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2018.01.25

第77回食物ロスを減らして、「5000人に食事を」

 2018年の幕開け。お正月には、家族や親戚、友人たちと、おせち料理や正月らしい華やかなご馳走に舌鼓を打った人も多いのではないでしょうか。けれども、そんな時期は、「食品ロス」が大幅に増える時でもあります。
 「食品ロス」とは、食べられるのに捨てられてしまう食品のことで、販売規格にあっていないと廃棄される農作物、食材の厚皮むき(過剰除去)や賞味期限切れで食べずに捨てられている食品(直接廃棄)、食べきれずに廃棄される食事(食べ残し)などがあります。国連食糧農業機関(FAO)は、全世界で生産されている食品の3分の1もが、食卓に届く前に廃棄されていると発表しています【1】
 本稿では、無駄になった食品が地球環境に及ぼしている影響、そして食品ロスを減らすための世界的な取り組みの一つ、「5000人に食事を」(Feeding the 5000)を紹介します。

「5000人に食事を」のホームページから

「5000人に食事を」のホームページから(https://feedbackglobal.org/campaigns/feeding-the-5000/

【1】 FAO, Global Food Losses and Food Waste, 2011(http://www.fao.org/docrep/014/mb060e/mb060e00.pdf外部リンク

1.食品ロスのカーボンフットプリント

 FAOでは2011年のデータをもとに算出した推計値によって、全世界の食品ロスによるカーボンフットプリント【2】と、各国のカーボンフットプリントを比較しています。これによると、中国、米国に次ぐ世界第三位に相当する温室効果ガスが食品ロスによって排出されており(下図参照)【3】、その量は、土地利用変化からの排出量(LULUCF【4】)0.8ギガトンCO2を除いても、年間3.6ギガトンCO2にもなります(LULUCFを加えた年間総量は、4.4ギガトンCO2)。

温室効果ガス総排出量(LULUCFを除く)の上位20か国と、食品ロスによる排出量の比較(2011年のデータをもとにFAO算出)

温室効果ガス総排出量(LULUCFを除く)の上位20か国と、食品ロスによる排出量の比較(2011年のデータをもとにFAO算出)

 食品ロスは、低所得国では食品の生産及び収穫の段階で多くが発生しているのに対し、先進国では加工、流通、消費の段階で大量のロスが発生しています。特に消費段階で廃棄されたものは、カーボンフットプリントが高くなります。
 トマトのフットプリントを例に考えると、収穫段階で廃棄されたものに比べて、トマトソースに加工され、流通し、最終的に小売店で売れずに廃棄されたものは、サプライチェーンの各段階でCO2が発生するため、格段と高くなります。このため、食品ロスの一人当たりのカーボンフットプリントは、先進国で低所得国の倍以上になるのです。先進国での食品ロスは、気候変動に及ぼす影響の主要な要因になっています。
 先進国で消費段階の食品ロスが多いのは、食品を購入して無駄にするだけの経済力があるということも言えます。レストランなどでは、一律の料金を支払うと食べ放題になるビュッフェスタイル(バイキング)の食事が人気ですが、食べられる以上の食品を皿に盛ってしまうことも少なくはありません。また、小売店やスーパーでは、複数個買うと割引になるサービスに魅かれて、不必要な購買をしてしまうこともあります。農産物は、形や色などの見た目や消費期限によって、味に違いがないものまで廃棄されています。
 だからこそ、消費者の意識変革が食品ロス削減には不可欠です。「5000人に食事を」は、そんな意識変革を起こそうという、草の根の活動の一つです。

【2】 カーボンフットプリント(Carbon Footprint):
製品(この場合は食品)のライフサイクルを通したCO2の排出量(正確には他の温室効果ガスを含めたCO2換算量)。

【3】 FAO, Food wastage footprint & Climate Change, 2015(http://www.fao.org/3/a-bb144e.pdf外部リンク

