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2015.11.19

第51回野生生物に優しい「裏庭(Backyard)生物多様性プロジェクト」:オーストラリア、ボルーンダラ市

 オーストラリア南東部、ビクトリア州の州都メルボルンの東郊外に位置するボルーンダラ市は、古くは先住民ウォイウルング(Woiwurrung)族の猟場で、地名ボルーンダラ(Boroondara)はウォイウルング語からきています。「土地が樹木で覆われた場所」という意味の通り、緑豊かな同市には、209もの美しい公園や13の庭園があり、人々に憩いの場を提供しています。

ボルーンダラ市
ボルーンダラ市

ボルーンダラ市の緑豊かな自然
ボルーンダラ市の緑豊かな自然

ボルーンダラ市の緑豊かな自然


左地図:グーグルマップ、写真:ボルーンダラ市ホームページ
左:http://www.boroondara.vic.gov.au/-/media/Images/Imported/C/canopy_over_road.jpg?mh=225&mw=300外部リンク
右:http://www.boroondara.vic.gov.au/our-city/environmental-sustainability/biodiversity/urban-biodiversity-strategy外部リンク

 ボルーンダラ市は、2014年に在来動植物の多様性・生息地の保護を目的とした様々な取り組みが認められ、自治体を対象とした「最も優れた特定環境イニシアチブ賞」(Local Government Award for Best Specific Environmental Initiative)を受賞しました(オーストラリア国連協会が世界環境デーに授与する賞(World Environment Day Awards)の一つ)。本稿では、そのなかでもユニークな取り組みとして高い評価を得た、住民参加による「裏庭(Backyard)生物多様性プロジェクト」について、ご紹介します。

1.背景

 自然豊かなボルーンダラも、都市化の進行に伴い、豊かな緑が失われ、生物多様性の消失が深刻化していました。多様な動植物・微生物の存在がもたらす多くの生態系サービス(水と空気の浄化や二酸化炭素の吸収、廃棄物の分解、作物の送粉そうふんと種子の拡散など)が失われていくことを懸念した同市は、あらゆる種を保護することを目標に、2003年に最初の生物多様性戦略(Biodiversity Strategy 2003)を採択し、取り組みを開始しました。2006 年には在来動植物(植物343種、動物190種)と、それらが特に多く生息する場所(「生物多様性サイト」全58か所)を特定し、インベントリー(Inventory and Assessment of Indigenous Flora and Fauna in Boroondara, Version 1.0) 公表しています。
 その間、動植物の保護と、さらに生物多様性サイトをつなぐ生物多様性回廊計画に注力し、その結果、多くのサイトの植生を再生することに成功、鳥類をはじめとする各種野生生物が地域に戻り始めたのです。さらに市は2013年に、この回復した自然生息地と在来生物種の保護を拡大し、将来世代に残すために、温暖化や水系の保護などの新たな課題への対応も含めた、「ボルーンダラ市生物多様性戦略(2013-2023)」(Urban Biodiversity Strategy for Boroondara (2013-2023))を採択しています。

※生物多様性回廊計画:開発による林地の破壊や伐採の結果、動植物は狭い孤立した場所に生息せざるを得なくなり、絶滅する可能性が非常に高くなります。生物多様性回廊計画とは、これら孤立した生息地を、植生回復した生態系に繋ごうというものです。そうすることで、動物や、動物が運ぶ種子が、茂みの中や被覆植物に覆われた地面に沿って移動することができるようになり、生息域が拡大します。また市内を流れるヤラ川と支流も、在来動植物には自然の回廊として機能しています。

2. 「裏庭生物多様性プロジェクト」の意義

 2009年に始まった「裏庭生物多様性プロジェクト」は、生物多様性回廊の近隣に住む住民を中心に、自宅の庭に在来植物を植え、野生生物に優しい生息環境を作ってもらうことを支援します。それは、点在する生物多様性サイトの間を埋め、生物多様性回廊を拡張していく機能を、住民の庭に担ってもらおうとするものです。このプロジェクトがユニークなのは、あくまでも「在来植物種の庭」を作ることに焦点を当てた点にあります。
 在来種にこだわるのは、市の目的がバランスのとれた自然生態系の復元にあるからです。たとえば、何世紀も昔からこの地域に生息していた、ユーカリの一種であるリバーレッドガムの多くが、立ち枯れを起こしています。原因は、葉を食べる小さな虫―ハモグリムシ―の大発生。この虫は通常ホウセキドリなどの昆虫を餌とする鳥に生息数を制御されていますが、近年、この辺りにホウセキドリの姿をほとんど見かけなくなりました。攻撃的な野鳥ミツスイに追い払われてしまったのです。昆虫を餌とする鳥とミツスイのバランスが崩れたのは、鳥の生息地の消失と、小さな鳥が隠れることのできる低木の激減が原因でした。
 このようにバランスを崩した状態にあるボルーンダラの生態系を復元するために、住民の庭に在来植物を植える「裏庭生物多様性プロジェクト」が実施されることになったのです。

