから、そもそも日本の「エネルギー自給率」の低さなど、エネルギーを巡る課題はあまり自分事になっていなかったように思います。
 輸送用燃料や発電などに使う一次エネルギー自給率が20%程度しかなかった日本ですが、2011年の東日本大震災による原子力発電所事故後は全国の原子力発電が停止しており、2012年の一次エネルギー自給率は6%に下がっています。これはOECD加盟34カ国で2番目に低い数字です。
 電源に限ると天然ガス・石炭・石油など海外から輸入する化石燃料による火力発電は2013年88%に達し、燃料輸入費年間27兆円とCO2排出量の急激な増加が課題となっています。地球温暖化による気候変動を緩和するために、2050年には世界のCO2排出量を1990年比40~70%削減が必要と言われている現在、世界でトップレベルの効率を誇る日本の火力発電技術といえども、この状況を継続するのは難しくなっています。


資料:資源エネルギー庁

 そこで、地球温暖化対策強化と、エネルギー自給率向上と電力コストのバランスを考えて、政府が2015年6月に示した「2030年長期エネルギー需給見通し」による電源構成では、再エネを11%から22~24%に上昇させ、化石燃料や、事故時のリスクの大きい原子力の依存度を抑える計画になっています。
 固定価格買取制度の導入もあり、再エネは太陽光を中心に急激に増加していますが、系統に受け入れる余裕がない、あるいは天候による急激な発電量低下などに対応する措置が必要など、再エネを安定的に大量に受け入れるには、まだまだ対策が必要です。
 そのような現状の中で2030年より先を見すえたとき、再エネはじめ様々な原料から生成できる水素を利用して酸素と化学反応させ、電気と熱を効率よく活用する「燃料電池」は、エネルギー自給率向上と温暖化対策、そして分散型発電が可能な技術として大いに期待されているのです。

資料:資源エネルギー庁

2.水素エネルギーは本当に環境にいいの?

 「燃料電池」の仕組みを簡単に言うと、水を電気分解すると水素と酸素に分かれますが、その逆ということ。水素と酸素が触れ合って化学反応を起こし、電気と熱ができて残るのは水だけ。ということは、燃料電池車が増えれば脱石油でしかも排気ガスを出さないクリーンな車社会が可能になる、ということです。
 一方で、水素を製造する際にCO2をたくさん出しているのでは、という声をよく聞きます。確かに水素は多様な原料から創ることが可能で、天然ガス、石炭、石油などの化石燃料から生成したり、工業プロセスの副生水素として石油精製や石油化学、製鉄所のコークス炉などから発生します。その過程ではCO2を排出していますが、事業活動から発生した水素はできるだけ無駄にせず、工場内あるいは近隣地域で有効活用するのは大切な取り組みです。海外の石油精製所などで発生した水素を日本に輸送しようという計画もあります。バイオマスやメタノールだけでなく、長期的には再生可能エネルギーなどから水素をつくるCO2フリー水素が生まれる社会を目指しているのです。
 また、再エネが急激に増加した地域では、水素として貯めて輸送し活用することも可能です。北海道の風力発電や九州の太陽光発電など、特に発電量の多さに対して系統接続可能量がまだ追いついていない地域や、公共施設の防災備蓄電源としての活用なども、大いに期待されています。

資料:資源エネルギー庁

3.水素ステーションは安全なの?

 9月17日夕方、新宿区立環境学習情報センター研修室で、水素社会の父といわれる専門家、九州大学佐々木一成教授を招いた「水素社会と私たちのくらし」と題した学習会が開催されました。私も企画づくりに協力し、意見交換のコーディネーターも努めましたが、その際約50人の参加者から、驚くほど多くの質問がでました。
 その半分は、CO2削減効果や将来の可能性など技術につながる事。そして半分は、いいことばかりではなく想定外のことも起こり得るはず。デメリットは何か。リスクは何か。というもの。東日本大震災で「安全神話」が崩れた今、安全に向けた努力を共有し対話することの重要性を痛感しました。
 特に水素を燃料電池車に供給するための水素ステーションが各地で創られようとしていますが、産業界の方が技術革新に合わせて厳しい安全規制を緩和してほしいと発言されるのとは裏腹に、社会での厳しい声は多い状況です。
 リスクコミュニエーションの基本は、「情報公開」「対話」「リスク評価・管理への住民参加」です。産業界の皆様には、安全に向けた一層の技術開発や対策をしていただいたうえで、どのようにリスク管理を徹底しているのか社会に情報発信をし、社会を巻き込みながら新しい技術の発展をめざしていただきたい、という理由がここにあります。
 数年後に、技術は開発できた。けれど工場や水素ステーションをつくろうと思ったら、水素爆発など危険性を危惧する地域社会の理解は得られなかった、では困るはずです。例えば簡易の自主的環境アセスの精神を導入し、早い段階から地域社会と対話し、連携する道を探っていただきたいと願っています。


資料:資源エネルギー庁

4.水素でくらしはどう変わる?