【4】 LULUCF:
Land Use, Land-Use Change, and Forestry(土地利用、土地利用変化及び林業部門)

2.19万人に無料の食事を提供してきた、「5000人に食事を(Feeding the 5000)」

 「5000人に食事を」は、イギリスの非営利法人Feedback【5】が提唱する、食品ロスをなくすための「美味しい」解決策を探ろうとする公開イベントです。本来なら廃棄されていた食品だけを利用して、プロの調理人とボランティアたちの手によって5000人分の食事を準備して、集まった人々に無料で提供します。
 第一回のイベントが開催されたのは、2009年12月。場所はロンドンのトラファルガー広場でした。その後、パリ、ダブリン、マンチェスター、ニューヨーク、シドニー、アムステルダム、ブリュッセルなど、2017年2月までに世界各国42都市で開催され、プロの調理師、非営利団体、地域住民、自治体、企業、専門家などと連携して、総計194,000人に食事を提供してきました。
 Feedbackでは、イベントの開催手法のガイダンスとなるツールキットを、ロックフェラー財団の支援を受けて2017年2月に作成し、ホームページ上で公開しています【6】

【5】 非営利法人Feedback: 作家トリストラム・スチュアート(Tristram Stuart)が2009年に設立。Feeding the 5000を含め、食品ロスを減らすための様々な活動を世界的に展開している。
 スチュアートの著作:「世界の食料ムダ捨て事情(地球の未来を考える)」(NHK出版、2012)

【6】 公開されたツールキット:
https://feedbackglobal.org/wp-content/uploads/2016/12/F5K-The-Introductory-Toolkit-1.pdf外部リンク

@ブリュッセル(ツールキットから転載)

@ブリュッセル(ツールキットから転載)

@ニューヨーク(ツールキットから転載)

@ニューヨーク(ツールキットから転載)

@アテネ(ツールキットから転載)

@アテネ(ツールキットから転載)

3.各地で「5000人に食事を」イベントを導入するためのツールキット

 ここからは、ツールキットに紹介されている「5000人に食事を」イベントの開催手法について、そのさわりを紹介します。
 ツールキットでは、「5000人に食事を」として開催するイベントが遵守すべき10の原則を定めています。

【「5000人に食事を」イベント開催のための10の原則】
 1. 誰でも参加できること。
 2. 本来なら食べられるのに廃棄されている食品のみを利用すること。
 3. 農地から食卓までの食品ロスについてメッセージを送る場であること。
 4. 前向きに解決策を探る場であること。
 5. 環境負荷を減らし、食品を無駄にしないこと。
 6. 民間企業との共催にはしないこと。
 7. 様々な地域団体と協力すること。
 8. 節約すること。
 9. 創造的に楽しむこと。
 10. 知見を伝えること。

 なかでも、6番目の「民間企業との共催にはしないこと」という原則には、「人は企業の関わりがないほうが、自らの力を最大限に発揮しようとする」、というFeedbackの信念がこもっています。これは企業との協力関係を拒むということでは決してなく、様々な支援・寄付を受けても、企業名は表には出さないという合意をそれらの企業と取り付けているのです。HPなどで感謝の辞を述べる程度に留めることで、このイベントの趣旨があくまでも市民から市民へのメッセージだという姿勢を貫こうとしています。

 その他にも、ツールキットには、これまでの開催イベントを例にとりながら、準備スケジュール、予算、開催地、会場設営、免許・許可申請手続き、保険、食品確保、機材、食品管理、安全性から、サイドイベント、食事の提供方法、ボランティア、料理レシピまで、各項目について細かく説明されています。その一部を以下に紹介しましょう。