保護対象の在来動植物:Common Brown Butterfly

保護対象の在来動植物:Sweet Bursaria

保護対象の在来動植物:Austral Indigo

保護対象の在来動植物:左からCommon Brown Butterfly、Sweet Bursaria、Austral Indigo

写真:ボルーンダラ市ホームページ
http://www.boroondara.vic.gov.au/our-city/environmental-sustainability/biodiversity/local-fauna外部リンク
http://www.boroondara.vic.gov.au/our-city/environmental-sustainability/biodiversity/local-flora外部リンク

3. 「裏庭生物多様性プロジェクト」

「裏庭生物多様性」プロジェクトに関する小冊子が2009年に最初に発行されて以来、住民の間には、野生生物の生息地となる庭づくり(habitat gardening)への関心が高まりました。2010年から4年間で8回のプロジェクトが実施(第1回は2010年春)され、250を超える世帯がすでに参加しています。2015年秋にも次のプロジェクトの発表があり、以下、その内容を参加者募集パンフレット(Backyard Biodiversity Flyer - Autumn 2015)からご紹介します。(以下、ボルーンダラ市ホームページから)

参加者募集パンフレット―2015年秋
参加者募集パンフレット―2015年秋

プロジェクト参加者には、次のような機会が与えられます。

  • 地域の動植物が非常に豊かで多様性に富んでいることを学ぶ。
  • ガーデニングが成功するための土壌改良法を教わる。
  • 野生生物の集まる庭の設計方法を学ぶ。
  • 無料で植物の提供を受け、野生生物の生息地となる庭の設計について助言を得る。
  • 同じ趣味を持つ地域住民と知り合う。
  • 造園設計者から専門的なアドバイスを得る。

また、参加者には様々なワークショップや見学会が用意されます。そのスケジュールは以下の通りです。

  • 2016年2月21日:オリエンテーション―プロジェクトの紹介や意義
  • 2016年3月19日:ワークショップ:ボルーンダラの生物多様性
  • 2016年3月26日:ワークショップ:健康的な土壌から健康的な植物が
  • 2016年4月11日:ワークショップ:生息地庭作り
  • 2016年4月18日:視察:庭園巡り
  • 2016年5月2日:植物受取日

裏庭生物多様性プロジェクトの様子(2012年8月 Koonung Creek planting)
裏庭生物多様性プロジェクトの様子(2012年8月 Koonung Creek planting)

写真:ボルーンダラ市ホームページ
http://www.boroondara.vic.gov.au/our-city/environmental-sustainability/biodiversity/backyard-biodiversity外部リンク

 以上、ボルーンダラ市の「裏庭生物多様性プロジェクト」の概要をご紹介しましたが、このプロジェクが継続拡大している理由は、参加住民の満足度の高さにあります。参加した住民の声を拾ってみると……。

  • とても刺激を受けました。植物を植え、その結果にとても満足しています。
  • 野生生物を呼ぶことのできる多くの在来植物があることを知りました。私のような慣れない者でも成果を出すことができるんですね。
  • 在来植物の庭を作ることは実際にはとても簡単でした。それにとっても魅力的な庭ができたんですよ。
  • 情報交換会は素晴らしかった。成功するための貴重な情報が得られました。


プロジェクトビデオ:ボルーンダラ市ホームページ
http://www.boroondara.vic.gov.au/our-city/environmental-sustainability/biodiversity/backyard-biodiversity外部リンク

 住民自らが在来植物を植え、野生生物の生息地となる環境を広げ、地域を作っていくという、この斬新な取り組みは、地域の生物多様性に大きく貢献するうえに、住民自身の喜び、楽しみになっています。このような庭が、ボルーンダラ市郊外に何百という単位で誕生するにつれて、住民は市名の由来である「緑陰濃き場所」の意味をさらに深く知ることになるのでしょう。


参考資料:


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