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2017.09.20

第73回市民参加型予算で持続可能な都市を:フランス、パリ市

 気候変動や生物多様性消失など、原因や影響が複雑で広く深い環境問題は、誰もが無関係であり得ず、その解決には市民の参加が不可欠です。そのための一つの手法に、「市民参加型予算(Participatory Budget)」が有効かもしれません。1989 年にブラジルのポルト・アレグレで始まったこの取り組みは、住民に市の予算の一部を託し、「こんなことに使ってほしい」という提案を広く募って、実際に予算を執行するプロジェクトを住民投票で選ぶ制度です。今では米国のボストンやニューヨークをはじめ、世界各国の1,500を超える都市で実施されています【1】
 フランスの首都パリでも、2014年に選出されたパリ初の女性市長アンヌ・イダルゴ(Anne Hidalgo)が採用し、そこからさまざまな環境関連施策が生まれています。2016年にはその規模が、提案数及び投票者数で世界最大になったパリ。本稿では、パリ市の「市民参加型予算」の概要と成果を紹介します。

 

【1】 非営利法人「参加型予算プロジェクト」のHP:https://www.participatorybudgeting.org/pb-map/

パリ市の参加型予算の概要と成果

【予算額】
 パリ市の年間予算額は80億ユーロ(約1兆526億円)。このうちの18%が建物や道路・公園といった公共の場の建設や改修などに使われる「投資予算」で、市民参加型予算には、投資予算の5%が割り当てられています。2014年~2020年の市民参加型予算の総額は5億ユーロ(約658億円)。ちなみに2015年の採択プロジェクトの予算額は、7,500万ユーロ(ほぼ99億円)でした【2】

【年間スケジュール】
 パリ在住であれば、年齢や国籍を問わず参加できるこのプロジェクトは、一年を通じて、以下のようなスケジュールで運営されています(以下は2017年の例)。

[1] 1月24日~2月21日:プロジェクト募集期間
[2] 3月~5月:Agoraと呼ばれる集会等の開催期間
[3] 3月~9月:市の担当職員による提案プロジェクトの検討期間
[4] 9月:住民投票
[5] 12月:決定されたプロジェクトの予算決定

【2】 円換算額は、2017年9月1日為替レートより

プロジェクト募集期間(2017年1月24日~2月21日)

 市民は自分のアイデアや要望を、内容、目的、概算費用、実施場所を明記して、「Madame La Maire, j'ai une ideé (市長、提案があります)」(https://idee.paris.fr/)というサイトにアップします。住民は次の二種類のカテゴリーの提案を行います。

  • 市全域を対象にしたプロジェクト
  • 自分が住んでいる(または働いている)区(全20区)を対象にしたプロジェクト

 さらに、すでに投稿されているプロジェクトについても賛成の表明や提案への修正など、各種コメントを投稿することができます。

「Madame La Maire, j'ai une ideé (市長、提案があります)」の仕組み

「Madame La Maire, j'ai une ideé (市長、提案があります)」の仕組み

≪提案結果≫
 市民からの提案は、2015年には5,115件、2016年には3,158件が投稿されました。提案数が2年目に減少しているのは、あまりの数の多さに驚いた市当局が、投稿前に似たような提案がすでに出されていないかチェックすることや、同じような課題を持つ人たちによる共同提案を推奨したからだと考えられています。
 提案内容をテーマ別に分類した結果、2015年のトップ3は、「住環境の整備」「環境」「移動・交通」。それぞれ全体の25%、15%、14%で、全提案の半数以上がこの3つのいずれかに関するもので占められていました。
 「住環境の整備」については、セーヌ川岸の遊歩道の整備や親水設備の設置をはじめとした、公共空間の整備に関するものが多く、「環境」ではリサイクル、エネルギーや緑化、都市農業、環境に優しい行動などの幅広い提案もありましたが、具体的な場所を提示した屋上や壁面の緑化に関する提案が特に多くみられました。また、「移動・交通」については、車を減らし、自転車や歩行者に優しいまちづくりへの取り組みに関するものが、大半を占めていました。数は少なかったものの、その他に、文化、教育、スポーツ、連帯(主にホームレス支援)などのテーマが挙がっています。
 2016年も、多い順から、「住環境の整備」(27%)、「環境」(14%)、「移動・交通」(10%)で、市民の関心と要望の傾向が明らかになっています。

