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第59回エネルギー消費正味ゼロの図書館:ヴァレンヌ市、ケベック州、カナダ

2015年、カナダのモントリオール近郊のヴァレンヌ市に「エネルギー消費正味ゼロ」の図書館が完成しました。「正味ゼロ」とは、消費量を自ら発電できるだけのエネルギー内に収めることで、公共の建物としてはカナダ初となりました。この図書館はそのために、「統合デザインプロセス」という建築プロセスと、エネルギー消費を抑える「バイオクリマティックデザイン(bioclimatic design)※1」と、「パッシブシステム(passive system)※2」を採用しました。人口2万人の小さな市の、大きなチャレンジを紹介します。

カナダ、ケベック州のヴァレンヌ市(地図:Google mapから)

カナダ、ケベック州のヴァレンヌ市(地図:Google mapから)

カナダ、ケベック州のヴァレンヌ市(地図:Google mapから)

図書館建替えで目指したこと

 モントリオール郊外のヴァレンヌ市は、もとは農業を中心とした小さなまちでした。そこにエネルギーやナノテク関連の研究施設や資源関連企業が移転してきて以来、研究都市としての趣を持つようになり、人口も2万人を超えるまでになりました。2009年、そこに老朽化した図書館の建替問題が持ち上がります。
 住民のニーズにあった新しい図書館のあるべき姿は何なのか?蔵書数の増大?最先端のITサービスの提供?各種文化的行事の実施?市の模索は続きました。そして市は最終的に、「エネルギー消費正味ゼロ」の図書館建築を決めました。
 市が目指したのは、①図書館を通して、持続可能性というコンセプトを住民に目に見える形で理解してもらうこと、②統合デザインプロセスを採用し、成果を出すことで、他の公共建築物でも同様のプロセスが採用されるようになること、③バイオクリマティックデザインなど、環境志向型の手法を用いることで、省エネ性能の高い建築物を莫大な資金をかけることなく建設できることを示すことでした。

統合デザインプロセス

 統合デザインプロセス(integrated design process以下「IDP」とする)では、省エネ性能の高い建物を建築するにあたって、複数の分野の専門家によるチームを組み、エネルギー消費や環境負荷の少ない、快適な建物の建設を目指します。プロジェクトメンバーは「持続可能性」ビジョンを共有し、その各種目標に向けて連携して取り組みます。IDPは従来の3Rではなく、Reduce, Reuse, Recycle に、Rethink(再考)を加え、4つのRを重視します。そのために、ヴァレンヌ市では、以下の3つのテーマでワークショップを重ねました。

  1. 建物のレイアウトと形状:建築物とその周辺に限った微気候(microclimate)を最適化し、バイオクリマティックの効果を最大限に生かすための建物のレイアウト。
  2. 環境システム:自然の採光や風を活かすパッシブシステム、再生可能エネルギーなどのアクティブシステムを併用するシステム。
  3. 物質:採用する環境システムと調和する建築資材。

 図書館は、快適さ、環境性能、健康を追及したエコ建築物として、具体的には以下のような項目が検討・検証されました。

快適性:
環境を緩和する機能、視覚・聴覚・嗅覚などにとっての快適性、適応しやすさなど。
健康:
室内空気の質の向上、換気や通風による室内大気の循環、化学物質利用の削減、自然光のとり入れ、騒音の低減など。
環境:
再生不可能な化石エネルギーを用いたエネルギーの不採用、製品のライフサイクル評価、飲料水の供給、雑排水や汚水の処理、土壌・大気・水質の汚染への配慮、建設現場の騒音低減措置など。
図書館全景(ヴァレンヌ市HPに掲載されているGoogle street view 2015年7月撮影)

図書館全景(ヴァレンヌ市HPに掲載されているGoogle street view 2015年7月撮影)

採光に配慮した大きな窓(ヴァレンヌ市HPに掲載されているGoogle street view 2016年6月撮影)

採光に配慮した大きな窓(ヴァレンヌ市HPに掲載されているGoogle street view 2016年6月撮影)

環境志向型デザイン

 統合デザインプロセス(IDP)によって、図書館にはエネルギー消費を減らす環境志向型のバイオクリマティックデザインやパッシブシステムを取り入れた各種技術、工夫が採用されました。市のホームページでは、それらを以下のように紹介しています。