 2009年に発売され、補助金を活用しても設置に約300万円かかった家庭用燃料電池は、2015年に約半額となり全国で12万5000台普及しています。2015年に発売された燃料電池車は、国と都の補助金を活用すると400万円で購入出来、2017年には目標3000台を目指しています。それ以外にも、業務・産業用の水素発電や、バス、フォークリフト、鉄道、船そして飛行機まで研究されているのです。
 機器の発展だけでなく、私たちのめざす水素社会はどのような姿をしているのでしょうか。それはきっと、エネルギーが住宅やオフィス、地域で最適にコントロールされ、効率的に活用できるスマートコミュニティーの姿に重なるのではないでしょうか。地域で再エネを大量に導入する際に水素で蓄える、あるいは発電所そのものも水素発電を活用する。災害時の避難施設に指定された公共施設は、自立型電源としての発電機能の付いた燃料電池を設置するなど、効率性と災害対応を備えたまちの姿です。
 東京都は、まだまだ初期投資のかかる水素社会を牽引するため、2020年に向けて予算を投入する選手村建設や送迎バス配備などに積極的に燃料電池を取り入れ、2030年やその先の都市づくりをめざしているのです。
 2015年9月に、環境モデル都市づくりをめざす愛知県豊田市の展示施設「とよたエコフルタウン」を訪問し、燃料電池や自動車、エネルギーマネジメントシスタムを導入した住宅を見学した際、CO2排出を年間で55%削減。環境意識の高い家庭での削減率は75%に達したという結果を伺い、驚くと共に、技術と普及啓発の連携の重要性も実感できました。

5.みんなで創る水素社会に向けて

 北九州市では工場の副生水素を活用して近隣地域の水素社会づくりが進んでいるのは知られていますが、東京近郊の川崎市臨海部には、海外の未利用水素を日本に輸送する技術開発に取り組む企業や、関連産業も多く立地しており、事業者間で水素を有効活用する動きを強化し、徐々に市民生活へ普及させる取り組みが進んでいます。多摩川を挟んだ東京都世田谷区とも協定を結び、水素活用を活用した街づくりを始めようとしているそうです。
 まずは、具体的に見て学べる場が必要ですが、これまでは東京ガス(株)が荒川区内で開設している千住水素ステーションだけでしたが、東京都も東京都環境公社の協力を得て、江東区潮見に水素ステーションを整備し、水素ステーションを運営するために必要な 人材育成や水素エネルギーの普及啓発拠点を整備するとのこと。江東区も省エネ・創エネなどの普及に意欲を示しており、こどもから大人まで、燃料電池の仕組みを体感できる環境エネルギー学習の拠点ができることを期待しています。東京都62市区町村の環境学習施設などとも連携して、活用の環を広げてゆきたいものです。
 東京オリンピックでは、まちの案内やおもてなしに約10万人のボランティアが参加するといわれています。ぜひNGOや環境学習拠点や事業者が連携し、「東京オリンピック環境応援隊水素チーム」(仮称)などを組織し、世界からの1000万人を超える来訪者の方々に、送迎バスや選手村で取り入れる予定の燃料電池や環境エネルギーに関する先進的な取り組みを伝え、持続可能な日本の本気度を世界にアピールできたらと願っています。
 2020年に向けたこのような取り組みが、2020年に2013年比CO2―26%という日本の地球温暖化対策のCO2削減目標達成や、その後の持続可能な社会実現の大きな牽引力になるに違いありません。
 市民、事業者、行政の皆さんの「共創」で、環境エネルギーの大きな変化の時代を進むためにも、自治体の方々には、事業者の安全対策の徹底や事業者と地域をつなぐ役割を大いに期待しています。そして、多様な主体を横につなぎ知恵を共有するためにも、関係者の協議会などの場づくりにも挑戦していただきたいと願っています。


注釈

  • 一次エネルギー自給率
    自国内で確保できる一次エネルギーの比率。再生可能エネルギーや原子力発電が含まれる。


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