Agoraと呼ばれる集会等の開催期間(2017年3月~5月)

 市民の関心や参加を喚起するために、市民参加型予算の仕組みや、これまでに出されている提案内容を知るための集会、また同じ場所やテーマを対象にした複数の提案を一つにまとめるためのワークショップなどが、この期間に市内100を超える場所で催されます。これらの集会やワークショップはAgoraと総称され、開催日程はHP上に掲載されます。

Agoraの様子。パリ市民、パリ議会議員、行政職員などが参加した。

Agoraの様子。パリ市民、パリ議会議員、行政職員などが参加した。

市の担当職員による提案プロジェクトの検討期間(2017年3月~9月)

 提案された全プロジェクトについて、以下の3つの基準を満たしているか、市職員が審査します(2015年には300人の職員が参加)。

  • 公益に資するプロジェクトか
  • 市の管轄権内の事業か
  • 予算内で実現できるか

 その後、審査を通過した提案に対してフィージビリティテストが行われ、実際にどの程度の費用が必要になるか概算します。その上で実現可能と判断されたプロジェクトは、学識経験者、行政職員、専門家、市内の各種市民組織の代表、市民から成る委員会にかけられ、ここで投票対象となるプロジェクトの候補リストが選定されます。最終的には、パリ市全域を対象とするプロジェクトは市長が、区対象のプロジェクトは区長が決定して、住民投票にかけるファイナルプロジェクトが発表されます。

住民投票(2017年9月)

 すべてのパリ市民は年齢・国籍を問わず、市全域を対象とするプロジェクト及び、自分が居住している区を対象にするプロジェクトに投票することができます。
 投票方法は2通りあり、HP(https://budgetparticipatif.paris.fr/)を通じて投票するか、もしくは市内で複数個所に設けられる投票所で投票することもできます。

≪投票結果≫
 2015年には、パリ市全人口の約3%に当たる66,867人が投票し、市全域を対象としたプロジェクト8件と、区別プロジェクト180件が選ばれました。
 投票で選定されたプロジェクトをテーマ別にみると、「移動・交通」が最も多く(このテーマの提案数の4割が投票で選ばれた)、次いで「環境」(38%)、そして、「連帯(ホームレス支援)」(34%)でした。
 翌2016年には、倍増以上の158,964人(パリ市全人口の約7%)が投票し、市全域対象プロジェクト11件と、区別プロジェクト208件が採択されました。それらの実施場所は下図の通り、テーマごとに色分けしてプロットされています。テーマで多かったのは、環境(緑)、循環型経済(青)、ホームレス支援(ピンク)でした。
 デジタルとアナログの両方式による投票を可能にしたことが、投票数の多さにつながっていると考えられています。

2016年に採択されたプロジェクトの実施場所

2016年に採択されたプロジェクトの実施場所

決定されたプロジェクトの予算決定(2017年12月)

 市民投票によって選定されたプロジェクトは12月にパリ議会で承認を受け、その後正式な市の事業となり、提案者も実施チームに迎えられます。その後、各プロジェクトは平均18か月ほどかけて実現され、市民はプロジェクトの進捗状況を、以下のようにHPでいつでもチェックすることができます。HPでは、テーマや予算額、フェーズ別進捗状況(終了したプロジェクトは「EXECUTED!(実行済み!)」と表示)が逐次更新されています。

HP(https://www.paris.fr/actualites/budget-participatif-2016-tous-les-resultats-4116)を通じて、プロジェクトの進捗状況が確認できる。

HP(https://www.paris.fr/actualites/budget-participatif-2016-tous-les-resultats-4116)を通じて、プロジェクトの進捗状況が確認できる。

まとめ

 市民参加型予算は、環境問題をターゲットにした制度ではありませんが、提案されたアイデアの多くが環境問題に関わる内容でした。冒頭でも述べたように、環境問題は、その原因や影響が複雑で広く深いからであって、その解決が市民生活の質の向上や都市の持続可能性に直接的に関わっているからでもあります。
 市民提案型予算の手法は、課題解決のための具体的な手法や場所が市民から提案されることで、環境問題の解決策として見落としている方法や場所、資源などが具体的に提示されるという大きなメリットがあることもわかり、この手法の持つ可能性が期待されます。


参考資料


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