  • 建物のレイアウト:2000m2敷地のどこに図書館を建てるかは、エネルギー消費をできるだけ必要とせずにすむようなレイアウトが考えられました。建物の横幅は狭く(18.3メートル)、窓からの光が建物の奥まで射し込み、空気の循環が促されるよう配慮されました。
  • 書棚:窓の面に直角に設置することで、暗い場所や換気の悪い場所が生まれないように工夫され、建物内部の90%の場所に自然光が入るよう設計されました。窓は外気温に応じて、自動的に開閉するようコンピュータによって管理されています。
  • 樹木の利用:以前から敷地にあった大木10本はそのまま残し、新たに9本を植樹しました。成木は大量の水を土壌から吸い上げ、空気中に水蒸気の形で放出し、その蒸散作用により、周囲の気温を下げます。さらに光合成によって酸素が作られます。
  • 壁面緑化:建物の外壁の温度を大きく下げる効果があり、冷房によるエネルギー消費を大幅に減らすことができます。 
  • 雨水貯留槽:建物の周りに作られた貯留槽に雨水が流れ込むようにすることで、雨水の集中的な流出を抑え、都市型洪水の防止にもつながります。
  • 地熱発電:150メートルの深い井戸(蒸気井)が9本掘られました。それによって、建物の暖房がまかなわれ、一年間で、住宅43軒分の暖房をまかなえることのできるエネルギーが生産されます。
  • パッシブソーラーシステム:南西に向いた大きな窓からは、太陽光が入り込み、照明や暖房に必要なエネルギーを25%減らすことができました。
  • アクティブソーラーシステム:屋根に設置された428枚の太陽光パネルは、年間12万kWh発電します(4.6軒分の年間電気消費量に匹敵)。
  • 外気:空気は建物に入る前にソーラーパネルで発電した熱で温められ、冬季には、摂氏-28.9度の大気が、建物に入るときには摂氏20.5度にまで引き上げられます。
  • 屋根:屋根は、ソーラーパネルがエネルギー生産に最適な角度である37度に傾斜しています。
  • 駐車場:浸透性のある舗装により、雨水が地下に浸透するように設計されています。

 以上のさまざまな技術的工夫により、この図書館のフィージビリティ調査(実行可能性調査)では、カナダのModel National Energy Code for Buildings (MNECB)※3基準で建てられた建物よりも、エネルギー消費量は63%少なく、太陽光発電を合わせると、全体では省エネ率は78%になると報告されています(出典:グリーン地方自治体基金(Green Municipal Fund)のHP)。

 日本でも、公共建築物の老朽化や建替えが至るところで問題になっています。このような図書館の事例を踏まえて、エネルギー消費正味ゼロという建物を目指す動きが今後どんどん増えてくることが期待されます。

※1 バイオクリマティックデザインとは:「快適で便利な居住環境の形成は、建築の基本的な役割であるが、その役割を果たすために、もっぱらエネルギーをもって対処しようとしてきたのが、近代以後の建築の特徴である。その結果、 エネルギーの多消費による環境へのインパクトの増大のみならず、人工的な室内環境の無味乾燥さをも招いている。このようなエネルギー志向型の方法に対して、地域の気候特性に適応した建築デザインによって快適さを得ようとする環境志向型の方法がある。これは古くからの伝統的な建築の方法でもあるが、改めて科学的な見直しと新たな展開が始まっている.そのようなデザイン手法は、時にバイオクリマティックデザインと呼ばれる。(出典:日本生気象学会雑誌、Vol. 29 (1992), No. 2, P 91-95)

※2 パッシブシステムとは、自然(日射・風・気温・地温など)を上手に利用し、人間にとってより快適な環境と省エネルギーに貢献する建築設計手法。

※3 Model National Energy Code for Buildings (MNECB):カナダ連邦政府が1997年に公布したモデル基準。州や準州政府がエネルギー効率の良い新築建物設計に関する基準として準用。MNECBに記載されているのは、新しい商業用建物、公共建物、政府の建物、それらの増築や大規模修復について、費用効果が高い最低要件。また建物外壁、照明、電気、暖房、排気空調システム等、高い省エネ効果を発揮できる可能性のある要素についての詳細な情報。


参考:


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