実施までの準備スケジュール
内容実施時期
実行委員会の設置:食品ロス等について活動している地域の3~10団体が実行委員会に参加することが望まれる。4か月前
場所の確保、イベント開催に必要な許認可の手続き開始、予算の決定。3か月前
食品の確保:一回のイベントには、本来なら捨てられてしまう1,000キロほどの食品が必要。まずは供給業者や店舗のデータベース作りから。3か月前
広報:イベントの主要メッセージ、デザイン等の決定、記者発表。3か月前
調理計画:メニューから調理方法や提供の仕方までを決定。6週間前
ゲストスピーカー(自治体の首長など)、参加アーチスト、DJ、司会者などの決定。2か月前
ボランティア募集:必要なボランティアの数を割り出し、ボランティアのチームづくり(ボランティアは、一日のイベントで通常100名ほど。宣伝、食品の確保から、調理・加工、配膳、給仕まで、様々な役割を担う。)2か月前

 当日は、早朝5時ごろからテントやステージの設営を開始する例が多く、食事は昼食としてふるまわれます。最も人気のあるメニューは野菜カレー(以下にレシピを紹介)。調理は開催場所によって、その場で調理する場合と、他の場所で調理して運び込む場合がありますが、いずれの場合も多くのボランティアがそれに協力します。

調理を手伝うボランティアと野菜カレー(ツールキットから転載)

調理を手伝うボランティアと野菜カレー(ツールキットから転載)

調理を手伝うボランティアと野菜カレー(ツールキットから転載)

野菜カレーのレシピ
以下の基本食材に加えて、入手できた食材を自由に加える。
ジャガイモ300 kg
120 kg
カリフラワー150 kg
人参100 kg
エンドウマメ100 kg
トマト80 kg
キャベツ80 kg
ズッキーニ―15 kg
コリアンダー(オプション)80 kg
レンズマメ80 kg
バター7 kg

 「500人に食事を」のイベントは、食べるだけのイベンドではありません。本来の目的である、「楽しく食品ロスに対する人々の認識を変える」ために、さまざまなサイドイベントも同時に開催されます。その中でも、シェフによる調理デモンストレーションは大人気。当日ふるまわれたレシピ以外に、捨ててしまいがちな食品を使ってどんな美味しい料理ができるのかを、シェフたちが目の前で調理してくれます。その他にも、「規格外の野菜を捨てないで!」のパレードや、大学生による「野菜切りコンテスト」、子ども達による食品ロスクイズや路上お絵描きなども行われます。「食品ロスを出さない誓い」をするイベントなどもあり、開催都市それぞれが独自のユニークなサイドイベントを企画します。

サイドイベント:パリでのパレード(ツールキットから転載)
サイドイベント:ワシントンDCでのシェフのデモンストレーション(ツールキットから転載)
サイドイベント:フロントレンジ(アメリカ)での子どもたちの路上お絵描き。(ツールキットから転載)

サイドイベント:左=パリでのパレード、右上=ワシントンDCでのシェフのデモンストレーション、右下:フロントレンジ(アメリカ)での子どもたちの路上お絵描き。(ツールキットから転載)

 また、Feedbackは開催後、都市ごとに次のようなデータを集めて、イベントによってもたらされる成果を蓄積しています:収集した食品の量、調理に使った食品の量、寄付した食品の量、参加人数、ボランティアの人数、「救出された」食品リスト、メディア報道、イベント後に起こった新たな展開など。

★★★

 Feedbackがイベントを通じて最も重視するのは、開催都市の住民の参加です。ボランティアとして運営に関わるもよし、食べに来るもよし、サイドイベントを楽しむもよし、これらの関わりを通じて、住民が食品ロスへの意識を変えることが変革につながる第一歩だというメッセ―ジを、「5000人に食事を」のイベントは送り続けています。

参考


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オール東京62 事業紹介

  • エコプロ2017
  • みどり東京・温暖化防止プロジェクトパンフレット
  • 62市区町村 温室効果ガス排出量
  • 自治体向けカーボン・オフセット 研究成果の紹介
  • スマートコミュニティ研究会
  • かれんとシーナの『エコ質問箱』

オール東京62市区町村
環境インフォメーション

各62市区町村のホームページから集めたエコ情報を掲載しています。

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